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「働き方改革」と中小企業の対応策|直面する課題と解決策

働き方改革とは?

「働き方改革」の目的と背景

「働き方改革」という言葉が一般的に広く使われるようになってから、すでに6年以上が経過しました。政府が「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」を成立させたのは、平成30年7月6日。この交付からちょうど6年が経過したことになります。

厚生労働省が示す「働き方改革」の目的は、「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現すること」です。これを達成するために、長時間労働の是正や、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保などが掲げられています。

この政策の基本方針は、国が総合的かつ継続的に推進するために策定されており、雇用対策法に基づいて閣議決定されました。また、「働き方改革」を推進するための地方協議会の設置が義務付けられています。これにより、地域ごとの関係者が連携し、中小企業の取り組みを支援する体制を整えることが求められています。

しかし、現実にはこの協議会の存在を認知している人は少なく、実質的には中小企業の経営者自身が「働き方改革」を推進する主体になっているのが現状です。

中小企業に求められる対応

具体的に「働き方改革」を総合的かつ継続的に推進するために、どのような取り組みが必要なのでしょうか。厚生労働省が発表している情報をもとに、主な施策を整理してみます。

1. 労働時間に関する制度の見直し(労働基準法、労働安全衛生法)

  • 時間外労働の上限規制
    月45時間・年360時間を原則とし、特別な事情がある場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働を含む)、複数月平均80時間(休日労働を含む)を限度とする。
    ※自動車運転業務・建設事業・医師などの職種には猶予期間を設けた上で規制を適用。研究開発業務については、医師の面接指導を条件に適用除外とする。
  • 月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率の引き上げ
    中小企業への猶予措置を廃止し、割増賃金率を50%以上とする。また、使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について毎年時季を指定して与えなければならない。
  • 高度プロフェッショナル制度の創設
    健康確保措置の強化や、適用に際しての本人の同意撤回についての規定を設ける。
  • 労働時間の状況把握の義務化
    労働者の健康確保の実効性を担保するため、労働時間の状況を省令で定める方法により適正に把握することを義務付ける(労働安全衛生法)。

2. 勤務間インターバル制度の普及促進(労働時間等設定改善法)

  • 事業主は、前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定の休息時間を確保する努力義務を負う。
  • 短納期発注や発注内容の頻繁な変更を行わないよう配慮する義務も新たに創設される。

3. 産業医・産業保健機能の強化(労働安全衛生法等)

  • 事業者は、産業医が適切に業務を遂行できるよう、必要な情報を提供しなければならない。
  • 産業保健機能を強化するための措置を講じる。

4. 不合理な待遇差の解消(パートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法)

  • 短時間・有期雇用労働者の待遇改善
    正規雇用労働者との不合理な待遇差を禁止し、仕事内容や待遇ごとに適正な判断基準を設ける。
  • 有期雇用労働者の均等待遇規定の整備
    派遣労働者に関しては、以下の2つのいずれかを確保することを義務化。
    ①派遣先の労働者との均等待遇
    ②労使協定に基づく待遇(同種業務の一般労働者の平均的な賃金と同等以上の水準)
  • 労働者への待遇説明義務の強化
    正規雇用労働者との待遇差の内容や理由について、短時間労働者・有期雇用労働者・派遣労働者へ説明することが義務化された。
  • 行政による履行確保措置および行政ADRの整備
    労働者の待遇改善を確実に実施するため、行政による監督や裁判外紛争解決手続(ADR)が導入された。

これらの施策は、基本的に 「労働者の多様な働き方の実現」「長時間労働の是正」「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」 を目的としています。

中小企業の経営者にとっては、これらの制度を適切に運用し、従業員の労働環境を整備することが求められます。

働き方改革の主要な施策

労働時間制度の見直しと影響

「働き方改革」に関連する法改正の根幹は、大きく3つの目的に集約されます。それは、「長時間労働の原則禁止」「雇用形態にかかわらず同じ仕事をする労働者の待遇を統一する」、そして「労働者の肉体的・精神的な健康を維持することを事業者の義務とする」という点です。

この改革の対象は、大企業だけでなく中小企業にも適用されます。そのため、多くの中小企業では事業運営の抜本的な見直しを迫られるケースが増えています。特に顕著な影響を受けるのが、運送業界です。

