2025.04.28
税額控除とは?所得控除となにが違う?確定申告時の注意点も解説
確定申告の際、どれだけ節税できるかというのは、経営者や個人事業主の方々にとって重要なテーマでしょう。控除とは、税金の計算において、課税対象となる金額を減らすための仕組みです。控除には、「税額控除」と「所得控除」の基本の2項目があります。
実は、税額控除は所得控除と比べて節税効果が高く、上手に活用することで大幅な税負担軽減が可能になります。しかし、適用条件や申請方法を正しく理解していなければ、せっかくの節税チャンスを逃してしまうことになります。
この記事では、税額控除の基本的な仕組みから、所得控除との違い、確定申告時の注意点まで詳しく解説します。経営者・個人事業主の方が効果的に税額控除を活用し、事業資金を有効活用するためのポイントをまとめました。
税額控除とは
税額控除は、すでに計算された税額から直接一定金額を差し引く制度です。これは、税金の「最終段階」で適用されるため、納税額を直接減らす効果があります。
例えば、100万円の所得税がかかる場合に10万円の税額控除が適用されると、実際に納める税金は90万円になります。控除額がそのまま節税額になるというシンプルな仕組みです。
税額控除は主に、政策的な目的(設備投資促進や雇用創出など)や国際的な二重課税の調整のために設けられています。事業主にとっては、計画的な投資や経営判断で積極的に活用できるのが大きな特徴です。
税額控除にはさまざまな種類があり、事業の状況や活動内容によって適用できるものが異なります。主な税額控除は、以下のように分類できます。
投資促進型の税額控除は、事業に必要な設備投資を行った場合に適用されます。研究開発型は、新技術や新製品の開発に取り組む企業を支援するためのものです。雇用・給与関連は、従業員の待遇改善や雇用拡大を促進します。
また、海外展開する企業向けの外国税額控除や、個人・法人の社会貢献を促す寄付金関連の控除なども重要です。それぞれの控除は適用要件や控除率が異なるため、自社の事業活動に合わせた活用が求められます。
税額控除と所得控除の違い
税額控除と所得控除は、名前は似ていますが、仕組みと節税効果に大きな違いがあります。それぞれの特徴を理解することで、より効果的な節税戦略を立てることができます。
まず、基本的な違いを表にまとめると、以下のようになります。
比較項目 | 税額控除 | 所得控除 |
---|---|---|
控除のタイミング | 税額から直接控除 | 所得から控除(課税所得を減らす) |
節税効果 | 高い(控除額がそのまま節税額) | 所得税率に依存(控除額×税率が節税額) |
所得による影響 | 所得の大小に関わらず一定 | 所得が多いほど効果が大きい |
代表的な例 | 住宅ローン控除、投資促進税制 | 基礎控除、社会保険料控除 |
節税効果の違い
税額控除と所得控除の最大の違いは、節税効果の大きさにあります。税額控除は計算された税額から直接差し引くため、控除額がそのまま節税額になります。
一方、所得控除は課税所得から差し引かれるため、実際の節税額は「控除額×適用される税率」になります。例えば、税率20%の場合、10万円の所得控除で得られる節税効果は2万円です。
このため、同じ金額の控除であれば、税額控除の方が節税効果が高いのが一般的です。特に、中小企業や個人事業主にとって、限られた控除枠を最大限に活用するには、税額控除を優先的に検討する価値があります。
適用条件の違い
所得控除は、生活に必要な基本的な支出(基礎控除、医療費控除など)に関連するものが多く、ほとんどの納税者が自動的に、または比較的容易に適用を受けられます。
これに対して税額控除は、特定の政策目的を達成するために設けられていることが多いため、適用条件が具体的かつ厳格です。例えば、設備投資に関する税額控除では、対象となる設備の種類や取得時期、利用状況などの要件を満たす必要があります。
そのため、税額控除を活用するには、事前の計画立案や適格性の確認、必要書類の準備など、より積極的な対応が求められます。しかし、その分だけ節税効果も大きいといえるでしょう。
経営者が知っておくべき税額控除
経営者や個人事業主が、特に注目すべき税額控除を紹介します。これらを上手に活用することで、事業の成長を支える資金確保につながります。
適用可能な税額控除は業種や事業規模、経営状況によって異なりますので、自社の状況に合ったものを選択することが重要です。また、税制は毎年のように変更されるため、最新情報の確認も欠かせません。
中小企業経営強化税制
中小企業経営強化税制は、生産性向上のための設備投資を支援する税制です。この制度を利用すると、対象設備の即時償却または税額控除(7%または10%)のいずれかを選択できます。
対象となるのは、経営力向上計画に基づいて取得した一定の設備で、生産性が年平均1%以上向上するものです。機械装置、測定工具、器具備品、建物附属設備などが含まれます。
