法人税別表とは?内容や注意点を解説

会社が金融機関に決算書を提出する場合には
税務申告書のすべてを提出することを想定しているという話をしました。

その中に、「法人税別表」という一連の書類があります。

この書類は、実際の決算数値の分析に使用することはないのですが
会社の税務申告の適正性や、決算数値の粉飾の判定のために
金融機関の審査担当者が確認することがありますので
簡単にコラムにして解説します。

 

決算書提出と金融機関審査の重要ポイント

会社が金融機関に決算書を提出する際には、税務申告書のすべてを提出する必要があります。

特に法人税別表は、決算数値の正確性や税務申告の適正性を確認するために重要な資料として扱われます。
金融機関の審査担当者は、これらの書類を基に企業の財務状況を詳細に分析し、融資の可否を判断します。

決算書は企業の経営実態を示す指標であり、収益性や財務の健全性を客観的に評価するために利用されます。
融資審査では、過去の業績だけでなく、将来の事業計画との整合性や収益性の持続可能性についても検証されます。
そのため、決算書は単なる数値の羅列ではなく、経営戦略や事業運営の方針を反映したものである必要があります。

また、税務申告の内容が適正であることは、企業の信頼性を高める重要な要素です。
提出された決算書に粉飾や不備が見つかった場合、金融機関からの信用を損ない、融資審査の通過が困難になる可能性があります。特に法人税別表では、企業の収益構造や資産状況が詳しく記載されており、粉飾の兆候や税務処理の不備がないか厳しくチェックされます。

金融機関の審査担当者は、これらの書類を細部まで確認し、数値の整合性や会計処理の透明性を評価します。
提出書類に誤りや疑義が生じないように、申告内容をしっかりと精査し、必要に応じて税理士や専門家と連携を図ることが重要です。

このように、決算書や法人税別表は金融機関との信頼関係を構築するための基本資料であり、適切に準備・提出することが資金調達成功への第一歩となります。

本記事では、法人税別表の具体的な項目と審査時に重視されるポイントについて解説していきます。

法人税別表の役割と審査時の確認項目

法人税別表は、決算内容の詳細な情報を示す重要な書類群です。
以下では、各別表の役割と金融機関の審査担当者が確認するポイントについて解説します。

 

別表1:所得申告と粉飾のチェック

別表1は、「各事業年度の所得に関わる申告書」です。
この書類によって、青色申告か白色申告かを確認します。

ほとんどの中小企業は、税制の優遇措置(損失の繰り越しなど)を受けるために青色申告を行っています。
しかし、決算申告を3期連続で行わないなどの特別な事情がある場合は、青色申告が取り消され、白色申告に変更されてしまいます。

金融機関の審査担当者は、白色申告をしている場合には「青色申告が取り消された理由」に疑問を持つことが多く
この点は審査の可否に大きな影響を与えます。
そのため、白色申告に至った経緯や理由については、事前に担当者が納得できるよう説明する必要があります。

また、税務署の収受印や電子申告の受信通知の確認も行われます。
これは、金融機関に提出する決算書が、融資目的で粉飾されていないかをチェックするためです。
したがって、決算申告書は税務申告期限内に提出し、期限を遵守していることを示す必要があります。

さらに、税務申告書には、関与した税理士の署名が必須です。
署名がない場合、粉飾の疑いを強く持たれる可能性があります。

また、毎期ごとに関与税理士が変更されることも、審査担当者の心証を悪くする要因です。
決算の継続性に疑問を持たれたり、税理士とのトラブルを疑われたりする可能性が高まるため、注意が必要です。

 

 

別表2:株主構成と経営安定性の確認

別表2は、「同族会社等の判定に関する明細書」です。
この書類は、会社の株主構成や株主間の力関係を確認するために使用されます。

中小企業では、社長やその親族が株主であるケースが多いですが
稀に事業に関与する第三者が株主になっている場合もあります。
このような場合、金融機関の審査担当者は、その第三者が会社や社長とどのような関係にあるのか、また会社の経営にどの程度関与しているのかを詳細に確認します。

