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2025.01.31

与信審査とは?企業の信用力を評価する仕組みを解説

取引先との後払い取引(掛け取引)を行う際、支払能力や信用力を適切に評価せずに与信を行ってしまうと、未回収リスクが高まり、最悪の場合は多額の貸倒損失を被る可能性があります。この記事では、企業の信用力を評価する仕組み「与信審査」について、基本から実務的な注意点まで詳しく解説します。

与信審査とは

与信審査は企業にとって重要な業務で、これにより企業の信用性を評価します。ここでは、この審査の概要や重要性について見ていきます。

与信審査の目的

与信審査の主な目的は以下の4点です。

  1. 売掛債権の未回収リスクの防止
  2. 取引先の支払能力確認
  3. 取引先の与信限度額の設定
  4. 貸し倒れリスクの軽減

これらの目的を達成することで、企業は安定した取引関係を構築し、財務リスクを最小限に抑えることができるのです。

与信審査の重要性

与信審査を適切に行うことで、取引先の支払能力を正確に把握し、売掛債権の未回収リスクを防止することができます。これにより、企業は安定的な売上確保と資金繰りの改善が可能となります。

また、与信審査を通じて取引先とのコミュニケーションが深まり、長期的な信頼関係の構築にもつながります。取引先の事業状況や経営方針を理解することで、より効果的な営業戦略を立てることもできるでしょう。

さらに、与信審査の結果を活用して与信限度額を設定することで、貸し倒れリスクを最小限に抑えられます。これは企業の財務健全性の維持に大きく寄与するといえます。

与信審査の流れ

与信審査のプロセスは、大きく分けて情報収集と評価の2つのフェーズから成ります。

情報収集では、定量データ(財務諸表、企業規模、売上推移など)と定性データ(経営者情報、事業計画、市場での評判、業界動向など)の分析が行われます。また、取引先のビジネスモデルを理解するために、収益構造や商流、業界特性なども分析されます。

収集した情報を基に、絶対評価(基準値との比較、達成率の測定)と相対評価(業界内での位置づけ、競合他社との比較)の2つの方法で、取引先の信用度が評価されます。

このような一連の与信審査プロセスを経て、最終的な取引可否の判断と与信限度額の設定が行われるのです。

与信審査のプロセス

与信審査は、取引先の信用力を評価し、適切な取引条件を設定するための重要なプロセスです。ここでは、与信審査のプロセスと評価方法について詳しく解説していきましょう。

情報収集のポイント(定量・定性データ)

与信審査を行うには、まず取引先に関する情報を収集する必要があります。情報収集では、定量データと定性データの両方を網羅的に集めることがポイントです。

定量データとしては、財務諸表(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)や企業規模、資本金、売上推移などが挙げられます。一方、定性データには、経営者情報、事業計画、市場での評判、業界動向などが含まれます。

さらに、取引先のビジネスモデルを分析することも重要です。収益構造、商流、業界特性などを理解することで、与信審査の精度を高めることができるでしょう。

絶対評価と相対評価の違い

収集した情報を基に、取引先の信用力を評価する方法には、絶対評価と相対評価の2種類があります。

絶対評価は、予め設定された基準値と比較したり、達成率を測定したりすることで行います。一方、相対評価では、業界内での位置づけや競合他社との比較を行います。

両者を組み合わせることで、より多角的な視点から取引先の信用力を評価することができます。

与信限度額の設定基準

与信審査の結果を踏まえ、取引先ごとの与信限度額を設定します。与信限度額とは、取引先に対して提供できる信用の上限金額のことです。

与信限度額の算出方法には、以下の3つが一般的です。

  1. 純資産基準:自社純資産 × 一定割合 × 格付けウェイト
  2. 仕入債務基準:仕入債務 × 一定割合 × 格付けウェイト
  3. 売掛債権基準:売掛債権 × 一定割合 × 格付けウェイト

各社の財務状況や取引規模に応じて、適切な算出方法を選択することが重要です。特に格付けのウェイトは各社が設定するものなので、経営戦略とのリンクが重要になります。

審査結果の活用方法

与信審査の結果は、取引条件の設定だけでなく、リスクマネジメントにも活用できます。例えば、信用力の低い取引先に対しては、前払いや現金取引を求めるなどの対策を講じることができます。

また、定期的に与信審査を行い、取引先の信用状況の変化をモニタリングすることも大切です。これにより、潜在的なリスクを早期に発見し、適切な対応を取ることができるでしょう。

与信審査で重視される財務指標

与信審査では、取引先の財務状況を詳細に分析し、信用リスクを評価します。ここでは、与信審査で特に重視される財務指標について説明していきましょう。

売上高推移と利益率の意味

売上高の推移は、企業の成長性や市場での競争力を示す重要な指標です。過去3年以上の売上高の推移を分析することで、事業の安定性や将来性を評価できます。また、売上高だけでなく、利益率にも着目することが大切です。

利益率は、売上高に対する利益の割合を表し、企業の収益性を示します。高い利益率は、効率的な経営や競争優位性を示唆しています。一方、低い利益率や赤字は、事業リスクが高いことを意味します。

