2025.04.17
圧縮記帳とは?仕訳、用件、限度額について徹底解説
会社経営や個人事業を行っている中で、国庫補助金や保険金を受け取った経験はありませんか?これらの収益を使って固定資産を購入した場合、一度に多額の利益計上をすることになり、税金負担が大きくなります。そんなときに役立つのが、「圧縮記帳」制度です。
圧縮記帳を活用すると、一時的な収益による税負担を将来に分散させることができ、資金繰りの改善につながります。しかし、適用条件や処理方法には細かいルールがあり、正しく理解しないと税務上の問題が生じる可能性があります。
この記事では、圧縮記帳の基本的な仕組みから具体的な仕訳例、メリット・デメリットまで徹底解説します。補助金や保険金を活用した設備投資を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
圧縮記帳とは?基本的な仕組みを解説
圧縮記帳とは、国庫補助金や保険金などの特定の収益を使って固定資産を取得した場合に、その収益に対する課税を翌期以降に繰り延べることができる税務上の制度です。一般的に、収益は発生した事業年度の益金として課税対象になりますが、この制度を使うことで税負担を分散させることができます。
具体的には、取得した固定資産の帳簿価額を補助金等の金額分だけ圧縮(減額)することで、その圧縮した金額分を損金に算入できます。これにより、補助金等による収益と相殺され、課税所得が圧縮されるのです。
圧縮記帳は税金の免除ではなく繰り延べであることが重要なポイントです。資産の減価償却費が減少するため、将来的には税負担が増える仕組みになっています。
圧縮記帳が適用できる収益の種類
圧縮記帳が適用できる収益には、さまざまな種類があります。主なものには、以下のようなものがあります。
- 国庫補助金等(国や地方公共団体からの補助金)
- 工事負担金(電気・ガス・水道等の敷設負担金)
- 保険金(火災保険金や地震保険金など)
- 収用等の対価(国や地方公共団体による収用)
- 固定資産の交換により生じた譲渡差益
- 特定の資産の買換えにより生じた譲渡差益
これらの収益を使って固定資産を取得した場合、一定の条件を満たせば圧縮記帳を適用することができます。対象となる固定資産は、建物や機械装置、車両運搬具などの減価償却資産だけでなく、土地などの非減価償却資産も含まれます。
圧縮記帳の適用タイミング
圧縮記帳は、補助金等を受け取った事業年度または固定資産を取得した事業年度に適用します。通常は、固定資産を取得した事業年度の決算時に圧縮記帳の処理を行い、確定申告書に必要事項を記載して申告します。
ただし、国庫補助金等を受け取った事業年度と、固定資産を取得した事業年度が異なる場合は、一定の条件のもとで圧縮記帳の適用を延期することも可能です。例えば、補助金を受け取った事業年度の翌年度までに、固定資産を取得する見込みがある場合などが該当します。
適用のタイミングには選択肢があるため、自社の経営状況や税務戦略に合わせて最適な判断ができるよう、事前に税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
圧縮記帳の適用要件
圧縮記帳を適用するためには、いくつかの要件を満たす必要があります。適用要件を正しく理解しておかないと、思わぬ税務リスクを抱えることになりかねません。
基本的な適用要件
圧縮記帳の基本的な適用要件は、以下の通りです。
- 特定の収益(国庫補助金、保険金等)を受け取ること
- その収益で固定資産を取得すること
- 直接減額方式または積立金方式のいずれかの方法で会計処理を行うこと
- 確定申告書に圧縮記帳に関する明細書を添付すること
- 清算中の法人でないこと
これらの要件をすべて満たす必要があります。特に、確定申告書への明細書添付は必須の手続きであり、これを怠ると圧縮記帳の適用が認められない可能性があります。
明細書の添付は必須条件なので、確定申告の際には漏れがないように注意しましょう。税務署から指摘を受けた後では、修正が難しい場合があります。
収益と固定資産の対応関係
圧縮記帳を適用するためには、特定の収益と取得する固定資産との間に、明確な紐付けの対応関係がなければなりません。つまり、その収益を使って固定資産を取得したことが明らかである必要があります。
