2025.05.22
【完全版】法人税の基礎と節税対策ガイド
法人経営を続けていくうえで避けて通れないのが「法人税」の支払いです。しかし、合法的な方法で法人税の負担を軽減することは可能です。この記事では、法人税の基本から代表的な節税対策、専門家への相談方法まで、実務に役立つ情報をわかりやすく解説します。
法人税の基礎知識を理解しよう
法人税対策を行うには、まず法人税の仕組みと基本ルールを正しく理解することが不可欠です。
税制は毎年改正される可能性があり、常に最新情報を踏まえて対策を講じる必要があります。
この章では、法人税の概要と税率、さらに申告や納付スケジュールまでを詳しく解説します。
法人税とは?仕組みと税率の基礎知識
法人税とは、法人の所得(利益)に対して課税される国税です。
対象となる法人には、株式会社や合同会社などの営利法人だけでなく、特定の公益法人や協同組合も含まれます。
課税される所得は、企業会計上の利益を基準に、法人税法に基づく加算・減算を行って算出されます。
法人が負担する税金には、国税である「法人税」のほかに、地方税として「法人住民税」や「法人事業税」があります。これらをまとめて「法人税等」と呼ぶことが一般的です。
したがって、節税を検討する際には法人税単体だけでなく、関連する地方税も視野に入れることが重要です。
法人税の税率は、資本金1億円以下の中小企業で年800万円以下の所得に対しては15%(軽減税率)が適用され、それを超える部分には23.2%(標準税率)が課されます。
以下の表に、2024年度時点の法人税率の概要を示します。
所得区分 |
法人税率(中小企業) |
年800万円以下の所得 |
15%(軽減税率) |
年800万円超の所得 |
23.2% |
※条件を満たした青色申告法人が対象です。
また、企業規模や業種、課税所得の金額に応じて税率や特例措置が変わることがあるため、自社に適用される具体的な税率は、税理士などの専門家に確認することをおすすめします。
法人税の申告と納付スケジュール
法人税の申告と納付は、法人の事業年度終了後2か月以内に行う必要があります。
例えば、事業年度が毎年4月1日から翌年3月31日までの場合、法人税の申告期限は5月31日までです。
この期限を過ぎると、無申告加算税や延滞税などのペナルティが発生するため注意が必要です。
申告にあたっては、次のような手続きが必要です。
- 損益計算書・貸借対照表などの決算書を作成
- 各種税額の計算(法人税、法人住民税、法人事業税)
- 法人税申告書の作成と提出
- 税務署への申告と納税(電子申告・紙提出の選択可)
特に気を付けたいのは、「納付期限」と「申告期限」が同じである点です。
どちらかが遅れても延滞扱いとなるため、あらかじめスケジュールを組み、必要書類や税額の確認を進めておくことが大切です。
なお、申告期限は一定の要件を満たすことで1か月の延長(申告期限延長の特例)が可能です。
ただし、延長には事前の申請が必要であり、法人税の納付は原則として延長対象外となるため、注意が必要です。
【法人税申告の主なスケジュール】
項目 |
期限 |
事業年度末 |
例:3月31日 |
申告・納付期限 |
5月31日(2か月以内) |
延長申請期限 |
原則として事業年度中 |
確定申告書の作成や申告・納付の手続きは煩雑かつ専門的な作業です。
ミスを避けるためにも、可能であれば税理士などの専門家に依頼することで、安心かつ正確に対応することができるでしょう。
代表的な法人税の節税対策
法人税を効果的に抑えるためには、合法的な節税手法を戦略的に取り入れることが重要です。
中でも、役員報酬や社宅制度の活用は、多くの中小企業が取り入れている代表的な対策として知られています。
これらの方法は、税法の枠組みに従いながら、会社と役員(または従業員)双方にメリットをもたらす点が魅力です。
ただし、手続きや条件を誤ると、税務上の否認リスクもあるため注意が必要です。
以下で、それぞれの節税策について詳しく解説します。
役員報酬を適切に設定して節税
役員報酬の見直しは、法人税対策の中でも特に即効性が高い方法のひとつです。
