2025.04.16
投資ラウンドとは?各段階での資金調達の選択肢やポイントについて解説
スタートアップ企業にとって、資金調達は事業成長の生命線です。この資金調達ですが、スタートアップの成長フェーズである「投資ラウンド」ごとに適した調達方法が存在します。エンジェルラウンドから始まり、シード、シリーズA、B、Cと進む各ラウンドでは、調達額の規模や投資家の種類、求められる事業の成熟度が大きく異なります。
本記事では、スタートアップ企業が成長過程で直面する、各投資ラウンドの特徴や適切な資金調達手法、注意すべきポイントを詳しく解説します。
投資ラウンドとは
投資ラウンドとは、スタートアップ企業が、成長段階に応じて段階的に行う資金調達の区分を指します。企業の発展に合わせてエンジェル、シード、シリーズA、B、Cなどと名付けられたラウンドごとに、調達する金額や投資家の種類が変わってきます。
各ラウンドには明確な定義があるわけではなく、業界慣習として分類されています。
なぜ投資ラウンドが存在するのか
投資ラウンドが段階的に設定されている理由は、スタートアップの成長支援にあります。アイデアだけの段階から一気に数十億円を調達するのではなく、段階的に資金を調達することで、投資家はリスクを分散できます。
また、スタートアップ側も各成長段階に応じた適切な金額を調達できるため、過度な株式の希薄化を避けることができます。さらに、各ラウンドでの資金調達は、スタートアップにとって、次のラウンドへ進むための布石となります。
投資ラウンドの全体像
投資ラウンドは通常、以下のような流れで進行します:
- エンジェルラウンド:創業初期のアイデア段階
- シードラウンド:事業の大枠が固まった段階
- プレシリーズA:初期製品の開発や市場検証段階
- シリーズA:製品の販売が始まり、事業モデルの検証が進んだ段階
- シリーズB:事業拡大を加速させる段階
- シリーズC以降:大規模な事業拡大やIPO準備段階
各ラウンドでは調達金額が段階的に大きくなるだけでなく、投資家の種類や期待される成果、企業評価の方法も変化します。
エンジェルラウンドとシードラウンド
創業初期段階の資金調達としては、エンジェルラウンドとシードラウンドが代表的です。この段階ではまだ実績が少なく、リスクが高いため、特定の投資家層からの資金調達が中心となります。
エンジェルラウンドとは
エンジェルラウンドは、スタートアップにとって最初の外部資金調達を行う段階です。この段階では、事業はまだアイデアや構想レベルであることが多く、プロトタイプの開発資金や市場調査費用の調達を目的としています。
調達金額は通常、数百万円から数千万円程度と小規模です。創業者の人柄やビジョンが投資判断の大きな基準となるため、個人的なコネクションが活用されます。
主な資金提供者は、エンジェル投資家と呼ばれる個人投資家で、自身も起業経験がある人や業界の専門知識をもつ人が多いのが特徴です。彼らはお金だけでなく、貴重なアドバイスやネットワークも提供してくれる場合があります。
シードラウンドとは
シードラウンドは、事業の大枠が固まり、最小限の実行可能な製品(MVP=Minimum Viable Product)の開発や人材確保、チーム構築のための資金を調達する段階です。エンジェルラウンドよりも進んだ段階であり、ある程度の事業計画や市場分析が求められます。
調達金額は数千万円から数億円程度に拡大し、市場の可能性と事業モデルの実現性が重視されます。この段階では、シードステージに特化したベンチャーキャピタル(シードVC)が主な投資家となります。
シードラウンドでは、製品開発の加速や初期ユーザーの獲得、収益モデルの検証などを目指します。投資家は、スタートアップのスケーラビリティ(拡張性)や市場の成長性に注目して投資判断を行います。
エンジェル・シードラウンドでの資金調達方法
この初期段階での主な資金調達方法には、以下のようなものがあります:
- エンジェル投資家からの出資:個人投資家からの直接投資
- シードVCからの出資:初期段階のスタートアップに特化したVC
- アクセラレータープログラム:短期間の育成プログラムと少額出資
- クラウドファンディング:不特定多数から小口資金を集める方法
- 政府系金融機関の創業融資:日本政策金融公庫などの低金利融資
- 補助金・助成金:返済不要の公的支援金
これらの方法を組み合わせて、初期資金を確保することが一般的です。
調達方法 | 特徴 | 調達額の目安 |
---|---|---|
エンジェル投資家 | 経験・ネットワーク提供も期待できる | 100万円〜3,000万円 |
