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「働き方改革」と企業のリスク管理|人材マネジメントと就業規則の見直し

「働き方改革」と企業の危機管理

リスクマネジメントの重要性と企業の対応

前回のコラムでは、「働き方改革」の概要について説明しました。関連法制の改正措置が完了し、今年で満6年を迎えます。企業の規模を問わず、「働き方改革」は企業側が主体となって施策を検討し、経営計画に盛り込んでいく必要があります。

その前に、企業の危機管理という観点から「働き方改革」を考えてみたいと思います。

一般的に「危機管理=リスクマネジメント」は、経営陣の間で重要性が認識されているものの、売上や利益に直結しないため、つい後回しにされがちな経営課題の一つです。

13年前の東日本大震災では、それまで想定されていなかったさまざまな人事管理上のリスクが東京電力で浮き彫りになりました。また、2024年1月に発生した能登半島地震についても、専門家が度重なる警告を発していたにもかかわらず、具体的な震災対策が不十分であったと指摘されています。

こうした危機管理の甘さは、組織の運営体質に起因する部分が大きいですが、その一因として人事・労務のリスクマネジメントの欠如が挙げられます。

企業における人事関連のリスクは、以下のように多岐にわたります。

  • 労働災害
  • 雇用トラブル
  • パワーハラスメント
  • 個人情報漏洩

これらは、組織の持続可能な運営に対する重大な脅威となる可能性があります。そのため、「危機管理」という視点で組織運営を再検証することが求められます。

リスクマネジメントの基本とは

リスクマネジメントとは、「リスクの発生を未然に防ぎ、万が一発生した場合には被害を最小限に抑えるための一連の活動」を指します。

たとえば、「火災」を例に考えてみましょう。リスクマネジメントの視点から見た火災対策を一言で表すと、「火事は起こさない。起きてしまったらボヤで消し止める」 ということになります。

このように、リスクマネジメントの基本は 「予防(事前対応)」 です。しかし、事故の発生を完全にゼロにすることは不可能であり、そのためには万一の事態を想定し、被害の拡大や二次災害を防ぐための対応を計画・準備することが不可欠です。

事故が発生した場合、発生後の対応は「時間との戦い」 になることがほとんどです。特に以下の業種では、迅速な対応が求められます。

  • 食品関連事業 →「食中毒」発生時の対応
  • 製造業 →「欠陥品製造=リコール」発生時の対応
  • 建設業 →「現場での事故」対応
  • 取引業務全般 →「取引先の倒産」や「天災による製品滅失」への対応

一方で、経営者の中には「リスクマネジメントはコストがかかるだけで、売上や利益には直結しない」と考え、積極的に取り組まないケースもあります。しかし、実際には、事前のリスクマネジメントにかかるコストと、事故発生後の損失を比較すると、その差は歴然です。

リスクマネジメントのコストと損失の比較

 

項目

事前のリスクマネジメント

事故発生後の損失

具体的なコスト

– 規定(ルール・マニュアル)の整備

– 社員教育・周知

– リスク対策システム・備品の導入

– 物的・人的被害の補填

– 売上低下

– 信用・ブランド力の低下

– 復旧・原状回復コスト

– 損害賠償費用

経営への影響

事業コストの削減・安定化

事業存続の危機に直結

このように、事前にリスクマネジメントを適切に実施することで、将来的な損失を大幅に抑えることができます。

また、事故発生時に迅速かつ適切な対応ができる企業は、市場や顧客からの信頼を高め、ビジネスの成長につなげることが可能です。

例えば、2011年の東日本大震災発生後、オリエンタルランド(東京ディズニーランドの運営会社)は、震災発生時のスタッフの冷静な対応が高く評価されました。さらに、コンビニエンスストアや食品流通事業者、メーカーなどは、商品供給を継続しライフラインを支えたことで、新たなファンを獲得し、ブランド価値の向上につなげることができました。