法人が支払う役員報酬は、一定の条件を満たせば「損金」(法人の経費)として扱われ、課税所得を圧縮する効果があります。
ただし、損金算入が認められるためには、次の条件を満たす必要があります。
・定期同額給与:毎月同じ金額を支払うこと(例:毎月25日に50万円など)
・事前確定届出給与:支給時期と金額を事前に税務署に届け出ること
・利益連動給与:利益に連動した報酬。ただし非同族会社に限られる
特に中小企業においては、「定期同額給与」の形式が一般的です。
この形式では、事業年度開始から3か月以内に金額を決定しなければならず、後から増額や変更をすることは原則できません。
さらに、役員報酬を損金にすることで法人税は軽減される一方、受け取る役員個人には所得税が課されるため、法人税と個人所得税をトータルで考慮する必要があります。
以下に、役員報酬設定時の主なメリットと注意点をまとめます。
項目 |
内容 |
メリット |
・法人の課税所得が減り、法人税の節税につながる |
・報酬として受け取ることで、役員の生活資金確保が可能 |
|
注意点 |
・変更は原則不可(定期同額給与) |
・所得税・住民税が増える可能性 |
|
・株主総会議事録などの証拠書類の保存が必要 |
このように、役員報酬は節税手段として有効ですが、計画性と法令遵守が前提条件となります。
適切な金額設定や報酬形態の選択には、税理士のサポートを受けるのが安全です。
社宅制度の導入で法人税と個人税の双方を抑える
法人が経営者や従業員に対して社宅を提供する制度を活用することも、節税効果の高い対策です。
この制度では、会社が賃貸物件を契約し、一定の賃料を入居者から受け取ることで、差額を経費として損金処理することが可能です。
例えば、家賃が月20万円のマンションを法人が契約し、役員から月3万円を徴収した場合、残りの17万円は法人の損金にできます。
この仕組みによって、法人側は経費計上で法人税を軽減でき、役員個人も家賃負担が減ることで実質的な手取りが増加するという、両者にとってメリットのある制度です。
【社宅制度の活用例】
内容 |
金額 |
家賃(月額) |
200,000円 |
入居者負担額 |
30,000円 |
損金算入額 |
170,000円 |
ただし、社宅として税務上認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
・法人名義での契約であること
・賃貸料相当額(税法に基づく計算)を入居者から徴収していること
・用途が業務用(福利厚生)と認められること
もし家賃が無料、または徴収額が著しく低い場合、差額が給与とみなされ、所得税の課税対象となる可能性があります。よって、賃料相当額の正確な計算と契約書類の整備が非常に重要です。
さらに、従業員向けの社宅制度として運用する場合、福利厚生の一環として社員満足度の向上にもつながる点も見逃せません。
まとめると、社宅制度は以下のようなメリットと注意点があります。
項目 |
内容 |
メリット |
・法人側は損金計上で節税可能 |
・役員や従業員の住居費負担を軽減できる |
|
・福利厚生の充実として企業の魅力向上に貢献 |
|
注意点 |
・税務署に認められる形式・金額設定が必要 |
・給与課税とみなされないよう配慮が必要 |
|
・契約・支払いの名義や証拠書類を明確に保管すること |
このように、社宅制度は法人税・個人税の双方に節税効果をもたらす優秀な制度ですが、適用条件が複雑なため、導入前に専門家へ確認することが重要です。
節税を成功に導くための実務ポイント
法人税の節税は、一時的な対策ではなく、長期的な視点で計画的に取り組むことが成功のカギとなります。
適用できる制度やタイミングを見極めながら、税法に準拠した形で戦略的に進める必要があります。
この章では、特に実務上で取り入れやすく、効果の大きい2つのポイントとして、「赤字の繰越活用」と「税理士との連携」に焦点を当てて解説します。
赤字の繰越で将来の税負担を軽減する
法人の業績が振るわなかった年に発生した赤字(欠損金)を将来に繰り越す制度は、中長期的に見て非常に有効な節税手段です。
