2025.03.18
仕事の適性と経営のリアル|好きなことを仕事にする難しさと向き合う
好きなことを仕事にするということ
コンサルタントとしての経験と学び
コンサルタントという仕事を通じて、これまで多くの企業の社長や経営陣と対話し、さまざまな経営課題に向き合ってきました。私のコンサルティング歴はすでに30年を超え、毎年平均して10社ほどの企業と新たに関わってきたため、名刺交換をした社長の数は300社以上にのぼるでしょう。
私の経歴は銀行出身であり、特定の業種や企業規模に限定せず、さまざまな会社の話を伺う機会に恵まれました。コンサルタントの立場で社長とお会いする以上、彼らには必ず解決したい経営課題があります。私の役割は、それに適切に対応し、企業の成長を支援することです。
時には、私の不得意な分野のコンサルティング依頼が舞い込むこともあります。また、弁護士、会計士、税理士、弁理士といった専門的な資格を要する分野については、積極的なコンサルティングは行わず、必ず有資格者の意見を交えるようにしてきました。
私の活動範囲は主に日本国内の企業ですが、経済のグローバル化に伴い、海外企業との契約締結や海外ビジネスの立ち上げ、海外投資家への情報開示など、国際的な案件も増えていきました。月の半分以上を海外出張に費やすことも珍しくありませんでした。
仕事の適性と好き嫌いのギャップ
これまでの経験を振り返ると、正直なところ「自分はこの仕事が好きなのか?」と疑問に思うことがあります。結論としては、決して「好き」ではなかったというのが本音です。
私は弁護士や会計士、中小企業診断士といった国家資格を持っていません。そのため、必要な知識は業務を通じて独学で学び、経験を重ねながら身につけてきました。こうした学びの過程が自分には合っていたかもしれませんが、だからといって「好きな仕事」とは言えませんでした。
コンサルタントという仕事は厳しく、膨大な情報収集、調査、分析、準備が求められます。それに対して、待遇や報酬が必ずしも見合うわけではないと感じることも多々あります。
世の中には、多くの有力なコンサルタントが存在します。彼らは大手コンサルティングファームのチームの一員として活躍し、高額なフィーを得ています。例えば、以下のような世界的に有名なコンサルティングファームがあります。
・ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)
・マッキンゼー・アンド・カンパニー
・ベイン・アンド・カンパニー
・デロイト・トーマツ
・アーンスト・アンド・ヤング(EY)
・KPMG
・プライスウォーターハウスクーパース(PwC)
これらの企業のコンサルティングサービスは非常に高額ですが、それに見合う専門知識とリソースを提供しています。
私のような独立系コンサルタントが同じような環境を構築するのは容易ではありません。特に、クライアントの経営計画作成や企業価値向上の戦略提案をする際には、いくつかの重要な留意点があります。
1.クライアントに適したコンサルティングメニューの作成
コンサルティングがカバーする領域は広大で、情報量も膨大です。しかも、経営理論や経済動向、各国の政策変更など、新たな情報が日々追加・修正されていきます。
2.事業活動の主体はあくまでクライアント
コンサルタントは企業のサポート役であり、経営判断の主体になってはいけません。クライアントが自らの意思で経営を決断できるよう、適切に伴走することが求められます。
3.コンサルティングサービスの価格設定の難しさ
着手金、成功報酬、タイムチャージなど、価格の決め方は多様ですが、どれも一長一短があります。優れたコンサルティングを提供するためには、情報収集や勉強に多くの時間を費やす必要があり、その価値をどのように評価するかは非常に難しい問題です。
大手コンサルティングファームのように、各分野の専門家を揃えたチーム体制があれば、個々のコンサルタントは自分の専門領域に特化できます。しかし、独立系ではそのような環境を作るのは難しく、一人で幅広い知識をカバーしなければならないのが実情です。
このように、コンサルティング業界は非常に厳しく、努力を続けても割に合わないと感じることもあります。それでも私はこの仕事を続けてきました。なぜなら、「好きだから」ではなく、「クライアントのニーズに応えたいから」でした。
私がコンサルティング会社を設立した背景には、「経営コンサルティングという高級な情報サービスをもっとリーズナブルな価格で提供したい」という思いがありました。銀行勤務時代、大手コンサルティングファームの高額なフィーを目の当たりにし、それをより多くの企業に提供できる形にできないかと考えたのがきっかけでした。
コンサルタントとしての道を歩んできたものの、この仕事が「好き」だったかというと、答えは「NO」です。しかし、クライアントの経営支援という役割には誇りを持ち、必要な努力を続けてきました。
