2025.03.07
税効果会計とは?適用方法と影響をわかりやすく解説
企業が算出する会計上の利益と税務上の所得には、しばしば相違が生じやすく、将来の納税額や課税ベースに関して不一致が起こることがあります。両者の差異を調整し、より正確な財務情報を実現するためのアプローチとして、税効果会計があります。
本記事では、税効果会計の基礎や適用手順を丁寧に解説し、そのメリットを紹介します。
税効果会計とは
税効果会計は、会計上の利益と税務上の利益のズレを調整し、適切な法人税等を損益計算書や貸借対照表に反映させる手続きです。会計上で計上された費用や収益と、税務上で認められる費用や収益が異なるために発生する差を、意識的に扱う方法となります。
企業が公表する財務諸表をより実態に近づけ、利害関係者(ステークホルダー)に正しい情報を提供することが主な目的です。
対象となる企業
税効果会計は、金融商品取引法の適用を受ける企業や、会計監査人を設置している大企業などにとっては、基本的に必須とされています。具体的には、有価証券報告書を提出する上場企業や、連結財務諸表を作成する企業が中心となるでしょう。
一方で、中小企業の場合は必ずしも義務ではありません。しかし、税効果会計を適用することによって、繰延税金資産や繰延税金負債の計上を通じて、自社の納税額や利益をより正確に把握できます。経営者が将来払う税額を把握しやすくなる利点もあるため、任意適用を検討する価値は十分にあります。
なお、将来的にIPOを目指す企業が、あらかじめ税効果会計を導入しておくと、上場審査への対応がスムーズになりやすいことが期待されます。
税効果会計の重要性
税効果会計を導入することで、会計上の利益と税務上の所得を厳密に区分できるようになります。これは投資家や金融機関からの信頼性を高め、株式や融資などの資金調達にも大きく影響する要素です。
もし税効果会計を採用していない場合、損益計算書に計上される税金費用と実際の納税額が乖離し、翌期以降の税負担やキャッシュフローに誤解が生じるおそれがあります。そのため、税効果会計はリスク管理の点でも有効です。
特に、企業価値を正確に評価するうえで、税金費用の正しい見積もりは欠かせません。こうした重要性を踏まえ、実務の中で正しく理解しておくことが重要です。
税効果会計の手順
税効果会計について、ここでは主に資産負債法による基本的なプロセスを解説し、どのような流れで一時差異を把握し、繰延税金資産や負債を計上するのかを見ていきます。
一時差異の把握
まずは、税効果会計を適用する前提として一時差異を把握しなければなりません。一時差異には、将来減算が見込まれるものと、将来加算を生じさせるものがあり、それぞれが損益計算書や貸借対照表に影響を与えます。
一時差異を大きく分類すると、将来減算につながる勘定科目は繰延税金資産、将来加算につながる勘定科目は繰延税金負債につながります。一方で永久差異と呼ばれる、会計ベースと税務ベースの差が解消されない項目は、税効果会計の対象外となります。
法定実効税率の算出
一時差異を把握したら、続いて法定実効税率の算出に進みます。法定実効税率は、法人税率や地方税の税率、一定の調整係数などを考慮して計算するもので、企業が属する地域や年度によって、変動がある点に注意が必要です。
法人税率に地方法人税や住民税、事業税を含めた合計の負担率を用いる方法が一般的で、これらを合算して実効税率を導きます。例えば、法人税率が30パーセント、その他の税率を含めた実質的負担率が約10パーセントとなれば、合算した約40パーセントが法定実効税率となるイメージです。
法定実効税率を正しく設定することは、繰延税金資産と負債の金額を適切に算出するうえで欠かせないプロセスです。
繰延税金資産と繰延税金負債の計上
繰延税金資産は、キャッシュアウトフローの削減につながる見込みを示す重要な項目です。例えば、貸倒引当金のように、会計上は先に費用処理を行うが、税務上は将来に減算が発生するとみなせるものは、繰延税金資産として計上されます。
一方、将来加算差異に対しては繰延税金負債を計上し、将来的に追加の税負担を示唆します。償却過不足による固定資産の差異や、税務上の一時的な減免措置などによって生じる可能性があります。
特に、貸借対照表上は繰延税金資産と負債を相殺表示する手続きが多くの企業で行われており、その残高の取り扱いには十分な注意が求められます。
税効果会計の影響
税効果会計を適用すると、企業の財務諸表や経営指標にどのような影響が及ぶのかをみていきましょう。円滑な資金繰りやステークホルダーとの信頼構築にもつながるため、その具体的な効果を把握しておくことが大切です。
財務諸表への影響
税効果会計を適用すると、実際に納める税額と損益計算書で認識される税金費用が一致しやすくなります。これにより、税引前当期純利益から最終的な当期純利益までの数値の整合性が高まり、投資家や金融機関などの外部利害関係者が、企業の実態をより正確に把握しやすくなるのです。
また、繰延税金資産や負債を正しく反映した貸借対照表は、企業の純資産や負債規模を適切に示し、将来の税負担の可視化にも貢献します。これにより、企業価値を客観的に評価しやすくなるのも大きな利点といえます。
このように、税と会計のズレを可視化することによって、経営者や投資家が適切な意思決定を行いやすくなる効果があります。