例えば、ある運送業者が熊本の産地からメロンを東京に輸送する場合を考えてみます。従来であれば、熊本を出発し、夜間の高速道路を利用すれば、途中休憩を挟みながら約12時間で東京に到着することができました。しかし、働き方改革の指針に従うと、一人のドライバーがこの行程を担当することはできません。

この対応策として、大阪を起点に運転手を交代する必要が生じます。結果として、従来の1名体制ではなく2名体制を組む必要が出てきます。さらに、トラックの乗り継ぎを含めた物流の効率化も求められます。

加えて、生鮮品の輸送においては、鮮度を保持するための施策が重要になっています。現在では、果実類が発するエチレンガスが葉物野菜の鮮度劣化を引き起こすため、混載ができなくなっています。一昔前なら、4トントラック1台で果実類と葉物野菜をまとめて運ぶことができましたが、現在では果実類と葉物野菜ごとに別のトラックを用意する必要があります。そのため、輸送コストが増加し、さらにドライバーを2名体制にすることで、人件費も大幅に上昇します。その結果、輸送コストが従来の4倍近くに跳ね上がる可能性すらあるのです。

こうした物流費の高騰は、飲食業界をはじめとするあらゆる業種に影響を及ぼすと考えられます。特に飲食業界では、もともと厳しい価格競争に加えて、原材料費の高騰が収益状況を圧迫する要因となるでしょう。現在、多くの食品関連事業者は、消費地に近い生産地からの原材料調達や、卸売業者を介さずに産地から直接少量多品種を仕入れる新たな流通モデルを模索しています。

同一労働同一賃金の実施

働き方改革は、日本の「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護と仕事の両立など、働く人々のニーズの多様化」に対応するために設計された行政指針でもあります。そのため、単なる労働時間の短縮にとどまらず、「同一労働同一賃金」という概念が強く打ち出されました。

これは、正社員・契約社員・派遣社員・パート・アルバイトといった雇用形態に関係なく、同じ業務を行う労働者には同じ待遇を与えなければならない、という考え方に基づいています。これにより、企業側には以下のような対応が求められます。

  • 正規雇用・非正規雇用の待遇格差をなくすこと
    • 仕事内容ごとに待遇の合理性を判断し、不公平な格差を是正する。
  • 有期雇用労働者の均等待遇の義務化
    • 派遣労働者に関しては、
      ①派遣先の正社員と同等の待遇を適用する
      ②一定の条件を満たす労使協定による待遇の確保
      のいずれかを実施する必要がある。
  • 待遇に関する説明義務の強化
    • 非正規雇用労働者に対して、正社員との待遇差の内容や理由を明確に説明することが義務化された。
  • 行政による履行確保措置および行政ADRの整備
    • 企業側が適切な対応を行わなかった場合、行政が指導・監督を強化する。
    • 企業と労働者間の紛争解決のために、裁判外紛争解決手続(ADR)を活用できるようになった。

「同一労働同一賃金」が導入されることで、企業は人材の処遇を見直さざるを得ません。これにより、特に中小企業では、「給与水準の調整」「労働時間管理の強化」「福利厚生制度の見直し」など、多方面にわたる改革が必要になります。

企業の積極的な対応が求められる

このように、働き方改革は単なる労働時間の短縮だけでなく、労働者の待遇全般に影響を及ぼします。企業にとっては、新たな制度を適用しながらも、生産性の向上を同時に進めなければなりません。そのため、企業側は次のような戦略を検討することが求められます。

  • 労働時間短縮に対応した業務効率化の推進
  • デジタル技術を活用した生産性向上
  • 人材採用や育成方針の見直し

すでに働き方改革が公布されてから6年が経過しており、企業側が対応を後回しにすることはもはや許されません。今後もこの流れは加速することが予想され、企業には積極的な対応が求められています。

企業と労働者に与える影響

中小企業の経営課題と対応策

「働き方改革」による労働時間の見直しや待遇格差の是正は、企業経営に大きな影響を与えています。特に、中小企業では業務効率化のための設備投資や労働時間短縮への対応が急務となっています。

一方で、企業の経営と労働者の就労環境整備は、利益相反する場面も少なくありません。例えば、長時間労働の規制は労働者の健康を守る一方で、人手不足が深刻な企業では業務量をこなすための工夫が必要になります。

