2025.05.07
売掛債権担保融資によるビジネスローンはどのような場合におすすめ?流れや使用時の注意点も解説
事業を運営していると、取引先への代金請求は売掛金として後日回収するのが一般的です。しかし、その売掛金が回収できる前に仕入先への支払いが必要になるケースも多く、このような回収と支払いのタイミングのずれによって、一時的な資金繰りに困ることがあります。特に中小企業などでは、不動産担保がなく、通常の融資を受けることが難しい状況も少なくありません。このような場合に検討したいのが、売掛債権担保融資によるビジネスローンです。
本記事では、売掛債権を活用した融資である売掛債権担保融資について詳しく解説します。どのような企業に向いているのか、申込みから融資実行までの流れ、ファクタリングとの違い、そして活用する際の注意点まで紹介します。資金調達に悩む経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
売掛債権担保融資とは
売掛債権担保融資は、企業が保有する売掛金を担保として、金融機関から融資を受ける方法です。正式には、動産・債権担保融資(Asset Based Lending:ABL)と呼ばれます。
売掛債権担保融資の仕組み
売掛債権担保融資では、企業が取引先に対して持つ売掛金(未回収の債権)を担保として金融機関に提供します。金融機関は、その売掛金の価値を評価し、その一定割合を融資額として提供します。
融資を受けた企業は、売掛金が回収された後に融資を返済することになります。これにより、売掛金の回収を待たずに事業資金を確保できる仕組みです。
売掛金の8割程度が融資可能なケースが多く、企業の資金繰り改善に大きく貢献します。例えば、1,000万円の売掛金があれば、800万円程度の融資を受けられる可能性があります。
売掛債権担保融資の特徴
売掛債権担保融資には、以下のような特徴があります。
- 不動産担保が不要
- 比較的低金利での融資が可能(年利2%〜10%程度)
- 融資額は売掛金の評価額によって決まる
- 中長期的な資金調達が可能
- 継続的な取引関係がある売掛先であれば審査が通りやすい
売掛債権担保融資は、特に不動産などの有形資産を持たない企業や、成長段階の企業にとって魅力的な資金調達手段です。
売掛債権担保融資に向いている企業
売掛債権担保融資は、全ての企業に適しているわけではありません。特に、以下のような特徴を持つ企業にとって、効果的な資金調達方法となります。
安定した売掛債権を持つ企業
売掛債権担保融資は、安定した取引先との継続的な取引があり、一定量の売掛金が常に発生している企業に適しています。特に、大手企業や官公庁との取引がある中小企業は、売掛先の信用力が高く評価されるため融資を受けやすくなります。
売掛先の信用力が高いほど融資条件が有利になる傾向があります。売掛先の支払い履歴が良好で、財務状況が安定している場合、より多くの融資額や低い金利での調達が可能です。
不動産担保に頼れない企業
創業間もない企業や事業拡大期の企業は、不動産などの担保資産を持っていないことが多いものです。このような企業にとって、売掛債権担保融資は貴重な資金調達手段となります。
また、すでに保有する不動産に担保設定をしている企業や、業種的に不動産を保有しづらいIT企業やサービス業などにも適しています。
売掛金の回収サイクルが長い企業
製造業や建設業など、納品から入金までの期間が長い業種を営む企業は、売掛金の回収待ちによる資金繰りの悪化が起こりやすいものです。
特に、大型プロジェクトを手掛ける企業や、取引先の支払いサイトが60日以上と長い場合、売掛債権担保融資によって資金繰りの改善が見込めます。
一時的な資金不足に直面している企業
季節変動のある事業や、大型案件の受注に伴う一時的な資金需要が生じる企業にも、売掛債権担保融資は有効です。繁忙期と閑散期の差が大きい業種では、繁忙期前の仕入れ資金などを確保するために活用できます。
例えば、年末商戦に向けた在庫確保や、官公庁との取引で年度末に納品が集中する場合などが該当します。
売掛債権担保融資とファクタリングの違い
売掛債権を活用した資金調達方法には、売掛債権担保融資の他にファクタリングがあります。両者は、似ているようで実は大きく異なります。
