2025.01.31
財務分析の基本とは?指標の読み解き方を解説
事業を行う上で資金調達や資金運用は重要な課題です。しかし、財務諸表を見ただけでは、自社の経営状況を正しく把握することは難しいかもしれません。そこでおすすめしたいのが、財務分析です。
この記事では、財務分析の基本的な考え方や手法について解説します。決算書から読み取れる数値の意味を理解し、自社の収益性や安全性、成長性、効率性などを多角的に評価する方法を学ぶことで、経営課題の発見や改善策の立案に役立てることができるでしょう。
財務分析とは
財務分析とは、企業の決算書を用いて経営状況を分析する手法のことをいいます。財務諸表から得られる数値を基に、様々な指標を算出し、企業の収益性や安全性、効率性などを多角的に評価します。ここでは、財務分析の基本的な概念ついて説明します。
財務分析の目的
財務分析の目的は大きく分けて4つあります。1つ目は経営課題の発見です。財務データを詳細に分析することで、企業の強みや弱点、改善すべき点などを明らかにできます。2つ目は事業継続性の評価です。倒産リスクや資金繰りの状況を把握し、企業の存続可能性を判断します。
3つ目は経営戦略の立案です。財務分析で得られた知見を基に、企業の将来像を描き、その実現に向けた具体的な施策を検討します。4つ目は投資判断材料の提供です。投資家や金融機関は、財務分析の結果を参考にして、投資先や融資先の選定を行います。
決算書を用いた経営状況の分析手法
財務分析の基本となるのは、決算書と呼ばれる財務諸表です。中でも重要なのが、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/S)の3つです。
貸借対照表は、企業の資産、負債、純資産の状況を表したものです。資産は企業が保有する経済的資源、負債は将来支払わなければならない債務、純資産は資産から負債を差し引いた残りの部分を指します。
損益計算書は、一定期間の収益と費用、そしてその差額である利益を表したものです。売上高から売上原価を引いた売上総利益、さらに販売費及び一般管理費を控除した営業利益、営業外収益・費用を加減した経常利益などが主な項目です。
キャッシュフロー計算書は、現金の流れを表したものです。営業活動、投資活動、財務活動の3つの区分で、どのような活動で資金が増減したかを把握できます。
これらの財務諸表から、収益性、安全性、生産性、効率性、成長性などに関する各種指標を算出します。例えば、収益性分析では売上高総利益率や売上高営業利益率、安全性分析では流動比率や自己資本比率、効率性分析では総資本回転率などがよく用いられます。
経営課題発見と事業継続性評価
財務分析の主要な目的の1つは、経営課題の発見です。各指標を時系列で追跡したり、同業他社と比較したりすることで、自社の強みや弱みを浮き彫りにできます。例えば、売上高は伸びているのに利益率が低下している場合、コスト管理に問題があると考えられます。
また、財務の健全性を評価することで、事業継続性の判断も可能です。流動比率や自己資本比率が低く、借入金の返済が滞っていれば、倒産リスクが高いといえるでしょう。キャッシュフロー計算書も、資金繰りの状況を知る上で重要な情報源となります。
経営戦略立案と投資判断材料提供
財務分析は、経営戦略の立案にも活用されます。自社の強みを生かし、弱みを克服するための具体的な施策を検討する際、財務データは欠かせない材料となります。例えば、設備投資による生産性向上や、新市場開拓による売上拡大などの戦略を練る上で、財務シミュレーションは有効です。
さらに、財務分析の結果は、投資家や金融機関の意思決定にも影響を与えます。彼らは、財務諸表から読み取れる企業の収益力や成長性、安定性などを重視します。優れた財務体質は、投資や融資を呼び込む要因になり得ます。
財務分析に用いる3つの財務諸表
財務分析を行う上で、3つの基本的な財務諸表を理解することが不可欠です。それぞれの財務諸表の構成要素や役割を把握し、相互の関連性を踏まえて分析することが重要となります。
貸借対照表(B/S)
貸借対照表は、ある時点における企業の財政状態を表す財務諸表です。主な構成要素は、資産、負債、純資産の3つです。