特に、将来的な事業計画の推進において、第三者株主が経営に与える影響は無視できません。
そのため、事業進捗への寄与度や関与の度合いについてヒアリングが行われることもあります。

審査において重要視されるポイントの1つは、会社法上の特別議決に関わる全発行済み株式の2/3を社長(または親族を含めた同一体)が保有しているかどうかです。
これは、定款変更、事業譲渡、解散、重要資産売却などの経営上の重要事項を、社長の意向通りに進めるための決定権を確保するためです。

もし社長および親族の持株比率が2/3に満たない場合、第三者株主が経営の意思決定に大きな影響を与える可能性があります。
また、第三者株主が発行済み株式の過半数を保持している場合は、取締役の選任や解任などの普通決議を通じて経営の安定性を揺るがすリスクも生じます。

第三者株主は一般的に自らの利益を優先する傾向が強く、赤字決算を嫌うために
利益を大きく見せるための粉飾や無理な会計処理を要求するケースも考えられます。
こうしたリスクを踏まえ、金融機関の審査担当者は、第三者株主の存在や持株比率について特に慎重に確認します。

このように、株主構成は会社の経営安定性や財務健全性を評価するうえで非常に重要な要素となります。
第三者株主の関与度や持株比率については、事前に詳細な説明資料を用意し、審査担当者に対して明確に説明できる準備を整えておくことが求められます。

 

 

別表4:所得金額と粉飾の判定

別表4は、「所得の金額の計算に関する明細書」です。
この書類では、決算書上の損益計算書に記載される「当期純利益」と同じ数字が記載されていなければなりません。

もし、この数値に違いがあった場合は、粉飾決算の疑いをかけられることになります。
要するに、税務署に提出した決算書と金融機関に提出した決算書が異なっていると判断されるため、金融機関の信用審査に大きく影響を及ぼします。

実際に、過去の事例では税理士が数値を転記する際にミスをしたことがありました。
まだ会計ソフトが普及する前で、電子申告も行われていなかった時代の出来事ですが
そのような些細なミスであっても、当時の金融機関の審査担当者は非常に厳しく反応し、大きな問題となったことを覚えています。

このことからも分かるように、金融機関の審査担当者は細部まで厳格にチェックします。
たとえ単純なミスであったとしても、粉飾と判断されるリスクがあるため、数値の整合性は慎重に確認する必要があります。

そのため、別表4を作成する際は、会計ソフトの活用や複数人によるダブルチェックを行い、数字の誤りが発生しないよう細心の注意を払うことが重要です。

 

 

別表5(一):利益積立金額と資本の確認

別表5(一)は、「利益積立金額及び資本金等の額の計算に関する明細書」です。
この書類では、企業の利益積立状況や資本金の推移を確認し、財務の健全性や粉飾の有無を検証します。

特に注意すべき点は、「差引翌期首現在利益積立金額」と貸借対照表に記載される
「繰越利益剰余金」の数値が一致しているかどうかです。
この数値が異なっている場合、決算書に整合性がなく、粉飾の疑いを持たれる可能性があります。

また、「期首現在利益積立金額」と前期決算に記載された「差引翌期首現在利益積立金額」についても、連続的に同じ数値であることが求められます。
この連続性が崩れている場合、前期決算に対して修正申告が行われた可能性が考えられます。

もし修正申告が行われていないにもかかわらず数値に不一致があれば、粉飾決算の疑いをかけられる可能性が高くなります。
そのため、修正申告をした場合には、修正申告書を提示し、その内容について金融機関の審査担当者に対して明確に説明する必要があります。

金融機関は、利益積立金の推移や資本構成の変化を通じて
企業の財務健全性や決算の正確性を厳しくチェックします。
そのため、この書類を作成する際は、数値の整合性をしっかり確認し、万が一不一致が発生した場合には速やかに対応策を準備しておくことが重要です。

