2025.05.22
資金繰り表とは?経営を支える資金管理の基礎
企業経営において「黒字倒産」という言葉を耳にしたことがある方も多いでしょう。売上があっても、資金が回らなければ倒産してしまうのが現実です。こうしたリスクを回避するために欠かせないのが「資金繰り表」です。本記事では、資金繰り表の基本的な役割から作成方法、導入のメリットまで、初めての方にもわかりやすく解説します。
資金繰り表とは何か?
資金繰り表の目的と基本構造
資金繰り表とは、企業の現金の収入と支出を管理するために作成される表のことです。
売上や経費だけでなく、実際に「いつ・いくらの現金が入って、いつ・いくらの現金が出ていくのか」を正確に把握することができます。
企業経営においては、たとえ会計上の利益が出ていたとしても、手元に現金がなければ支払いができず倒産に至る可能性があります。俗にいう「勘定合って、銭合わず」の状況です。
このような「黒字倒産」を防ぐためにも、資金繰り表は欠かせない存在です。
資金繰り表の大きな目的は、現金の流れを「可視化」することです。
これにより、将来の資金不足を事前に予測し、対策を立てることができます。
経営判断や資金調達のタイミングを見極めるうえでも有効です。
資金繰り表は月単位で作成されることが一般的です。基本的な構造は以下のようになります。
【資金繰り表の基本構造】
区分 |
内容 |
前月繰越 |
前月から繰り越された現金残高 |
現金収入 |
現金売上、売掛金回収、借入など |
現金支出 |
仕入支払、人件費、各種経費、借入返済など |
差引過不足 |
現金収入 - 現金支出 |
翌月繰越 |
今月末時点の現金残高 |
このように構成された資金繰り表を使うことで、「今月末に現金はいくら残るか」「どの時点で資金が不足するか」といった情報を一目で確認できます。
企業活動のすべてにおいて現金が必要である以上、資金繰り表の重要性は極めて高く、特に中小企業や創業初期の企業にとっては、経営の生命線とも言える存在です。
キャッシュ・フロー計算書との違い
資金繰り表と混同されがちなのが「キャッシュ・フロー計算書」です。
どちらも現金の流れを記録する点では共通していますが、その目的や利用シーンには明確な違いがあります。
キャッシュ・フロー計算書は、過去の会計期間における現金の流れを整理・報告するための財務諸表で会計資料です。
上場企業においては開示義務があり、外部の利害関係者に向けて、企業の資金状況を説明する資料として用いられます。
これに対して、資金繰り表は将来の資金計画を立てるための内部資料です。
未来の資金の流れを予測し、経営者自身が資金不足のリスクを管理するために使用されます。
両者の違いを整理すると、次のようになります。
【資金繰り表とキャッシュ・フロー計算書の違い】
項目 |
資金繰り表 |
キャッシュ・フロー計算書 |
作成目的 |
資金不足を予測し、計画的に資金を管理 |
財務状況を過去データから報告する |
使用タイミング |
将来を見越した日々の資金管理 |
決算時に過去の実績を報告する |
対象者 |
経営者や財務担当者など内部関係者 |
投資家、金融機関など外部関係者 |
作成義務 |
義務なし(任意) |
上場企業に義務あり |
つまり、資金繰り表は未来志向の経営ツールであり、キャッシュ・フロー計算書は過去の報告資料という位置付けです。
中小企業においては、資金繰り表を定期的に作成・見直すことが、健全な資金管理と経営判断の基盤となるのです。
資金繰り表を作成するメリット
資金ショートを防ぎ経営の安定につなげる
企業が黒字経営を維持していたとしても、手元資金が不足してしまえば事業継続は困難になります。
このような資金不足のリスクを未然に防ぐために、資金繰り表の作成は非常に重要です。
売上が上がっているにもかかわらず、仕入や人件費、家賃などの支払いに充てる現金が足りないケースは少なくありません。