資産は、企業が保有する経済的資源を表し、流動資産と固定資産に分類されます。負債は、企業が返済義務のある債務を意味し、流動負債と固定負債に分けられます。純資産は、資産から負債を差し引いた残りの部分で、企業の純粋な持ち分を表します。
損益計算書(P/L)
損益計算書は、一定期間における企業の経営成績を表す財務諸表です。主な構成要素は、収益、費用、利益の3つです。
収益は、企業の事業活動によって得られた経済的便益の流入を意味します。費用は、収益を得るために要した経済的資源の流出を表します。利益は、収益から費用を差し引いた残りの部分で、企業の経営成績を示す重要な指標となります。
キャッシュフロー計算書(C/S)
キャッシュフロー計算書は、一定期間における企業の現金収支の状況を表す財務諸表です。営業活動、投資活動、財務活動の3つの区分に分けて、現金の流れを明らかにします。
営業活動によるキャッシュフローは、企業の本業から生み出された現金の動きを表します。投資活動によるキャッシュフローは、設備投資や有価証券の売買など、長期的な資金の増減を示します。財務活動によるキャッシュフローは、資金調達(借入・増資など)や返済、配当金の支払いなど、資金調達に関連する現金の流れを表します。
財務分析の主要指標
財務分析を行う上で、企業の経営状況を多角的に評価するためには、様々な指標を総合的に判断する必要があります。
ここでは、財務分析の主要な指標について、その意味と計算方法を解説します。
収益性分析指標
収益性分析指標は、企業の収益力を評価するための指標です。
その中でも、売上高利益率は企業の基本的な収益力を表す重要な指標といえます。
売上高利益率には、売上高総利益率、売上高営業利益率、売上高経常利益率などがあります。売上高総利益率は、売上高から売上原価を差し引いた売上総利益を売上高で割ることで求められ、企業の粗利益率を示します。
売上高営業利益率は、営業利益を売上高で割ることで算出され、本業の収益力を表します。一方、売上高経常利益率は、経常利益を売上高で割ることで求められ、本業以外の金融収支なども含めた企業全体の収益力を示します。
これらの指標は、同業他社との比較や経年変化を確認することで、企業の収益性の評価や課題の特定に役立ちます。
安全性分析指標
安全性分析指標は、企業の財務健全性や倒産リスクを評価するための指標です。
その中でも、流動比率と自己資本比率は特に重要な指標といえます。
流動比率は、流動資産を流動負債で割ることで求められ、短期的な支払能力を示します。一般的に、流動比率が100%以上であれば、短期的な支払いに問題がないと判断されます。
自己資本比率は、自己資本を総資本で割ることで算出され、企業の財務の安定性を表します。自己資本比率が高いほど、企業の財務基盤が強固であると評価されます。
これらの指標は、企業の倒産リスクを判断する上で重要な役割を果たします。流動比率や自己資本比率が低い企業は、資金繰りに問題を抱えている可能性が高く、注意が必要です。
生産性分析指標
生産性分析指標は、企業の生産効率や従業員の貢献度を評価するための指標です。
その中でも、労働生産性と労働分配率は、従業員の生産性と報酬の関係を示す重要な指標といえます。
労働生産性は、付加価値額を労働投入量で割ることで求められ、従業員一人当たりの付加価値創出力を表します。労働生産性が高いほど、従業員の生産効率が高いと評価されます。
一方、労働分配率は、人件費を付加価値額で割ることで算出され、創出された付加価値のうち、どの程度が従業員に分配されているかを示します。労働分配率が高すぎると、企業の収益性が圧迫される可能性があります。
これらの指標は、企業の生産性向上や適正な人件費管理を行う上で重要な役割を果たします。労働生産性と労働分配率のバランスを考慮しながら、生産性の向上と従業員の処遇改善を図ることが求められます。
効率性分析指標
効率性分析指標は、企業の資産運用効率を評価するための指標です。
その中でも、資本回転率と在庫回転率は、資産の活用状況を示す重要な指標といえます。