本当に好きなことを仕事にすることが、必ずしも成功につながるわけではありません。時には、「求められること」に応じる形で仕事を選び、それを全うすることで、結果的にキャリアが築かれることもあるのです。
コンサルタントの役割と課題
企業の伴走者としてのコンサルティング
私は銀行時代に、大手のコンサルティングファームの仕事を目の当たりにしながら、その内容を学ぶ機会がありました。コンサルティングの質の高さに感心する一方で、その価格の高さには驚かされました。銀行の取引先である企業の社長たちが、もっと手頃な価格で経営コンサルティングを受けられる環境を作れないかと考えたことが、私が独立を決意したきっかけです。
「経営コンサルティングという高級な情報サービスを、よりリーズナブルな価格で提供する」という思いから、銀行を辞めて独立系のコンサルティング会社を設立しました。私がこの仕事を選んだのは、決して「好きだから」ではなく、クライアント企業のニーズに応えたいという思いがあったからです。
私が会社を設立した当時、Windowsの登場により、情報通信技術が飛躍的に進化し始めた時期でした。そのため、「コスト削減」や「業務の効率化」をテーマにした経営コンサルティングは、一定の需要があり、比較的安定したクライアントを確保することができました。
しかし、情報通信技術の発展スピードは想像以上に速く、それに伴い、新しい経営理論や法整備、行政施策が次々と生まれました。コンサルティング業務を継続するためには、常に最新の情報を学び続けることが必須となり、その負担は年々増していきました。
そんな中、2008年のリーマンショックが発生しました。当時のクライアントは17社でしたが、そのうち3社が倒産し、1社が上場廃止、さらに8社がコスト削減を理由にコンサルティング契約を打ち切ることになりました。これにより、私のコンサルティング会社の収益も大きく悪化し、事業の継続が厳しくなりました。この経験から、コンサルティング業務だけでなく、製造業や販売業といった実業にも目を向けるようになりました。
一方で、世の中には「コンサルタント」と名乗る人が数多く存在します。テレビやメディアでは、〇〇コンサルタント、〇〇評論家といった肩書きの専門家が活躍しています。彼らの知名度が上がることで、クライアントを獲得しやすくなるのも事実です。
しかし、こうしたコンサルタントの仕事が、本当にクライアントのニーズに適しているのかは不明です。一定の知識と情報収集力があれば、プレゼンテーション力やコミュニケーション力を活かして仕事をすることは可能ですが、それが必ずしもクライアントにとって有益かどうかは別問題です。
コンサルタントという職業には、国家資格もなく、法的な規制もほとんどありません。そのため、自由度の高い職業である一方で、サービスの質にばらつきが出るという問題も抱えています。このような背景もあり、私はこの職業を「好きになれなかった」のかもしれません。
コンサルティングの価値と適正価格
現在、こうしてコラムを書いていると、テーマを決める際にネットの情報や書籍を参考にすることが多々あります。30年以上にわたる経営コンサルティングの経験を振り返ると、さまざまなケースに関わってきたことがわかります。これらの体験を活かし、読者の皆さんの企業経営に役立つ情報を提供したいと考えています。
コラムの目的は、過去に学んだ知識を現代の経営課題に照らし合わせ、時間の経過による変化や、世の中の動き、法改正などを加味した情報を提供することです。
実際のクライアントへのコンサルティング業務と比較すると、コラムを書くことの方が、新しい情報や理論を学ぶ時間が長く感じられます。クライアントとの対話を通じて進めるコンサルティングとは異なり、コラムの読者とは直接のやり取りがないため、情報が一方通行になってしまいます。そのため、できるだけ客観的かつ網羅的な内容を心がけています。
コンサルティングサービスの価値を適切に評価し、その価格を決めることは非常に難しい課題です。着手金、成功報酬、タイムチャージなど、さまざまな料金体系がありますが、どれも一長一短があります。
優れたコンサルティングを提供するためには、膨大な情報を収集し、最新の経営理論を学び、クライアントにとって最適な提案をする必要があります。これは決して容易なことではなく、多くの時間と労力を要します。そのため、適正な価格設定が求められるのですが、それをどのように決めるかは、コンサルタントごとに異なる難しい問題です。
大手のコンサルティングファームであれば、各分野の専門家を揃えたチームを編成し、高品質なサービスを提供できます。しかし、独立系のコンサルタントは、限られたリソースの中で幅広い知識をカバーしなければならないため、一人ひとりの負担は大きくなります。
