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2025.06.03

売掛金が回収不能の場合はどう仕訳すればよい?各場合ごとの仕訳方法を解説

事業活動を続ける中で、取引先の経営状態が悪化したり倒産したりすることによって、売掛金の回収が困難になることがあります。このような状況で、適切な会計処理を行うことができないと、税務上の損失計上のタイミングを逸し、余分な税負担が生じてしまうかもしれません。そのため、売掛金が回収不能になった際の仕訳処理については、正しく理解する必要があります。

本記事では、売掛金が回収不能となった場合に必要な会計処理や仕訳方法について詳しく解説します。法的貸倒れ、事実上の貸倒れ、少額貸倒れといったそれぞれの場合に応じた処理方法のほか、貸倒引当金の計上方法や法的手続きを用いた回収方法についても幅広く説明します。

売掛金が回収不能な状態とは

売掛金の回収不能とは、取引先の倒産や事業停止などにより、債権として計上していた売掛金を回収できなくなった状態を指します。

企業活動において、商品やサービスを提供した後に代金を受け取る掛け取引は一般的です。この取引で生じる未回収の債権が、売掛金です。通常は期日通りに支払いが行われますが、取引先の資金繰り悪化や破産などにより、支払いが行われないケースが発生します。

会計上、回収不能と判断された売掛金は、貸倒損失として処理する必要があります。この処理により、企業の財政状態を適切に表示するとともに、税務上も損失として認められれば、課税所得を減少させることができます。

会計上の貸倒損失と税務上の貸倒損失の違い

会計上と税務上では、貸倒損失の認識基準に違いがあります。会計上は企業会計原則に基づき、回収可能性を判断して貸倒損失を計上します。回収の見込みがないと合理的に判断できる時点で、貸倒損失として処理できます。

一方、税務上の貸倒損失は法人税法に基づいており、より厳格な基準が設けられています。税務上認められる貸倒損失は、法的貸倒れ、事実上の貸倒れ、少額貸倒れの3つのケースに限定されています。

税務上の要件を満たさない貸倒損失は損金として認められないため、会計処理と税務申告で差異が生じることがあります。このため、税務上の基準を理解しておくことが重要です。

売掛金が回収不能になることによる影響

売掛金の回収不能は、企業経営に大きな影響を与えます。まず、キャッシュフローの悪化を招きます。予定していた入金がないことで、自社の支払いにも影響が出る可能性があります。

また、利益面でも大きな損失となります。すでに売上として計上し、原価も計上済みであるにもかかわらず、代金を回収できないということは、純粋な損失となるからです。

さらに、大口の売掛金が回収不能になると、企業の財務状況全体に悪影響を及ぼし、最悪の場合は自社の経営危機につながることもあります。特に中小企業では、一つの大口回収不能が致命的なダメージとなるケースも少なくありません。

売掛金が回収不能になった場合の仕訳方法

売掛金が回収不能になった場合、会計上は貸倒損失として処理します。基本的な仕訳は、以下の通りです。

借方 貸方
貸倒損失 XXX円 売掛金 XXX円

この仕訳により、回収不能となった売掛金が資産から除外され、同額が費用(損失)として認識されます。貸倒損失は損益計算書上、販売費及び一般管理費または営業外費用として計上されます。

直接償却法の場合の仕訳方法

直接償却法は、売掛金が回収不能と判断された時点で、その全額を貸倒損失として計上する方法です。例えば、100万円の売掛金が回収不能になった場合の仕訳は、次のようになります。

借方 貸方
貸倒損失 1,000,000円 売掛金 1,000,000円

直接償却法は簡便な方法ですが、貸倒れが発生した時点で突然大きな損失を計上することになるため、企業の業績が大きく変動する可能性があります。また、発生主義の観点からも適切でない場合があります。

貸倒れリスクが高い取引先については事前に引当金を計上しておくことで、急激な損益変動を避けることができます。

間接償却法の場合の仕訳方法

貸倒引当金を使用する間接償却法では、あらかじめ貸倒れの可能性に備えて貸倒引当金を計上しておき、実際に回収不能となった時点で引当金を取り崩します。

例えば、期首に貸倒引当金を100万円計上していた場合、期中に100万円の売掛金が回収不能になったときの仕訳は、次のようになります。

借方 貸方
貸倒引当金 1,000,000円 売掛金 1,000,000円

間接償却法を使用することで、貸倒れリスクを事前に費用化しておくことができ、期間損益計算の観点からも適切な処理となります。貸倒引当金の計上により、貸倒れが発生した期の利益への急激な影響を抑えることができます。