例えば、省エネ設備導入のための補助金を受け取った場合、その補助金は省エネ設備の購入に使用する必要があります。補助金の交付目的と異なる資産の取得に充てた場合、圧縮記帳の適用が認められないことがあります。
また、収益を受け取った事業年度と、固定資産を取得した事業年度が異なる場合は、一定の要件を満たさなければ圧縮記帳は適用できません。通常は、収益を受け取った事業年度、またはその翌事業年度までに固定資産を取得する必要があります。
法人と個人事業主の違い
圧縮記帳の適用要件は、法人と個人事業主で若干異なる点があります。法人の場合は法人税法、個人事業主の場合は所得税法に基づいて圧縮記帳を行います。
法人の場合、圧縮記帳は任意適用となっています。つまり、要件を満たしていれば適用するかどうかを選択できます。一方、個人事業主の場合は、一部の圧縮記帳(収用等による圧縮記帳)については強制適用となっており、要件を満たせば必ず適用しなければなりません。
また、個人事業主の場合、圧縮記帳の対象となる固定資産の取得時期についても、法人よりも厳格な制限があることがあります。例えば、国庫補助金等による圧縮記帳の場合、法人は原則として補助金等を受け取った事業年度に固定資産を取得する必要がありますが、確定申告期限までに取得予定があれば翌事業年度の取得でも認められることがあります。
圧縮記帳の対象と限度額
圧縮記帳を行う際には、どの程度まで圧縮できるのかという限度額が設定されています。この限度額は、収益の種類によって異なりますので、正確に把握しておく必要があります。
国庫補助金等の場合の限度額
国庫補助金等を受け取って固定資産を取得した場合、圧縮限度額は原則として受け取った補助金の額までとなります。つまり、1,000万円の補助金を受け取った場合、最大で1,000万円まで圧縮記帳を行うことが可能です。
ただし、補助金等の額が取得した固定資産の取得価額を超える場合は、取得価額が限度額となります。例えば、500万円の機械を購入するために600万円の補助金を受け取った場合、圧縮限度額は500万円となります。
国庫補助金は圧縮記帳の代表的な対象であり、多くの中小企業や個人事業主が活用しています。設備投資や事業拡大の際には、積極的に補助金制度の情報を集め、圧縮記帳と組み合わせた税務戦略を検討するとよいでしょう。
保険金の場合の限度額
火災や災害等により固定資産が滅失・損壊し、保険金を受け取って代替資産を取得した場合、保険差益(保険金の額-被災資産の帳簿価額)の一定割合が圧縮限度額となります。
具体的には、次の算式で計算された金額が限度額です。
圧縮限度額= 保険差益×代替資産の取得価額÷受け取った保険金の額
例えば、帳簿価額200万円の建物が焼失し、1,000万円の保険金を受け取って1,200万円の新しい建物を取得した場合、保険差益は800万円(1,000万円-200万円)となります。圧縮限度額は、800万円×1,200万円÷1,000万円=960万円となります。
なお、代替資産の取得は原則として、保険金を受け取った日から3年以内に行う必要があります。また、代替資産は、滅失・損壊した資産と同種の資産である必要があります。
交換差益の場合の限度額
固定資産を交換した際に生じる交換差益に対しても、圧縮記帳を適用できます。交換差益とは、取得資産の時価と譲渡資産の帳簿価額との差額のことです。
この場合の圧縮限度額は、次の算式で計算します。
圧縮限度額=取得資産の取得価額-(譲渡資産の帳簿価額+譲渡経費)
例えば、帳簿価額500万円の土地を1,000万円相当の別の土地と交換し、交換に際して諸経費が50万円かかった場合、圧縮限度額は1,000万円-(500万円+50万円)=450万円となります。
交換差益の圧縮記帳が認められるのは、交換する資産同士が同種または密接な関連性があるケースに限られます。例えば、事業用の土地と建物、機械と機械などが該当します。
その他の収益に対する限度額
上記以外にも、工事負担金や収用等の対価、特定資産の買換えなど、さまざまな収益に対して圧縮記帳が認められています。それぞれの収益の種類によって、計算方法や限度額は異なります。
例えば、工事負担金(電気・ガス・水道等の敷設負担金)の場合は、負担金の80%相当額が圧縮限度額となります。また、収用等の場合は、収用対価の額から譲渡した資産の帳簿価額と譲渡経費を差し引いた金額が限度額です。