経営判断への影響
税効果会計を導入することで、経営者は正確な法人税等調整額を把握し、事業計画や投資判断の際にどれだけ税がかかるのか計算しやすくなります。これは単に年度末の財務報告だけでなく、中長期的な事業戦略にも大きく関わる要素です。
例えば、設備投資に伴う減価償却費の増加や、新商品開発で生じる研究開発費が、どの程度、税金の面でメリットまたはデメリットをもたらすかを可視化するのに役立ちます。また、繰延税金資産の回収可能性を検討する際には、将来の利益計画も非常に重要になります。
このとき、正確に税金額を計算に入れたキャッシュフロー分析を行うことで、より実効性の高い経営判断が可能となるでしょう。
具体例で押さえる税効果会計
実務において、税効果会計をより理解するには、具体例を見るのが効果的です。ここでは、貸倒引当金と減価償却費の扱いについて、どのように一時差異が生じ、どのように会計処理を行うのかを紹介します。
貸倒引当金のケース
貸倒引当金は、会計上一定の見込みで費用計上しておく一方、税務上は実際に貸し倒れが確定しない限り、費用として認められない場合が多い項目です。したがって、会計と税務のタイミングにズレが生じ、一時差異が発生します。
繰延税金資産を計上する際は、この貸倒引当金に関連する将来減算差異をベースに、法定実効税率を乗じた金額を計上します。経理担当者は、その差異が何年度にどの程度解消されるかを見極めつつ、回収可能性の判断も行わなければなりません。
最終的に、法人税等調整額として貸倒引当金の効果を反映することで、損益計算書の税金費用が当期の実態に近い数字になります。
減価償却費の扱い
設備投資を行うと、会計上は耐用年数に従い減価償却費を配分していきます。しかし、税務上の減価償却方法や耐用年数が会計基準と必ずしも一致するわけではないため、一時差異が生じます。
会計上の減価償却費が税務上の償却費より多い場合、将来加算差異が発生し、繰延税金負債として計上されることになります。一方、税務上の償却費が大きく会計上の費用を上回ると、将来減算差異が発生し、繰延税金資産が計上される可能性があります。
つまり、資産負債法に基づく将来解消時点の税率を考慮することで、減価償却費の差異を正しく財務諸表に反映させることが重要です。
仕訳計上の流れを確認する
具体的な仕訳例として、会計上の減価償却費が税務上より1万円多かったケースを想定しましょう。ここで発生する一時差異1万円に対して、たとえば法定実効税率30パーセントを乗じると、3千円の繰延税金負債を計上する計算になります。
これを仕訳に落とし込む際は、借方に法人税等調整額、貸方に繰延税金負債といった形で記録します。財務諸表上では、貸借対照表の繰延税金負債として表され、損益計算書には同額の法人税等調整額が加算されるイメージです。
ここでは、回収可能性と逆の視点の負債リスクも視野に入れ、収益管理を行うことが求められます。
税効果会計における注意点
税効果会計を適用するうえで、繰延税金資産の回収可能性をどのように評価するかは極めて重要です。
回収可能性
繰延税金資産は、将来の課税所得を減らす効果があるため、過去の損失繰越や一時差異によって大きく変動します。ただし、将来の課税所得が見込めない場合、繰延税金資産を計上していても回収できないリスクが存在します。
回収可能性を検証する際には、企業の事業計画、将来的な黒字化の見通し、業界動向などを踏まえて合理的に判断する必要があります。短期的には赤字が続いていても、中長期的に収益が改善する根拠があれば繰延税金資産を維持できるケースもあります。
経営者や監査人は、実現可能性を伴う利益計画であるかどうかを慎重に確認し、必要に応じて繰延税金資産を見直すことが求められます。
税率の変更
国の税制改正により法定実効税率が変わる場合、繰延税金資産や負債の金額も変動します。基本的には、変更が正式に決定した段階で、将来解消が見込まれる期間の税率を適用し直す必要があります。
これにより、企業の純資産や当期純利益に影響が及び、場合によっては株式市場での評価にも影響する可能性があります。経営陣は税制改正情報を常に把握し、適切なタイミングで財務計画を見直すことが大切です。
このとき、将来解消時の税率更新を迅速に反映しないと、財務報告の正確性を損なうリスクがあります。
表示と開示
貸借対照表では、繰延税金資産と繰延税金負債を相殺表示することが一般的です。ただし、投資家などの利害関係者が正しく理解できるように、注記で詳細を示す必要があります。
また、損益計算書の法人税等の項目において、当期納付額と税効果による調整額を明確に分けて開示することで、より実態に即した税負担を示すことができます。特に、国際会計基準(IFRS)の適用企業では、開示に関する要件がさらに求められる場合もあるので注意が必要です。
さらに、監査法人や投資家から開示の妥当性や整合性を問われる場面も多いため、表示と開示の方針を社内で明確にしておくと安心です。
まとめ
税効果会計は、会計上の利益と税務上の利益の差を補正し、財務数値を正確に示すための重要な手続きです。
正しい税効果会計の導入は、企業の財務諸表の透明性をより高くし、投資家や金融機関からの信頼を得る近道です。自社の経営状況を正確に把握しつつ、必要に応じて税理士等の専門家のサポートも活用しながら適用することが大切になります。