税務上認められる貸倒損失の3つのケース

税務上、貸倒損失として認められるケースは限定されています。正しく処理しないと、税務調査で否認されるリスクがあります。

法的貸倒れの場合の処理方法

法的貸倒れとは、取引先が法的整理手続きに入った場合に認められる貸倒れです。具体的には、破産手続開始決定、民事再生手続開始決定、会社更生手続開始決定などが該当します。

法的貸倒れの場合、債権者集会で決定された配当率に基づき、回収不能額が確定します。例えば、100万円の売掛金があり、破産手続きにより20%の配当が決定された場合、80万円が貸倒損失として認められます。

具体的な仕訳例は、以下の通りです。

借方 貸方
現金預金 200,000円
貸倒損失 800,000円
売掛金 1,000,000円

法的貸倒れは税務上最も確実に認められるため、回収努力の証拠としても、裁判所の書類や債権者集会の資料など、法的手続きの証拠書類を保管しておくことが重要です。

事実上の貸倒れの場合の仕訳方法

事実上の貸倒れは、法的手続きには至っていないものの、客観的に回収が見込めない状況を指します。以下のような場合に認められます。

  • 取引先の資産状況、支払能力等からみて、その全額が回収できないことが明らかな場合
  • 取引先の所在不明が1年以上継続している場合
  • 取引先との取引停止後2年以上経過し、回収努力をしても回収できない場合

例えば、取引先が事業を停止し、資産もなく、2年以上督促しても回収できない100万円の売掛金がある場合、次のように仕訳します。

借方 貸方
貸倒損失 1,000,000円 売掛金 1,000,000円

事実上の貸倒れを税務上認めてもらうためには、回収努力の証拠が重要です。内容証明郵便による督促状、訪問記録、電話記録などの回収活動の証拠を残しておきましょう。

少額貸倒れの場合の仕訳方法

少額貸倒れは、債権の金額が少額で、回収のための費用対効果が見合わない場合に認められる貸倒れです。具体的には、以下の条件を満たす必要があります。

  • 売掛金の金額が20万円未満であること
  • 取引停止後1年以上経過していること
  • 書面による督促を行っても支払いがないこと

例えば、18万円の売掛金について、取引停止後1年以上経過し、督促状を送付しても回収できない場合の仕訳は、次のようになります。

借方 貸方
貸倒損失 180,000円 売掛金 180,000円

少額貸倒れであっても督促の証拠は必ず保管することが重要です。督促状のコピーや送付記録などを証拠として残しておきましょう。

貸倒引当金の計上方法

貸倒引当金は、将来発生する可能性のある貸倒れに備えて、事前に計上する引当金です。期間損益計算の適正化と財政状態の適切な表示を目的としています。

個別評価による貸倒引当金の計上

個別評価は、特定の債権について回収可能性を個別に検討し、貸倒引当金を計上する方法です。主に、以下のような債権が対象となります。

  • 経営状態に重大な問題がある取引先に対する債権
  • 破産手続中の取引先に対する債権
  • 長期延滞債権

個別評価による貸倒引当金の計上基準は、債務者の状況に応じて異なります。例えば、破産手続き開始の場合は、債権額から担保価値や弁済可能見込額を控除した金額の50%を計上します。債務超過の状況が長期間継続している場合は、回収不能見込額の全額を計上します。

例えば、経営状態が悪化している取引先に対する100万円の売掛金について、50%の回収不能率を見込む場合の仕訳は、次のようになります。

借方 貸方
貸倒引当金繰入額 500,000円 貸倒引当金 500,000円

個別評価は取引先ごとの状況を詳細に分析する必要があるため、取引先の経営状況や財務情報を、定期的に収集・分析することが重要です。

一括評価による貸倒引当金の計上

一括評価は、個別評価の対象とならない通常の債権について、過去の貸倒実績率などに基づいて一括して貸倒引当金を計上する方法です。

一括評価の方法には、主に次の2つがあります。

  • 実績率法:過去の貸倒実績率に基づく方法
  • 法定繰入率法:法人税法に定められた繰入率による方法

実績率法の場合、過去3年間の貸倒実績率の平均値を用いて計算します。例えば、過去3年間の貸倒実績率が0.5%で、期末の一般債権残高が2億円の場合、貸倒引当金は100万円(2億円×0.5%)となります。