このように考えると、リスクマネジメントは単なるコストではなく、経営の最優先事項として取り組むべき課題だと言えます。

企業が直面する人材マネジメントのリスク

多様化する雇用形態と労働環境の変化

「人」に関わるリスクマネジメントとは、どのようなものでしょうか。

企業にとって、「人材」は重要な経営資源の一つです。人事部門が関与するリスクは多岐にわたり、適切な管理が求められます。

近年、正社員・契約社員・派遣社員・パート・アルバイトといった多様な雇用形態が混在する職場が増えています。「働き方改革」の推進に伴い、労働関連法制の改正が頻繁に行われ、企業の対応はこれまで以上に難しくなっています。

人材マネジメントのリスクには、以下のようなものがあります。

  • 労働トラブル(退職・解雇、残業・休日出勤、パワーハラスメント)
  • 人材の構成問題(社員の高齢化、人材不足・過剰人員)
  • 組織内の課題(人事制度・評価制度の機能不全、テレワーク管理)

これらのリスクは、企業経営に大きな影響を与える可能性があるため、早急な対応が求められます。

労働関連リスクとその対策

リスクマネジメントは、「ハード(制度・仕組み)」と「ソフト(社員の意識・組織風土)」の両面からアプローチする必要があります。

ハード面(制度・仕組み)

ハード面とは、企業の構造や仕組みに関するものを指します。リスクマネジメントでは、以下のような要素が該当します。

  • 運用主体となる組織の整備
  • 制度や仕組みの構築(労働時間管理、評価制度など)
  • 未然防止・問題発生時の対応ルール(マニュアル)作成
  • システム導入による労務管理の強化

企業のリスク対策として、まずはこうした制度や仕組みを整えることが重要です。

ソフト面(社員の意識・組織風土)

ソフト面とは、企業文化や社員の意識に関するものを指します。具体的なポイントとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 経営者のリスクマネジメント意識とリーダーシップ
  • 社員の対応スキル向上と危機意識を高める教育
  • 平時・非常時の社内コミュニケーションの整備

ハードとソフトの両方を整備することで、効率的かつ効果的なリスクマネジメントが実現できます。

リスクマネジメントの実践方法

人材マネジメントにおいては、労働法規違反や労働トラブルなどのリスクが事件・事故につながるケースがあります。しかし、その多くは「故意」や「悪意」ではなく、社員の理解不足、誤解、ヒューマンエラーによって発生するものです。

これらを防ぐために、人事部門は以下のような対応を行う必要があります。

  • 管理職・一般社員の教育と意識向上
    • 研修、勉強会、OJTプログラムの実施
  • リスクチェック体制の構築
    • 定期的な監査・評価
  • 業務負担の適正化
    • 過重労働や精神的負担を軽減する施策

また、過重労働やプレッシャーが社員の健康を損ねる原因となるため、労働環境の整備や労務管理の見直しが、リスクマネジメントの視点からも重要になります。

企業の持続的な発展のためには、リスクマネジメントを経営戦略の一環として捉え、人材マネジメントの最適化を進めることが不可欠です。

人事部門が果たすべきリスクマネジメントの役割

ハードとソフトの両面からのアプローチ

「働き方改革」の推進に伴い、人事部門が果たすべきリスクマネジメントの重要性はますます高まっています。特に、雇用形態の多様化や労働環境の変化に適応するためには、「ハード」と「ソフト」の両面からのアプローチが必要です。

  • ハード面(制度・仕組み)
    • 運用主体となる組織の整備
    • 労働時間管理や評価制度の適正化
    • 未然防止・問題発生時の対応ルール(マニュアル)の整備
    • システム導入による労務管理の強化
  • ソフト面(社員の意識・組織風土)
    • 経営者のリスクマネジメント意識とリーダーシップ
    • 社員のスキル向上と危機意識を高める教育
    • 平時・非常時の社内コミュニケーションの整備

