2025.05.21
ABLで二重譲渡を回避するには?注意すべきポイントを紹介
事業資金の調達方法として注目されているABL(Asset-Based Lending)は、企業の流動資産(在庫や売掛金など)を担保に設定して受ける融資です。比較的柔軟に資金を調達できる点は有用ですが、この方法にはいくつかのリスクが伴います。特に注意すべきは、「二重譲渡」の問題です。同じ資産を複数の金融機関に担保として提供してしまうと、詐欺罪に問われてしまう可能性もあるのです。
本記事では、ABLにおける二重譲渡とは何か、なぜ避けるべきなのか、そして具体的な防止策について詳しく解説します。
ABLとは
ABLは、企業の保有する資産を有効活用して資金調達する方法です。
ABLの仕組み
ABL(Asset-Based Lending)は、企業が保有する在庫や売掛金などの流動資産を担保として活用する融資手法です。通常の不動産担保融資と異なり、事業活動で日々変動する資産を担保にできる点が大きな特徴です。
企業は融資を受ける際、保有する在庫や売掛金の評価額に基づいて融資額が決定されます。例えば、売掛金であれば評価額の70~80%程度、在庫であれば30~50%程度が、融資限度額となるケースが一般的です。
ABLの最大の利点は、不動産などの固定資産を持たない企業でも、事業に直結する資産を活用して資金調達ができる点です。特に、事業が成長し売掛金や在庫が増えるほど調達可能額も増えるという特性から、成長企業が検討しやすい資金調達手段となっています。
ABLで担保となる主な資産
ABLでは、さまざまな資産が担保となりますが、主に次のような流動資産が活用されます。企業の事業形態によって、最適な担保資産は異なります。
まず代表的なのが、売掛金(売掛債権)です。取引先に対する請求額で、将来的に現金化される予定の資産です。比較的高い評価を受けやすく、多くのABL融資で活用されています。
次に、在庫資産があります。製品、商品、原材料、仕掛品などが対象となります。ただし、在庫は売掛金に比べて換金性が低いため、評価率は一般的に低くなる傾向があります。
その他、機械設備や知的財産権(特許権など)も、場合によっては担保として認められることがあります。
ABLが中小企業に選ばれる理由
ABLが、よく中小企業の資金調達方法として選ばれる理由は、いくつかあります。まず、不動産担保や個人保証に頼らない融資が可能な点が挙げられます。不動産を保有していない、あるいは追加担保を提供できない企業でも、資金調達の道が開けます。
また、事業の成長に応じて融資枠を柔軟に拡大できるというのも、選ばれる理由の一つです。売上が増えれば売掛金も増加し、それに応じて調達可能額も大きくなるため、成長資金の確保に適しているのです。
さらに、ABLでは、企業の事業内容や収益構造を詳細に分析するため、金融機関との対話が深まり、単なる資金調達以上の関係構築ができるメリットもあります。事業の強みや成長性を評価してもらえることで、企業価値を再認識してもらうことにもつながります。
ABLの二重譲渡とは
ABLを利用する際に、最も注意すべきリスクの一つが二重譲渡です。
二重譲渡の法律上の規定
二重譲渡とは、同一の資産(売掛金や在庫など)を、複数の金融機関やファクタリング会社に対して、それぞれ担保として提供したり譲渡したりする行為を指します。簡単にいえば、一つの資産を二つ以上の相手に「これはあなたのものです」と約束してしまうことです。ただし、ABLにおいても、ある資産に対して後順位の担保権を設定すること自体は、必ずしも違法ではありません。しかし実務上は、ABL契約において二重譲渡を禁止する特約が設けられているケースが多いため、十分な確認が必要です。
この行為は、法律上非常に問題であるとして扱われています。まず民法上、既に他者に譲渡した資産を再度譲渡することは、譲渡人の権限を越えた行為となります。さらに悪質な場合は、刑法上の詐欺罪(最大10年以下の懲役)や有印私文書偽造罪などに問われる可能性があります。
意図的な二重譲渡は明確な犯罪行為であり、発覚した場合には刑事責任を問われるだけでなく、企業としての信用失墜につながります。また、知らずに行った場合でも、重大な契約違反として損害賠償責任を負うことになります。
ABLで二重譲渡が発生する状況
ABLにおいて二重譲渡が発生する状況は、主に次のような場合です。まず、資金繰りに困った企業が、既にABLで担保にした売掛金を、別のファクタリング会社に売却してしまうケースがあります。
次に、管理体制の不備により、既に担保提供した資産が、別の金融機関との契約に含まれてしまうケースです。特に、複数の部署や担当者が資金調達に関わる場合、情報共有が不十分だと起こりやすい問題です。
また、ABLとファクタリングを併用する際に、対象となる資産の区分が不明確になり、重複してしまうこともあります。これらの問題は、適切な管理体制と十分な知識があれば防ぐことが可能です。
二重譲渡が発覚した場合の影響
二重譲渡が発生した場合、企業にはさまざまなリスクが生じます。最も深刻なのは、法的責任です。故意に行った場合は、詐欺罪などの刑事責任を問われ、経営者個人が刑事訴追される可能性があります。