仕組みの違い
売掛債権担保融資は融資の一種であり、売掛金を担保として借入を行います(貸金業法の融資取引)。一方、ファクタリングは売掛金そのものを売却する取引です(民法の債権譲渡取引)。
融資か売却かの違いが重要です。売掛債権担保融資の場合、売掛金が回収できなくても返済義務があります。一方、ファクタリングでは売却した時点で債権は買取会社のものとなるため、原則として売掛先の倒産リスクは買取会社が負うことになります。
以下の表で、両者の違いを比較してみましょう。
項目 | 売掛債権担保融資 | ファクタリング |
---|---|---|
取引の性質 | 融資(借入) | 売却(債権譲渡) |
資金コスト | 年利2%~10%程度 | 月利1%~5%程度(年換算で高め) |
審査対象 | 自社の信用力と売掛先の信用力 | 主に売掛先の信用力 |
資金調達の速さ | 2週間~1ヶ月程度 | 最短即日~1週間程度 |
売掛先への通知 | 基本的に不要(一部必要な場合あり) | 必要な場合が多い(2社間ファクタリングは不要) |
売掛先不払い時 | 返済義務あり | 遡及権なしの場合は返済義務なし |
資金調達コストの違い
売掛債権担保融資は、一般的に年利2%~10%程度と、ビジネスローンの中では比較的低金利です。これに対し、ファクタリングは手数料という形でコストが発生し、月利1%~5%程度(年換算で12%~60%)となることが多くあります。
長期的な資金調達を考えるなら売掛債権担保融資の方がコスト面で有利ですが、緊急性が高い場合はファクタリングの即時性が魅力となります。
審査時間や資金化までの時間の違い
売掛債権担保融資は、金融機関による自社の信用力と売掛先の信用力の両方を審査するため、審査期間が2週間~1ヶ月程度かかることが一般的です。
一方、ファクタリングは主に売掛先の信用力を審査対象とするため、審査が比較的シンプルで、最短即日~1週間程度で資金化できるケースが多くあります。
緊急の資金需要がある場合は、ファクタリングの方が向いています。
売掛債権担保融資の利用手順
売掛債権担保融資を利用するためには、いくつかのステップと必要書類があります。ここでは、実際の利用手順について詳しく解説します。
必要書類の事前準備
売掛債権担保融資を申し込む際には、一般的に以下の書類が必要となります。
- 決算書(直近2~3期分)
- 試算表(直近のもの)
- 売掛金台帳または売掛金一覧表
- 主要取引先との基本契約書
- 納品書や請求書のサンプル
- 会社謄本(登記簿謄本)
- 代表者の本人確認書類
- 法人税の納税証明書
金融機関によって要求される書類は異なりますので、事前に確認しておくことをおすすめします。また、売掛先の財務状況や支払い履歴に関する情報も用意しておくと、審査がスムーズに進む場合があります。
申込みから融資実行までの流れ
売掛債権担保融資の利用は、以下のような流れで進みます。
- 金融機関への相談と申込み
- 審査と売掛債権の評価(2週間~1ヶ月程度)
- 債権譲渡登記の手続き
- 融資契約の締結
- 融資の実行
- 売掛金回収後の返済
事前準備が審査のスムーズさを左右します。申込み前に、売掛金の一覧表や取引先情報を整理しておくと、審査がスムーズに進みやすくなります。
債権譲渡登記の手続き
売掛債権担保融資では、担保となる売掛債権に対して債権譲渡登記を行うことが一般的です。これは、担保となる債権に対して、金融機関が優先的な権利を持つことを法的に明確にするための手続きです。
債権譲渡登記は法務局で行い、登録免許税が発生します。手続きは、金融機関または司法書士が代行してくれるケースが多いですが、費用は借り手側が負担するのが一般的です。
債権譲渡登記が完了すると、その情報は登記簿に記載され、第三者も閲覧可能となります。ただし、多くの場合、売掛先への通知は不要とされることが多くあります。
売掛債権担保融資の金利と融資額
売掛債権担保融資を検討する際、気になるのは金利と融資額です。ここでは、一般的な目安について解説します。
金利の決定方法
売掛債権担保融資の金利は、一般的に年利2%~10%程度です。これは、通常の無担保ビジネスローンと比較すると低めの水準となっています。
