2025.03.18
借入だけじゃない!社債を活用した資金調達のメリットと活用法
企業経営における資金調達の考え方
自己資金と外部資金のバランス
コンサルティングの仕事の中で、相談される案件の多くが「資金調達」に関わるものです。経営計画や経営改善計画、事業性評価書類なども、企業が資金調達を円滑に行い、持続的に事業を発展させるためのものと言えます。
中には、「借金をせず、自己資金と事業利益のみで経営を行うべきだ」と考える社長もいます。
確かに、自己資金と利益だけを元手にする事業は、社長の理念が反映された経営方針であり、外部の株主や債権者の意向に左右される必要がないというメリットがあります。
しかし、事業は社長一人で運営できるものではありません。
製造業であれば原料の仕入れ先、販売業であれば商品の仕入先が必要です。
また、運送業者、ITシステムの提供者、税理士や司法書士といった専門家との関わりも不可欠です。
企業経営は、こうした多くの関係者と取引しながら成り立つものです。
21世紀に入り、ビジネス環境は急速に変化し続けています。
利益追求だけの経営は評価されにくくなり、企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)が重視される時代です。
事業を継続・発展させるためには、企業が社会の一員であることを認識し、多様化・複雑化する業務に対応しなければなりません。
企業の成長に伴い、資金調達の必要性も高まります。
事業拡大や新規投資にはまとまった資金が必要となり、手元資金や内部留保だけでは対応できない場合も多いでしょう。
このような状況において、外部資金を上手く活用することが経営の選択肢として重要になります。
社債による資金調達のメリット
資金調達の手段として、銀行融資やファクタリング、補助金・助成金などが一般的に挙げられますが、今回は中小企業や個人事業主にとってあまり馴染みのない「社債」について説明します。
社債とは、企業が発行する債券のことで、投資家や資金提供者から資金を調達するために発行されます。
発行企業は、満期までの間に利子を支払い、満期時に元本を返済する仕組みです。
社債の最大の特徴は、銀行融資とは異なり、資金提供者の幅が広いことです。
通常の銀行融資では、資金提供者は金融機関に限定されますが、社債の場合は個人投資家を含めて資金を募集することができます。
また、社債の利回りは発行企業の信用度や市場の金融情勢に応じて決定され、信用度の高い企業ほど利回りは低く、信用度の低い企業ほど利回りは高く設定されます。
社債を活用することで、銀行融資に頼らずに長期的な資金を調達できる可能性があります。
特に成長を見込んだ事業拡大を計画している企業にとって、安定的な資金調達手段となり得ます。
社債の種類と特徴
普通社債と転換社債の違い
社債とは、一般の事業会社が発行する債券のことであり、投資家や資金提供者から資金を調達するための手段の一つです。
社債の発行者は、満期までの利子の支払いと満期時の元本償還を約束します。
通常の銀行借入では金融機関からしか資金を調達できませんが、社債であれば、個人投資家を含めた広範な資金提供者からの資金調達が可能です。
社債にはさまざまな種類があり、発行方法や利息の支払い方法、償還条件などによって分類されます。
ここでは、代表的な「普通社債」と「転換社債」について解説します。
普通社債
普通社債とは、中長期の資金調達を目的として発行される社債で、満期時に元本が返済されることが前提となっています。
一般的に、銀行や保険会社などの機関投資家向けに発行されることが多く、「社債」と言う場合、通常はこの普通社債を指します。
安定した資金調達が可能ですが、社債発行には信用格付けや財務基盤の確立が求められるため、中小企業にはハードルが高い場合があります。
転換社債
転換社債(転換社債型新株予約権付社債)は、社債としての債券機能に加え、新株予約権の機能を併せ持つ社債です。
通常の社債と同様に満期までの利息が支払われ、満期には元本が償還されます。
ただし、投資家は一定の条件のもとで社債を株式に転換する権利を持っています。
この仕組みを活用することで、投資家は時価よりも低い価格で株式を取得できる可能性があり、企業側は通常の社債よりも低い利回りで資金を調達できるメリットがあります。
転換社債を株式に転換すると、社債の償還義務がなくなり、企業の財務負担が軽減される点も大きな特徴です。
ワラント債と劣後債の活用方法
ワラント債
ワラント債とは、新株予約権付社債のことで、株式をあらかじめ決められた価格(行使価格)で購入する権利が付与された社債です。
転換社債と類似していますが、大きな違いは、ワラント債の場合、新株予約権を行使しても社債の元本がそのまま償還される点にあります。
つまり、投資家が新株予約権を行使する際には、株式の取得資金を別途支払う必要があります。