 

 

別表5(二):税金未納と延滞状況の確認

別表5(二)は、「租税公課の納付状況等に関する明細書」です。
この書類は、税金の未納や延滞の有無を確認するための資料として使用されます。

金融機関の審査担当者は、税金未納額の有無だけでなく、「その他」の項目に含まれる可能性がある延滞税・延滞金、加算税・加算金、過怠税などの有無についても厳格にチェックします。

税金の未納や延滞が確認された場合、その理由を明確に説明する必要があります。
特に、金融機関の審査では税金未納の状態は大きなマイナス要因となり、多くの場合、審査を通過することは困難です。

さらに、「重加算税」が課されている場合は、「重大かつ悪質な行為に対するペナルティ」と判断され、審査自体を受け付けてもらえない可能性が高くなります。
このため、税務申告や納税状況については常に適正に管理することが重要です。

もし未納や延滞が発生している場合には、理由を説明するだけでなく
未納解消の具体的な計画や目処を提示することが求められます。
金融機関は、これらの対応をもとに企業の誠実さや経営姿勢を評価します。

このように、税務の履行状況は企業の信用力を示す重要な指標であり、金融機関との信頼関係を構築する上で不可欠な要素となります。
提出前に税務状況を再確認し、問題がある場合は速やかに是正措置を講じることが重要です。

 

 

別表7(一):欠損金の処理計画と審査視点

別表7(一)は、「欠損金の損金算入等に関する明細書」です。
この書類では、過去の赤字状況や繰越欠損金の処理状況を確認するための情報が記載されています。

この明細書を確認することで、決算書を見なくても過去10年間の赤字の推移が把握でき、税務上の欠損金がどれくらい積み上がっているかを判断できます。

特に、欠損金には税務上の繰越控除期間があり、その期限(現在は最長10年)が切れるかどうかを把握するための資料としても重要です。
この期限が近づく場合には、欠損金を活用して損金解消を図るための具体的な対策が求められます。

例えば、「社長からの借入金の債務免除」や「不動産・有価証券の売却益による損金解消」といった手法を利用して、適切に欠損金を処理することが考えられます。
これらの対応は、税務上の損金処理だけでなく、財務状況の健全化や信用力向上にもつながります。

金融機関の審査担当者は、欠損金の解消時期や処理計画を重要な評価ポイントとします。
そのため、欠損金の処理については事前に綿密な計画を立て、具体的な施策を提示できるよう準備することが求められます。

企業としては、欠損金の状況を把握し、期限内に効果的な処理を行うことで、財務基盤の安定化と金融機関からの信用向上を図ることが重要です。

 

 

別表11(一の二):貸倒引当金の計上状況

別表11(一の二)は、「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」です。
この書類は、売上債権に対する貸倒引当金の計上状況を確認するために使用されます。

この明細書は、貸倒引当金を計上していない場合には作成されません。
しかしながら、売上が発生する以上、回収不能となる売上債権(焦げ付き)のリスクは常に存在します。
そのため、たとえ少額であっても貸倒引当金を計上することが、適正な財務処理として求められます。

「中小企業の会計に関する基本要領」でも、貸倒引当金を計上する考え方が明記されており、金融機関の審査担当者もこれを基準として審査を行います。

貸倒引当金を計上していない場合、金融機関はリスク管理や財務の透明性に問題があると判断し、粉飾決算の疑いを持つ可能性があります。
特に、売上規模が大きい企業では焦げ付きリスクも高まるため、引当金を適正に計上していないと財務管理が不十分と評価されるリスクが高くなります。

そのため、法定限度額までの損金計上を行うことが推奨されます。
これにより、金融機関に対して適切なリスク管理を行っていることを示し、信用力を高めることができます。

金融機関の審査をスムーズに通過するためにも、売上債権に対する焦げ付きリスクを適切に評価し、必要な貸倒引当金を確実に計上することが重要です。

 