金利を決定する主な要因は、以下の通りです。
- 自社の信用力(財務状況や事業実績)
- 売掛先の信用力(大手企業や官公庁ほど有利)
- 取引実績(長期間の安定した取引関係があるほど有利)
- 融資額(一般的に融資額が大きいほど金利は低くなる傾向)
- 金融機関との関係(取引実績がある場合は有利に働くことが多い)
売掛先の信用力が高いほど低金利になる傾向があります。上場企業や大手企業を売掛先に持つ場合、より有利な条件で融資を受けられる可能性が高まります。
融資額の計算方法
売掛債権担保融資の融資額は、担保となる売掛債権の評価額によって決まります。一般的には、売掛金の70%~80%程度が融資上限となります。
例えば、1,000万円の売掛金がある場合、700万円~800万円程度の融資を受けられる可能性があります。ただし、売掛先ごとに掛け目(評価率)が異なり、信用力の高い売掛先ほど高い掛け目が適用されます。
融資額の算定方法は、以下のように行います。
- 売掛債権の総額を確認(例:1,000万円)
- 売掛先ごとの信用力を評価し掛け目を決定(例:A社90%、B社70%)
- 各売掛債権に掛け目を適用して合計(例:A社300万円×90%+B社700万円×70%=760万円)
- 最終的な融資可能額を決定(例:760万円)
返済方法と期間の設定方法
売掛債権担保融資の返済方法は、売掛金の回収サイクルに合わせて設定されることが多いものです。主な返済方法には、以下のようなものがあります。
- 売掛金回収時に一括返済
- 分割返済(月々の返済額を設定)
- 極度額(限度額)方式での利用と返済
返済期間は、短期のものから中長期のものまでさまざまで、3ヶ月~5年程度の期間設定が一般的です。売掛金の回収サイクルや事業計画に合わせて、最適な返済計画を立てることが重要です。
極度額(限度額)方式の場合、融資枠の範囲内で繰り返し利用できるため、継続的な資金需要がある企業に適しています。
売掛債権担保融資のメリット
売掛債権担保融資には、さまざまなメリットがあります。ここでは、主なメリットについて詳しく解説します。
不動産担保が不要
売掛債権担保融資の最大のメリットは、不動産担保が不要な点です。創業間もない企業や成長期の企業は、不動産などの有形資産を持っていないことが多いため、従来の融資を受けることが難しい状況にありました。
事業の実績と売掛金があれば融資可能という点が、多くの企業にとって大きな利点となります。不動産取得のための先行投資をせずに、事業成長に必要な資金を調達できるのです。
比較的低金利での資金調達が可能
売掛債権担保融資は、担保付きの融資となるため、無担保融資と比較して金利が低く設定されることが一般的です。年利2%~10%程度と、ビジネスローンの中では比較的低金利での調達が可能です。
特にファクタリングと比較すると、コスト面で大きな優位性があります。長期的な資金調達を考える場合、この金利差は大きなメリットとなります。
資金繰り改善による経営の安定化
売掛金の回収を待たずに資金を確保できるため、資金繰りの改善につながります。特に、回収サイクルが長い業種や、季節変動のある業種にとって、安定的な経営を実現するための有効な手段となります。
例えば、大型案件を受注した場合の材料費や人件費、季節商品の製造・仕入れ時期の運転資金など、タイミングが重要な支出に対応できるようになります。
資金繰りが安定することで、取引先への支払いも滞りなく行えるようになり、信用力の向上にもつながります。
売掛債権担保融資を利用する際の注意点
売掛債権担保融資にはメリットがある一方で、いくつかの注意点やデメリットも存在します。利用を検討する前に、これらを十分に理解しておくことが重要です。
審査期間が比較的長い
売掛債権担保融資は、自社の信用力と売掛先の信用力の両方を審査するため、審査期間が2週間~1ヶ月程度かかることが一般的です。緊急の資金需要がある場合には、対応が難しい場合があります。
計画的な資金調達が必須となります。資金ショートが迫った状況での申込みは避け、余裕を持った計画を立てることが重要です。
定期的な報告義務が発生する
売掛債権担保融資を利用すると、金融機関に対して定期的な報告義務が発生します。売掛金の状況や回収状況、新規発生債権などの情報を、定期的に報告する必要があります。
