2025.04.09
現在価値とは?NPVやDCF法による投資判断についても解説
事業資金の投入や投資判断を行う際、後から得られる金額が今の価値にしてどれほどの意味をもつかということは、とても基本的な考え方です。過去や将来の数字ではなく、今の基準で費用対効果を考えることで、資金を投入すべきかどうかという判断が正確になります。
この記事では、現在価値という考え方や計算方法、将来価値との関連、さらには正味現在価値(NPV)やDCF法を用いた投資判断まで幅広く解説します。
現在価値の基本
現在価値は、将来得られるキャッシュフローを現在の価値に換算する手法であり、投資や資産運用の適正評価を可能にします。
現在価値の考え方
現在価値とは、将来に手にするお金を今の時点でどの程度価値があるかに換算したものを指します。たとえば、1年後に受け取る100万円は、金利やインフレ率を考慮すると、今日の100万円よりも実質的な価値は異なる場合があります。
そのため、受け取り時期が異なるお金を比較したり、投資を行う際の妥当性を測る基準として活用されます。お金は、将来よりも今手元にある方が自由に使いやすく、金利を活用すれば増やすこともできます。そうした考え方のもと、現時点での価値に引き直す発想が重要です。
このとき、現在価値を正しく把握することで、資金を投下するタイミングを検討しやすくなります。いつ資金を回収できるのか、どのくらいのリターンが得られるのかが数値化しやすくなるため、経営判断の説得力も高まります。
現在価値は投資や融資だけでなく、事業全体のキャッシュフローを評価する際にも活用できます。将来に発生する収入と支出を今の価値で比較することで、どのプロジェクトに優先的に資金を振り向けるべきかという判断にもつながります。
現在価値の計算方法
現在価値を算出する際には、割引という考え方を使います。将来受け取る金額を一定率で割り引いて、今の価値に変換するイメージです。計算式としてPV = FV ÷ (1 + r)ⁿがあります。ここでFVは将来価値、rは割引率、nは年数です。
たとえば、1年後に受け取る100万円で割引率を10パーセントとする場合、現在価値は約90.9万円となります。割引率が高いほど将来のお金の価値を低く見積もることになり、逆に割引率が低ければ将来のお金の価値を高く評価します。
計算式は単純ですが、どの割引率を用いるかによって結果が大きく変わります。企業が資金を借り入れる場合の金利や、投資家が求めるリターン率など、状況に応じて割引率が決定される点に注意が必要です。
将来価値との違い
現在価値と対になるのが将来価値(FV=Future Value)です。将来価値は、今手元にあるお金を複利運用したときに、将来的にどれだけ増えているかを示します。計算式としては、FV = PV × (1 + r)ⁿがあります。現在価値の計算式を逆方向に使うことで、将来どれほどの金額になるかを推定できます。
たとえば、100万円を10パーセントで1年運用すると、1年後には110万円になります。一方で、将来価値を再度現在価値へ引き戻そうと思う場合には、同じ割引率を用いれば、双方を比較することができるでしょう。
将来価値はあくまでも今のお金が増えた後の姿であり、現在価値は将来もらうお金が今いくらかに変換したものです。使う場面は異なりますが、両者を理解することで、全体的なお金の流れや投資効率をより明確に把握できます。
現在価値と正味現在価値
一般的に投資案件を評価するときには、単年だけでなく複数年にわたって得られるキャッシュフローを合計して、そこから初期投資額を差し引く正味現在価値が使われます。ここで、各年のキャッシュフローはそれぞれ現在価値に換算されるため、正味現在価値は現在価値を活用した総合的な指標といえます。
正味現在価値はNPVと呼ばれ、投資の収益性の判断に用いられます。もしNPVがプラスなら投資案件として魅力的であることを示し、マイナスなら回収が難しい可能性が高いと判断できます。
たとえば、初期投資が1,000万円で、複数年にわたって合計1,200万円の現在価値を生むプロジェクトでしたら、NPVはプラス200万円となります。こうした分析によって、投資可否の方向性を明確にできます。
正味現在価値とリスク評価
ここでは正味現在価値とリスクの観点から、割引率やキャッシュフローの考え方を深めていきます。投資判断においては、ただ数値を計算するだけでなく、リスクをどう見積もるかが大切になります。
正味現在価値によるリスク評価
正味現在価値の指標は、将来のキャッシュフローの総和を現在価値に引き直し、そこから初期投資を差し引いたものです。プラスであれば収益を生む見込みが高く、マイナスであれば投資不適格という判断材料になります。
事業資金融資を検討する金融機関や投資家にとっても、NPVが高い企業ほど将来的なリスクが低く、リターンを望めるとみなされます。特に、長期の投資案件や大きな資金を投下する場合、短期的な損益だけではなく先々の資金回収可能性を数値化したいときに有効です。
また、NPVの考え方は、新規事業だけでなく買収や合併などのM&Aにおける事業評価にも応用できます。将来得られるであろうキャッシュフローを割り引き、現時点でどれだけ価値があるかを見極めることで、投資判断を下しやすくなります。
割引率とリスク
将来のキャッシュフローを現在の価値に引き直すためには、割引率を設定することが不可欠です。割引率には、企業が借入れをする場合の金利や、投資家が期待するリターンが反映されます。また、株主資本コストやWACC(加重平均資本コスト)が用いられることも多くあります。
