2025.04.17
創立費とは?開業費との違いや節税効果をわかりやすく解説
会社設立や新規事業開始時には、様々な初期費用が発生します。この中で特に重要なのが、「創立費」と「開業費」です。これらの費用は税務上の取り扱いが特殊ですが、上手に活用すれば節税効果を受けることも可能です。
本記事では、創立費と開業費の定義や違い、具体的な例、そして税務上の取り扱いによる節税効果までを分かりやすく解説します。
会社設立を控えている方や、開業したばかりという方は、ぜひ参考にしてください。
創立費と開業費の違い
事業を始める際に発生する費用のうち、創立費と開業費の2つは非常に混同されやすくなっています。これらは発生する時期や対象者が異なり、特に会計処理の際には正確に区別する必要があります。
創立費とは
創立費とは、法人の設立に直接関連して支出する費用を指します。具体的には、会社の設立登記が完了する前に発生した費用が該当します。創立費は法人のみに適用されるため、個人事業主には関係のない費用です。
税務上は繰延資産として扱われ、原則として5年間で均等償却しますが、中小企業などの場合には、任意で一括償却することも可能です。事業の利益状況などを考慮して、償却期間を決定するとよいでしょう。
開業費とは
開業費とは、会社設立登記が完了した後、実際に営業を開始するまでの期間に、事業を始めるために特別に支出した費用を指します。会社の設立登記完了以降、実際の営業活動が始まる前に発生した費用が対象となります。
具体的には、店舗の開店準備費用や広告宣伝費、市場調査や販促活動にかかった費用などが開業費として計上できます。開業費は法人だけでなく個人事業主にも適用される点が特徴です。
創立費と同じく税務上は繰延資産に該当し、通常は5年間で均等償却しますが、中小企業では任意償却も認められています。
時期による区分
創立費と開業費の違いとして最も重要なのが、「発生する時期の違い」です。以下の表で、発生時期による区分を明確にしましょう。
費用区分 | 発生時期 |
---|---|
創立費 | 会社設立の準備開始~設立登記完了まで |
開業費 | 設立登記完了後~営業開始前まで |
この時期による区分を正確に把握することで、発生した費用を適切に計上することができます。なお、営業開始後に発生した費用は、通常の経費として処理されます。
創立費に該当する項目
創立費には様々な費用が含まれますが、どのような支出が該当するのか、具体的に把握しておくことが重要です。
定款関連の費用
会社設立に必須となる定款作成に関わる費用は、創立費の代表的な項目です。主に、以下のような費用が含まれます。
- 定款作成費用
- 定款認証手数料(公証人役場に支払う費用)
- 定款印紙税(電子定款の場合は不要)
- 定款の謄本・抄本取得費用
特に、電子定款ではなく紙の定款を作成する場合、印紙税として4万円がかかりますが、この費用も創立費として計上可能です。
登記関連の費用
会社設立時の登記に関わる費用も、創立費に該当します。具体的には、以下のような費用です。
- 登録免許税(資本金の0.7%、最低15万円)
- 登記簿謄本取得費用
- 司法書士への依頼費用(司法書士に登記手続きを依頼した場合)
資本金が大きくなるほど登録免許税も高額になりますが、これらはすべて創立費として処理できる費用です。
設立前の事務所関連の費用
会社設立前に発生する事務所関連の費用も、創立費として計上できます。
- 設立前の事務所賃料(短期間のもの)
- 設立前の水道光熱費
- 事務所立ち上げに関わる一時的な費用
ただし、長期契約の賃料や敷金・保証金など、返還される性質のものは創立費には含まれないので注意が必要です。
その他の費用
上記以外にも、会社設立に直接関連する様々な費用が創立費として認められています。
- 会社印鑑・社印の作成費用
- 設立前の会議費(設立に関する打ち合わせなど)
- 設立前の交通費(設立に関する用務のもの)
- 設立準備のための一時的な人件費
- 設立前の法律・税務相談の費用
これらの費用は、会社設立に直接関わるものであれば、創立費として処理することが可能です。ただし、領収書などの証憑を保管し、支出の目的を明確にしておくことが重要です。
開業費に該当する項目
開業費は、設立登記完了後から営業開始前までに発生する費用です。
広告宣伝関連の費用
事業開始前の広告宣伝活動に関わる費用は、開業費の代表的な項目です。
- ホームページ制作費
- 会社パンフレット・チラシの作成費
- 看板・店舗サイン等の製作費
- オープン前の広告費
- 名刺作成費
これらの費用は、営業開始前に事業の認知を広めるために支出されるもので、開業費として適切に計上することができます。
調査研究の費用
営業開始前の市場調査や、研究開発に関わる費用も開業費に含まれます。
- 市場調査費
- 競合調査費
- 試作品開発費
- 研究開発関連費用
- 業界セミナー・展示会参加費