こうした利益相反を解消するために、政府はコロナ禍に対応した助成金や補助金を導入しました。これにより、企業の支援を通じて労働者の雇用維持や賃金上昇、生活保全を実現しようとしています。しかし、その実行主体はすべての企業に委ねられ、実行義務も企業側に課せられているのが現状です。

また、日本の法人税率は国際的に見ても高水準であり、経済団体である経団連は法人税減税を求める声を上げています。税収に関する議論は財務省をはじめ、消費税や所得税、住民税の改正へと波及する可能性もあります。

すでに「働き方改革」が施行されてから6年が経過しており、後戻りすることは現実的ではありません。今後、さらなる労働環境の変化に対応するため、中小企業は労働時間管理の強化や業務プロセスの見直しを進める必要があります。

労働者側の視点と新たな課題

労働者にとって「働き方改革」は、長時間労働の是正や労働環境の改善というメリットがあります。ブラック企業に代表される過重労働の問題がクローズアップされ、大手企業でもサービス残業や休日出勤の問題が浮き彫りになりました。

過去には、大手広告代理店の若手社員が過労による精神疾患を発症し、自ら命を絶つという痛ましい事件もありました。また、かつての企業文化では、残業時間を実際より少なく申告したり、休日出勤が常態化していた例も少なくありません。こうした実態を踏まえると、「働き方改革」が労働者の健康を守る上で重要な役割を果たしていることは明らかです。

しかし、労働時間の規制により「もっと働いて収入を増やしたい」という労働者の希望に応えられないケースも出てきています。こうした場合、副業や兼業、パート・アルバイトの掛け持ち、高収入の仕事への転職を検討する労働者も増えてくるでしょう。

また、「同一労働同一賃金」の導入により、正社員と非正規労働者の待遇格差は縮小しつつありますが、正社員のモチベーション低下という新たな課題も生じています。短期契約が主流だった非正規雇用の拡大は、小泉内閣時代の人件費削減策によって企業側にとっての大きなメリットとなりました。しかし、現在では一定の条件を満たせば非正規社員も正社員と同等の福利厚生を受けられるようになり、企業にとって新たなコスト負担となっています。

さらに、企業活動はすでに国家と同等の影響力を持つ存在となりつつあります。「働き方改革」は、これまでの不公正な労働環境を是正するために必要な政策であると同時に、企業側にも大きな負担を強いるものです。そのため、企業と労働者双方が適応できる環境を整備することが求められています。

特に、近年は転職市場が活発化しており、「ビズリーチ」や「リクルートエージェント」といった転職支援サービスの広告が増加しています。これは「働き方改革」による雇用環境の変化が一因となっていると考えられます。

今後も、先端技術の進化とともにワークスタイルの変化は加速していくでしょう。企業は従業員の働き方に柔軟に対応し、人材マネジメントの重要性をより一層高める必要があります。

まとめ

本記事では、「働き方改革」の目的や背景、企業と労働者への影響について詳しく解説しました。長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実施は、労働環境の改善につながる一方で、企業の負担増加や経営課題の発生といった新たな問題も浮上しています。特に中小企業にとっては、人材確保や生産性向上のための対応が急務となっており、適切な戦略が求められます。

また、労働時間規制により「もっと働いて収入を増やしたい」と考える労働者のニーズとのギャップも生じており、副業や転職を検討するケースが増えています。企業にとっては、こうした変化に柔軟に対応しながら、労働環境の整備を進めることが不可欠です。

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筆者 三坂大作
筆者 三坂大作
略歴
1961年 横浜市生まれ
1985年 東京大学法学部卒業
1985年 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行
1985年 同行 表参道支店:法人融資担当
1989年 同行 ニューヨーク支店:コーポレートファインス非日系 取引担当
1992年 三菱銀行退社
資格
貸金業務取扱主任者(第F231000801号)
経営革新等支援機関認定者
東京大学法学部を卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入社。
法人融資の専門家として、国内での金融業務に従事し、特にコーポレートファイナンス分野において豊富な経験を誇る。
同行に関して、表参道支店では法人融資を担当し、その後ニューヨーク支店にて非日系企業向けのコーポレートファイナンス業務に従事。
法人向け融資の分野における確かな卓越した知見を踏まえ、企業の成長戦略策定、戦略、資金調達支援において成果を上げてきました。
金融・経営戦略の専門家として、企業の持続的な成長を支える実務的なアドバイスを提供し続けています。
 
 
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