2025.02.20
中間管理の未来―DX時代に求められる組織変革と企業の生存戦略
中間管理の役割とその変化
企業における属人的業務の影響と課題
これまでのコラムでは、「ビジネスプロセスの継承」について取り上げ、業務の属人化を防ぎ、効率的に引き継ぐためには、マニュアル化や社内での公知化が必要であることを説明してきました。
実際の業務現場では、多くの業務において、経験やコツ、ノウハウが特定の個人に依存していることがよくあります。
特に中小企業では、限られた人員で業務を回しているため、一部の業務が特定の個人に過度に集中してしまうケースが多く見られます。一定の規模の事業であれば、そうした属人的な業務でも回せることがありますが、繁忙期や担当者の急な不在が発生すると、業務が滞るリスクが高まります。
こうした状況を防ぐために、「ビジネスプロセスの継承」を意識した業務体制の構築が不可欠です。業務の標準化や分業の推進により、特定の社員に業務が集中しない仕組みを整えることが、企業の持続的な成長につながります。
デジタル技術の発展による管理業務の変革
従来、「中間管理職」の役割は、組織内の調整役として、業務の進行管理や従業員の指導、業務の最適化を担うものでした。しかし、デジタル技術の発展により、これらの業務の一部が自動化されつつあります。
例えば、データ分析ツールや業務管理ソフトウェアを活用すれば、業務の進捗状況や課題をリアルタイムで把握できるようになります。また、AIを活用したチャットボットやナレッジ共有システムの導入により、社員同士が必要な情報を迅速に取得できる環境が整いつつあります。
こうした技術の導入によって、中間管理職が担っていた「情報の仲介」や「指示・調整業務」の負担は大幅に軽減され、管理業務の効率化が進んでいます。結果として、「中間管理」という仕事自体の必要性が薄れつつあり、将来的には組織構造そのものの見直しが求められる可能性が高いでしょう。
業務の属人化を防ぎ、企業の生産性を向上させるためにも、デジタル技術を積極的に活用し、「管理」のあり方を再定義することが重要です。
業界における中間管理の再編
サプライチェーンにおける卸売業の役割の変化
企業の人事戦略における「中間管理」のあり方が変化している一方で、業界全体における中間管理の役割も大きく変化しています。特に、サプライチェーンにおける「卸売業」の売上減少が顕著になっており、その存在意義が問われています。
かつて、卸売業は、小売店や一般消費者とメーカーをつなぐ重要な役割を担い、顧客情報や市場の需要動向を管理することで、サプライチェーンの調整役を果たしていました。しかし、近年の情報通信技術の進化によって、小売業者や消費者は直接メーカーと取引が可能となり、リアルタイムで市場動向を把握できるようになっています。
その結果、卸売業者が提供していた「中間マージン」に見合う価値が減少し、商流から排除される「中抜き」の現象が加速しています。例えば、1982年には4.2だったW/R比率(国内の全卸売業者の売上合計を全小売業者の売上合計で割った数値)は、2000年には3.2に低下し、20年足らずで150兆円分の卸売業の売上が消滅しました。この傾向は現在も続いており、卸売業の役割が大きく再編されつつあります。
特に食品業界では、大手食品商社が従来の卸売機能に加え、物流、与信管理、緊急対応サービスなどの付加価値を提供し、単なる中間流通業から脱却を図っています。一方で、中小の卸売業者は、特定の機能に特化し、競争力を高める戦略が求められています。
金融業界における中間管理の必要性の低下
金融業界においても、「中間管理」という概念が大きく揺らいでいます。銀行は、個人や企業から預かった資金を融資することで利ざやを得る「間接金融」の仕組みを基盤としています。しかし、近年、銀行の収益力は低下し、融資業務のプロセスも変化しています。
本来、銀行の役割は、資金の流れを円滑にし、適切な融資先を見極めることにあります。しかし、情報通信技術の発展により、企業はクラウドファンディングやP2Pレンディングなど、銀行を介さずに資金調達を行う手段を得ました。これにより、銀行の中間管理機能が縮小し、収益の源泉である融資業務の競争力が低下しています。