資本回転率は、売上高を総資本で割ることで求められ、企業の資本がどの程度効率的に活用されているかを表します。資本回転率が高いほど、資本の回転が速く、効率的な経営が行われていると評価されます。
在庫回転率は、売上原価を棚卸資産で割ることで算出され、在庫の回転速度を示します。在庫回転率が高いほど、在庫の滞留期間が短く、効率的な在庫管理が行われていると判断されます。
これらの指標は、企業の資産運用効率を向上させるための施策を検討する上で重要な役割を果たします。資本回転率や在庫回転率が低い場合は、資産の有効活用や在庫管理の改善が必要とされます。
成長性分析指標
成長性分析指標は、企業の成長力や将来性を評価するための指標です。
その中でも、売上高増加率と利益増加率は、企業の成長性を示す重要な指標といえます。
売上高増加率は、当期の売上高から前期の売上高を差し引き、前期の売上高で割ることで求められます。売上高増加率が高いほど、企業の成長力が高いと評価されます。
利益増加率は、当期の利益から前期の利益を差し引き、前期の利益で割ることで算出されます。利益増加率が高いほど、企業の収益性が向上しており、将来の成長が期待できると判断されます。
これらの指標は、企業の成長戦略を立案する上で重要な役割を果たします。売上高や利益の増加率が低迷している場合は、新たな成長戦略の策定や事業の見直しが必要とされます。
財務分析の実施手順と注意点
財務分析を適切に実施するためには、一定の手順を踏まえつつ、分析目的を明確にすることが重要です。ここでは、財務分析を行う際の実施手順と注意点について解説します。
必要な決算書の準備と基本項目の確認
財務分析を行うにあたり、まずは必要な決算書を準備する必要があります。通常、直近2期分の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を用意します。
決算書が揃ったら、基本項目の確認を行いましょう。具体的には、売上高、営業利益、経常利益、当期純利益などの主要な数値を把握し、前期との比較を行います。これにより、会社の全体的な業績状況を概観することができます。市表計算や指標の経年比較を実施するには、各種の財務諸表を表計算ソフトウェアに転記しておくと便利です。
黒字/赤字の判断と倒産リスクの評価
基本項目の確認後は、会社が黒字なのか赤字なのかを判断します。損益計算書の当期純利益がプラスであれば黒字、マイナスであれば赤字といえます。
また、倒産リスクの評価も重要です。流動比率や自己資本比率などの安全性分析指標を算出し、適正水準と比較することで、会社の財務健全性を確認しましょう。倒産リスクが高いと判断された場合は、早急な対策が必要となります。
業界比較と経年変化の重要性
財務分析を行う際は、業界平均との比較や経年変化の確認が欠かせません。自社の数値が業界内でどの程度の位置にあるのかを把握することで、強みや弱みを明らかにすることができます。
また、経年変化を追うことで、会社の業績推移や財務状態の変化を時系列で捉えることが可能です。単年度の数値だけでなく、中長期的な視点から分析を行うことが肝要といえます。
目的に応じた詳細分析の実施
財務分析の目的は、経営課題の発見、事業継続性の評価、経営戦略の立案、投資判断材料の提供など、多岐にわたります。目的に応じて、適切な分析指標を選択し、詳細な分析を実施することが求められます。
例えば、収益性の改善が目的であれば、売上高総利益率や売上高営業利益率などの分析が有効でしょう。一方、事業の効率性を評価するためには、総資本回転率や棚卸資産回転率などの指標が役立ちます。
分析結果の適切な解釈と活用方法
財務分析で得られた結果は、適切に解釈し、活用することが重要です。数値の良し悪しを判断するだけでなく、その要因を探ることが必要不可欠です。
分析結果をもとに、経営改善策の立案、投資判断、リスク管理、事業計画の策定など、具体的なアクションにつなげていくことが求められます。財務分析は単なる数値の羅列ではなく、経営の意思決定を支援するための重要なツールといえるでしょう。
財務分析結果の活用シーン
財務分析を適切に行うことで、企業の成長戦略の立案に役立てることができます。ここでは財務分析結果を活用できるシーンについて、具体的な例を見ていきます。