借入金比率と資金繰り状況の重要性

借入金比率は、総資産に対する借入金の割合を示す指標です。この比率が高いほど、金利負担が大きく、財務リスクが高まります。与信審査では、借入金比率を確認し、適正な水準であるかを判断します。

また、資金繰り状況も重要な評価ポイントです。売上債権の回収期間や仕入債務の支払サイクルを分析し、キャッシュフローの安定性を確認します。資金繰りに問題がある企業は、支払遅延や債務不履行のリスクが高いとみなされます。

キャッシュフロー分析の視点

キャッシュフロー計算書は、企業の現金の流れを示す財務諸表です。与信審査では、キャッシュフロー計算書を分析し、事業活動によるキャッシュ創出力を評価します。

営業キャッシュフローがプラスであることは、本業での収益性を示します。一方、投資キャッシュフローがマイナスであっても、将来の成長に向けた投資であれば、必ずしもネガティブな評価にはなりません。フリーキャッシュフロー(営業キャッシュフロー/設備投資)を見ることで、企業の財務の柔軟性や安全性を総合的に判断できます。

与信審査における非財務要素の評価

与信審査では、財務データだけでなく非財務要素も重要な評価項目となります。ここでは、非財務要素の評価について詳しく見ていきましょう。

経営体制の安定性

企業の経営体制の安定性は、与信審査において重要な評価ポイントの一つです。経営者の資質や意思決定プロセス、管理体制、コンプライアンス体制などを総合的に判断することで、企業の継続性や成長性を評価します。

例えば、経営者の経歴や実績、後継者の有無などを確認し、経営の安定性を見極めます。また、意思決定プロセスが明確で、適切な管理体制やコンプライアンス体制が整っているかどうかも重要なポイントといえます。

事業基盤の強み(商品力、市場シェア、技術力)

企業の事業基盤の強みも、与信審査で評価すべき非財務要素です。商品力、市場シェア、技術力などを分析し、企業の競争優位性を判断します。

市場での評価が高く、独自性のある商品やサービスを提供している企業は、安定的な収益が見込めると判断されます。また、高いシェアを誇る企業は、市場での影響力が大きく、事業の継続性が高いと評価されるでしょう。さらに、優れた技術力を持つ企業は、将来的な成長性が期待できると判断されます。

業界動向と競合他社との比較

企業を取り巻く業界動向や競合他社との比較も、与信審査の重要な要素です。業界の成長性や市場規模、競争の激しさなどを分析し、企業の将来性を予測します。

例えば、成長著しい業界に属する企業は、今後の売上拡大が期待できると判断されます。一方、競争が激化している業界では、企業の差別化戦略や競争優位性が重要なポイントとなるでしょう。また、競合他社との比較により、企業の市場でのポジショニングや強みを明確に把握することができます。

与信審査の実務的な注意点

与信審査を行う場合、いくつかのことに注意しながら実施する必要があります。ここでは、実務的な観点から注意すべきことについてまとめます。

審査体制の整備と部門間連携

与信審査を円滑に実施するためには、審査体制の整備が不可欠です。特に重要なのが、管理部門と営業部門の緊密な連携です。

管理部門は、財務データや定性情報の収集・分析を担当し、与信限度額の設定や審査基準の策定に関与します。一方、営業部門は、取引先との直接的なコミュニケーションを通じて、ビジネスモデルや事業計画などの現場経営情報を収集します。

両部門が持つ情報を共有し、総合的に評価することで、より精度の高い与信審査が可能になるでしょう。定期的な情報交換会議の開催や、情報共有システムの活用などを通じて、部門間の連携を強化していくことが求められます。

定期的な再評価の必要性

一度与信限度額を設定したら終わりではありません。取引先の経営状況や市場環境は刻々と変化するため、定期的な再評価が必要不可欠です。

再評価の頻度は、取引先の規模や業種、与信限度額の大きさなどによって異なりますが、少なくとも年に1回は実施することが望ましいといえます。また、取引先の業績が急激に悪化した場合や、市場環境に大きな変化があった場合には、臨時の再評価を検討すべきでしょう。

定期的な再評価を行うことで、取引先の信用リスクを適切にモニタリングし、与信限度額の調整や取引条件の見直しなどの対応を迅速に行うことができます。この積み重ねが、貸し倒れリスクの低減につながっていくのです。

情報管理の徹底(データ更新、機密保持、記録保管)

与信審査で収集した情報は、極めて機密性の高いデータです。情報管理を徹底し、適切に取り扱うことが求められます。

まず重要なのが、データの定期的な更新です。取引先の財務情報や経営状況は常に変化しているため、最新のデータに基づいて与信審査を行う必要があります。古いデータを使用していては、正確なリスク評価はできません。

次に、機密保持の徹底が欠かせません。与信審査で得た情報を外部に漏らしてしまっては、取引先との信頼関係を損ねかねません。情報へのアクセス制限や、関係者への教育・啓発活動などを通じて、情報漏えい防止に努めましょう。