これらをバランスよく取り入れることで、効率的かつ効果的な人材マネジメントを実現できます。

特に近年では、「在宅勤務」「テレワーク」などの新しい働き方が広がる一方で、「兼業・副業」「育児との両立」「ワークライフバランスの確保」といった課題にも対応する必要があります。企業は「人」を中心に据えた経営を進めることで、持続可能な成長を実現できるのです。

リスク管理としての就業規則の見直し

「人」に関わるリスクマネジメントの重要な取り組みの一つが、就業規則の定期的な見直しと改訂です。

多くの中小企業では、一般的なひな型を利用して就業規則を作成し、その後ほとんど改訂していないというケースが少なくありません。しかし、「働き方改革」の影響で、労働環境の変化に対応するための法改正が頻発しており、それに伴い助成金や補助金の制度も拡充されています。こうした変化に適応するためには、就業規則の定期的な見直しが不可欠です。

具体的なリスクヘッジのポイントとして、以下のような就業規則の見直しが挙げられます。

  • 「退職・解雇」「異動・配置転換」「休職・復職」に関する明確な要件と手続き
    → 記載が明確であれば、不必要な労働トラブルを防ぐことが可能
  • 災害・非常時の対応策の明文化
    • 社員の帰宅困難時の対応
    • 操業停止時の自宅待機に関する賃金支払いルール
    • 計画停電時の土日出勤に関する賃金規定
  • 「同一労働同一賃金」への対応
    → 雇用形態にかかわらず、公正な待遇を確保するための規定強化

「働き方改革」の推進により、長時間労働の抑制やサービス残業の禁止が求められる時代となりました。企業が持続的に発展し、収益を拡大するためには、「人材の適正なマネジメント」が欠かせません。そのためにも、就業規則の適切な見直しと改訂が必要です。

リスクマネジメントは、「攻めの経営」に対する「守りの経営」と言えます。企業がスピーディーかつ継続的に事業を進めるためには、人事部門がリスク管理の整備・運用を主導することが求められています。

また、ESG経営(環境・社会・ガバナンス)や責任投資の観点からも、「人」を中心とした経営をさらに進化させることが求められています。企業の持続可能な成長のためにも、まずは既存の就業規則を見直し、リスク管理の強化を図ることが重要です。

転ばぬ先の杖」「備えあれば憂いなし」。企業が「人」の集合体として適切に機能することで、すべての関係者にとってより良い環境を作ることができるでしょう。これが、現代の企業価値向上のための重要なキーポイントなのです。

まとめ

本記事では、「働き方改革」に伴う企業の危機管理人材マネジメントのリスク、そして人事部門の役割と就業規則の見直しについて解説しました。

企業が持続的に成長し、安定した経営を続けるためには、リスクマネジメントの強化が不可欠です。特に、人材マネジメントにおいては、法改正への対応や就業環境の整備を適切に行うことが、企業価値の向上につながります。しかし、こうした取り組みにはコストやノウハウが必要であり、多くの企業が対応に苦慮しているのが現状です。

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筆者 三坂大作
筆者 三坂大作
略歴
1961年 横浜市生まれ
1985年 東京大学法学部卒業
1985年 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行
1985年 同行 表参道支店:法人融資担当
1989年 同行 ニューヨーク支店:コーポレートファインス非日系 取引担当
1992年 三菱銀行退社
資格
貸金業務取扱主任者(第F231000801号)
経営革新等支援機関認定者
東京大学法学部を卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入社。
法人融資の専門家として、国内での金融業務に従事し、特にコーポレートファイナンス分野において豊富な経験を誇る。
同行に関して、表参道支店では法人融資を担当し、その後ニューヨーク支店にて非日系企業向けのコーポレートファイナンス業務に従事。
法人向け融資の分野における確かな卓越した知見を踏まえ、企業の成長戦略策定、戦略、資金調達支援において成果を上げてきました。
金融・経営戦略の専門家として、企業の持続的な成長を支える実務的なアドバイスを提供し続けています。
 
 
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