特定資産の買換えの場合は、譲渡益の一定割合(通常は80%)が圧縮限度額となりますが、買換資産の種類や地域によって、適用される割合が異なることがあります。
圧縮記帳のメリット
圧縮記帳を活用することで、企業や個人事業主には税負担の軽減や資金繰りの改善など、いくつかの重要なメリットがあります。これらを理解することで、円滑な運用を行うことができます。
税負担の軽減と繰り延べ
圧縮記帳の最大のメリットは、初年度の税負担を軽減し、将来に分散できる点です。補助金や保険金などの特定収益を受け取った年度に、一度に課税されるのを避け、資産の耐用年数にわたって段階的に課税されるようになります。
例えば、1,000万円の補助金を受け取って1,500万円の設備を購入した場合、圧縮記帳を行わなければ1,000万円が一度に課税対象となります。法人税率が23.2%とすると、約232万円の税金が発生します。
一方、圧縮記帳を適用して、設備の帳簿価額を1,500万円から500万円に減額すれば、初年度の課税は回避できます。その代わり、減価償却費が減少するため、耐用年数にわたって少しずつ課税されることになります。
初年度の税負担軽減効果は資金繰りを大きく改善するため、特に設備投資直後の資金需要が高い時期には非常に有効です。事業拡大期や創業期の企業にとって、この効果は経営の安定に寄与します。
資金繰りの改善
税負担の繰り延べによって、初年度の納税資金を他の用途に活用できるようになります。特に、設備投資直後は運転資金や追加投資のために資金が必要なケースが多いため、この効果は非常に大きいといえます。
例えば、前述の例で232万円の税金が繰り延べられた場合、その資金を運転資金や新たな投資、借入金の返済などに充てることができます。これにより、資金ショートのリスクを減らし、事業の安定性を高めることができます。
また、税負担が将来に分散されることで、毎年の納税計画も立てやすくなります。大きな税負担が突発的に発生するよりも、小口の税負担が長期間にわたって発生する方が、資金計画を立てやすいというメリットもあります。
投資計画への好影響
圧縮記帳の適用を前提とした設備投資計画を立てることで、より積極的な投資が可能になることもメリットの一つです。初年度の税負担を抑えられることが分かっていれば、投資の意思決定がしやすくなります。
特に、補助金等を活用した設備投資の場合、圧縮記帳を組み合わせることで実質的な自己負担額を大幅に減らすことができます。これにより、より高性能な設備の導入や、より広範囲な設備投資が可能になります。
また、設備投資による生産性向上やコスト削減効果と、圧縮記帳による税負担軽減効果を組み合わせることで、投資の回収期間を短縮することも可能です。これは、長期的な企業価値向上につながる戦略的なメリットといえるでしょう。
圧縮記帳のデメリット
圧縮記帳にはメリットがある一方で、いくつかのデメリットやリスクも存在します。特に、課税所得の増加や資産売却時への影響、会計処理・管理の複雑化などは経営に大きな影響を及ぼすため、適切な活用が大切です。
将来の課税所得増加
圧縮記帳は税金の免除ではなく繰り延べであるため、将来的には課税所得が増加することになります。具体的には、圧縮した分だけ減価償却費が減少するため、将来の各年度における所得金額が増え、結果として税負担が増加します。
例えば、耐用年数10年の設備に対して1,000万円の圧縮記帳を行った場合、年間の減価償却費は約100万円減少します。法人税率が23.2%であれば、毎年約23.2万円の税負担が増えることになります。
将来の税負担増加を見据えた財務計画が必要です。特に、業績が不安定な企業や、将来的な業績悪化が予想される場合は、この点を慎重に検討する必要があります。
資産売却時の影響
圧縮記帳を適用した固定資産を売却する場合、圧縮した分だけ帳簿価額が低くなっているため、売却益が大きくなり、課税額が増える可能性があります。
例えば、本来1,500万円の設備を、圧縮記帳によって帳簿価額500万円として計上している場合、これを1,200万円で売却すると、圧縮記帳をしていなければ売却損が発生するケースでも、700万円の売却益が計上されることになります。
特に土地などの非減価償却資産の場合、圧縮した金額がそのまま将来の売却時の課税対象となるため、影響が大きくなります。長期保有を前提としない資産に対しては、圧縮記帳の適用を慎重に検討する必要があります。
会計処理と管理の複雑化