シードVC | 初期スタートアップに特化した投資 | 1,000万円〜1億円 |
アクセラレーター | 育成プログラム込みの支援 | 500万円〜3,000万円 |
クラウドファンディング | 広範なユーザーテストも可能 | 100万円〜数千万円 |
公的融資・補助金 | 低金利または返済不要 | 300万円〜数千万円 |
プレシリーズAとシリーズA
事業が形になり始めた段階では、プレシリーズAやシリーズAと呼ばれる投資ラウンドが重要になります。この段階では、より大きな資金を調達して、事業拡大を図ることが目的となります。
プレシリーズAとは
プレシリーズAは、シードラウンドとシリーズAの間に位置するラウンドで、比較的最近現れた概念です。製品開発はある程度進んでおり、初期ユーザーからのフィードバックを得ている段階ですが、本格的な事業拡大には至っていません。
調達金額は数千万円から数億円程度で、初期の成長指標やユーザー反応が投資判断の材料となります。プレシリーズAは、シリーズAに向けた布石として、製品の完成度を高めたり、マーケティング戦略を検証したりするための資金を確保することが目的です。
この段階での投資家は、エンジェル投資家から、より規模の大きいベンチャーキャピタルへとシフトしていきます。初期段階に投資したエンジェル投資家が、追加投資を行うケースも多くあります。
シリーズAとは
シリーズAは、スタートアップにとって、最初の本格的な大型資金調達ラウンドです。この段階では、製品やサービスが市場に投入され、ある程度の顧客獲得や収益がみえ始めている状態が理想的です。
調達金額は数億円から十数億円程度になり、収益モデルの実証と拡張性が重視されます。シリーズAの主な目的は、製品の大幅な改善、マーケティング強化、組織の拡大などによる事業の本格的な成長です。
シリーズAの投資家は、主に成長期のスタートアップに注力するベンチャーキャピタル(VC)です。彼らは単なる資金提供者ではなく、戦略的なアドバイスや業界ネットワークの提供も期待できます。また、大企業の投資部門であるコーポレートVC(CVC)が参画することも増えてきます。
プレシリーズA・シリーズAでの資金調達方法
この段階での主な資金調達方法には以下のようなものがあります:
- ベンチャーキャピタル(VC)からの出資:専門的な投資機関からの資金調達
- コーポレートVC(CVC)からの出資:事業会社の投資部門からの資金調達
- クラウドファンディング(株式型):不特定多数の投資家から株式と引き換えに資金調達
- インキュベーターやアクセラレーターのフォローオン投資:初期段階で支援した機関からの追加投資
- 補助金・助成金:成長段階のスタートアップ向けの公的支援
シリーズA段階で資金調達を成功させるには、製品やサービスが市場のニーズに合っていること(PMF=Product Market Fit)を明確に示し、ユニットエコノミクスを改善することが重要です。また、競合他社に対して持続的に優位性を保てるかどうかも、投資判断の大きなポイントになります。
評価ポイント | プレシリーズA | シリーズA |
---|---|---|
製品状況 | MVP/初期製品が完成 | 市場投入済み、改善フェーズ |
ユーザー | 初期ユーザーの獲得 | 顧客基盤の形成と拡大 |
収益 | 初期収益または見込み | 収益モデルの実証段階 |
チーム | コアチームの形成 | 専門人材の採用と組織構築 |
調達額目安 | 5,000万円〜3億円 | 3億円〜15億円 |
シリーズB以降
シリーズB以降は、スタートアップが本格的な成長フェーズに入る段階です。ここでは、より大規模な資金調達を行い、事業の急速な拡大を目指します。
シリーズBとは
シリーズBは、製品やサービスが市場で一定の成功を収め、事業拡大のための大規模な資金が必要な段階です。この時点では、収益モデルが確立され、安定した顧客獲得の経路が構築されていることが前提となります。
調達金額は十数億円から数十億円規模に拡大し、事業の急速な拡大とスケールアップが主な目的となります。具体的には、新市場への進出、プロダクトラインの拡充、人材採用の加速などに資金を投じます。
シリーズBでは、投資家は明確な収益成長や市場シェア拡大を期待します。調達に成功するためには、過去の実績に加え、今後の成長戦略と具体的な数値目標を示すことが重要です。また、この段階では、複数のVCが共同で投資するシンジケート投資が一般的です。
シリーズCとそれ以降
