2025.05.27
企業価値向上とは?意味・方法・成功事例まで徹底解説
企業価値の向上は、企業の成長・売却・資金調達・株価上昇に直結する重要なテーマです。しかし「企業価値とは何か」「どうやって向上させるのか」を正しく理解し、実践できている経営者は意外と少ないのが現実です。
本記事では、企業価値の基本から向上施策、具体事例まで網羅的に解説します。これからの戦略構築にお役立てください。
企業価値とは何かを理解する
企業価値の定義と構成要素
企業価値とは、企業がもつすべての経済的価値の総和を指します。
ここでいう「価値」は、目に見える資産だけでなく、将来生み出す利益の可能性やブランド力、従業員のスキルなども含めた総合的な評価指標です。
企業価値は、以下のような構成要素で成り立っています。
【企業価値に含まれる主な項目】
構成要素 |
説明 |
有形資産 |
土地・建物・機械など、目に見える資産。帳簿上に記載されている。 |
無形資産 |
ブランド・ノウハウ・顧客情報・ソフトウェア・人材など、形のない価値。 |
のれん |
企業の収益力やブランド力など、帳簿には現れにくい超過収益を示す概念。 |
非事業用資産 |
投資用不動産や遊休資産など、事業運営とは直接関係のない資産。 |
有利子負債 |
銀行借入や社債など、利子が発生する返済義務のある資金。 |
非支配株主持分 |
子会社などの持分のうち、親会社が支配していない株主の保有分。 |
新株予約権 |
将来発行される可能性がある株式の権利。企業価値算定に影響する要素の1つ。 |
これらの要素は、企業価値の中核を成しており、それぞれが投資家や金融機関の評価に直接的な影響を与えます。
また、しばしば混同されがちな「株式価値」「純資産価値」「事業価値」などの用語もありますが、それぞれ以下のような違いがあります。
- 株式価値:企業価値から負債や非支配株主持分などを除いた、株主の持分に相当する価値
- 事業価値(EV=Enterprise Value):将来にわたる営業利益などから算出される、事業運営による価値
- 純資産価値:貸借対照表上の自己資本に基づいた価値。静的な財務数値を基礎に算定
このように、企業価値とは単なる財務的な数値ではなく、企業の成長性や信頼性、社会的な役割までを含めた立体的な価値指標であるといえます。
今後の資金調達やM&A、上場準備に向けては、この「企業価値」を正確に捉える視点が欠かせません。
企業価値の主な評価方法(3つのアプローチ)
企業価値を正確に把握するためには、評価方法の選定が重要です。
主に用いられるのは、以下の3つのアプローチです。
【企業価値評価の3つのアプローチ】
評価手法 |
概要 |
主な活用シーン |
コストアプローチ |
貸借対照表に記載された純資産をベースに評価。時価純資産法・簿価純資産法などがある。 |
中小企業のM&A、清算時の価値算定など |
マーケットアプローチ |
類似上場企業の株価や類似取引事例と比較し、相対的に価値を算出。市場株価法・マルチプル法など |
IPO準備中の未上場企業、大企業の比較分析 |
インカムアプローチ |
将来の利益やキャッシュフローをもとに、現在価値を計算(DCF法・収益還元法・配当還元法) |
成長性が高い企業、投資判断が必要な場面 |
コストアプローチは、貸借対照表に基づいた評価で、数値の信頼性が高い反面、将来性が反映されにくい特徴があります。
特に赤字企業や清算を前提とした場合に有効です。
マーケットアプローチは、株式市場や過去の取引データを使うため、客観的で納得性の高い算定が可能です。
ただし、適切な類似企業が存在しないと評価の正確性に欠けることがあります。
インカムアプローチは、企業の将来的な利益やキャッシュフローを現在価値に割り引いて評価する方法で、企業の収益性や成長可能性を論理的に計算できる点が強みです。
ただし、前提となる数値が恣意的になる可能性があるため、事業計画の信頼性が問われます。
このように、各アプローチにはメリットとデメリットがあり、目的や企業の状況に応じて使い分けることが重要です。
複数の評価手法を併用することで、よりバランスの取れた企業価値の算出が可能になります。