圧縮記帳を適用すると、会計処理が複雑になり、資産管理の手間が増えるというデメリットもあります。特に、複数の資産に対して圧縮記帳を適用している場合や、積立金方式を採用している場合は、管理がさらに煩雑になります。
また、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額が異なる場合は、両者の差異を管理する必要があり、決算業務や申告業務の負担が増加します。特に、積立金方式を採用した場合は、毎期の取崩しの管理も必要になります。
さらに、圧縮記帳を適用した資産を売却する際には、圧縮記帳による影響を考慮した税務計算が必要になります。こうした管理コストも考慮した上で、圧縮記帳の適用を判断する必要があります。
圧縮記帳の仕訳方法
圧縮記帳を実践するには、正確な会計処理を行う必要があります。主に「直接減額方式」と「積立金方式」の2つの方法があり、一般的には直接減額方式のほうが、会計処理がシンプルであるため、多くの場面で用いられています。
直接減額方式の仕訳例
直接減額方式は、固定資産の取得価額を直接減額する方法です。以下に、国庫補助金3,000,000円を受け取り、5,000,000円の機械装置を購入した場合の仕訳例を示します。
①補助金受領時
借方 | 貸方 |
---|---|
普通預金 3,000,000円 | 国庫補助金収入 3,000,000円 |
②機械装置購入時
借方 | 貸方 |
---|---|
機械装置 5,000,000円 | 普通預金 5,000,000円 |
③圧縮記帳時(決算時)
借方 | 貸方 |
---|---|
固定資産圧縮損 3,000,000円 | 機械装置 3,000,000円 |
この結果、機械装置の帳簿価額は5,000,000円から2,000,000円に減少します。また、固定資産圧縮損3,000,000円が計上されますが、これは国庫補助金収入3,000,000円と相殺されるため、課税所得への影響はありません。
直接減額方式は会計処理がシンプルなため、多くの中小企業や個人事業主に選ばれています。ただし、貸借対照表上の資産価額が実際の取得価額よりも小さく表示されるため、企業の資産規模が実態よりも小さくみえる点に注意が必要です。
減価償却費の計算と仕訳
圧縮記帳後の減価償却費は、圧縮後の帳簿価額に基づいて計算します。前述の例で、機械装置の耐用年数が5年(定額法)の場合、年間の減価償却費は次のように計算されます。
年間減価償却費=2,000,000円÷5年=400,000円
圧縮記帳を行わなかった場合は、年間減価償却費は5,000,000円÷5年=1,000,000円となりますので、圧縮記帳により年間600,000円の減価償却費が減少することになります。
④減価償却費計上時(毎期末)
借方 | 貸方 |
---|---|
減価償却費 400,000円 | 機械装置 400,000円 |
圧縮記帳を行わなかった場合と比較すると、年間600,000円の減価償却費が減少するため、その分だけ課税所得が増加します。法人税率が23.2%の場合、年間約139,200円(600,000円×23.2%)の税負担が増加することになります。
積立金方式の仕訳例
積立金方式は、固定資産の取得価額はそのままに、圧縮額に相当する金額を積立金として計上する方法です。以下に、前述と同じ条件での仕訳例を示します。
①補助金受領時
借方 | 貸方 |
---|---|
普通預金 3,000,000円 | 国庫補助金収入 3,000,000円 |
②機械装置購入時
借方 | 貸方 |
---|---|
機械装置 5,000,000円 | 普通預金 5,000,000円 |
③圧縮記帳時(決算時)
借方 | 貸方 |
---|---|
固定資産圧縮積立金繰入 3,000,000円 | 固定資産圧縮積立金 3,000,000円 |
④減価償却費計上時(毎期末)
借方 | 貸方 |
---|---|
減価償却費 1,000,000円 | 機械装置 1,000,000円 |
⑤積立金取崩時(毎期末)
借方 | 貸方 |
---|---|
固定資産圧縮積立金 600,000円 | 固定資産圧縮積立金取崩 600,000円 |
積立金方式の場合、取崩額は年間減価償却費に圧縮割合を乗じた金額となります。この例では、圧縮割合は3,000,000円÷5,000,000円=60%であり、年間減価償却費1,000,000円の60%である600,000円が取崩額となります。