シリーズC以降は、すでに成功と認められたビジネスが、さらなる拡大を目指す段階です。国内市場でのさらなる成長、海外進出、M&A(合併・買収)による規模拡大、新規事業への参入などが主な資金使途となります。
調達金額は数十億円から百億円以上の大規模なものとなり、国際的な競争力と持続的な成長モデルが重視されます。この段階でのバリュエーション(企業価値評価)は数百億円規模になることも珍しくありません。
シリーズC以降の投資家層は、従来のVCに加え、プライベートエクイティ(PE)ファンド、機関投資家、大企業など、より多様化します。また、IPO(新規株式公開)前の最終調達ラウンドとなることも多く、プレIPOラウンドとも呼ばれます。
シリーズB以降の資金調達方法
この成長後期段階での主な資金調達方法には、以下のようなものがあります:
- 複数VC・CVCからのシンジケート投資:複数の投資機関による共同出資
- プライベートエクイティ(PE)ファンドからの出資:大規模な成長資金の提供
- 事業会社との資本提携:戦略的パートナーからの投資
- メザニンファイナンス:株式と負債の中間的性質をもつ資金調達
- ベンチャーデット:成長企業向けの負債性資金
- Pre-IPO投資:IPO直前の大型資金調達
シリーズB以降の資金調達では、事業の透明性を高めることや、組織体制を整備して企業としての信頼性を示すことが重要になります。また、コーポレートガバナンスを確立し、継続的に成長できる企業であることを投資家にアピールする必要があります。
ラウンド | 一般的な調達額 | 企業価値評価の目安 | 主な投資家層 |
---|---|---|---|
シリーズB | 10億円〜50億円 | 50億円〜200億円 | 大手VC、CVC、成長投資ファンド |
シリーズC | 30億円〜100億円 | 100億円〜500億円 | PE、大手VC、機関投資家 |
シリーズD以降 | 50億円〜数百億円 | 300億円以上 | PE、機関投資家、事業会社 |
Pre-IPO | 100億円〜数百億円 | 500億円以上 | PE、ソブリンウェルスファンド、機関投資家 |
投資ラウンドごとの資金調達額と企業価値評価
投資ラウンドが進むにつれて、調達額と企業価値評価(バリュエーション)は段階的に上昇します。各ラウンドにおける、典型的な調達額と評価額を把握しておきましょう。
投資ラウンド別の調達額の目安
各投資ラウンドにおける一般的な調達額は、業界や地域によって異なりますが、日本のスタートアップエコシステムにおける目安は以下の通りです。
エンジェルラウンドでは、数百万円から数千万円程度、シードラウンドでは数千万円から数億円程度の資金調達が一般的です。段階に応じた適切な金額を見極めることが、過度な株式の希薄化を防ぎ、長期的な成長を支えるうえで重要です。
プレシリーズAでは5千万円から3億円程度、シリーズAでは3億円から15億円程度となり、事業の具体的な拡大に必要な資金を調達します。シリーズBに進むと、10億円から50億円、シリーズC以降は数十億円から数百億円規模と調達額は急速に増加します。
ラウンド名 | 一般的な調達額(日本) | 一般的な調達額(米国) |
---|---|---|
エンジェル | 500万円〜5,000万円 | $100K〜$1M |
シード | 5,000万円〜3億円 | $1M〜$5M |
プレシリーズA | 2億円〜5億円 | $3M〜$7M |
シリーズA | 3億円〜15億円 | $7M〜$15M |
シリーズB | 10億円〜50億円 | $15M〜$50M |
シリーズC以降 | 30億円〜数百億円 | $50M〜$100M+ |
企業価値評価の推移
資金調達の段階で、企業の価値評価が前回よりも高くなることを「アップラウンド」と呼び、これは投資家にとっても創業者にとっても理想的な状態です。
企業価値評価は様々な要素によって決定されますが、ラウンドが進むにつれて評価基準も変化します。初期段階では、創業チームの質やビジョンの魅力が重視されるのに対し、後期段階では収益性や市場シェア、成長率など定量的な指標が重視されます。
企業価値を適切に評価することは、安定的に資金調達を続けるために不可欠です。企業価値が高すぎると、次回の調達で評価が下がる「ダウンラウンド」につながる可能性があり、逆に低すぎれば十分な資金調達が困難になります。
資金調達における希薄化と持株比率の管理
資金調達に伴って考えておくべきことの一つが、既存株主の持分希薄化(ダイリューション)です。新たな投資家に株式を発行するたびに、創業者や既存投資家の持株比率は低下します。