これらの調査研究活動は、事業の方向性を決める重要な要素であり、その費用は開業費として計上するのが適切です。
事務用品・備品の費用
営業開始前に購入する事務用品や備品も、一定の条件を満たせば開業費として計上できます。
- 事務用消耗品(文具、用紙など)
- 10万円未満の備品(小型家電、小型什器など)
- 開業準備用ソフトウェア(10万円未満のもの)
ただし、10万円以上の備品は固定資産として別途計上する必要があります。また、継続的に発生する消耗品費は、営業開始後は通常の経費となります。
開業費に該当しない費用
開業費として計上できない費用もあります。誤った処理を避けるため、以下のような費用は、開業費に含めないよう注意しましょう。
- 10万円以上の設備・備品(固定資産として計上)
- 敷金・保証金(資産として計上)
- 営業開始後の継続的な支出(通常の経費として処理)
- 返還される性質の費用(預け金として処理)
- フランチャイズ加盟金(長期前払費用として処理)
これらの費用は開業費ではなく、それぞれ適切な科目で処理する必要があります。費用の性質を見極めて正確に区分することが大切です。
創立費と開業費の税務上の取り扱い
創立費と開業費は、税務上では「繰延資産」として特殊な取り扱いを受けます。
繰延資産としての性質
創立費と開業費は、「繰延資産」として扱われます。繰延資産とは、支出の効果が1年以上に及ぶものの、有形の資産を取得するわけではない支出のことです。
通常、事業に関する支出は発生した事業年度の経費として全額計上しますが、創立費や開業費は効果が将来にわたって発現すると考えられるため、繰延資産として複数年にわたって償却することができます。
法人税法上、創立費と開業費は原則として5年間で均等償却することとされていますが、中小企業者等については任意償却が認められています。
償却方法の選択肢
創立費と開業費の償却方法には、以下のような選択肢があります。
- 5年間の均等償却(原則的な方法)
- 任意償却(中小企業者等の場合)
- 初年度に全額償却
- 数年間で分割償却
- 利益状況に応じた償却
特に中小企業者等の場合、会社の利益状況に応じて償却額を調整できるという大きなメリットがあります。利益が多い年に多く償却することで税の負担を軽減できることや、逆に赤字の年は償却を行わないというように戦略的に計上を行うことが可能です。
会計処理における仕訳例
創立費と開業費の会計処理について、具体的な仕訳例をみてみましょう。
日付 | 内容 | 借方 | 貸方 |
---|---|---|---|
X1年3月1日 | 定款認証費用支払い | 創立費 50,000円 | 現金 50,000円 |
X1年3月15日 | 登録免許税支払い | 創立費 150,000円 | 現金 150,000円 |
X1年4月10日 | ホームページ制作費 | 開業費 300,000円 | 現金 300,000円 |
X1年12月31日 | 創立費償却(全額償却の場合) | 創立費償却 200,000円 | 創立費 200,000円 |
X1年12月31日 | 開業費償却(全額償却の場合) | 開業費償却 300,000円 | 開業費 300,000円 |
なお、創立費償却と開業費償却は、損益計算書上は営業外費用として計上されます。1年で全額償却する場合と5年で分割償却する場合とでは、初年度の利益に大きな影響を与えることになります。
創立費や開業費による節税効果
創立費や開業費は、上手く取り扱うことで節税効果を狙うことも可能です。
任意償却による節税
中小企業者等では、創立費や開業費の償却において、任意償却が認められています。この特例を活用すると、以下のような節税が可能になります。
- 利益が多い年度に多く償却して税負担を軽減
- 赤字の年度は償却を行わず、繰越欠損金を有効活用
- 利益の平準化による税率の最適化
例えば、初年度に利益が多く見込まれる場合は創立費や開業費を一括償却して税負担を軽減し、初年度が赤字の場合は償却を行わず、黒字転換した翌年度以降に償却するといった方法をとることができます。
これにより、会社の実情に合わせて償却計画を立てることができます。
節税の具体例
創立費・開業費による節税効果を、具体的な数字でみてみましょう。例として、以下のようなケースを考えます。
- 創立費:200万円
- 開業費:300万円
- 合計:500万円
- 法人税率:15%(中小法人の軽減税率)
この場合、一括償却を行うと500万円の経費計上となり、法人税約75万円(500万円×15%)の節税効果が得られます。
一方、5年間の均等償却を選択した場合、初年度の償却額は100万円(500万円÷5年)となり、初年度の節税効果は約15万円(100万円×15%)にとどまります。
このように、償却方法の選択によって大きな税負担の差が生じることがあります。会社の利益状況を考慮して、最適な方法を選択することが重要です。
