2025.06.23
担保掛目とは?担保評価額の計算方法や目安についても解説
企業が、銀行などの金融機関から事業資金を調達する際には、不動産や有価証券を担保として提供するのが一般的です。しかし、担保にした不動産の評価額に対して、実際にどの程度の融資を受けられるのかを明確に把握することは簡単ではありません。このとき、融資額を決定するために用いられる重要な指標が、「担保掛目」です。
担保掛目とは、金融機関が担保評価額のうち、どの程度を融資可能額として認めるかを示した割合であり、金融機関がリスクを管理するうえで重要な役割を果たしています。この担保掛目を正しく理解することによって、自社が保有する資産を活用した、具体的な資金調達の可能性を把握することができるようになります。
本記事では、担保掛目の定義や具体的な計算方法、不動産の種類別の一般的な目安、金融機関ごとの違いなどについて詳しく解説します。これらを知ることで、自社の資産を効果的に資金調達に役立てるための判断材料となります。
担保掛目の基本
融資において担保は重要な要素ですが、その価値がそのまま融資額になるわけではありません。ここでは、担保掛目の基本的な考え方について解説します。
担保掛目とは
担保掛目とは、担保として提供される資産の評価額に対する融資可能額の割合を示す指標です。例えば、担保掛目が70%の場合、1,000万円の担保評価額に対して700万円までの融資が可能となります。
この指標は、金融機関が融資の安全性を確保するための重要な数値であり、リスク管理の基本指標として使用されています。担保掛目が低いほど、金融機関にとっては安全性が高く、高いほど、借り手にとって有利になります。
担保掛目は単なる数字ではなく、金融機関が将来の市場変動や価格下落リスク、担保処分時の損失可能性などを総合的に考慮して設定する値です。つまり、「万が一、借り手が返済不能になった場合でも、担保を売却して貸付金を回収できる」という金融機関の安全装置なのです。
担保掛目が設定される理由
金融機関が担保掛目を設定する主な理由は、融資にまつわるリスク管理です。具体的には、次のような要因が考慮されています。
まず、不動産などの資産価値は常に変動するため、将来的な価格下落リスクに備える必要があります。特に経済状況の悪化時には、不動産価格が大幅に下落することがあり、そのようなシナリオを想定した余裕をもたせています。
次に、担保を実際に換金する際には、さまざまな手続きコストや時間が必要になります。競売や任意売却の際の手数料、税金、維持管理費など、処分コストを考慮した設定が不可欠なのです。
さらに、担保物件の流動性も重要な判断基準となります。人気のある立地の物件と過疎地域の物件では、同じ評価額であっても売却のしやすさが大きく異なります。流動性の低い物件ほど、担保掛目は低く設定される傾向にあります。
担保掛目の計算方法
担保掛目は、担保の種類や状態によって異なりますが、一般的な水準と具体的な計算方法を理解することで、自社が保有する資産から、どの程度の融資を受けられるか把握できます。
一般的な担保掛目の水準
担保掛目は、担保の種類や状態によって大きく変動しますが、一般的には、不動産担保で60〜80%程度の範囲内に設定されることが多いでしょう。特に、市街地の優良物件では80%近い設定も見られますが、地方の物件や特殊な用途の不動産では、50%程度まで下がることもあります。
不動産の種類別に見ると、土地は比較的安定した価値を持つため、更地の場合は70〜80%と高めに設定されることが多いものです。一方、建物は経年劣化により価値が減少するため、建物部分の掛目は50〜70%程度に抑えられる傾向があります。
有価証券を担保とする場合は、株式の種類によって大きく異なります。上場企業の株式であれば70〜80%程度の掛目が期待できますが、非上場株式では流動性に期待できないため、かなり低めの設定となることが一般的です。むしろ、非上場株式は担保としない金融機関も多いでしょう。
債券や定期預金などの安定した金融商品では、80〜95%という高い掛目が適用されることもあります。特に、国債などリスクの低い商品ほど高い掛目となります。