企業価値向上が求められる理由
M&Aや資金調達において有利になる
企業価値を高めることには、資金調達やM&Aの場面で優位に立てるという大きなメリットがあります。
特にM&Aにおいては、企業価値がそのまま売却価格や買収価格のベースとなるため、評価が高ければ高いほど、有利な条件で交渉を進めやすくなります。
企業価値が高いということは、将来にわたって安定した利益を上げられると見なされている状態です。そのため、買い手企業から見て「投資対象として魅力的」であると認識されます。
買収候補企業が複数ある場合、企業価値の高さは差別化要因となります。
競争の中でより多くの買収希望者を集めることができ、最終的には好条件のオファーを受け取る可能性が高まります。
また、資金調達の場面でも企業価値の高さはプラスに働きます。
金融機関や投資家は、企業価値を指標として返済能力や将来性を判断するため、企業価値が高いと評価されれば、融資の審査も通過しやすくなり、条件も良くなる傾向にあります。
さらに、信用力が増すことにより、利率や借入枠の設定においても優遇されやすくなるでしょう。
以下は、企業価値が資金調達に与える影響をまとめた表です。
企業価値の高さがもたらす効果 |
説明 |
M&Aでの交渉力の向上 |
複数の買収希望者から良好な条件を引き出すことが可能になる |
資金調達の成功率向上 |
融資の審査に通過しやすくなる、資金回収リスクが低いと判断されるため |
金利・条件面での優遇 |
企業の信用力が高まることで、低金利や高額融資枠の設定が受けられるようになる |
このように、企業価値を高めることは経営戦略の選択肢を増やし、将来的な成長に向けた資金をより有利に確保するための鍵であると言えるでしょう。
上場企業にとっては株価上昇と投資家評価の向上に直結
上場企業にとって企業価値の向上は、株価の上昇と投資家からの評価向上につながる重要な経営課題です。
上場企業は、定期的に開示される財務諸表やIR資料を通じて、投資家に自社の経営状態や将来の見通しを示しています。
このとき、企業価値が高いと評価されれば、株式市場での信頼性が増し、株式が積極的に購入される要因となります。
その結果、発行する株式の需要が高まり株価が上昇しやすくなるのです。
また、企業価値の高さは、株主にとっても安心材料です。
例えばROE(自己資本利益率)やPBR(株価純資産倍率)といった株主指標に好影響を与え、資産効率の良い経営をしていると評価されます。
さらに、機関投資家やESG投資ファンドなどの大口投資家は、投資先を選定する際に企業価値やサステナビリティ経営の取り組みを重視する傾向があります。
そのため、企業価値を向上させることで、長期的な資本の安定化や株主構成の健全化にもつながるでしょう。
以下は、企業価値が上場企業にもたらす主なメリットです。
- 株価の安定および上昇:市場の信頼感が高まり、株式が購入されやすくなる
- 投資家からの信頼獲得:IR情報や開示情報に説得力が生まれ、継続保有の意欲が高まる
- 経営指標の改善:ROEやROICなどの指標が改善され、株主還元にも好影響が出る
特に近年では、PBR(株価純資産倍率)を1倍以上に改善することや時価総額100億円を上場基準とするなどを東証から求められるなど、上場企業にとって企業価値の向上は単なる目標ではなく、実質的な義務に近い位置づけとなっています。
そのため、企業価値の向上は、短期的な株価対策にとどまらず、中長期的な成長戦略として継続的に取り組むべき最優先課題と言えるでしょう。
企業価値を高める具体的な方法
収益力と投資効率の改善
企業価値を向上させるうえで、最も基本かつ重要な要素が「収益力」と「投資効率」の改善です。どれだけビジョンやブランドが優れていても、持続的に利益を生み出せなければ企業価値は評価されにくくなります。
まず、収益力とは、企業が本業を通じてどれだけの利益を安定的に創出できるかを示す力のことです。
収益力を高めるためには、売上の最大化とコストの最小化を両立させる取り組みが必要です。
【収益力を高めるための具体施策】
- ビジネスモデルの再構築(例:サブスクリプションモデルの導入)
