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2025.01.23

取引信用保険とは?仕組みとメリットを解説

取引先の予期せぬ倒産によって売掛金が回収できなくなる。このようなリスクに直面している事業者は少なくないでしょう。この記事では、そうしたリスクに備えるための保険制度「取引信用保険」について解説します。

取引信用保険とは

取引信用保険とは、企業が取引先との販売契約に基づいて発生した売掛債権が、取引先の倒産などによって回収不能となった場合に、その損失を補填してくれる保険制度のことをいいます。

具体的には、取引先に商品やサービスを提供し、代金の支払いを受けられなくなったときに、保険金によって売掛金の大部分を回収できるというメリットがあります。

取引信用保険の目的

取引信用保険の主な目的は、企業の資金繰りの安定化と、売掛金の保全にあります。取引先の予期せぬ経営難などによって売掛金が回収できなくなるリスクを軽減し、安定的な事業運営を可能にするための保険といえるでしょう。

また、取引信用保険に加入することで、取引先に対する信用力の向上にもつながります。保険による売掛金の保全が担保されていることで、安心して取引を拡大していくことができるようになるのです。

補償対象となる事由

取引信用保険における補償の対象となるのは、主に取引先の債務不履行によって発生する損失です。債務不履行とは、取引先が次のような状況に陥った場合を指します。

  • 破産手続開始
  • 民事再生手続開始
  • 会社更生手続開始
  • 特別清算開始申立
  • 銀行取引停止処分
  • 強制換価手続開始

これらの事由により、売掛金の回収が困難になった場合に、取引信用保険の補償が適用されます。

取引先の適格要件

取引信用保険の対象となる取引先には、一定の適格要件が設けられています。主な要件は以下の通りです。

  • 国内に所在する事業者であること
  • 国や地方公共団体、関連会社、個人事業主ではないこと
  • 既存の債務不履行者ではないこと

これらの要件を満たす取引先との継続的な売買契約が、取引信用保険の適用対象となります。

取引信用保険の計算

取引信用保険は、取引先の債務不履行によって生じる売掛金の回収不能リスクを補償する制度です。ここでは、取引信用保険の額の具体的な計算方法について説明します。

保険金の計算方法

取引信用保険の保険金は、次の計算式に基づいて算出されます。

保険金 = 損害額(債権額) × 縮小率(80-90%)

損害額は、取引先の債務不履行によって発生した売掛金の未回収額を指します。この損害額に縮小率を乗じることで、保険金の額が決定されます。縮小率は通常80〜90%の範囲で設定されています。

支払上限額と縮小率

取引信用保険には、支払上限額が設けられています。この上限額は、契約時に取引先ごとに決定されます。保険金の支払いは、この上限額の範囲内で行われます。

また、前述の通り、保険金の計算には縮小率が適用されます。この縮小率は、保険契約者である企業と保険会社との間でリスクを分担するための仕組みです。縮小率が80%の場合、損害額の80%が保険金として支払われ、残りの20%は企業の自己負担となります。

取引信用保険の契約プロセス

取引信用保険は、取引先の債務不履行リスクから企業を守る重要な金融商品です。契約には取引先の選定から信用審査、支払限度額の設定まで、複数のステップが必要となります。

取引先の選択と告知

取引信用保険の契約プロセスは、まず保険の対象となる取引先の選択から始まります。この段階で、保険契約者は保険会社に対して取引先に関する情報を告知する必要があります。

取引信用保険の対象となる取引先は、国内に所在する事業者に限定されます。ただし、国や地方公共団体、関連会社、個人事業主、既存の債務不履行者などは除外されます。保険契約者は、これらの適格要件を満たす取引先を選定し、その情報を保険会社に提供します。

具体的には、取引先の名称、所在地、代表者名、事業内容、直近の財務情報などを告知書に記載して提出します。この情報は、次の信用審査の段階で重要な判断材料となります。

信用審査

取引先の選択と告知が完了すると、保険会社は提供された情報をもとに取引先の信用審査を行います。この審査は、取引先の財務状況や業績、経営状況などを総合的に評価し、債務不履行のリスクを判断するプロセスです。