圧縮記帳の具体的な事例
圧縮記帳を実際のビジネスシーンでどのように活用するか、具体的な事例を通して解説します。以下の事例は、典型的なシナリオを想定したものです。
補助金を活用した設備投資の事例
A社は製造業を営んでおり、生産性向上のための設備投資計画を立てていました。新たな機械を導入するため、国の「ものづくり補助金」を申請し、1,000万円の補助金を受け取ることができました。A社はこの補助金を使って、総額3,000万円の最新鋭の生産設備を導入することにしました。
この場合、圧縮記帳を適用しない場合と適用した場合の税負担の違いは、以下のようになります。
圧縮記帳を適用しない場合
- 補助金収入1,000万円が初年度の課税所得に加算
- 法人税率23.2%として、約232万円の税負担増
- 設備の帳簿価額は3,000万円のまま
圧縮記帳を適用した場合
- 設備の帳簿価額を3,000万円から2,000万円に圧縮
- 初年度の補助金課税を回避
- 設備の耐用年数(10年と仮定)にわたり、年間100万円の減価償却費減少
- 毎年約23.2万円の税負担増(10年間で合計約232万円)
補助金を設備投資に活用する際は圧縮記帳を検討することで、初年度の大きな税負担を避け、設備投資後の資金繰りを安定させることができます。A社の場合、初年度に232万円の納税資金を確保する必要がなくなり、その分を運転資金や追加投資に回すことができました。
保険金による設備再取得の事例
B社は小売業を営んでおり、店舗が火災により全焼しました。幸い火災保険に加入していたため、5,000万円の保険金を受け取ることができました。焼失した店舗の帳簿価額は2,000万円でした。B社は保険金を使って、6,000万円で新たな店舗を建設することにしました。
この場合の圧縮記帳の処理は、以下のようになります。
保険差益=5,000万円(保険金)-2,000万円(帳簿価額)=3,000万円
圧縮限度額=3,000万円×6,000万円÷5,000万円=3,600万円
ただし、圧縮限度額は保険差益の金額(3,000万円)を超えることはできないため、実際の圧縮限度額は3,000万円となります。
B社が圧縮記帳を適用した場合、新店舗の帳簿価額は6,000万円から3,000万円を差し引いた3,000万円となります。これにより、保険差益3,000万円に対する課税(約696万円)を回避することができました。
店舗の耐用年数が22年(定額法)とすると、年間の減価償却費は約136万円(3,000万円÷22年)となります。圧縮記帳を適用しなかった場合は約273万円(6,000万円÷22年)となるため、年間約137万円の減価償却費が減少し、約31.8万円の税負担が増加します。
固定資産交換の事例
C社は事業拡大のため、現在の工場用地(帳簿価額2,000万円、時価5,000万円)を手放し、より広い工場用地(時価7,000万円)に移転することにしました。C社は土地の交換による取引を行い、差額の2,000万円を現金で支払いました。
この場合、交換差益は次のように計算されます。
交換差益=取得資産の時価-(譲渡資産の帳簿価額+現金支出額)
=7,000万円-(2,000万円+2,000万円)=3,000万円
C社が圧縮記帳を適用した場合、新しい工場用地の帳簿価額は、7,000万円から3,000万円を差し引いた4,000万円となります。これにより、交換差益3,000万円に対する課税(約696万円)を回避することができました。
土地は非減価償却資産であるため、減価償却による税負担の分散はありません。しかし、将来的に新工場用地を売却する際には、圧縮した3,000万円分だけ売却益が増加(または売却損が減少)することになります。
圧縮記帳における注意点と実務のポイント
圧縮記帳を適切に活用するためには、いくつかの注意点や実務上のポイントを押さえておく必要があります。特に、申請手続きや方式の選択は非常に重要で、そのほかにも税務調査や事業継承の観点からも、注意が必要なポイントがあります。
申告手続きと必要書類
圧縮記帳を適用するためには、確定申告書に必要事項を記載し、明細書を添付する必要があります。これらの手続きを怠ると、圧縮記帳が認められない場合があります。