- 価格戦略の見直し(値上げ・値下げによる収益の最適化)
- 営業力の強化・販売チャネル拡大
- 新市場や新顧客層への進出
- 既存顧客のLTV(Life Time Value=顧客生涯価値)の向上
これらの施策を通じて、利益率を改善し、安定的なキャッシュフローの確保が可能になります。
次に、投資効率とは、企業が保有する資産をいかに無駄なく活用しているかを表す指標です。
使われていない土地や建物、長期在庫などの“眠れる資産”を適切に整理・売却・再投資することが求められます。
【投資効率改善のポイント】
項目 |
改善策の具体例 |
固定資産 |
遊休地・古い設備の売却/リース活用による保有コスト削減 |
流動資産 |
売掛金回収サイトの短縮/在庫の適正化によるキャッシュフロー改善 |
設備投資 |
ROI(投資利益率)の見直し/戦略的な設備更新と撤退判断 |
このような取り組みによって、不要なコストの削減だけでなく、財務体質の健全化や成長投資への資源配分が可能になります。
また、財務レバレッジの最適化や、節税効果を生む資金調達方法の見直しも、企業のキャッシュを最大化し、評価を高める手段として有効です。
つまり、収益力と投資効率を改善することは、単に利益を増やすだけでなく、企業の資産・負債全体を見直し、戦略的に最適化する経営判断そのものであるといえます。
無形資産とサステナビリティ経営への取り組み
近年、企業価値の評価において重要度を増しているのが、「無形資産」と「サステナビリティ経営(ESG・SDGs)」です。
財務諸表に表れない目に見えない価値こそが、将来の競争優位を決定づける鍵となっています。
無形資産とは、以下のような要素を指します。
- 人的資本(従業員のスキル・働きがい・組織力)
- ブランド力(顧客認知度・信頼性・評判)
- 知的財産(特許・商標・ノウハウ・ソフトウェア)
- 顧客ネットワーク(ロイヤルユーザー・販売チャネル)
これらは、会計上の資産には反映されにくいものの、企業の継続的成長を支える“目に見えない資産”です。
評価されるためには、「可視化」や「数値化」が不可欠となります。
例えば、人的資本については以下のような情報が有効です。
【人的資本の可視化に役立つ情報】
- 1人あたり売上・利益
- 離職率や定着率
- 社内研修や教育への投資額
- ダイバーシティ比率(女性管理職比率など)
次に、サステナビリティ経営とは、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の観点から持続可能な成長を目指す経営のことです。
これは、短期的な利益追求ではなく、中長期での企業存続力と社会貢献性を評価するものです。
【ESGに基づく経営施策の一例】
分野 |
具体的取り組み例 |
環境(E) |
CO₂削減目標の設定/再生可能エネルギーの利用推進 |
社会(S) |
ワークライフバランス改革/地域貢献・ボランティア活動 |
ガバナンス(G) |
取締役会の多様性/コンプライアンス教育の強化 |
こうした活動は、単なるCSRではなく、企業価値評価の定量的な項目として投資家や金融機関に重視されています。
実際に、ESGに取り組む企業は資本市場での評価が高くなりやすく、株価や資金調達力にも良い影響を及ぼします。
また、長期的にはブランド価値や採用競争力の強化にもつながり、企業全体のバリューが飛躍的に高まる可能性があります。
無形資産とサステナビリティは一見すると地味な分野に見えるかもしれませんが、これらを積極的にマネジメントし、開示していくことが、これからの時代の「強い企業」の条件と言えるでしょう。
企業価値向上に成功した企業事例
トヨタの電動化とサステナビリティによる価値創造
トヨタ自動車株式会社は、世界を代表する自動車メーカーでありながら、企業価値向上のために大胆な戦略転換と継続的な投資を実行しています。
その中心にあるのが、電動化戦略とサステナビリティ経営です。
近年、トヨタは「カーボンニュートラル社会の実現」に向けて、電気自動車(EV)の開発を加速させています。