経営改善策立案への反映
財務分析の結果は、企業の経営改善策を立案する際に大いに役立ちます。分析結果から浮かび上がった課題や問題点を的確に把握することで、それらを解決するための具体的な施策を講じることができるでしょう。
例えば、収益性分析で売上高営業利益率が低下傾向にあることが判明した場合、コスト削減や価格戦略の見直しなどの対策を検討する必要があります。また、安全性分析で自己資本比率が低いと判断された場合は、資本政策の改善や資産の効率的運用などを通じて財務体質の強化を図ることが求められます。
このように、財務分析で得られた知見を活用することで、経営課題に対して適切かつ迅速な意思決定を下すことができます。それにより、企業の業績回復や持続的成長に向けた確かな一歩を踏み出せるといえます。
投資判断やリスク管理への応用
財務分析の結果は、投資家にとって企業評価の重要な判断材料となります。企業の財務状況を多角的に分析することで、投資先の選定やポートフォリオ構築の意思決定に役立てることができるでしょう。
また、財務分析は企業のリスク管理においても欠かせない手法です。例えば、流動比率や当座比率といった安全性指標を注視することで、資金繰りリスクの早期発見と対策に繋げられます。加えて、売上債権回転率や棚卸資産回転率などの効率性指標を改善することで、運転資金の適正化を図り、財務リスクを低減させることも可能となります。
このように、財務分析で得られた情報を投資判断やリスク管理に活用することで、企業経営の安定性向上と投資リターンの最大化を同時に追求できるといえるでしょう。財務の専門知識を駆使して分析結果を多面的に解釈し、意思決定に反映させる力が求められます。
事業計画策定における財務分析の役割
財務分析は、事業計画の策定においても重要な役割を果たします。過去の財務データを詳細に分析することで、自社の強みと弱みを客観的に把握でき、それを踏まえて将来の事業戦略を立案することができるでしょう。
例えば、成長性分析で売上高増加率や経常利益増加率が高い事業セグメントを特定できれば、その分野に経営資源を集中投下することで、さらなる業容拡大を目指せます。一方、収益性が低迷している事業については、撤退や縮小も視野に入れた計画を検討する必要があります。
また、財務分析で得られた数値目標を事業計画に落とし込むことで、より具体的かつ実現可能性の高い計画を立案できます。目標達成に向けて、セグメントごとの施策を立案し、適切な資源配分を行うことが大事になります。
ステークホルダーとのコミュニケーションツールとしての活用
財務分析の結果は、株主や投資家、金融機関などのステークホルダーに対する重要なコミュニケーションツールとしても活用できます。自社の経営状況を財務数値に基づいて説明することで、ステークホルダーの理解と信頼を得ることができるでしょう。
例えば、株主総会や投資家向け説明会において、財務分析で明らかになった経営課題と対応策を丁寧に説明することで、自社の経営方針に対する賛同を得られる可能性が高まります。また、資金調達の際には、財務の健全性をアピールすることで、金融機関からの融資獲得にも有利に働くでしょう。
加えて、財務分析の結果をわかりやすく可視化し、社内の各部門に共有することで、全社一丸となった目標達成への取り組みを促すことができます。経営層から従業員まで、財務の視点を持って業務にあたることの重要性を浸透させることができるでしょう。
まとめ
本記事では、財務分析の基本について解説してきました。財務分析は、決算書から読み取れる数値を基に、企業の収益性や安全性、効率性など、様々な観点から経営状況を評価する手法です。
財務分析を行う際は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つの基本財務諸表を用いて、主要な指標を算出します。これらの指標を総合的に判断することで、経営課題の発見や事業継続性の評価、経営戦略の立案などに役立てることができます。
事業資金の調達や運用に課題を感じている方は、ぜひ財務分析を実践してみてください。