法人の場合は、確定申告書別表十四「圧縮記帳の損金算入に関する明細書」に必要事項を記入し、添付します。個人事業主の場合は、確定申告書に添付する「収用等に係る土地建物等の譲渡所得の特別控除・代替資産の取得に係る課税の特例の計算明細書」などの書類に記入します。
申告書の添付書類は期限内に提出することが重要です。確定申告期限後の修正申告では、原則として圧縮記帳の適用はできないとされています。特に、法定申告期限の徒過による救済措置は限定的ですので、期限内の適正な申告に努めましょう。
直接減額方式と積立金方式の選択
圧縮記帳には、直接減額方式と積立金方式の2つの方法がありますが、どちらを選択するかは会社の状況や目的によって異なります。それぞれの特徴を理解し、最適な方法を選択することが重要です。
直接減額方式のメリット
- 会計処理が比較的シンプル
- 減価償却計算が簡便(圧縮後の金額で計算)
- 中小企業や個人事業主に適している
積立金方式のメリット
- 貸借対照表上、資産の実際の取得価額が表示される
- 財務分析において実態を反映しやすい
- 金融機関等への財務報告において有利な場合がある
一般的に、中小企業や個人事業主は、直接減額方式を選択することが多いですが、財務状況をより正確に表示したい場合や、外部への財務報告を重視する場合は積立金方式を検討する価値があります。なお、選択した方式は、原則として継続適用する必要があります。
税務調査のポイント
圧縮記帳は、税務調査でも注目されやすい項目の一つです。適用要件を満たしているか、計算は正確か、必要な書類は揃っているかなどが確認されます。税務調査で指摘を受けないためのポイントを、いくつか紹介します。
まず、補助金等の特定の収益と固定資産の取得の間に、明確な対応関係があることを証明できるよう、補助金交付決定通知書や契約書、領収書などの書類を保管しておくことが重要です。特に、補助金の交付目的と、取得した資産の用途が一致していることを示す資料は必須です。
また、圧縮限度額の計算が正確であることも重要です。特に、保険差益や交換差益の場合は、計算が複雑になることがありますので、専門家のチェックを受けることをおすすめします。
さらに、圧縮記帳を適用した資産の管理台帳を整備し、圧縮前の取得価額、圧縮額、圧縮後の帳簿価額を明確に記録しておくことも大切です。特に、積立金方式を採用している場合は、毎期の取崩額の計算と処理が正確であることが求められます。
事業承継や組織再編時の注意点
事業承継や組織再編(合併・分割など)を行う際には、圧縮記帳の取扱いにも注意が必要です。圧縮記帳を適用した資産を含む事業の承継や、会社の組織再編が行われる場合、その税務上の取扱いは複雑になることがあります。
例えば、個人事業主が圧縮記帳を適用した資産を保有したまま法人成りする場合、原則としてその資産を時価で法人に譲渡したものとみなされます。しかし、一定の要件を満たす場合には、課税の繰延べが認められることがあります。
また、合併や会社分割などの組織再編において、圧縮記帳を適用した資産が移転する場合も、税務上の取扱いに注意が必要です。適格組織再編の場合は、圧縮記帳の効果が引き継がれることがありますが、非適格組織再編の場合は、圧縮記帳の効果が消滅し、課税関係が生じることがあります。
事業承継や組織再編を検討する際には、圧縮記帳を適用した資産の取扱いも含めて、税理士等の専門家に相談することをおすすめします。
圧縮記帳に関する最新の税制改正
税制は毎年のように改正されており、圧縮記帳に関するルールも変更される可能性があります。最新の動向を適切にキャッチアップすることで、効果的な対応を行えるようにしましょう。
近年の税制改正ポイント
圧縮記帳に関する税制改正は、対象となる収益の範囲や圧縮限度額の計算方法、適用要件などに関して行われることがあります。近年の主な改正ポイントをいくつか紹介します。
令和2年度税制改正では、5G(第5世代移動通信システム)投資促進税制が創設され、一定の5G設備投資について、特別償却または税額控除が選択適用できるようになりました。これと併せて、5G設備に対する補助金等を受けた場合の圧縮記帳についても整備されました。
また、令和3年度税制改正では、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制が創設され、脱炭素化設備への投資に対する税制優遇措置が設けられました。この制度と圧縮記帳を組み合わせることで、より効果的な税務戦略を立てることが可能になりました。