このような状況の中で、コンサルティングの価値を正しく評価し、それに見合う価格を設定することが、業界全体の課題であると考えています。
仕事への愛着が経営に与える影響
仕事が好きでない社長の特徴
コンサルタントとして多くの社長と接してきましたが、その中には自社の事業に愛着を持っていない方もいました。そのような社長は、コンサルタントへの対応を見ればすぐに分かります。
例えば、コンサルタントとの面談時間を極力取ろうとしないケースが挙げられます。どんなに必要な話であっても、他の役員に任せてしまい、自分で自社の事業について語ろうとしません。しかし、経営コンサルタントの仕事は、経営陣が適切な判断を下せるように伴走し、サポートすることが本質です。そのため、どんなコンサルティングの成果物も最終的には社長の承認を得なければ活用できません。
特に、重要なプレゼンテーションの場では、社長自身が出席し、意見を述べることが求められます。にもかかわらず、所用を理由に欠席し続けるような社長のもとでは、コンサルティングサービスが十分に機能しないまま、成果が出る前に終わってしまうことも少なくありません。
また、仕事に対する愛着が薄い社長は、社内で孤立していることが多い傾向にあります。社員とのコミュニケーションが不足し、会社全体が重苦しい雰囲気になってしまうこともあります。特定の側近社員とばかり話す社長もおり、そうした環境では組織全体の活力が不足し、成長の妨げとなります。
歴史的にも、戦国時代の大名が家臣と十分な信頼関係を築けなかった国は弱体化していきました。それと同じように、社長が社員としっかり向き合わない会社は、組織の結束力を欠き、競争力を失っていきます。さらに、事業への貢献度に見合った待遇が整備されていないことも多く、努力している社員が冷遇される一方で、社長の側近が重用されるという歪んだ組織構造が生まれることもあります。
経営の行き詰まりとM&Aという選択
このように、自社の仕事に対する愛着が薄い社長は、確実に存在します。その背景には、いくつかの理由が考えられます。
例えば、世襲によって何代目かの社長として就任したものの、そもそも自分の適性に合わない仕事だったというケース。また、縮小する市場の中で事業を維持・発展させようと奮闘してきたものの、なかなか成果が出ず、疲弊してしまった社長もいます。さらに、自社の事業領域における競争が激化し、自らの経営手腕に自信を失ってしまった社長も少なくありません。
しかしながら、どのような理由であれ、社長が事業に対して情熱を持てなくなったとしても、会社には従業員がおり、その家族もいます。社長の好き嫌いだけで会社が立ち行かなくなるわけにはいきません。そのため、「仕事が好きになれないのであれば、その会社の社長を続けるべきではない」というのが、私の経験から得た結論です。
実際、私がコンサルタントとして関わった社長の中には、M&Aの提案を受け入れ、事業を譲渡することで新たな道を歩み始めた方もいます。M&Aによって新しい経営者が会社を引き継ぎ、企業は再生し、社長自身も重荷から解放されました。
その社長は現在、第一線から退き、M&Aによる自社株売却資金の運用益で悠々自適な生活を送っています。ある日、「今は何のお仕事をされているんですか?」と尋ねると、「息子の会社の監査役だよ」という答えが返ってきました。
長年の経営経験を活かし、監査法人とのやり取りをサポートしているそうです。週に1日だけ会社に出向き、あとは趣味の料理を楽しみながら穏やかな日々を過ごしているとのことでした。
私自身は、現在も経営コンサルタントとしての経験を活かし、コラム執筆や若手コンサルタントのオンライン相談を行っています。コラムを書くことは、事前の調査や構成の整理など、かなりの時間とエネルギーを必要としますが、それを読んでいただけることは大きなやりがいにつながっています。
経営の道に正解はありません。しかし、もし今の事業に対して熱意が持てないと感じているならば、新たな選択肢としてM&Aを検討することも一つの解決策になるかもしれません。今後も、コンサルタントとしての知見を活かし、皆さまの経営の一助となる情報を発信していきたいと思います。
まとめ
本記事では、仕事への愛着が経営に与える影響や、コンサルタントとしての視点から見た経営の課題について述べました。社長自身が自社の事業に対して情熱を持てない場合、経営の停滞や組織の活力低下につながることがあります。そのような状況に陥った際には、経営戦略の見直しや、時にはM&Aといった選択肢を検討することが必要です。
しかし、経営判断は多くの情報を要し、適切な意思決定を行うには専門的な知見が求められます。
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