特に注目されているのが、HEV・PHEV・BEV・FCEVのフルラインナップ化による多様な選択肢の提供です。
これは、地域やユーザーのニーズに応じて最適な電動車を選べるようにするための施策であり、環境性能と市場ニーズの両立を図る戦略的取り組みといえます。
また、同社は設備投資や研究開発にも積極的であり、2023年には約1兆6,050億円を投じたことが発表されています。
これは前年からおよそ18.4%の増加であり、中長期的に企業価値を高める姿勢の表れともいえるでしょう。
加えて、トヨタは単なるCO₂削減にとどまらず、「誰ひとり取り残さないモビリティ社会」を掲げており、社会的包摂とグローバルな価値創出を同時に追求する姿勢が評価されています。
【トヨタの価値創造戦略まとめ】
項目 |
具体的施策・成果 |
電動化戦略 |
HEV、PHEV、BEV、FCEVをすべて揃えたフルラインナップ展開 |
設備投資と研究開発 |
2023年:1兆6,050億円(前年比+18.4%)の投資を実行 |
サステナビリティ目標 |
カーボンニュートラル推進+多様性のある社会実現への貢献 |
このように、トヨタの企業価値向上は「環境」「技術」「社会」の3領域を軸に据えた統合戦略に基づいています。
結果として、世界中の投資家や消費者、取引先からの信頼が強まり、企業としてのブランド価値や株主価値も着実に向上していることは明らかです。
スノーピークとミラック光学のビジネス革新・知財活用
スノーピーク株式会社と株式会社ミラック光学は、いずれも無形資産を効果的に活用し、企業価値向上に成功した優良事例です。
まずスノーピークは、アウトドア製品の企画・販売を行う企業ですが、単なるモノ売りから体験型ブランドへと大胆にビジネスモデルを変革しました。
同社は定期的に「Snow Peak Way」と呼ばれる顧客参加型のキャンプイベントを開催し、顧客と直接つながることでニーズを吸い上げ、自社の商品・サービスに反映しています。
このユーザーとの関係性強化を通じて、「衣・食・住・働・遊」すべての領域に展開する新たなライフスタイル提案型ビジネスを構築し、2022年度には売上高3,077億円を記録するなど、企業成長を実現しました。
【スノーピークの企業価値向上ポイント】
- 体験型ブランド戦略でロイヤル顧客を獲得
- 顧客ニーズを反映した商品開発
- 市場拡張と収益性の両立
一方、ミラック光学は高精度な光学機器の製造を行う企業であり、知的財産を戦略的に情報開示することで、ステークホルダーからの評価を獲得しています。
特許庁の事例集にも取り上げられており、自社の技術や知財の活用実績をWebサイトで積極的に発信しています。
これにより、顧客や取引先からの信頼を獲得し、企業の無形資産価値を市場に対してアピールしています。
また、受賞歴やメディア掲載情報も活用し、「見える形」でのブランド強化に成功しています。
【ミラック光学の知財戦略】
項目 |
内容 |
知的財産の情報開示 |
製品への技術的こだわりをWebサイト上で発信 |
信頼性の向上 |
知財活用と品質の高さを可視化し、企業評価を向上させる |
ステークホルダーとの関係構築 |
顧客・取引先との長期的な信頼関係を構築 |
このように、スノーピークとミラック光学は、それぞれ「顧客との接点づくり」「知財の可視化」に注力することで、目に見えにくい価値を可視化し、企業価値を高めることに成功しています。
両社に共通するのは、「無形資産を戦略的に活用し、それを外部に伝える工夫」が企業評価の向上につながっているという点です。
まとめ
本記事では、企業価値の基本的な定義から評価方法、向上が求められる理由、具体的な施策、さらには成功事例までを網羅的に解説しました。
企業価値の向上は、単に財務数値を良くするだけでなく、無形資産や社会的責任への取り組みを通じて、総合的な企業力を高める行動そのものです。
とはいえ、収益力の改善や投資効率の最適化、ESG経営への対応など、どの施策をどう優先し、自社に落とし込むべきかは、業種や企業フェーズによって大きく異なるのが実情です。
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