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2025.01.22

貸倒引当金の計算方法とは?リスク管理に必要な設定のポイントを紹介

事業を拡大する際、キャッシュフローの管理は非常に重要ですが、取引先の倒産などにより予期せぬ債権の回収不能が発生すると、事業運営に大きな影響を及ぼしかねません。そこで、多くの企業が貸倒引当金の設定により、事前にリスクに備えています。

この記事では、貸倒引当金の基本的な考え方から、具体的な計算方法、会計処理の方法、そして適切な設定によるメリットまで、幅広く解説します。適正な貸倒引当金の設定は、財務の健全性を高め、安定的な事業運営に役立つでしょう。

貸倒引当金の対象と扱い方

貸倒引当金とは、取引先の倒産等により債権の回収が不能になることに備えて、事前に計上する引当金のことです。貸倒引当金の対象となる債権や、会計上の扱いについて解説します。

貸倒引当金の対象となる債権

貸倒引当金の対象となる債権は、主に以下のようなものがあります。

  • 売掛金
  • 受取手形
  • 貸付金
  • 未収金

これらの債権は、取引先の倒産等により回収不能となるリスクがあるため、貸倒引当金の対象となります。

貸倒引当金の会計上の位置づけ

会計上、貸倒引当金は負債または資産のマイナス勘定として処理されます。これは、費用収益対応の原則に基づいて計上されるもので、合理的な範囲内での見積もりが必要となります。

具体的な会計処理としては、貸倒引当金繰入と貸倒引当金戻入の2つの勘定科目が使用されます。貸倒引当金繰入は、将来の貸倒見積額を費用計上するために用いられ、販売費及び一般管理費等に計上されます。一方、貸倒引当金戻入は、引当金の過剰額を戻入処理する際に使用され、債務者の経営改善等によって発生します。

貸倒引当金の計算方法

貸倒引当金は、取引先の倒産等による債権回収不能に備えて事前に計上する引当金です。売掛金、受取手形、貸付金、未収金などの債権を対象とし、費用収益対応の原則に基づいて合理的な範囲内で見積もる必要があります。

貸倒引当金の計算方法には、一括評価方式と個別評価方式の2つがあります。ここからは、それぞれの計算方法について詳しく見ていきましょう。

一括評価方式とは

一括評価方式は、期末の債権残高に一定の繰入率を乗じて算出する方法です。この方式は、多数の債権を一括して評価する際に用いられます。

一括評価方式の計算式

一括評価方式の計算式は以下の通りです。

貸倒引当金 = 期末債権額 × 繰入率

繰入率は、過去の貸倒実績から算出する実績繰入率と、法令で定められた法定繰入率の2種類があります。

繰入率の種類と法定繰入率表

実績繰入率は、過去3年間の貸倒実績を基に算出します。一方、法定繰入率は業種ごとに定められており、以下のような率が設定されています。

業種 法定繰入率
割賦販売小売業 1.3%
卸売業・小売業 1.0%
製造業・電気業・水道業 0.8%
サービス業 0.6%
金融業・保険業 0.3%

個別評価方式とは

個別評価方式は、特定の事由に該当する債権について、個別に回収可能性を判断して引当金を計上する方法です。会社更生法による更生手続きなどの事由に該当する債権が対象となります。

個別評価方式の対象と評価方法

個別評価方式の対象となる債権は、以下のような事由に該当するものです。

  • 会社更生法による更生手続き開始の申立てがあった債務者
  • 民事再生法による再生手続き開始の申立てがあった債務者
  • 破産法による破産手続き開始の申立てがあった債務者
  • 銀行取引停止処分を受けた債務者
  • 手形交換所による取引停止処分を受けた債務者

これらの債権については、個別に回収可能性を判断し、回収不能見込額を引当金として計上します。債務者の財務状況や担保の処分見込額などを総合的に勘案して、慎重に見積もる必要があるでしょう。

貸倒引当金設定のメリット

貸倒引当金を設定することには、さまざまなメリットがあります。ここでは、その中でも特に重要な2つのポイントについて詳しく解説していきましょう。

財務健全性の向上

貸倒引当金を設定することで、将来発生する可能性のある貸倒損失を事前に見積もり、費用として計上することができます。これにより、実際に貸倒れが発生した時点での損失の影響を軽減できます。

また、貸倒引当金を計上することで、会社の財務諸表上の債権額が実態に即した金額になります。これは、会社の財務状況をより正確に表すことにつながり、財務の健全性を向上させる効果があるといえます。

さらに、貸倒引当金の計上は、会計上の重要な原則である費用収益対応の原則にも合致しています。この原則は、収益とそれに対応する費用を同じ会計期間に計上することを求めるものです。貸倒引当金を設定することで、将来の貸倒損失を事前に費用として認識できるため、この原則に沿った適切な会計処理が可能となります。

経費計上による節税効果

貸倒引当金を設定するもう一つの大きなメリットが、税務面でのアドバンテージです。貸倒引当金は、一定の要件を満たせば、損金として認められ、課税所得の計算上、経費に算入することができます。

この損金算入が認められる範囲は、法人税法等で定められています。中小企業の場合、一括評価方式により計算された金額を、損金算入限度額の範囲内で経費計上できます。これにより、税負担の軽減を図ることが可能です。

ただし、損金算入できる貸倒引当金の額には上限があることに注意が必要です。この上限額は、前述の一括評価方式における法定繰入率を用いて計算されます。法定繰入率は業種ごとに異なり、例えば卸売業・小売業であれば1.0%、サービス業であれば0.6%といった具合に定められています。