法定繰入率法では、業種別に定められた法定繰入率を用います。例えば、卸売業の場合の法定繰入率は1.0%です。

一括評価による貸倒引当金の仕訳例(実績率法で計算した場合)は、以下のような仕訳をします。

借方 貸方
貸倒引当金繰入額 1,000,000円 貸倒引当金 1,000,000円

期末に、既存の貸倒引当金残高との調整が必要な場合は、差額分を追加計上または戻入処理します。

売掛金が回収不能で法的手続きをしたときの仕訳方法

売掛金の回収が難しくなった場合、法的手段を活用することで、回収の可能性を高めることができます。適切な法的手続きを選択し、タイミングよく実行することが重要です。

訴訟による債権回収

訴訟による債権回収は、裁判所の判決によって債権を法的に確定させる方法です。訴訟の流れは、以下の通りです。

  1. 訴状の作成と提出
  2. 第一回口頭弁論
  3. 証拠調べ
  4. 判決
  5. 判決確定

訴訟費用には、印紙代、弁護士費用などがかかります。訴額が100万円の場合、印紙代は1万円程度、弁護士費用は20万円程度が目安です。

訴訟費用の仕訳例は、以下の通りです。

借方 貸方
支払手数料 200,000円
(弁護士費用)
現金預金 200,000円

訴訟で勝訴しても、相手に支払い能力がなければ回収できません。そのため、訴訟前に債務者の資産状況を調査しておくことが重要です。

強制執行による債権回収

訴訟で勝訴判決を得た後、債務者が自主的に支払わない場合は、強制執行により債権を回収することができます。強制執行の主な方法は、以下の通りです。

  • 不動産執行:債務者の不動産を差し押さえて競売にかける
  • 動産執行:債務者の動産を差し押さえて換価する
  • 債権執行:債務者の預金や給与を差し押さえる

強制執行の申立てには、執行文付きの判決正本と執行申立書が必要です。また、執行費用も発生します。

強制執行により回収できた場合は、以下のような仕訳例(100万円の債権のうち80万円を回収できた場合)になります。

借方 貸方
現金預金 800,000円
貸倒損失 200,000円
売掛金 1,000,000円

強制執行は、手続きが複雑で専門知識が必要なため、弁護士に依頼することが一般的です。執行費用と回収可能額を比較して、費用対効果を検討することが重要です。

売掛金が回収不能となるのを防ぐための予防策

売掛金の回収不能に陥らないためには、事前の予防策が重要です。リスクを最小限に抑えるための具体的な方法を紹介します。

与信管理体制の構築

与信管理とは、取引先の信用状態を評価し、適切な取引条件を設定することです。効果的な与信管理体制を構築するためのポイントは、以下の通りです。

まず、新規取引先との取引開始前には、必ず信用調査を行いましょう。帝国データバンクや東京商工リサーチなどの信用調査会社の情報を活用したり、決算書の提出を求めたりして、財務状況を確認します。

次に、取引先ごとに与信限度額を設定します。信用力に応じて適切な限度額を設定し、その範囲内での取引に留めることで、リスクを分散させることができます。

定期的な与信情報の更新と見直しを行うことも重要です。取引先の経営状態は常に変化するため、年に一度は与信情報を更新し、必要に応じて与信限度額を見直しましょう。

売掛金の管理による早期発見

売掛金の管理を徹底し、早期に問題を発見することで、回収不能を防ぐことができます。入金管理と早期対応のポイントは、以下の通りです。

売掛金の年齢表(滞留日数別の売掛金リスト)を作成し、定期的にチェックしましょう。支払期日を過ぎた売掛金については、すぐに督促を行うことが重要です。放置すればするほど、回収が困難になります。

