2025.01.28
債権回収会社の役割とは?選ぶ際の注意点を解説
取引先の倒産や支払遅延により売掛金の回収が滞り、資金繰りに悩まされているといういった状況は珍しい話ではありません。そんな時、債権回収会社を利用してみるのも一つの手です。この記事では、債権回収会社の役割と上手に活用するためのポイントについて解説します。
債権回収会社とは
債権回収会社とは、債権者に代わって債務者から債権を回収する専門の会社です。正式名称を「サービサー」と呼ばれることもあります。
債権回収会社は、「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」に基づいて設立・運営されています。
債権回収会社の法律での位置づけ
債権回収会社は、サービサー法に基づいて法務省の認可を受けた特別な会社です。一般の企業とは異なる法的規制の下で事業を行っています。
サービサー法では、債権回収会社が取り扱うことができる債権の種類が限定されています。これを「特定金銭債権」と呼びます。
特定金銭債権には、金融機関・貸金業者の貸付債権、リース・クレジット債権、法的倒産手続中の金銭債権などが含まれます。 一方で、これら以外の一般的な債権は、債権回収会社が直接取り扱うことはできません。
また、債権回収会社は、債権回収の方法についても法的な規制を受けています。不当な取立行為や、債務者の権利を侵害するような行為は厳しく禁止されています。
債権回収会社の業務内容
債権回収会社の主な業務は、債権者から委託・譲渡を受けた債権の回収です。債権回収のプロセスは、大きく分けて以下のような手順で進められます。
- 電話・書面による請求
- 内容証明郵便の送付
- 支払督促の申立
- 訴訟手続き
- 強制執行
まず、債務者に対して電話や書面で支払いを請求します。それでも支払いがない場合は、内容証明郵便を送付して法的な手続きに移行する可能性を示唆します。
それでも債務の支払いがない場合は、裁判所に対して支払督促の申立を行います。支払督促とは、債務者に対して一定期間内の支払いを命じる裁判所の決定です。
支払督促に対しても債務者が応じない場合は、訴訟手続きに移行します。訴訟で勝訴判決を得られれば、最終的には強制執行によって債権の回収を図ることになります。
債権回収会社の機能
債権回収会社は、金融機関や企業、個人債務者に対して多くの役割を担っています。ここでは、債権回収会社の主な機能について詳しく見ていきましょう。
金融機関の不良債権処理
債権回収会社の大きな役割の一つが、金融機関の不良債権処理の支援です。
債権回収会社は、金融機関から特定金銭債権を譲り受けたり、回収を委託されたりすることで、不良債権の効率的な処理を可能にしています。これにより、金融機関のバランスシートが改善され、財務の健全性が高まるのです。
企業の資金回収支援
債権回収会社のもう一つの重要な役割が、企業の売掛金や貸付金などの回収支援です。取引先の倒産や債務不履行によって、企業は資金繰りに深刻な影響を受けることがあります。
そこで債権回収会社は、企業から債権を買い取ったり、回収業務を代行したりすることで、資金回収のスピードアップと回収率の向上に貢献します。これにより、企業の資金繰りが改善され事業継続が可能になります。
債権回収会社の活用事例
債権回収会社の活用事例として、以下のようなケースが挙げられます。
- 大手クレジットカード会社が、延滞債権の回収を債権回収会社に委託し、回収率の向上と社内リソースの効率化を実現したケース
- 中小企業が、売掛金の長期延滞債権を債権回収会社に譲渡し、即時の資金化と貸倒リスクの低減を図ったケース
- 個人事業主が、未回収の工事代金債権の回収を債権回収会社に依頼し、円滑な回収を実現したケース
このように、債権回収会社の活用は、企業規模や業種を問わず、様々な場面で効果を発揮しています。
個人債務者への対応
債権回収会社は、個人の借入金や住宅ローン、クレジット債権などの回収業務も担当します。多重債務や返済困難に陥った個人債務者に対しては、丁寧な説明と柔軟な対応が求められます。