また、民事上の損害賠償責任も発生します。債権者(金融機関やファクタリング会社)から、契約違反として多額の損害賠償を請求される可能性が高く、企業経営を圧迫します。
さらに、金融機関からの信用喪失も致命的でしょう。二重譲渡が発覚すると、その企業は金融機関からの融資が受けられなくなる可能性が高く、事業継続に必要な資金調達が困難になります。これにより、二重譲渡が原因で事業継続が不可能になってしまうことも少なくありません。
二重譲渡に関するよくある誤解
二重譲渡に関する誤解の一つに、「バレなければ問題ない」という考えがあります。しかし、これは完全な誤りです。二重譲渡は、発覚しなければ罰せられないということではなく、行為自体が法律違反となります。発覚したときの影響は甚大で、企業の存続さえも危うくします。
また、「意図せず行った場合は罪に問われない」という誤解もあります。しかし、故意でなくても過失による二重譲渡は契約違反となり、民事上の責任を免れることはできません。知らなかったことは言い訳にならず、適切な管理体制の構築が求められます。
さらに、「少額なら問題ない」という誤解もありますが、金額の大小にかかわらず二重譲渡は違法行為です。小さな不正により、大きく信用を失ってしまう可能性があることを認識しておく必要があります。
ABLにおける二重譲渡の事例
二重譲渡問題は、実際の判例でも重要な論点となっています。
二重譲渡に関連する重要判例
ABLにおける二重譲渡に関する重要な判例として、平成18年最高裁判決(平成18年7月20日最高裁第一小法廷判決)があります。この判決では、売掛債権に対して、複数の担保権が設定された場合の優先順位と実行方法について、重要な指針が示されました。
判決では、債権譲渡登記の先後や対抗要件の具備の順番によって優先順位が決まること、そして後順位担保権者が単独で私的実行を行うことはできず、先順位担保権者の同意を得る必要があることが明確にされました。
この判例により、債権譲渡登記の重要性がさらに高まったといえます。二重譲渡のリスクを防ぐために、適切なタイミングで債権譲渡登記を行い、公示することが必要であると司法の場でも認められたということなのです。
実際に発生したトラブルの例
実際のビジネスシーンでも、二重譲渡によるトラブルは数多く発生しています。ある中小製造業では、資金繰りに窮した際、既にABLで担保提供していた売掛金を、別のファクタリング会社にも譲渡してしまいました。
発覚時には、両方の金融機関から取引停止措置を受け、損害賠償請求も提起され、最終的に会社は倒産に追い込まれました。経営者は、詐欺罪で起訴される事態となりました。
また別のケースでは、経理部門と営業部門の連携不足から、同じ売掛金を複数の資金調達に利用してしまうという事例も発生しています。意図的な不正ではなかったものの、結果として、取引先からの信用を大きく失墜させるという結果となりました。
二重譲渡が法的に争われた結果
二重譲渡が法的に争われると、多くの場合、対抗要件を先に具備した方が優先権を得ることになります。債権譲渡登記や債務者への通知が先に行われていた方が、法的に保護されるのです。
例えば、A社が売掛金をB銀行に担保提供し債権譲渡登記を行った後、同じ売掛金をC社に譲渡した場合、B銀行の権利が優先されます。C社は二重譲渡に気づかなかったとしても、その権利を主張することはできません。
また、二重譲渡が意図的に行われたと判断された場合は、民事上の争いだけでなく、詐欺罪として刑事責任も問われます。過去の判例では、経営者個人に対して実刑判決が下されたケースもあり、非常に重い結果をもたらす可能性があります。
ABLの二重譲渡を防ぐための対策
二重譲渡のリスクは、適切な対策をとることで大きく抑えることができます。
債権譲渡登記
ABLやファクタリングを利用する際、最も確実に二重譲渡を防止できるのが、債権譲渡登記を行うことです。債権譲渡登記とは、法務局に設置された債権譲渡登記ファイルに、どの債権がどの金融機関に譲渡されたかを公示する制度です。
登記により、その債権が既に特定の金融機関に譲渡されていることが公示され、第三者に対する対抗要件が備わります。仮に同じ債権が二重に譲渡されようとしても、登記を確認することで防止できます。
債権譲渡登記は法務局で簡単に確認できるため、金融機関も融資前にチェックすることが一般的です。企業側も積極的に登記を活用し、自社の債権状況を明確にすることで、意図せぬ二重譲渡を防ぐことができます。
社内の情報管理体制の整備
二重譲渡を防ぐためには、社内の管理体制整備が欠かせません。まず、資金調達に関わる契約情報を一元管理するシステムを構築しましょう。どの資産がどの金融機関に担保提供されているかを、常に把握できる状態にすることが重要です。
また、財務部門と営業部門の情報共有を徹底します。特に、売掛金は営業部門が管理し、資金調達は財務部門が担当するケースが多いため、部門間の連携不足が二重譲渡のリスクを高めます。定期的な情報共有会議の開催や、共有データベースの構築が効果的です。
さらに、資金調達の承認プロセスを明確化することも重要です。新たな融資契約を結ぶ前に、既存の担保提供状況を確認する手順を必ず踏むよう、社内規定を整備しましょう。複数の目でチェックする体制があれば、うっかりミスも防止できます。