青色申告を行っている法人であれば、赤字を最大10年間繰り越すことが可能です。
将来的に黒字化した際に、この繰越欠損金を利益と相殺することで、課税対象となる所得を抑え、法人税の支払いを軽減できます。
例えば、前年に500万円の赤字があり、当期に800万円の利益が出た場合、赤字分を差し引いた実質課税所得は300万円となります
これにより、税率を掛ける所得自体を減らすことができるため、大幅な税負担軽減が実現します。
【赤字繰越の活用例】
年度 |
所得額 |
赤字繰越 |
課税所得 |
備考 |
前期 |
▲5,000,000円 |
― |
― |
欠損金発生(赤字) |
今期 |
8,000,000円 |
▲5,000,000円 |
3,000,000円 |
赤字と相殺して課税対象 |
この制度を有効活用するためには、以下のような条件を守る必要があります。
・青色申告の承認を受けていること
・各年度ごとに繰越欠損金の記載を申告書に正しく行うこと
・青色申告の承認が取り消されると繰越できなくなる
また、赤字が出た翌期に再び赤字になる場合でも、「繰戻還付制度」を利用して、前期に支払った法人税の一部を還付してもらえる可能性があります。
この制度は、資本金1億円以下の中小企業など特定の法人に限られるため、事前に要件を確認することが必須です。
赤字の活用は、単年度ではなく数年にわたる収支計画と組み合わせて初めて本領を発揮する節税戦略です。
過去の損失を無駄にせず、将来の利益とバランスを取るために、しっかり記録を残し、制度の範囲内で活用しましょう。
節税対策は税理士と相談して進めよう
法人税の節税にはさまざまな制度や特例が存在し、制度間の組み合わせによって効果が大きくも小さくもなります。
そのため、税務の知識に乏しいまま自己判断で進めるのではなく、専門家である税理士と連携して取り組むことが成功の近道です。
税理士に相談することで、以下のようなメリットが得られます。
・自社に最適な節税方法を選定してもらえる
・最新の税制改正や特例措置の情報をキャッチできる
・税務調査対策として正確な帳簿処理が可能になる
例えば、同じ「福利厚生費」の計上でも、対象者・金額・支払い方法によって経費として認められないケースがあります。
税理士に確認を取ることで、否認リスクを未然に防ぐことができるのです。
また、節税だけでなく、資金繰りの相談や融資支援、補助金申請のアドバイスなど、経営に直結する部分までサポートを受けられる点も大きな利点です。
【税理士に相談するべきタイミング】
・法人設立時や決算時
・新しい節税策の導入を検討しているとき
・税務調査の連絡が来たとき
・赤字の繰越や繰戻しの適用判断を迷っているとき
特に初めて会社を設立したばかりの経営者や、税務に不安のある中小企業にとっては、税理士のサポートが「経営の安心材料」になることは間違いありません。
なお、近年では弥生やマネーフォワードといったクラウド会計ソフトを通じて、無料で税理士を紹介してもらえるサービスも増えてきています。
こうしたサービスを活用することで、地域や業種に合った専門家とマッチングでき、スムーズに節税計画を立てることが可能になります。
節税は“やり方”を知っていても、“正しく活用する力”がなければ成果につながりません。
だからこそ、税理士というプロの力を借りて、効果的かつ安心できる節税対策を進めていきましょう。
まとめ
本記事では、法人税の基本的な仕組みから、役員報酬や社宅制度を活用した節税対策、さらに赤字の繰越や税理士との連携による実務的なポイントまでを解説しました。
法人税対策は、単なるコスト削減ではなく、経営戦略の一部として継続的に取り組むべき重要なテーマです。
特に中小企業においては、税負担を軽減することで資金繰りの改善や事業投資の余力を生み出すことができるため、慎重かつ戦略的な対応が求められます。
しかし、制度や法律は複雑で頻繁に改正されるため、最適な対策を見極めるには専門的な知見が必要不可欠です。
そこで、法人の経営や資金繰りに悩む企業様にはHTファイナンスの活用をおすすめします。
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