ワラント債のメリットは、投資家にとっては将来的な株価上昇の可能性に対する投資機会を得られる点、企業側にとっては低利での資金調達が可能となる点です。
特に、成長企業にとっては、負担の少ない資金調達手段として有効活用できます。
劣後債
劣後債は、通常の社債とは異なり、企業が経営破綻した場合に、他の債務よりも返済の優先順位が低くなる社債です。
具体的には、劣後債の債権者は、一般の社債保有者や金融機関の融資よりも後回しにされ、企業がすべての他の債務を返済した後にのみ、元本の返済を受けることができます。
そのリスクの高さから、通常の社債よりも利回りが高く設定される傾向にあります。
劣後債は、財務戦略として資本調達を多様化したい企業にとって重要な手段となります。
また、資本性ローンの一形態として政策金融機関が提供するケースもあり、特に財務健全性を維持しつつ資本増強を目指す企業にとって有益です。
社債にはさまざまな種類があり、それぞれ異なる特徴と活用法があります。
企業の資金調達戦略を検討する際には、これらの社債の特性を理解し、事業の成長段階や財務状況に応じた最適な手段を選択することが重要です。
社債と株式の違い
会計処理と企業への影響
企業にとって、社債と株式(増資)はどちらも資金調達の手段ですが、会計上の扱いや企業への影響は大きく異なります。
社債の発行による資金調達は、企業の会計上「借入金」として計上されます。
したがって、社債を発行すると、企業には利息の支払い義務と満期時の元本償還義務が発生します。
一方、株式を発行する増資は、出資金として資本金または資本準備金に計上され、返済義務は発生しません。
また、社債を保有する投資家(社債ホルダー)は、企業から元本の償還を受ける権利と、約定された利息を受け取る権利を持ちます。
しかし、株主は異なり、投資した資金を企業に対して返還請求することはできません。
その代わり、企業の業績が良好であれば、配当金を受け取ったり、株式売却によるキャピタルゲインを得たりすることができます。
特に、上場を目指す企業や成長段階の企業にとっては、株式発行による資金調達は重要な選択肢となります。
未公開株式の段階で投資を受け、後に上場した際に高額のキャピタルゲインを得るケースもあります。
一方で、社債は借入金と同じ性質を持ち、満期までに利息と元本の支払い義務があるため、企業の財務負担が増加します。
投資家の視点から見た選択肢
社債と株式は、投資家にとっても異なるリスクとリターンを持つ選択肢です。
社債のメリットとリスク
– メリット
– 利息収入が安定しており、定期的に収益を得られる
– 満期時には元本が返済されるため、リスクが比較的低い
– 企業が倒産しない限り、一定のリターンが確保できる
– リスク
– 企業の信用力によっては、利回りが低くなる
– 企業が経営破綻した場合、株式よりは優先されるが、全額が返済される保証はない
– 金利上昇局面では、市場価値が下落する可能性がある
株式のメリットとリスク
– メリット
– 企業の成長による株価上昇に伴い、大きなキャピタルゲインを得る可能性がある
– 配当がある場合、安定的な収益を得られる
– 株主総会での議決権を通じて、企業経営に一定の影響を与えられる
– リスク
– 企業の業績悪化や市場変動により、株価が大きく下落するリスクがある
– 無配当の企業も多く、安定収益を求める投資には不向き
– 倒産時には、社債よりも返済順位が低く、投資額を失う可能性が高い
中小企業においては、返済の必要がない株式発行による増資の方が、財務の安定性を維持しやすい場合があります。特に、経営陣の家族、従業員、取引先に株主になってもらうことで、企業の一体感や結束力を高める効果も期待できます。
一方で、社債を発行することで、金融機関以外の投資家から資金を集め、返済スケジュールを明確にしながら資金調達を行う手法も考えられます。中小企業においても、経営計画や財務戦略を踏まえたうえで、社債発行を含めた最適な資金調達手段を検討することが重要です。
自己資金や内部留保だけで事業を継続することは難しく、企業成長には適切な資金調達が不可欠です。外部のビジネス環境を理解し、長期的な視点で持続可能な経営戦略を考える際に、社債や株式を適切に活用することが、企業の競争力を高める鍵となるでしょう。
まとめ
本記事では、企業の資金調達手段としての社債の活用について解説しました。社債は、金融機関からの借入とは異なり、広く資金を募ることができる直接金融の手法であり、企業の財務戦略に柔軟性をもたらします。また、普通社債や転換社債、ワラント債、劣後債といった種類ごとに異なる特徴を持ち、それぞれの企業の目的や状況に応じた選択が求められます。
しかし、どの資金調達手法を選択するかは、企業の成長戦略や財務状況によって大きく異なります。自社に最適な手段を見極め、適切な資金調達を行うためには、専門的な知識と経験が必要です。
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