別表16(一)(二):減価償却資産と粉飾防止の確認

別表16(一)(二)は、減価償却資産の償却額を計算するための明細書です。
(一)は「旧定額法又は定額法」による償却額の計算を示し、(二)は「旧定率法又は定率法」による償却額の計算を記載します。

この明細書は、金融機関の審査担当者が特に細かく精査する項目の1つです。
その理由は、減価償却が「粉飾」の常套手段として用いられやすい勘定科目だからです。
企業の財務健全性を判断するうえで、減価償却の適正性は非常に重要な評価ポイントとなります。

金融機関は、「赤字決算であっても法定限度額まで減価償却を行うことが、決算書の適正性を担保する」と考えています。
つまり、適切な減価償却処理が行われていない場合は、利益を実際よりも大きく見せている可能性を疑われることになります。

もし「償却不足額」が発生している場合、審査段階ではその不足分が資産や利益から減算されるため、財務状況はより厳しい評価を受けることになります。
結果として、融資審査の可否や条件に悪影響を及ぼす可能性が高まります。

このため、減価償却資産に関しては法定限度額までしっかり償却を行い、財務の透明性を確保することが求められます。
また、減価償却計算の詳細についても明確に説明できるよう準備を整えておくことが重要です。

企業は、減価償却を適切に管理することで資産価値や利益の正確性を証明し、金融機関からの信頼を得ることができます。
審査担当者の厳格なチェックに備えるため、会計処理の整合性を確保し、必要に応じて専門家と連携しながら対応することが求められます。

 

まとめ

本記事では、金融機関の審査担当者が決算書や税務申告書をどのように精査するのかについて詳しく解説しました。
各別表ごとの役割や確認ポイントを押さえることで、審査を通過するための準備や対策が重要であることが理解いただけたかと思います。

金融機関は、企業の財務状況や経営の安定性を判断するために、提出された書類を細部まで確認します。
そのため、決算書の正確性や整合性はもちろん、税務申告の適正さを示すことが不可欠です。また、将来的な事業計画との連続性を保持しつつ、説明責任を果たす姿勢も求められます。

資金繰りに悩む企業では、審査を通過するために決算数値を上方修正したくなることもありますが、これは結果として信用を損なうリスクを伴います。
むしろ、正直で透明性のある情報を提示し、必要な補足説明をしっかりと行うことが、金融機関からの信頼を得るための最善策です。

HTファイナンスは、企業が適正な決算書の作成や事業計画の立案を通じて、金融機関からの信頼を得られるようサポートいたします。資金調達に関するお悩みや審査対策について、専門的なアドバイスを提供し、事業基盤の強化をお手伝いいたします。

30年の実績をもとに、法人融資の成功事例も多数ございますので、ぜひHTファイナンスまでお気軽にご相談ください。

 

融資のご相談とお申し込みはこちらから

 

監修者 三坂大作
監修者 三坂大作

略歴
1961年 横浜市生まれ
1985年 東京大学法学部卒業
1985年 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行
1985年 同行 表参道支店:法人融資担当
1989年 同行 ニューヨーク支店:コーポレートファインス非日系 取引担当
1992年 三菱銀行退社 株式会社プラネス設立代表取締役就任
2021年 ヒューマントラスト株式会社 取締役就任

貸金業務取扱主任者を保有。
大手金融機関の法人担当を国内外で担当した後、お客様企業の経営戦略を中心としたコンサルティング事業を推進。
2021年にヒューマントラスト株式会社の統括責任者 取締役に就任。
上場企業・中小企業含めて300社以上、30年以上の支援実績がある法人企業向け融資のプロフェッショナル。
前へ

決算書の適正性を高めるポイントを徹底解説!信頼される財務資料の作成術

一覧へ戻る

勘定科目内訳明細書とは?法人事業概況説明書も合わせて解説

次へ