一般的に、各ラウンドでは発行済株式の15%〜25%程度を新規投資家に割り当てることが多いものです。複数のラウンドを経ると、創業者の持株比率は当初の100%から大きく低下することになります。
経営権の維持と資金調達のバランスは、慎重に検討すべき課題です。特に過半数の株式を失うと、重要な経営判断において、自律性が制限される可能性があります。
持株比率を管理するための方策としては、必要以上の資金調達を避ける、高いバリュエーションを獲得する、戦略的なオプション制度の活用などがあります。また、議決権の異なる種類株式を導入する方法もあります。
投資ラウンドを成功させるためのポイント
投資ラウンドを成功させるためには、準備段階から資金調達後まで、一貫した戦略的なアプローチが必要です。
資金調達の事前準備
効果的な資金調達のためには、周到な準備が不可欠です。まず、自社の現状を正確に把握し、どのラウンドに相当するのかを見極めることから始めます。
次に、資金調達の目的と使途を明確にします。「事業を拡大するため」といった漠然とした理由ではなく、具体的な資金使途と期待される成果を定義することが重要です。例えば、「3年以内に海外5カ国に展開するための人材採用と現地オフィス設立費用」といった具体性が求められます。
また、調達金額と時期の計画も重要です。資金が尽きる前の余裕がある段階で、次のラウンドの準備を始めることが理想的で、通常は現在の資金が尽きる6〜12ヶ月前から調達活動を開始するべきです。
投資家の選定
投資家は単なる資金提供者ではなく、ビジネスパートナーとして長期的な関係を構築することになります。そのため、資金力だけでなく、業界知識、ネットワーク、相性などを総合的に考慮して選定することが重要です。
適切な投資家の選定には、以下の点に注意しましょう:
- 自社の事業領域や成長段階に合致した投資実績があるか
- 他のポートフォリオ企業へのサポート体制はどうか
- 投資家としての評判や他の創業者からの評価
- 企業文化や経営方針との相性
- 次のラウンドでのフォローオン投資能力
- 反社会的勢力との関連がないこと
交渉においては、資金調達の条件(バリュエーション、株式の種類、取締役席など)を慎重に検討し、法律の専門家の助言を受けることをお勧めします。特に、株主間契約における拒否権(ベト権)や優先権については、その影響を十分理解する必要があります。
各ラウンドでよくある失敗
投資ラウンドにおいてスタートアップがよく陥る失敗には、以下のようなものがあります。
段階に合わない投資家へのアプローチは時間の無駄になります。例えば、アイデア段階で、シリーズAのVCに接触しても、投資を検討してくれることはほとんどありません。各ラウンドに適した投資家を調査して、アプローチすることを心がけましょう。
過大なバリュエーションの設定も危険です。短期的には創業者の持分の希薄化を抑えられますが、次のラウンドでダウンラウンドとなるリスクが高まります。ダウンラウンドは既存投資家との関係悪化や、市場からの信頼低下を招く可能性があります。
また、資金調達に時間を取られすぎて、本業がおろそかになるケースも多くあります。資金調達は手段であって目的ではないことを忘れず、事業の成長に集中することが最終的な成功につながります。
まとめ
この記事では、スタートアップの成長段階に応じた投資ラウンドの特徴と、資金調達方法について詳しく解説してきました。エンジェルラウンドから始まり、シード、シリーズA、B、Cと進むにつれて、調達額や投資家の種類、企業に求められる成熟度が段階的に変化していきます。
投資ラウンドは単なる資金調達の区分ではなく、スタートアップの成長ロードマップとして機能します。各ラウンドには達成すべきマイルストーンがあり、それを達成することで次のステージへ進む資格を得ることができます。
成功する資金調達のためには、自社の現在地を正確に把握し、適切なタイミングで適切な投資家にアプローチすることが重要です。また、単に資金を集めることだけでなく、長期的なビジネスパートナーとしての投資家選びも重要な要素です。
投資ラウンドを通じた成長戦略を構築する際は、短期的な資金需要だけでなく、長期的な株主構成や経営の自由度、次のラウンドへの影響なども考慮して総合的に判断する必要があります。専門家のアドバイスを受けながら、自社の事業特性や成長計画に合った、最適な資金調達戦略を検討してみてください。
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