信用審査では、取引先の直近の財務諸表や信用調査報告書などが精査されます。また、必要に応じて追加の情報提供を求められることもあります。審査の結果、取引先の信用リスクが高いと判断された場合、保険契約の締結が見送られる可能性もあります。

一方で、信用リスクが許容範囲内であると判断された場合は、次の支払限度額の決定へと進みます。信用審査は、取引信用保険の重要なリスク管理プロセスの一つといえるでしょう。

支払限度額の決定

信用審査の結果を踏まえ、保険会社は取引先ごとの支払限度額を決定します。支払限度額とは、取引先が債務不履行に陥った際に、保険会社が補償する上限金額のことです。

支払限度額は、取引先の信用リスクや取引規模などを考慮して設定されます。一般的に、信用リスクが低く、取引規模が大きい取引先ほど、高い支払限度額が適用される傾向にあります。

ただし、保険契約者の希望する限度額が必ずしも認められるとは限りません。保険会社は、自社のリスク許容度や再保険の手配状況なども勘案して、適切な支払限度額を提示します。支払限度額は、保険契約締結後も定期的に見直しが行われます。

契約の締結

取引先の選定、信用審査、支払限度額の決定が完了すると、いよいよ取引信用保険の契約締結となります。保険契約者は、提示された保険条件を確認し、合意した上で契約書に署名捺印します。

契約書には、以下のような重要事項が記載されます。

  • 保険の対象となる取引先および取引内容
  • 保険期間
  • 支払限度額
  • 縮小てん補割合(補填率)
  • 保険料率および保険料の支払方法
  • 事故発生時の手続き
  • 契約の解除・更新に関する事項

保険契約者は、これらの内容を十分に理解した上で契約を締結する必要があります。契約締結後は、約款に基づいて保険が適用され、取引先の債務不履行による損失が補償されることになります。

取引信用保険のメリット

取引信用保険には、事業者にとってさまざまなメリットがあります。ここでは、その主要なメリットについて詳しく解説していきましょう。

資金繰りの安定化

取引信用保険の最大のメリットは、資金繰りの安定化です。取引先の倒産や債務不履行によって売掛金が回収できない場合、事業者の資金繰りに大きな影響を与えかねません。

しかし、取引信用保険に加入していれば、売掛金の80~90%が保険金として補填されます。これにより、万一の事態でも資金繰りが大きく悪化するリスクを軽減できるのです。

例えば、1,000万円の売掛金が回収不能になった場合、保険に加入していなければ全額が損失となります。一方、取引信用保険に加入していれば、800~900万円が保険金として支払われるため、資金繰りへの影響を最小限に抑えられるでしょう。

売掛金の保全

取引信用保険のもうひとつの大きなメリットが、売掛金の保全です。売掛金は事業者にとって重要な資産ですが、取引先の経営不振や倒産リスクなどによって、その価値が損なわれる可能性があります。

取引信用保険に加入することで、売掛金の大部分を保全することができます。これにより、事業者は安心して取引を行うことができ、事業の継続性も高まるでしょう。

加えて、売掛金を担保として資金調達を行う場合、取引信用保険に加入していることで、金融機関からの評価も高まります。結果として、より有利な条件で資金調達ができる可能性があるのです。

与信管理機能の強化

取引信用保険の加入プロセスでは、取引先の信用調査が行われます。これにより、事業者は取引先の信用力を客観的に評価でき、与信管理機能の強化につながります。

与信管理の強化は、取引先の倒産リスクを事前に把握し、未然に防ぐために重要です。取引信用保険の審査結果を活用することで、高リスクな取引先との取引を避けたり、取引条件の見直しを行ったりすることが可能になるでしょう。

また、定期的な取引先モニタリングにより、取引先の信用状況の変化を継続的に把握できます。これにより、リスクの高まりを早期に発見し、適切な対策を講じることができるのです。