支払いが遅れている取引先には、電話や訪問による督促を行います。さらに、状況が改善しない場合は、内容証明郵便による督促を行い、法的措置も視野に入れて対応します。

支払いが難しい取引先には、分割払いや支払条件の変更など、柔軟な対応を検討することも有効です。完全に回収不能になるよりは、一部でも回収できる方が良いからです。

回収不能な売掛金に関するよくある疑問

回収不能な売掛金に関するよくある疑問とその対応をまとめました。

税務調査でよく指摘される貸倒処理の問題点

税務調査において、貸倒処理に関してよく指摘される問題点は以下の通りです。

まず、回収努力の証拠が不十分なケースが多く指摘されます。督促状のコピーや訪問記録、電話記録などの証拠がないと、回収努力を行ったことを証明できません。特に、事実上の貸倒れや少額貸倒れの場合、回収努力の証拠は重要です。

また、貸倒処理の時期が不適切なケースも指摘されます。例えば、取引先の倒産から数年経過した後に貸倒処理する場合、なぜその時期に処理したのかを説明できないと、否認されるリスクがあります。

関連会社間の貸倒れは特に慎重な対応が必要です。関連会社間の取引は、恣意的に操作される可能性があるため、税務当局の審査は厳しくなります。独立した第三者間の取引と同等の回収努力を行い、その証拠を残しておくことが重要です。

貸倒損失計上後に回収があった場合の仕訳方法

貸倒損失として処理した債権が、その後回収できた場合は、貸倒損失の戻入処理を行います。具体的な仕訳は、以下の通りです。

借方 貸方
現金預金 XXX円 貸倒引当金戻入額 XXX円
または
雑収入 XXX円

過年度に貸倒損失として処理した債権が回収された場合、その回収額は益金(収益)として計上する必要があります。この場合、貸倒引当金戻入額または雑収入として処理します。

なお、同一事業年度内に貸倒処理した債権が回収された場合は、貸倒損失を取り消す処理を行います。

借方 貸方
現金預金 XXX円
売掛金 XXX円
貸倒損失 XXX円
売掛金 XXX円

回収額が貸倒処理額よりも少ない場合は、回収額のみを戻入処理します。回収の見込みについては、定期的に見直しを行うことが望ましいでしょう。

まとめ

売掛金が回収不能になった場合の、会計処理と仕訳方法について解説しました。売掛金の回収不能処理には、法的貸倒れ、事実上の貸倒れ、少額貸倒れの3つのケースがあり、それぞれ税務上の要件を満たす必要があります。また、貸倒引当金の計上方法には個別評価と一括評価があり、将来の貸倒リスクに備える重要な役割を果たします。

売掛金の回収不能を防ぐためには、与信管理の徹底と早期の対応が重要です。回収が難しくなった場合は、弁護士や税理士などの専門家に相談し、法的手段や適切な会計処理について助言を得ることが解決の近道となります。適切な回収努力と証拠の保全を行いながら、会計・税務上の処理を正確に行うことで、損失を最小限に抑えつつ、適正な財務報告と税務申告を実現しましょう。

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監修者 三坂大作
筆者・監修者 ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役三坂 大作(ミサカ ダイサク)

略歴
・1985年:東京大学法学部卒業
・1985年:三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行
 表参道支店:法人融資担当
・1989年:同行 ニューヨーク支店勤務
 非日系企業向けコーポレートファイナンスを担当
・1992年:三菱銀行を退社、資金調達の専門家として独立
資格・登録情報
・経営革新等支援機関(認定支援機関ID:1078130011)
・貸金業務取扱主任者(資格者:三坂大作)
・貸金業登録:東京都知事(1)第31997号
・日本貸金業協会 会員番号:第006355号
専門分野と活動実績
企業の成長を資金面から支えるファイナンスの専門家として、30年以上にわたり中小企業の財務戦略・資金調達を支援。
国内外の法人融資・国際金融業務の経験を基に、経営者に寄り添った戦略的支援を展開。

現在の取り組み
ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役として、以下の事業を統括:
・法人向けビジネスローン事業「HTファイナンス」
・個人事業主向けファクタリングサービス
・資金調達および財務戦略に関する経営コンサルティング

経営革新等支援機関として、企業の持続的成長を実現するための財務戦略策定や金融支援を行い、
貸金業登録事業者として、適正かつ信頼性の高い金融サービスを提供しています。



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