金融機関との信頼関係の構築
二重譲渡を防ぐ上で、金融機関との関係性構築も重要です。まず、取引金融機関に対して、自社の資金調達状況を透明に開示する姿勢を持ちましょう。どの資産がどの金融機関に担保提供されているかを正直に伝えることで、信頼関係が構築されます。
また、複数の金融機関からABLを受ける場合は、それぞれの担保資産を明確に区分けすることが大切です。例えば、A銀行には特定取引先の売掛金、B銀行には別の取引先の売掛金というように、重複しないよう設計します。
さらに、定期的な担保資産の状況報告も効果的です。担保資産の変動状況を金融機関と共有することで、誤解や認識のずれを防ぎ、結果として二重譲渡のリスクも下げることができます。
ファクタリングとABLを併用する場合の注意点
ファクタリングとABLは併用できますが、管理が複雑になるため、注意を怠ると二重譲渡してしまう可能性が高まります。
ファクタリングとABLの違いを理解する
ファクタリングとABLは似た点もありますが、本質的に異なる資金調達手法です。ファクタリングは、売掛金を金融機関やファクタリング会社に売却して即時に現金化する方法です。売掛金の所有権自体が移転するため、原則として買戻し義務はありません。
一方、ABLは、売掛金や在庫などを担保として融資を受ける方法です。資産の所有権は企業に残ったまま、担保権が設定されるという違いがあります。融資である以上、返済義務が生じます。
この違いを理解せず両方を併用すると、同じ売掛金に対して「売却」と「担保提供」が重複するリスクが生じます。両制度の違いを正確に把握することが、安全な併用する上での基本です。
資産区分を明確にする
ファクタリングとABLを併用する場合、次に重要なのは、資産の明確な区分です。例えば、A社向け売掛金はファクタリングで現金化し、B社向け売掛金はABLの担保にするといった具合に、対象資産を重複させないようにしましょう。
資産区分を明確にするためには、取引先ごと、請求書番号ごとなど、具体的な識別方法を決めておくことが有効です。契約書にも対象資産を明記し、金融機関側と認識を合わせておきましょう。
また、併用する場合は、資産管理表を作成して常に最新状態に更新することをお勧めします。どの売掛金がどの調達手法に使われているかを、一目で確認できるようにするとよいでしょう。
金融機関と事前相談をしておく
ファクタリングとABLを併用する場合は、金融機関への事前相談が欠かせません。特に、取引先が同じ金融機関である場合は、双方の担当者を交えた打ち合わせを行い、考えうる危険性を共有しておくことが重要です。
異なる金融機関と取引する場合でも、それぞれに他社との取引状況を開示しておくことで、誤解を防ぐことができます。金融機関側もリスク管理の観点から、こうした情報開示を歓迎しています。
また、定期的な報告もするようにしましょう。資金調達状況の変化を逐次報告することで、金融機関の不安の解消につながり、長期的な信頼関係を築くことができます。
二重譲渡が発生した場合の対応
万が一二重譲渡が発生してしまった場合の対応方法について、知っておくべき内容を解説します。
初期の対応
二重譲渡が発覚した場合、最初に行うべきことは事実確認です。どの資産が、どの金融機関に、いつ譲渡されたのか正確に把握しましょう。混乱の中でも冷静に事実を整理することが重要です。
次に、関係する全ての金融機関に速やかに連絡し、状況を説明します。隠し立てせず、正直に状況を伝えることが信頼回復の第一歩です。問題を小さく見せようとして情報を小出しにすると、さらに信頼を失うことになります。
専門家(弁護士・会計士)への相談を早急に行うことも重要です。法的リスクの正確な評価と適切な対応策の検討には、専門家の助言が不可欠です。特に弁護士には、金融機関との交渉や法的リスクの軽減策について相談しましょう。
金融機関との交渉
二重譲渡問題を解決するには、関係する金融機関との誠実な交渉が欠かせません。まず、状況説明と謝罪を行った上で、具体的な解決策を提案します。例えば、他の資産を追加担保として提供する、返済スケジュールを前倒しするなどの案が考えられます。
また、関係する全ての金融機関を含めた協議の場を設定することも有効です。各金融機関の立場を尊重しながら、最善の対応をとるという姿勢が大切になります。
解決には時間がかかる場合もありますが、誠実な対応を心がけることが、信頼回復する上では非常に大切です。
まとめ
ABLは、企業の流動資産を活用した便利な資金調達方法ですが、二重譲渡のリスクには特に注意が必要です。二重譲渡は意図的であれ過失であれ、法的責任や信用失墜など深刻な問題を引き起こします。
このリスクを防ぐためには、債権譲渡登記の活用、社内管理体制の整備、金融機関との透明性確保が重要です。万が一問題が発生した場合も、迅速かつ誠実な対応が大切になります。ABLによる資金調達を検討する際は、必要に応じて専門家に相談しながら、安全に進めるようにすることを心がけましょう。
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