担保掛目を用いた融資可能額の計算方法
担保掛目を用いた融資可能額の計算は、基本的に単純です。以下の計算式で求めることができます。
融資可能額=担保評価額×担保掛目
例えば、評価額5,000万円の商業ビルがあり、担保掛目が70%の場合の計算は、次のようになります。
5,000万円×70%=3,500万円
しかし、複数の担保が混在する場合は、少し複雑になります。例えば、土地と建物が混在する場合は、それぞれに異なる掛目が適用されることがあります。
土地評価額3,000万円(掛目80%)+建物評価額2,000万円(掛目60%)の場合は、次のように計算されます。
(3,000万円×80%)+(2,000万円×60%)=2,400万円+1,200万円=3,600万円
担保評価額自体も物件の状態、立地、市場動向などによって変動するため、最終的な融資可能額の正確な把握には、金融機関の査定が必要です。
不動産種類別の担保掛目の目安
不動産の種類によって、担保としての評価は大きく異なります。ここでは、主要な不動産カテゴリー別に、掛目の一般的な目安を解説します。
土地の担保掛目
土地は、原則として価値が減少しない資産として、比較的高い担保掛目が適用される傾向があります。特に都市部の住宅地や商業地では、70〜80%の掛目が期待できます。
土地の担保掛目は、立地条件に大きく左右されます。アクセスの良い市街地や発展地域の土地は高い掛目となる一方、郊外や過疎地域では立地条件による格差が生じます。地方の土地では、50〜60%程度まで下がることもあります。
また、土地の形状や接道状況も重要な判断材料となります。整形地で前面道路の広い土地は高評価される一方、不整形地や接道条件の悪い土地は、低い掛目となることが一般的です。
さらに、土地の用途地域や建築条件も影響します。住宅地域や商業地域として活用できる土地は、高く評価される傾向がありますが、工業専用地域や市街化調整区域などの利用制限がある土地は、低めの掛目となります。
建物の担保掛目
建物は経年劣化により価値が減少するため、一般的に、土地よりも低い担保掛目が適用されます。新築の場合は60〜70%程度の掛目が見込めますが、築年数の経過とともに下がっていきます。
建物構造も重要な判断基準です。鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物は、耐用年数が長いため比較的高い掛目となりますが、木造建築は構造による耐久性の差から低めに設定されることが多いでしょう。
建物の用途も担保掛目に影響します。汎用性の高い一般住宅やオフィスビルは、高めの掛目が期待できますが、特殊な用途向けの建物(工場、温泉施設など)は、転用が難しいため低めの掛目となる傾向があります。
建物の維持管理状態も担保価値を左右します。定期的なメンテナンスが行われている建物は評価が高まりますが、修繕が必要な状態や設備が古い場合は、掛目が下がることがあります。
収益不動産の担保掛目
アパートやマンション、商業ビルなどの収益不動産は、安定した家賃収入が期待できるため、条件が良ければ比較的高い担保掛目が設定されることがあります。一般的には、60〜75%程度の範囲内で設定されることが多くあります。
収益不動産の場合、建物自体の価値よりも、そこから生み出される賃料収入に基づく収益還元法による評価が、重視されるケースがあります。安定した入居率と賃料水準を維持している物件ほど、高い掛目が期待できます。
立地条件も重要です。駅近やアクセスの良い場所の収益物件は、需要が安定しているため高く評価される傾向にあります。一方、地方や郊外の物件は、入居率の変動リスクが大きいため、掛目が低めに設定されることがあります。
また、入居者の属性や契約内容も影響します。法人テナントとの長期契約が多い物件は、安定性が高く評価される一方、個人向け短期契約が中心の物件は、掛目が抑えられる場合があります。
担保評価額の算出方法