最新の税制改正情報に常に注意することが重要です。特に、新たな補助金制度が創設された場合や、既存の制度が拡充・縮小された場合には、圧縮記帳の適用要件や限度額にも影響が及ぶことがあります。
DX投資・グリーン投資と圧縮記帳
近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)投資や、グリーン投資(環境配慮型投資)に対する補助金や税制優遇が拡充されています。これらの投資に対する補助金等を受けた場合の圧縮記帳についても、注目すべき点があります。
例えば、DX投資関連では、デジタル化設備投資に対する税制優遇措置(DX投資促進税制)が設けられており、一定の要件を満たす場合には特別償却または税額控除が適用できます。また、DX投資に対する補助金も、各種創設されています。これらの補助金で取得した固定資産には、圧縮記帳を適用できる可能性があります。
グリーン投資関連では、省エネ設備や再生可能エネルギー設備に対する補助金が多数存在します。例えば、太陽光発電設備や蓄電池設備に対する補助金、省エネ改修に対する補助金などがあります。これらの補助金で取得した設備にも、圧縮記帳を適用できる場合があります。
DX投資やグリーン投資を検討する際には、利用可能な補助金制度と圧縮記帳を組み合わせることで、投資コストを大幅に削減できる可能性があります。最新の補助金情報を収集し、税理士等の専門家とも相談しながら、最適な投資戦略を立てることをおすすめします。
コロナ関連補助金と圧縮記帳
新型コロナウイルス感染症対策として、さまざまな補助金や助成金が創設されました。これらの補助金等を使って固定資産を取得した場合、圧縮記帳の適用可否が問題となることがあります。
例えば、事業再構築補助金や小規模事業者持続化補助金などは、設備投資に活用できる補助金です。これらの補助金で固定資産を取得した場合、原則として圧縮記帳の対象となります。ただし、補助金の性質や交付条件によっては、圧縮記帳の対象とならない場合もありますので、個別に確認が必要です。
一方、雇用調整助成金や持続化給付金のように、固定資産の取得を目的としない給付金については、圧縮記帳の対象とはなりません。これらの給付金は、受取時に益金(収益)として計上することになります。
コロナ関連補助金を活用して、事業再構築や業態転換のための設備投資を行う場合には、圧縮記帳の活用も検討することをおすすめします。補助金の交付要綱や交付決定通知書を確認し、不明点があれば所轄の税務署や税理士に相談することが重要です。
まとめ
圧縮記帳は、補助金や保険金などの特定収益による固定資産取得時の税負担を、繰り延べることができる有用な制度です。初年度の税負担軽減による資金繰り改善効果は大きいものですが、将来の税負担増加など注意すべき点もあります。
効果的に活用するには、自社の経営状況や将来の事業計画を考慮した上で、直接減額方式と積立金方式のどちらが適しているかを検討することが重要です。また、補助金等の収益と固定資産取得の対応関係を明確にし、確定申告時には必要書類を漏れなく添付することも忘れてはなりません。
税制改正や新たな補助金制度の創設に常に注意を払い、最新の情報をもとに税務戦略を立てることをおすすめします。不明点がある場合は、早めに税理士等の専門家に相談し、適切なアドバイスを受けることが、圧縮記帳を最大限に活用するコツといえるでしょう。
最短即日融資!HTファイナンスのビジネスローン
「圧縮記帳」は、資金繰り改善や税負担の軽減に役立つ制度ですが、適用には一定の条件や手続きが必要となり、すぐにキャッシュフローが改善するわけではありません。手続きや要件を満たすまでの間、迅速かつ柔軟に資金を調達したい場合には、ビジネスローンを併用する方法も有効です。その際にぜひ検討いただきたいのが、HTファイナンスのビジネスローンです。
HTファイナンスでは、スピードと柔軟性を重視した独自の審査体制を整え、より早く経営者の皆様へ資金をご提供できるよう努めています。必要書類もシンプルにまとめていますので、準備に時間をかけることなくお申し込みいただけます。また、オンラインやお電話でのやり取りを中心に契約まで進められるケースもあり、来店の手間を軽減できるのもポイントです。
事業拡大のチャンスを逃さないために、まずは一度HTファイナンスまでお問い合わせください。