債権回収会社は、債務者の状況を踏まえた上で、返済計画の見直しや債務整理などの解決策を提案します。時には、債務者の生活再建を支援することも、債権回収会社の重要な役目といえるでしょう。
債権回収会社を利用するメリット
ここでは、債権回収を債権回収会社に委託することによるメリットについて説明します。
専門性の高い債権回収ノウハウ
債権回収会社は、債権回収に特化した専門的なノウハウを持っています。長年の実務経験と蓄積されたデータに基づいた、効果的な回収手法がわかっているのが強みです。
例えば、債務者の状況に合わせた適切なアプローチ方法の選択や、法的手続きの円滑な進行などが挙げられます。また、債権の種類ごとの特性を踏まえた対応も可能です。専門性の高さが、回収率の向上につながっているのです。
効率的な債権管理と回収
債権回収の実務には、多くの時間と労力を要します。電話や書面での請求、内容証明の送付、法的手続きの実施など、一連の業務を効率的に進める必要があります。
債権回収会社は、これらの業務に特化したシステムやオペレーション体制を整えています。債権者自身が行うよりも、スピーディーかつ効率的な債権管理・回収が可能です。これにより、債権者は本業に専念することができます。
法的リスクの軽減
債権回収を進める過程では、法律上の規制を遵守する必要があります。債権者自身が法的知識に乏しい場合、トラブルに巻き込まれるリスクがあるのです。
一方、債権回収会社は、関連法規に精通した専門家を擁しています。法務面でのリスクを最小限に抑えつつ、適切な回収活動を遂行できます。債権者は法的責任を負わずに、安心して債権回収を任せられるわけです。
債権回収コストの削減
債権回収には、人件費や通信費、法的手続きの費用など、様々なコストがかかります。社内で専任担当者を置くとなると、相応の固定費が発生します。
この点、債権回収会社に業務を委託することで、変動費化が可能になります。回収の成果に応じた手数料体系を選べば、無駄なコストを抑えられるのです。また、回収会社のスケールメリットにより、割安な単価設定を期待できるケースもあるでしょう。
債権回収会社を利用する際の注意点
債権回収会社を利用することは、効率的な債権回収を実現するために有効な手段です。しかし、その一方で注意すべきポイントも存在します。
債権回収会社の選び方
債権回収会社を選ぶ際は、まず法務省の認可を受けた正規の会社であるかどうかを確認することが重要です。サービサー法に基づき、資本金要件や人的要件などの厳格な基準をクリアした会社のみが認可を受けています。
また、債権回収の実績や専門性も見極めるポイントといえます。取り扱い債権の種類や回収方法、回収率などを確認し、自社のニーズに合致するかどうかを判断しましょう。
債権回収会社との契約内容の確認
債権回収会社と契約を結ぶ際は、契約内容を十分に確認し、リスクやコストを見極めることが肝心です。
まず、契約形態には以下の2つの選択肢があります。
- 債権委託方式:債権者の権利は移転せず、回収窓口のみ移行する方式
- 債権譲渡方式:債権者の権利が移転し、完全な債権処理が可能な方式
それぞれのメリット・デメリットを理解し、自社に適した方式を選択することが求められます。また、手数料体系や追加費用の有無なども確認し、トータルコストを把握しておくことが賢明でしょう。
債権回収プロセスのモニタリング
債権回収会社に委託した後も、回収プロセスを定期的にモニタリングし、進捗状況を確認することが大切です。
具体的には、回収状況の報告を受けるタイミングや方法を取り決めておくことが有効でしょう。問題が発生した場合の連絡体制や対応方針も事前に協議しておくと安心です。
また、回収手段が適切かどうかもチェックすべき点の1つです。過剰な督促や違法な手段が用いられていないか、注意深く見守る必要があります。
債務者とのコミュニケーション管理
債権回収会社が債務者と直接やり取りする場合でも、債権者である企業が債務者とのコミュニケーションを適切に管理することが求められます。
トラブルを未然に防ぐためにも、債務者からの問い合わせや苦情に迅速かつ丁寧に対応することが肝要です。債権回収会社との連携を密にし、債務者の状況を的確に把握しておくことも重要でしょう。