担保掛目を適用する前提となる担保評価額の算出方法は、融資可能額を左右する重要な要素です。ここでは、主な評価方法と注意すべきポイントを解説します。
不動産評価の一般的手法
不動産評価には、主に原価法、取引事例比較法、収益還元法という3つの手法があります。金融機関は、これらを組み合わせて評価を行うことが一般的です。
原価法は、その不動産を現在再調達するためのコストを基準に評価する方法です。土地の価格に、建物の再建築費用から経年劣化による減価を差し引いた金額を合計して算出します。この方法は、特に建物の価値評価に用いられます。
取引事例比較法は、類似の不動産の取引事例を参考に評価する方法で、市場実勢を反映した評価が可能です。公示地価や路線価、実際の取引事例などを基に、立地条件や建物状態などの違いを調整して評価額を算出します。
収益還元法は、その不動産から将来得られる収益を、現在価値に換算して評価する方法です。特に収益物件(アパート、マンション、商業ビルなど)の評価に適しており、年間賃料収入から経費を差し引いた純収益を還元利回りで割って算出します。
金融機関によっては、これらの評価額に加えて、公的な評価指標である固定資産税評価額や、相続税路線価を参考にすることもあります。
公的評価と市場評価の違い
不動産評価において、公的評価と市場評価には大きな違いがあり、その認識は資金調達の際に重要です。
公的評価には、固定資産税評価額、相続税路線価、公示地価などがあります。固定資産税評価額は市場価格の約70%程度、相続税路線価は市場価格の約80%程度に設定されているといわれています。これらの評価額は、税金の計算基準として利用されるもので、公的評価と市場価格のギャップがあることを理解する必要があります。
一方、市場評価は、実際の取引で形成される価格であり、不動産鑑定士による鑑定評価や不動産会社による査定額などがこれに当たります。金融機関は通常、独自の調査や不動産鑑定士の評価を基に、実際の市場価値を推定して担保評価額を決定します。
金融機関によっては、こうした公的評価額を一定の掛け率で調整して担保評価の参考とすることもあります。例えば、固定資産税評価額の1.4倍、路線価の1.25倍といった計算で、市場価値を概算する方法も実務では用いられています。
ただし、これらはあくまで目安であり、実際の担保評価額は、金融機関の審査担当者や不動産鑑定士が物件を個別に評価して決定します。
金融機関別の担保掛目の違い
融資を検討する際には、金融機関によって、担保掛目の設定に違いがあることを理解しておくことが重要です。ここでは、金融機関の種類別に担保掛目の特徴を解説します。
銀行や信用金庫の担保掛目
都市銀行や地方銀行などの銀行と、信用金庫では担保掛目の設定に若干の違いが見られます。一般的に、都市銀行は規模が大きく、多くの融資実績を持つため、リスク管理体制が整っていることから、比較的高めの担保掛目を設定できることがあります。
都市銀行の場合、優良物件では70〜80%程度の担保掛目を適用することが多くあります。特に、都心部の商業地や住宅地の担保評価は、高い傾向にあります。一方、地方銀行も都市銀行に近い水準ですが、地域特性を考慮した地域密着型の評価基準を持っていることが特徴です。
信用金庫は、地域に密着した金融機関として、地域の不動産事情に詳しいという強みがあります。担保掛目は、銀行より若干低めに設定されることが多く、60〜70%程度が一般的です。しかし、地域内の優良物件については、柔軟な対応をすることもあります。
また、融資額の規模によっても対応が異なります。比較的小規模な融資では、担保掛目を高めに設定するケースがある一方、大型融資では、慎重な判断から低めの掛目となることがあります。
政府系金融機関の担保掛目
日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関は、政策的な融資を行うという特性から、民間金融機関とは異なる担保掛目の考え方を持っています。
日本政策金融公庫の場合、一般的に、担保掛目は60〜70%程度に設定されることが多いですが、特定の政策目的(災害復興、新技術開発など)に沿った融資では、政策的観点からの柔軟な対応が見られることがあります。