この制度の特徴は、償却と税額控除の選択制である点です。資金繰りや利益状況に応じて、最も有利な方を選べます。例えば、利益が少ない年は即時償却を、利益が多い年は税額控除を選ぶといった戦略的な活用が可能です。
雇用者給与等増加控除
雇用者給与等増加控除(賃上げ税制)は、従業員の給与を増加させた企業に対する税額控除制度です。従業員の待遇改善と、企業の節税を両立できる点が魅力です。
具体的には、継続雇用者の給与等支給額が前年度比で一定以上増加した場合、その増加額の15%相当額が法人税額から控除されます。さらに、教育訓練費が一定割合増加している場合は、控除率が上乗せされます。
この制度を活用するには、給与支給額や従業員数の推移を正確に記録し、適格性を証明できる書類を準備することが重要です。人材投資と節税を同時に実現できる仕組みとして、多くの企業が注目しています。
試験研究費特別控除(研究開発税制)
試験研究費特別控除は、企業の研究開発活動を支援するための税制です。新製品開発や技術革新に取り組む企業にとって、大きな支援となります。
控除額は、試験研究費の総額に一定率(一般的に6%~20%)を掛けた金額で、さらに増加型や高水準型などの上乗せ措置も用意されています。中小企業者等については、より有利な特例が適用される場合もあります。
対象となる試験研究費は、製品や製造工程の開発・改良のための費用で、材料費、人件費、外注費などが含まれます。ただし、試験研究費として認められるための要件を満たす必要があるため、研究開発の目的や内容、支出の管理を明確にしておくことが重要です。
外国税額控除
海外に事業を展開している企業や、海外から所得を得ている個人事業主にとって、外国税額控除は二重課税を調整するための重要な制度です。
海外で得た所得に対して、現地で納付した税金は日本でも課税対象となりますが、この制度により、海外で支払った税額を日本の税額から控除できます。これにより、同じ所得に対して、日本と海外の両方で課税されるという二重課税の問題が緩和されます。
控除限度額の計算方法や繰越制度もあり、複雑な面もありますが、国際的なビジネスを展開するうえでは欠かせない制度です。海外展開を考える経営者は、事前に専門家に相談するなどして、この制度を効果的に活用する準備をしておきましょう。
個人事業主が知っておくべき税額控除
個人事業主の方も活用できる税額控除があります。特に、確定申告時に意識すべき控除制度を紹介します。
個人事業主は、事業所得だけでなく不動産所得や給与所得など、複数の所得をもつ場合も多いため、それぞれの状況に応じた税額控除を検討することが大切です。
住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)
住宅ローン控除は、住宅ローンを組んで住宅を取得した場合に適用される税額控除です。個人事業主の方が、自宅兼事務所を購入した場合にも活用できます。
この控除では、年末のローン残高の0.7%(上限あり)が所得税額から控除されます。10年間(特例で13年間の場合もあり)にわたって適用されるため、長期的な節税効果があります。
注意点として、事業用部分が明確に区分されている場合、その部分は控除対象から除外されることがあります。しかし、事業用と居住用のバランスを考慮した物件選定をすることで、住宅ローン控除と事業経費の両方を最適化できる可能性があります。
政党等寄付金特別控除
政党や政治資金団体への寄付は、特別控除の対象となります。具体的には、寄付額から2,000円を引いた金額の30%が所得税額から控除されます。
例えば、50,000円の寄付をした場合、(50,000円-2,000円)×30%=14,400円が税額から控除されます。ただし、所得税額の25%が控除上限となるため、所得状況によって効果は異なります。
この制度は、政治活動を支援しながら節税できる仕組みで、政治参加の一環として考える個人事業主の方にとって、選択肢の一つとなるでしょう。
認定NPO法人等寄付金特別控除
認定NPO法人や公益法人などへの寄付も、税額控除の対象です。寄付額から2,000円を引いた金額の40%が所得税額から控除されます。
政党等寄付金と同様に所得税額の25%が控除上限ですが、控除率が40%と高いのが特徴です。なお、同じ寄付金で所得控除を選択することも可能ですが、多くの場合は税額控除の方が有利になります。
社会貢献活動に関心がある個人事業主の方は、自分の価値観に合った認定団体を選んで寄付することで、社会貢献と節税を両立できます。寄付先は、国税庁のウェブサイトで認定団体を確認できます。
確定申告で税額控除を受けるための手続き
税額控除を確実に受けるためには、正確な確定申告手続きが欠かせません。必要な書類や申告の流れを理解しておきましょう。
確定申告は自己申告制度であるため、適用可能な控除を自ら把握し、請求する必要があります。漏れがあると、せっかくの節税機会を逃してしまうことになります。