この報告業務は追加の事務負担となりますが、一方で自社の売掛金管理が徹底されるというメリットもあります。
報告頻度は金融機関によって異なりますが、月次での報告を求められることが多くあります。
売掛先が倒産した場合に返済義務を負う
売掛債権担保融資は、融資の一種であるため、万が一売掛先が倒産した場合でも返済義務があります。これは、ファクタリングの「ノンリコース(遡及権なし)」タイプとの大きな違いです。
売掛先の信用状況を常に把握し、特定の取引先に依存しすぎないようにするなど、リスク分散を意識した経営が求められます。
場合によっては、取引信用保険への加入を検討することで、このリスクを軽減することも可能です。
譲渡禁止特約の確認が必要
取引先との契約に「債権譲渡禁止特約」が含まれている場合、その売掛債権を担保として利用することが難しくなる可能性があります。
融資を検討する前に、主要な取引先との契約内容を確認し、必要に応じて特約の解除や承諾を得る交渉を行うことが重要です。最近では法改正により、譲渡禁止特約の効力が制限されるケースもありますが、事前の確認は必須です。
売掛債権担保融資の申込みに失敗しないためのポイント
売掛債権担保融資を申し込む際には、審査に通りやすくするためのポイントがあります。ここでは、申込みを成功させるためのコツを紹介します。
信用力の高い売掛先の選定
売掛債権担保融資では、売掛先の信用力が重要な審査ポイントとなります。申込みに際しては、信用力の高い売掛先の債権を中心に提示することが効果的です。
優良売掛先に絞った申請が、成功率を高めることがあります。上場企業や官公庁など、信用力が高く安定した取引のある売掛先を選定して申し込むことで、審査通過の可能性が高まります。
反対に、支払い遅延が頻繁にある取引先や、経営状況が不安定な取引先の売掛金は評価が低くなる可能性が高いため、申込み対象から外すことを検討しましょう。
徹底した売掛金管理
審査では、売掛金の管理状況も重要なチェックポイントとなります。以下のような点を徹底しておくことが重要です。
- 売掛金台帳の正確な記録と更新
- 期日通りの請求処理
- 入金確認の徹底
- 滞留債権の管理と対策
- 債権の年齢調べ(エイジング)の実施
特に申込み前には、売掛金の状況を整理し、長期滞留債権などの問題がないかを確認しておくことが重要です。滞留債権が多い場合、それだけ売掛金の質が低いと判断され、融資条件が不利になる可能性があります。
経営状況の健全化
売掛債権担保融資においても、自社の経営状況は重要な審査ポイントです。特に、以下のような点に注意しましょう。
- 適切な資本金の維持
- 過剰な借入金残高の圧縮
- 安定した収益構造の構築
- 経営計画の明確化
- 資金使途の明確化
申込み前に決算書や試算表を見直し、問題点があれば改善に取り組むことで、審査通過の可能性が高まります。
また、融資後の返済計画も具体的に示せるよう準備しておくことが重要です。売掛金回収後の資金の流れを明確に説明できれば、金融機関の信頼を得やすくなります。
まとめ
売掛債権担保融資は、不動産担保に頼らずに資金調達ができる有効なビジネスローンの一つです。売掛金が安定的に発生している企業にとって、資金繰り改善の強力な手段となります。
この融資方法は、即時性よりも計画性を重視する企業に適しており、低金利での調達が可能です。申込みの際には、売掛先の選定や売掛金管理の徹底、自社の経営状況の健全化などに注意することで、成功の可能性が高まります。自社の資金需要のタイミングや特性を考慮し、他の資金調達方法と比較検討したうえで、最適な方法を選択することをおすすめします。
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売掛債権担保融資は多くのメリットがある一方で、審査時間がかかるという課題があります。急な資金需要がある場合や、売掛金が少ない企業では利用しづらい面があるでしょう。そのようなときには、迅速な資金調達が可能な無担保無保証のビジネスローンの検討がおすすめです。
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