いわゆる「黒字倒産」と呼ばれる現象の多くは、資金の流れを把握できていないことに起因しています。
資金繰り表を活用すれば、こうした状況に陥る前に適切な手を打つことができます。
資金繰り表は、将来の現金収支を見通すことを目的とした表です。
1ヵ月単位での収入・支出、借入や返済などの財務活動も一覧化することで、「いつ・いくらの現金が不足するか」を事前に予測できます。
結果として、銀行への融資申込みや支払期限の見直し、取引条件の交渉といった対応を早期に行うことが可能になります。
また、資金繰り表には「予算」と「実績」を記録する欄を設けることで、計画と実績の差異を分析できる点も大きな利点です。
収支の傾向や問題点を洗い出し、改善すべきポイントを明確にすることで、より堅実な経営へとつなげることができます。
以下に、資金ショートの予防に資金繰り表がどう役立つかをまとめました。
【資金繰り表の具体的な活用例】
・売掛金の回収予定と支払予定を比較して、資金が不足する月を事前に把握
・借入返済や税金納付が集中する時期の資金準備を計画的に行う
・支払期日の延長や、融資の申請などの対策を早期に検討できる
このように、資金繰り表を通じて資金ショートを未然に防ぐことは、経営の安定性を高めるうえで欠かせない取り組みです。
特に中小企業や創業間もない企業にとっては、日々の現金管理がそのまま経営の継続性に直結します。
金融機関との信頼関係構築にも役立つ
資金繰り表のもう一つの大きなメリットは、金融機関からの信頼を獲得しやすくなることです。
融資を受ける際、金融機関は事業者の資金計画や資金管理能力を重視します。
そのため、計画的な資金繰り表を提出できるかどうかが、審査結果を大きく左右する要因となります。
例えば、融資を申し込む際に資金繰り表を提示することで、「借入金をどのように使い、いつ返済するか」を具体的に示すことができます。
これにより、資金の使用目的が明確となり、金融機関としても安心して貸し出すことができるのです。
さらに、継続的に資金繰り表を更新・提出していれば、銀行側も企業の経営状況を的確に把握できます。
結果として、追加融資や条件変更の相談などにも柔軟に対応してもらえる可能性が高まります。
以下は、資金繰り表を活用した金融機関との関係強化の具体例です。
【金融機関との信頼を高める活用例】
・借入申請時に将来の資金計画を資金繰り表で提示し、返済可能性を証明
・月次報告資料として提出し、資金管理の透明性を確保
・金融機関側のリスク評価を下げ、金利や返済条件の優遇を得るきっかけに
資金繰り表があるだけで、「この企業は資金管理能力が高く、信頼できる」と金融機関に印象づけることができます。
単なる資金の記録ではなく、信頼獲得の手段としても有効なツールなのです。
したがって、資金繰り表は日々の経営判断に役立つだけでなく、金融取引の場面においても企業の評価を高める強力な武器となることを、ぜひ覚えておいてください。
資金繰り表の作成方法と実践ポイント
作成に必要な準備と基本フォーマット
資金繰り表を正しく作成するには、事前に必要な書類を準備し、自社に適したフォーマットを整えることが重要です。
これにより、日々の経営状況を正確に反映させながら、スムーズに資金計画を立てることができます。
まずは、資金繰り表の作成に必要な基本資料を確認しましょう。以下の3つは最低限用意しておきたいものです。
【資金繰り表作成に必要な書類】
書類名 |
目的・役割 |
月次試算表 |
月ごとの売上・費用の把握、予算と実績の管理に使用 |
現金出納帳 |
現金による入出金の明細を管理し、現金残高を正確に把握 |
預金出納帳 |
銀行口座の入出金を記録し、預金残高との突き合わせに使用 |
これらの資料をもとにして、資金繰り表のフォーマットを作成します。
フォーマットに正解はありませんが、自社の資金の流れが分かりやすく整理されていることが最も重要です。