また、個人情報の取り扱いにも細心の注意を払う必要があります。債務者のプライバシーを尊重し、情報漏えいのリスクを最小限に抑えるための体制構築が不可欠といえます。
債権回収会社に関する法規制
サービサー法の概要
債権回収会社(サービサー)の業務に関する法律であるサービサー法について解説します。
サービサー法とは、正式名称を「債権管理回収業に関する特別措置法」といい、1999年に施行された法律です。この法律は、バブル崩壊後の不良債権処理を促進することを目的として制定されました。弁護士法の特例として位置づけられています。
債権回収会社の認可要件
サービサー法に基づき、債権回収会社として営業するためには法務省の認可が必要です。その主な要件は以下の3点です。
- 資本金が5億円以上であること
- 常務取締役に弁護士を1名以上配置し、暴力団等反社会的組織と関与していないこと
- 商号に「債権回収」の文字を含むこと
債権回収業務における規制事項
サービサー法では、債権回収会社が取り扱える債権の種類が限定されています。主に、金融機関・貸金業者の貸付債権、リース・クレジット債権、特定目的会社の流動化対象債権などが対象となります。
また、債権回収の方法についても規制があり、電話・書面による請求、内容証明郵便の送付、支払督促の申立、訴訟手続き、強制執行といった一連の回収プロセスを適切に実施する必要があります。
債務者保護に関する規定
サービサー法では、債務者保護のための規定も設けられています。債権回収会社は、債務者との交渉においては常に適切な対応を心がけなければなりません。
具体的には、債務者の個人情報保護や、過剰な取立行為の禁止などが定められています。国民生活センターの2023年のデータでは、債権回収に関連する架空請求の相談件数が16,314件に上っており、債務者保護の重要性が伺えます。
債権回収の委託方法の選択
債権回収会社は、債権の回収を専門に行う会社です。しかし、債権回収を行う方法には他にも選択肢があります。
ここでは、債権回収会社と他の選択肢を比較し、それぞれの特徴や違いを見ていきましょう。
債権回収会社と弁護士事務所の違い
債権回収を依頼する際、債権回収会社と弁護士事務所のどちらに依頼するかで悩む方も多いでしょう。両者の主な違いは以下の通りです。
債権回収会社 | 弁護士事務所 |
---|---|
|
|
債権回収会社は、特定金銭債権と呼ばれる一定の種類の債権回収に特化しています。一方、弁護士事務所は、幅広い種類の債権回収に対応可能です。
また、債権回収会社は主に金融関連企業から依頼を受けることが多いのに対し、弁護士事務所は個人・法人問わず依頼を受けられます。
債権回収会社と自社回収の比較
債権回収を外部に委託せず、自社で行うことを自社回収といいます。債権回収会社への委託と自社回収には、それぞれ以下のようなメリット・デメリットがあります。
債権回収会社への委託 | 自社回収 |
---|---|
メリット
デメリット
|
メリット
デメリット
|
自社回収のメリットは、手数料コストの削減と債務者との関係性の維持です。一方、デメリットとして、回収ノウハウの不足や社内リソースの消費などが挙げられます。
状況に応じて、適切な選択をすることが重要でしょう。
債権回収会社への委託方式の選択
債権回収会社に回収を委託する場合、委託方式を選択する必要があります。主な委託方式には以下の2種類があります。
- 債権委託方式
- 債権者の権利は移転せず
- 回収窓口のみ移行
- 債権譲渡方式
- 債権者の権利が移転
- 完全な債権処理が可能
債権委託方式では、債権者の権利は移転せず、回収窓口のみが債権回収会社に移行します。一方、債権譲渡方式では、債権者の権利が債権回収会社に完全に移転するため、より完全な債権処理が可能となります。
まとめ
本記事では、債権回収会社の役割と選ぶ際の注意点について解説してきました。債権回収会社は、金融機関の不良債権処理や企業の資金回収支援、個人債務者への対応など、幅広い役割を担っています。
自社の状況に合わせて、債権回収会社の利用を検討してみてはいかがでしょうか。適切な債権管理は、企業の財務の健全性や事業の継続に欠かせません。専門家の力を借りて、円滑な債権回収を実現しましょう。