必要書類の準備
税額控除を申請するには、各控除制度に応じた証明書類が必要です。一般的に必要となる書類には、以下のようなものがあります。
設備投資関連の税額控除では、設備の取得を証明する契約書や領収書、償却資産台帳の写しなどが必要です。また、経営力向上計画の認定書なども求められます。
雇用・給与関連の控除では、給与台帳や社会保険の納付記録、教育訓練の実施記録などが必要になります。研究開発税制では、研究内容を説明する資料や研究費の支出証明が求められます。
控除ごとに必要書類が異なるため、事前に税務署のウェブサイトや国税庁のパンフレット、または税理士に確認しておくとよいでしょう。書類の不備で控除が認められないケースもありますので、十分な準備が必要です。
申告書の記入
税額控除は、確定申告書の第三表(税額の計算)に記入するのが基本です。控除の種類ごとに記入欄が設けられています。
申告書の記入は、まず「課税される所得金額」を計算し、それに税率をかけて「所得税額」を算出します。その後、適用可能な税額控除を順に適用していきます。複数の税額控除がある場合、適用する順序も重要です。
電子申告(e-Tax)を利用すると、入力ガイドに従って進められるため、記入ミスを減らせます。また、申告書作成ソフトやクラウド会計ソフトを活用すると、より正確に申告書を作成できるでしょう。
申告期限
確定申告の期間は、毎年2月16日から3月15日までです。特に税額控除を申請する場合は、必要書類の収集や確認に時間がかかることがあるため、早めの準備が重要です。
期限を過ぎてからでも、5年間は更正の請求によって控除の適用を受けられる可能性がありますが、本来の申告期限内に正確に申告することが基本です。
また、税額控除は年度によって制度内容が変更されることがあります。最新の税制改正情報を確認することも大切です。不明点があれば、税務署の相談窓口や税理士に相談することをおすすめします。
税額控除に関するよくある質問
税額控除について、経営者や個人事業主の方々から、よく寄せられる質問とその回答をまとめました。
より詳細な内容や個別のケースについては、税理士など専門家への相談をおすすめします。
税額控除と所得控除はどちらが有利?
一般的には、同じ金額であれば税額控除の方が所得控除よりも節税効果が高くなります。これは、税額控除が計算された税額から直接差し引かれるのに対し、所得控除は課税所得から差し引かれるためです。
例えば、課税所得500万円で税率20%のケースでは、10万円の所得控除の効果は2万円(10万円×20%)ですが、10万円の税額控除ならそのまま10万円の節税効果があります。
ただし、適用できる控除の種類や金額が異なるため、自分の状況に合った控除を選択することが重要です。特に、寄付金控除のように所得控除と税額控除の選択制になっているものは、試算して有利な方を選ぶとよいでしょう。
控除限度額を超えた場合はどうなる?
多くの税額控除には、適用できる限度額が設定されています。例えば、法人税額の20%までといった制限があります。この限度額を超えた部分は、原則としてその年度では控除できません。
ただし、控除制度によっては、控除しきれなかった金額を翌年以降に繰り越せる場合があります。例えば、試験研究費特別控除や外国税額控除では、一定期間内(通常は1~3年)の繰越しが認められています。
繰越制度がある控除については、繰越申告書の提出など、必要な手続きを忘れずに行いましょう。繰越制度がない控除の場合は、税額控除を最大限活用できるよう、事業年度内の利益や投資のタイミングを調整することも検討価値があります。
確定申告後に控除の適用漏れに気づいたらどうする?
確定申告後に税額控除の適用漏れに気づいた場合でも、「更正の請求」という手続きで対応できます。法定申告期限から5年以内であれば、適用漏れを訂正して還付を受けられる可能性があります。
更正の請求には、更正請求書と控除の適用を証明する書類を添付して税務署に提出します。電子申告でも更正請求は可能です。
ただし、本来の申告期限内に正確に申告することが基本ですので、控除の適用条件を事前に確認する習慣をつけることが重要です。税務ソフトの活用や税理士への相談も、ミスを防ぐ有効な方法です。
まとめ
税額控除は、税額から直接差し引かれるため節税効果が非常に大きいことが特徴です。所得控除と比較して効果が大きく、設備投資や研究開発、雇用増加など、さまざまな経営活動で活用できます。
効果的に活用するためには、適用条件を事前に確認し、計画的な経営判断と適切な記録管理を行うことが大切です。確定申告時には、必要書類の準備と正確な申告書の記入を心がけましょう。不明点があれば、専門家に相談することをおすすめします。
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