信用力の向上

取引信用保険への加入は、事業者の信用力向上にもつながります。取引先からすれば、保険に加入している事業者とは、より安心して取引ができるでしょう。

高い信用力は、新規取引先の開拓や取引条件の交渉においても有利に働きます。信用力の高い事業者であれば、有利な条件で取引を行える可能性が高まるのです。

さらに、取引信用保険の加入は、事業者の財務の健全性をアピールする効果もあります。これは、金融機関からの融資や投資家からの出資を得る際にも、プラスに働くことが期待できるでしょう。

取引信用保険の注意点

取引信用保険の契約にあたってはいくつかの注意点があります。ここでは、取引信用保険の主要な注意点について解説します。

保険料率と手数料

取引信用保険の保険料率は、一般的に債権金額の1~3%程度です。この保険料率は、取引先の信用力や取引規模によって異なります。

また、保険契約の締結や保険金の請求には、一定の手数料がかかる場合があります。保険料率と手数料を合わせて、コスト面での検討が必要でしょう。

補填率と支払上限額の制限

取引信用保険の補填率は通常80~90%に設定されています。つまり、債権の全額が補償されるわけではありません。

さらに、保険金の支払いには上限額が設けられています。この上限額は、取引先ごとに設定される支払限度額に基づいて決定されます。大口の債権については、十分な補償が得られない可能性があるのです。

対象外となる取引先

取引信用保険の対象となる取引先には、一定の制限があります。例えば、以下のような取引先は、通常、保険の対象外とされます。

  • 国や地方公共団体
  • 関連会社
  • 個人事業主
  • 既存の債務不履行者

保険の対象となる取引先を見極めることが重要といえます。

ファクタリングとの比較

取引信用保険とファクタリングは、ともに売掛金の回収リスクを軽減する手段ですが、仕組みや費用面で違いがあります。

取引信用保険 ファクタリング
仕組み 保険契約に基づく損失補填 売掛金の買取り
費用 保険料率: 1~3%程度 手数料: 10~20%程度

ファクタリングは、売掛金を買い取ってもらうことで資金化できるメリットがある一方で、手数料が高額になる傾向があります。取引信用保険との比較検討が必要でしょう。

取引信用保険は、売掛金の回収不能リスクに備える有効な手段ですが、契約内容や対象取引先について注意深く検討することが大切です。費用面では、ファクタリングとの比較も重要な視点となるでしょう。

まとめ

この記事では、取引信用保険とは何かというところから始まり、仕組み、契約プロセス、メリットと注意点までを詳しく解説してきました。取引信用保険は、取引先の予期せぬ倒産リスクに備えるための有効な手段といえます。

適切に活用することで、資金繰りの安定化や売掛金の保全、与信管理機能の強化など、事業者にとってさまざまなメリットが期待できるでしょう。ただし、保険料率や補填率、対象取引先の制限など、契約内容については十分な確認が必要です。

取引信用保険への加入をご検討中の事業者の皆様は、ぜひ本記事を参考に、売掛金の回収リスクに備えることで、より安定的な事業運営が可能となるでしょう。

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監修者 三坂大作
監修者 三坂大作

略歴
1961年 横浜市生まれ
1985年 東京大学法学部卒業
1985年 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行
1985年 同行 表参道支店:法人融資担当
1989年 同行 ニューヨーク支店:コーポレートファインス非日系 取引担当
1992年 三菱銀行退社 株式会社プラネス設立代表取締役就任
2021年 ヒューマントラスト株式会社 取締役就任

貸金業務取扱主任者を保有。
大手金融機関の法人担当を国内外で担当した後、お客様企業の経営戦略を中心としたコンサルティング事業を推進。
2021年にヒューマントラスト株式会社の統括責任者 取締役に就任。
上場企業・中小企業含めて300社以上、30年以上の支援実績がある法人企業向け融資のプロフェッショナル。
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