また、政府系金融機関は不動産担保だけでなく、保証協会の保証や他の担保と組み合わせることで、より高い融資額を実現できる場合があります。例えば、不動産担保と信用保証協会の保証を組み合わせることで、不動産評価額以上の融資を受けられることもあります。
商工組合中央金庫(商工中金)は、中小企業向けの政府系金融機関として、業界や業種の特性を理解した融資を行います。特に業務用の不動産や工場など、民間金融機関では担保評価が難しい物件についても、専門的知見から適切な評価と掛目設定を行うことがあります。
政府系金融機関の融資は、金利面でも有利なケースが多く、不動産担保を活用した資金調達を検討する際には、選択肢の一つとして考慮する価値があります。
担保評価額をより大きくするためのポイント
より多くの資金調達を実現するためには、担保掛目を少しでも高くしてもらうための工夫が重要です。ここでは、実践的なポイントを解説します。
不動産の価値を高める
担保評価を高めるためには、不動産の状態や法的整備を適切に行うことが重要です。まず、建物の適切なメンテナンスと修繕は、評価額を維持するために不可欠です。特に、外壁の塗り替えや設備の更新など、適切な時期のリノベーションは、投資以上の評価向上につながることがあります。
土地については、境界確定や測量図の整備が重要です。未確定の境界がある場合、金融機関は担保評価を大幅に引き下げることや、担保として認めないケースもあります。事前に隣接地権者との境界確認を済ませ、法務局で地積更正を行っておくことで、正確な評価を受けやすくなります。
また、法的リスクの解消も重要です。建築基準法違反や都市計画法違反がある物件は、担保価値が著しく低下します。接道義務や建ぺい率・容積率などの法的要件を満たしているか確認し、必要に応じて是正しておくことが望ましいものです。
収益不動産の場合は、賃貸契約の整備と安定した入居率の維持が、評価向上につながります。長期契約の優良テナントを確保し、空室率を低く抑えることで、収益還元法による評価が高まります。
交渉での適切な説明
金融機関との交渉では、適切な情報提供と説明が、担保掛目の向上につながります。まず、複数の金融機関に相談することで、より有利な条件を引き出せる可能性があります。各金融機関によって評価基準や掛目設定に違いがあるため、比較検討による交渉力の強化が可能です。
交渉に際しては、不動産の価値を客観的に証明できる資料を用意することが重要です。不動産鑑定評価書があれば、最も説得力がありますが、不動産会社の査定書や近隣の取引事例資料なども有効です。また、固定資産評価証明書や登記簿謄本、建物図面なども必須の書類となります。
収益不動産の場合は、過去数年間の収支状況や入居率の推移、賃貸契約書のコピーなど、安定した収益性を示す資料が重要です。また、修繕履歴や今後の修繕計画を示すことで、適切な管理体制をアピールできます。
企業の資金繰り計画や、返済能力を示す資料も準備しましょう。担保価値だけでなく、返済能力が高いと判断されれば、金融機関はより柔軟な対応をしてくれる可能性があります。財務諸表や事業計画書、キャッシュフロー予測などを整理して提示することが効果的です。
まとめ
担保掛目は単なる数値ではなく、金融機関がリスク管理のために慎重に設定する重要な指標です。不動産の種類や状態、立地条件、市場性によって60〜80%の範囲で設定されるのが一般的であり、これによって実際の融資可能額が決まります。
自社の不動産や有価証券を担保に、資金調達を検討している経営者や担当者は、担保掛目の概念を理解した上で、事前に資産価値を高める工夫や適切な書類準備を行うことが重要です。また、複数の金融機関に相談し、担保評価や掛目の違いを比較検討することで、より有利な条件での融資を実現できる可能性があります。必要に応じて、保証協会の保証や複数担保の組み合わせなど、担保不足を補完する方法も検討してみましょう。
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