最後に、記録の保管も重要です。与信審査の経緯や根拠を明確に記録し、適切に保管しておくことで、後からの検証や問題発生時の原因究明がスムーズに行えます。電子化による効率的な管理と、バックアップ体制の整備が鍵となるでしょう。

与信審査における外部機関の活用

自社だけでは収集できない情報もあります。そんな時は、外部の専門機関を上手に活用しましょう。

代表的なのが、信用調査会社の利用です。帝国データバンクや東京商工リサーチなどの調査会社では、企業の財務情報だけでなく、取引先の評判や業界動向なども含めた幅広い情報を提供しています。これらを与信審査に活かすことで、より多角的な評価が可能になります。

また、金融機関との連携も有効です。取引先の融資状況や資金繰りの情報は、与信管理において非常に重要な判断材料となります。メインバンクとの情報交換を積極的に行い、より精度の高い与信審査を目指しましょう。

外部機関を効果的に活用することで、自社だけでは把握しきれない取引先の実態を知ることができます。与信審査の高度化と効率化を図る上で、欠かせない視点だといえるでしょう。

与信審査の課題とリスク

与信審査は企業が取引を行う際に必要不可欠なものですが、一方で運用にはいくつかの課題やリスクが存在します。ここでは、それらについて整理して適切な運用のために注意すべきことを説明していきます。

与信審査の限界と判断ミスのリスク

与信審査は企業の信用力を評価する重要な仕組みですが、審査には一定の限界があります。

第一に、与信審査は過去の財務データに基づいて行われるため、将来の業績変化を完全に予測することは困難です。景気動向や市場環境の変化によって、企業の収益力や財務状況は大きく変動する可能性があるためです。

第二に、定性的な情報の評価には担当者の主観が入る余地があり、判断ミスのリスクが伴います。経営者の資質や事業計画の実現可能性などは、数値化しにくい要素であるため、審査担当者の経験や知識に依存せざるを得ません

このように、与信審査には一定の限界があり、判断を誤るリスクが内在しているといえます。与信審査の精度を高めるためには、定量的データと定性的情報のバランスを取りつつ、複数の視点から総合的に評価することが重要です。

与信審査における情報の非対称性

与信審査では、審査する側と審査される側の間に情報の非対称性が存在します。

企業側は自社の経営状況について詳しい情報を持っている一方で、審査する金融機関側は開示された情報に基づいて判断せざるを得ません。企業が不利な情報を隠蔽したり、粉飾決算を行ったりするリスクがあるのです

また、企業の将来計画や経営戦略など、財務諸表には表れない情報も与信判断には重要ですが、これらの情報を正確に把握することは容易ではありません。審査する側と審査される側の情報格差を埋めることが、与信審査の大きな課題といえるでしょう。

情報の非対称性を解消するためには、企業との緊密なコミュニケーションを通じて、定性的な情報を収集することが不可欠です。また、外部の信用調査会社を活用するなど、第三者の視点を取り入れることも有効な手段といえます。

与信審査の自動化とAI活用の可能性

近年、与信審査の自動化とAIの活用が注目されています。

従来の与信審査は、担当者が財務諸表や企業情報を分析し、経験則に基づいて判断を下すことが一般的でした。しかし、AIを活用することで、大量のデータを高速かつ精緻に分析し、人間の判断を支援することが可能になります

AIは過去の取引データや企業情報を学習することで、与信リスクの予測モデルを構築できます。これにより、審査の精度と効率性を高めることが期待されています。また、AIを活用することで、審査基準の統一化や属人性の排除にもつながるでしょう。

ただし、AIによる与信審査にも課題があります。AIは過去のデータに基づいて判断するため、経済環境の急激な変化や特殊なケースへの対応が困難である点には注意が必要です。AIと人間の審査担当者が適切に連携し、互いの強みを生かすことが肝要といえるでしょう。

まとめ

本記事では、取引先の信用力を評価する仕組み「与信審査」について解説してきました。与信審査は、定量データと定性データを分析し、絶対評価と相対評価を通して行われます。

与信審査の仕組みを理解し、実践することで、貴社の財務リスクを軽減し、安定的な取引関係の構築につなげてください。

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監修者 三坂大作
監修者 三坂大作

略歴
1961年 横浜市生まれ
1985年 東京大学法学部卒業
1985年 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行
1985年 同行 表参道支店:法人融資担当
1989年 同行 ニューヨーク支店:コーポレートファインス非日系 取引担当
1992年 三菱銀行退社 
同年 株式会社プラネス設立代表取締役就任
2021年 ヒューマントラスト株式会社 取締役就任

貸金業務取扱主任者を保有。
大手金融機関の法人担当を国内外で担当した後、お客様企業の経営戦略を中心としたコンサルティング事業を推進。
2021年にヒューマントラスト株式会社の統括責任者 取締役に就任。
上場企業・中小企業含めて300社以上、30年以上の支援実績がある法人企業向け融資のプロフェッショナル。
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