貸倒引当金設定の注意点

貸倒引当金は、取引先の倒産などによる債権回収不能に備えるために事前に計上する引当金です。適切に設定することで、将来のリスクに対応できるだけでなく、節税効果も期待できます。

ただし、貸倒引当金の設定には注意すべきポイントがいくつかあります。ここでは、その中でも特に重要な3つの注意点について説明します。

事業年度ごとの計算と見直しの必要性

貸倒引当金は、事業年度ごとに計算し直す必要があります。前期に計上した金額をそのまま引き継ぐことはできず、毎期の債権残高や貸倒実績に基づいて再計算しなければなりません。

また、取引先の経営状況や債権の回収可能性は常に変化するため、定期的に見直しを行うことも重要です。過大な引当金を計上したままにしておくと、財務諸表の適正性を損なうことになります。

未発生時の引当金戻入義務

貸倒引当金を計上した後、実際の貸倒れが発生しなかった場合には、引当金を戻し入れる必要があります。これを怠ると、引当金が過大となり、適正な財務報告ができなくなってしまいます。

戻入処理は、貸倒引当金戻入益として特別利益に計上します。ただし、税務上は益金算入の対象となるため、節税効果は失われてしまいます。引当金の戻入義務を理解し、適切なタイミングで処理を行うことが求められます。

初年度のみ大きな節税効果の可能性

貸倒引当金の設定による節税効果は、初年度に特に大きくなる可能性があります。これは、過去の貸倒実績がない状態で、法定繰入率に基づいて計算するためです。

ただし、2年目以降は前期の貸倒実績を踏まえた繰入率を使用するため、節税効果は徐々に小さくなっていきます。中長期的な税務戦略を考える上では、この点にも留意が必要でしょう。

以上のように、貸倒引当金の設定には様々な注意点があります。事業年度ごとの見直しを怠らず、未発生時の戻入処理も適切に行うことが重要です。また、節税効果についても過度な期待は禁物だといえます。これらのポイントを押さえつつ、自社の状況に合わせて引当金を計上していきましょう。

リスク管理に必要な貸倒引当金の設定ポイント

貸倒引当金は、取引先の倒産などで債権の回収ができなくなるリスクに備えるために設定する重要な引当金です。ここでは、貸倒引当金の計算方法と、適切に設定するためのポイントを解説します。

適切な計算方式の選択

貸倒引当金の計算には、一括評価方式と個別評価方式の2種類があります。一括評価方式は、過去の貸倒実績率や法定繰入率を用いて、債権全体の引当金額を算出する方法です。一方、個別評価方式は、特定の事由がある債権について、個別に回収可能性を判断して引当金を計上します。

債権の状況に応じて、適切な計算方式を選択することが大切です。一般的な債権については一括評価方式を用い、会社更生法の適用を受けている先など、個別に評価が必要な債権には個別評価方式を適用するといった使い分けが効果的でしょう。

引当率の定期的な調整

一括評価方式で用いる引当率は、過去の貸倒実績や法定繰入率を参考に設定しますが、経済情勢や取引先の状況変化に応じて、定期的に見直す必要があります。引当率が実態と乖離していると、適切なリスク管理ができなくなるためです。

引当率の見直しは、少なくとも年1回は行うことが望ましいでしょう。貸倒実績率の動向を注視し、必要に応じて引当率を調整することで、より精度の高い引当金計上が可能になります。

財務状況と税務メリットのバランス

貸倒引当金の設定は、将来のリスクに備える一方で、損金算入による節税効果も期待できる措置です。ただし、過大な引当金計上は、財務状況を悪化させ、会社の財務戦略を間違える原因になる恐れもあるため、バランスを考えた設定が求められます。

税務上のメリットを享受しつつ、健全な財務体質を維持するには、引当金の計上額が適正か、定期的にチェックすることが大切です。引当金の戻入が必要な場合は速やかに対応し、財務の透明性を保つことも重要でしょう。

貸倒実績データの蓄積と活用

適切な貸倒引当金の設定には、自社の貸倒実績データの蓄積と活用が欠かせません。過去の貸倒発生状況を詳細に分析することで、自社に適した引当率の設定や、リスクの高い取引先の識別が可能となります。

データ活用のためには、債権管理の仕組みを整備し、貸倒れの発生状況を正確に記録していく必要があります。蓄積したデータを定期的に分析し、貸倒引当金の計算や与信管理に活かすことが、効果的なリスク管理につながるでしょう。

まとめ

この記事では、貸倒引当金とは何かという話から計算方法、会計処理、そして適切な設定のポイントまで幅広く解説してきました。貸倒引当金は、取引先の倒産などによる債権回収不能に備えるために事前に計上する重要な引当金です。

貸倒引当金の設定にあたっては、自社の債権状況を正確に把握し、専門家のアドバイスを参考にしながら、適正な金額を計上していくことが求められます。適切なリスク管理を行うことで、事業の安定性を高め、円滑な資金運用につなげていきましょう。

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監修者 三坂大作
監修者 三坂大作

略歴
1961年 横浜市生まれ
1985年 東京大学法学部卒業
1985年 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行
1985年 同行 表参道支店:法人融資担当
1989年 同行 ニューヨーク支店:コーポレートファインス非日系 取引担当
1992年 三菱銀行退社 株式会社プラネス設立代表取締役就任
2021年 ヒューマントラスト株式会社 取締役就任

貸金業務取扱主任者を保有。
大手金融機関の法人担当を国内外で担当した後、お客様企業の経営戦略を中心としたコンサルティング事業を推進。
2021年にヒューマントラスト株式会社の統括責任者 取締役に就任。
上場企業・中小企業含めて300社以上、30年以上の支援実績がある法人企業向け融資のプロフェッショナル。
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