加えて、金融機関の審査業務も複雑化しており、企業が融資を申し込む際に求められる書類やデータの量は増加しています。銀行側は顧客に対して過度な情報提供を求める一方で、融資審査のスピードは低下し、結果として金融機関の存在意義が揺らいでいるのです。
このように、業界全体における「中間管理」の役割は、デジタル技術の発展によって再編が進み、単なる情報の仲介者としての価値は低下しています。これからの企業は、卸売業や金融機関に頼らず、直接取引を行いながら、新たな付加価値を生み出す戦略が求められる時代に突入していると言えるでしょう。
企業組織における中間管理職の未来
生産性向上とコスト削減における中間管理の課題
企業の持続的な発展と収益拡大を目指す上で、生産性向上とコスト削減は常に重要な経営課題です。「DX」や「ビジネスプロセスの複製化」、「テレワーク」などの業務改革が進む中、社内の情報共有と意思決定プロセスの効率化が求められています。この流れの中で、従来の「中間管理職」の役割が変化し、その必要性が問われるようになっています。
企業の経営戦略として、人件費削減は避けられない課題の一つです。特に、中高年社員(中間管理職)の人件費は企業のコスト構造において大きな割合を占めています。しかし、日本の「年功序列制」や「終身雇用制」が根強く残る中で、中高年社員のリストラは簡単に実施できません。そのため、若手社員の雇用や給与を抑制することで調整してきましたが、それでも生産性向上のために中間管理職の削減が進んでいます。
今後、企業は優秀な技術者や若手社員への投資を拡大し、持続的な事業成長を確保する必要があります。このような経営判断は、現在の競争環境を考えれば理にかなったものです。しかし、企業の「人」を大切にする経営方針は、ESG(環境・社会・ガバナンス)経営においても重要な要素となっています。「従業員エンゲージメント」が高い企業は、PRI(責任投資原則)を実践する投資家の評価が高く、長期的な企業価値向上につながると考えられています。
中間管理職の削減は、企業のさらなる生産性向上を目指すための手段の一つです。しかし、それが単なるコスト削減だけでなく、持続可能な経営戦略の一環としてバランスよく進められるかが重要な課題となるでしょう。
持続可能な経営に向けた組織再編の方向性
企業の成長と収益拡大を優先するあまり、環境破壊や公害問題が深刻化した高度経済成長期の経験を踏まえ、現代の経営においては持続可能性が重視されるようになりました。現在では、環境保全に対する意識は一般消費者レベルでも格段に高まり、持続可能な経営を実践しない企業は市場から排除される可能性が高くなっています。
同様に、企業組織の在り方も時代に適応する必要があります。情報通信技術の進化によって、企業の組織改革、業務改善、人事体制刷新、ワークスタイルの変革が進行しています。これにより、中間管理職の役割が変化し、企業内の意思決定プロセスや組織構造が見直される流れが加速しています。
例えば、近年注目されている「生成AI」などの先端技術の活用によって、人間が行ってきた業務の一部が自動化され、意思決定の精度やスピードが向上する可能性があります。これにより、これまで必要とされていた「中間管理」の業務も変化し、企業はより柔軟で効率的な組織運営を求められるようになります。
「あなたが今やっている仕事が、明日なくなったらどうしますか?」
この問いかけは、もはやフィクションではなく、現実の問題として誰にでも降りかかる時代になりました。企業も個人も、変化に適応するための新たな戦略を模索し続ける必要があるのです。
まとめ
本記事では、企業における「中間管理職」の役割の変化について解説しました。DXの進展や情報通信技術の発展により、業務の効率化が進む一方で、中間管理層の必要性が問われるようになっています。生産性向上とコスト削減を両立するために、組織の在り方を再構築する動きが加速しており、企業経営の持続可能性を考慮しながら、より柔軟で機動的な組織へと進化することが求められています。
しかし、こうした変革には財務戦略の見直しも不可欠です。企業の成長を支えるための資金調達や事業再編のサポートを必要とする経営者の方々も多いのではないでしょうか。
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