一般的には、以下のような構成で作成されることが多くあります。
【基本的な資金繰り表の構成】
項目 |
内容 |
前月繰越 |
前月から繰り越された現金・預金残高 |
現金収入 |
現金売上、売掛金回収、借入金、その他の入金 |
現金支出 |
買掛金支払、人件費、地代家賃、水道光熱費、借入返済、その他の支出 |
差引過不足 |
現金収入 - 現金支出(今月の純増減) |
翌月繰越 |
当月末の現金残高(前月繰越+差引過不足) |
このように項目を整理しておけば、毎月の資金の動きをひと目で把握することが可能となり、突発的な支出にも柔軟に対応できます。
また、資金繰り表には「予算(見込み)」と「実績」の両方を記載するのが基本です。
予算と実績の差異分析を行うことで、計画と実際のずれを把握し、原因の特定と対策につなげることができます。
さらに、入金・出金のタイミングにも注意が必要です。
例えば売掛金の入金は売上発生から1〜2か月後、買掛金の支払いは仕入から1か月後など、取引条件に基づいた「サイト(支払い・回収期間)」の考慮が不可欠です。
資金繰り表を正確に作成するためには、収支の「金額」だけでなく「時期」も正しく見積もることが成功の鍵になります。
Excelや会計ソフトを活用した効率的な作り方
資金繰り表の作成には、Excelやクラウド会計ソフトの活用が非常に効果的です。
特にExcelは柔軟性が高く、自社に合わせたカスタマイズが可能な点が魅力です。
Excelで資金繰り表を作る際は、以下のような工夫を取り入れると、より効率的かつ正確な管理が行えます。
【Excel活用のポイント】
・関数を活用して自動計算(SUM、IF、VLOOKUPなど)
・曜日・月のズレに対応したカレンダー形式の表組み
・色分けで収入・支出の項目を視覚的に整理
・月ごとにシートを分け、年間の推移も把握できる構成に
これにより、収支の入力ミスや計算漏れを防止できるほか、将来的な予測値の変更もスムーズに行えます。
一方、Excelでの作成には「設定に時間がかかる」「計算式の間違いに気づきにくい」などの課題もあります。
そうした場合には、会計ソフトの活用が非常に有効です。
特に「弥生会計」や「freee(フリー)」「マネーフォワード クラウド」などのクラウド会計ソフトは、日々の仕訳データから自動で資金繰り表を生成する機能を搭載しています。
【会計ソフトを使うメリット】
・手入力不要、仕訳から自動で反映される
・誤入力や漏れのリスクが圧倒的に少ない
・グラフ・チャートで可視化され、経営者にも分かりやすい
・クラウド対応で、外出先からもリアルタイム確認が可能
このように、自社の経理体制や担当者のスキルに応じて、Excelと会計ソフトを使い分けることで、効率と正確性を両立した資金繰り表の運用が実現できます。
重要なのは、どんな方法を用いるにしても、「毎月継続して作成し、見直す習慣をつけること」です。
資金繰り表を経営の判断材料として日常的に活用すれば、収支管理に強い企業体質を築くことができるでしょう。
まとめ
本記事では、資金繰り表の基本的な役割からキャッシュ・フロー計算書との違い、作成のメリット、具体的な作成方法までを詳しく解説しました。
資金繰り表は、現金の流れを「見える化」し、資金ショートや黒字倒産のリスクを未然に防ぐための重要な経営ツールです。
また、金融機関との信頼構築にもつながることから、日々の資金管理に取り入れるべき仕組みであると言えるでしょう。
とはいえ、資金繰り表の運用には正確な情報と継続的な管理が求められ、専門的な知識がないと難しく感じる方も多いかもしれません。
「自社に最適な資金管理体制をどう構築すればいいのか」「金融機関との関係をもっと強化したい」-そんな課題を抱える経営者の方々にこそ、専門的なサポートが必要です。
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