個人事業主と法人における創立費・開業費の取り扱い
創立費と開業費の取り扱いは、法人と個人事業主で異なる点がいくつかあります。
個人事業主の開業費
個人事業主の場合、創立費という項目はなく、開業前の準備費用はすべて開業費として扱われます。開業費として、具体的には以下のような費用が該当します。
- 開業届提出前の事業準備費用
- 営業許可取得費用
- 開業前の広告宣伝費
- 開業前の研修費・調査費
個人事業主の場合も、開業費は原則として5年間で均等償却しますが、青色申告者であれば任意償却が認められています。これにより、法人と同様に、所得状況に応じた償却計画を立てることができます。
法人成りした場合の取り扱い
個人事業主から法人成りした場合、それまでの個人事業で計上していた開業費はどうなるのでしょうか。
基本的には、個人事業時代に計上していた開業費の未償却残高は、法人設立後も引き続き償却を継続することになります。ただし、法人成り自体にかかる費用(定款作成費用など)は、新たに設立した法人の創立費として処理します。
法人成りの際には、資産・負債の引継ぎを適切に行うことが重要で、開業費の未償却残高についても正確に引き継ぐ必要があります。不明な点は、税理士に相談することをおすすめします。
適用税率の違いによる影響
個人事業主と法人では、適用される税率が異なるため、創立費・開業費の償却による節税効果も異なります。
- 個人事業主:所得税(累進税率、最高45%)+住民税(約10%)
- 法人:法人税(中小法人の軽減税率15%など)+住民税・事業税
一般的に高所得の場合、個人事業主の方が、税率が高くなる傾向にあるため、開業費の償却による節税効果も大きくなる可能性があります。一方、法人の場合は、税率が低くなりやすいですが、役員給与の調整などと組み合わせることで、ある程度の節税を見込むことができます。
事業形態に応じた最適な税務戦略を考える際には、創立費・開業費の取り扱いも重要な要素として検討しましょう。
創立費と開業費の会計処理のポイント
創立費と開業費の会計処理を行うにあたって、いくつかの注意点があります。
証憑書類の保管
創立費と開業費を計上する際は、証憑書類を必ず保管するようにしましょう。
領収書・請求書・契約書などの原本を必ず保管し、支出の目的や内容を明確にしたメモを添付するとともに、支出した時期もはっきり記録しておきましょう。
特に、創立費と開業費は税務調査でチェックされやすい項目であるため、証憑書類を7年間以上保管することをおすすめします。また、支出の目的や事業との関連性を明確に説明できるよう、必要に応じて専用のメモを残しておくことも有効です。
明確な区分を徹底する
創立費と開業費を区分する際の重要なポイントは、「時期」です。正確な区分のために、以下の点に注意しましょう。
- 設立登記日を境界として創立費と開業費を明確に区分
- 営業開始日を明確に設定し、開業費の期間を確定
- 支出日と支出目的の記録を徹底
設立登記前の費用は創立費、設立登記後から営業開始前までの費用は開業費、営業開始後の費用は通常の経費としてそれぞれ適切に区分することが重要です。日付の記録があいまいだと、税務調査で否認されやすくなります。
過大計上を避ける
創立費や開業費として計上できる金額には制限はありませんが、過大な計上をすると税務調査で指摘されやすくなります。
創業計画書や事業計画書に記載する創業時の費用に関しては、領収書・請求書・契約書などの原本を保管し、支出の目的や内容を明確に示したメモを添付するとよいでしょう。また、支出した時期についても明確にしておく必要があります。特に、領収書などの証憑書類については7年間以上保管することが推奨されます。これらを準備しておくことで、支出の目的や事業との関連性を説明しやすくなります。
過大な創立費・開業費の計上は、粉飾決算とみなされるリスクもあります。事業実態に見合った適切な計上を心がけ、不明な点は税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
まとめ
本記事では、創立費と開業費の違い、具体的な例、そして取り扱い方の工夫により節税効果が得られることを解説してきました。創立費は法人設立登記前の費用、開業費は設立登記後から営業開始前までの費用であり、それぞれ適切に区分して処理することが重要です。
中小企業では任意償却が認められているため、会社の利益状況に応じて戦略的に償却額を調整することで、効果的な節税が可能です。ただし、過大な計上や不適切な区分は、税務調査での指摘につながるため、証憑書類の保管や適切な経理処理は徹底するようにしましょう。
創立費と開業費の区分を、正しく理解して会計処理を行うことで、節税効果を受けることができます。会計処理の際に不明な点があれば、顧問税理士や会計の専門家に相談しながら進めることが推奨されます。
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