リスクが高い投資案件ほど、割引率を高く設定して、キャッシュフローを低めに評価します。逆にリスクが低いほど割引率は低くなり、将来のお金の価値を高めにみることになります。
割引率は、投資判断の大前提ともいえる存在です。もし割引率を誤って設定すると、NPVの計算結果そのものが大きく変動し、投資判断を大きく誤るリスクがあります。
キャッシュフローの捉え方
正味現在価値では、各年のキャッシュフローを合算する際に必ず現在価値に引き直し、それらを足し合わせます。キャッシュフローは、フリーキャッシュフロー(FCF)を用いることが多く、投資や設備投資、人件費などを差し引いた後の現金流出入が重要になります。
複数年にわたる、ビジネスの現金収支が見込めるプロジェクトでは、年度ごとに収益や費用が変動します。そこで正確な見込みを立てるためには、財務計画や市場動向の想定を織り込みながら、資金の流れを試算する必要があります。
このキャッシュフローが大きく変動する事業ほど、正味現在価値も変わりやすくなります。不動産投資や大規模な製造設備投資、ITシステム構築などは、初期費用が高額になりやすく、回収期間が長期化しやすいでしょう。
そのため、キャッシュフローの推移を綿密に予測することで、実態に即したNPVを試算し、より現実的な経営判断を下すことが求められます。
リスクと現在価値の関係
リスクとは、将来の収益が不確実である程度を指します。リスクが高い事業は、キャッシュフローの変動幅が大きくなる傾向にあり、大胆な投資は慎重に検討されるべきです。現在価値の計算では、リスクの度合いによって割引率を高く設定し、将来のお金を低めに評価します。
しかし、リスクを過大に見積もりすぎると、有望な投資のチャンスまで逃してしまう可能性があるのも事実です。現実に即したリスク評価を行い、妥当な割引率を設定して分析するようにしましょう。
企業が新規に設備投資を行う際、市場環境や競合他社の動き、技術革新など、さまざまな要素がリスクを左右します。これらを踏まえて現在価値を算出することで、実際の投資効果に近い判断を下しやすくなるでしょう。
DCF法の流れ
現在価値を駆使した代表的な手法として、ディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)があります。
フリーキャッシュフロー
DCF法では、フリーキャッシュフロー(FCF)を基礎に計算を行います。FCFとは、営業活動によるキャッシュフローから設備投資などを差し引き、自由に使えるお金を指します。企業の将来的な余剰資金の大きさが、その企業の価値を測るうえで非常に大切になります。
具体的には、期間ごとに見込まれるFCFを割引率で現在価値に換算し、それを合計することで企業全体の価値を算出します。その後、負債などを差し引いて株主価値を評価することが多くあります。
FCFをどれだけ正確に予測できるかが、DCF法の精度を左右します。財務諸表だけでなく、経営環境や業界動向を踏まえた綿密なシミュレーションが必要となるでしょう。
ターミナルバリューの計算
DCF法では、ある一定期間までのFCFを割り引いた値に加えて、将来長期的に続く価値をターミナルバリューという形で加算します。これは、計算対象期間以降も企業や資産が生み出すキャッシュフローを一括で評価したものです。
ターミナルバリューの設定は、企業の事業性を大きく左右します。急成長期にある企業と成熟期にある企業では、当然将来をどう見込むかは異なるでしょう。成長率をどう設定するかにも注意が必要です。
ターミナルバリューの算出方法としては、一定の成長率を仮定し続けるゴードン成長モデルを採用するなど、いくつかのアプローチがあります。いずれにしても、割引率の設定や成長率の見立てが、DCF法全体の結果に大きな影響を与えます。
企業価値と投資判断への応用
DCF法で算出した企業価値は、投資判断やM&A評価、不動産投資など、さまざまな場面で活用されています。現在価値に基づいて企業の収益力を判断するため、数字に説得力がある方法だといえます。
将来得られるキャッシュフローを基礎に置いているため、一時的な会計上の利益ではなく、本質的な価値を重視することが可能です。短期的な業績に振り回されず、長期的な視点で投資や経営を判断したい場合に有効となります。
また、時価総額や他の評価手法だけでは捉えきれない要素を補完できるのも、DCF法の利点です。特に、新興市場や特殊なビジネス形態の場合、DCF法による算定は、意思決定に不可欠な情報を提供してくれるでしょう。
事業資金融資や不動産投資におけるDCF法
企業が銀行などから事業資金融資を受ける際、DCF法で算出した事業計画の妥当性が審査の材料となることが多いものです。将来のキャッシュフローが十分に見込めると証明できれば、資金調達が円滑に進む可能性があります。
不動産投資でもDCF法を活用することで、物件の将来的な賃料収入や売却益を現在価値にし、投資の是非を検討することが可能です。ただし、不動産市況や金利の変動は無視できない要素であり、リスク評価に大きく影響します。
最終的に、さまざまな視点からの検証を踏まえて現在価値を評価することが、事業資金融資や不動産投資の成功確率を高めるコツになります。
現在価値を把握するメリット
ここでは、現在価値を活用するメリットを整理します。数値化による現実的な判断が得られる点など、資金繰りを検討する経営者にとって大切な要素が多くあります。
定量的な判断ができる
将来のお金を現在の価値に基づいて評価するため、感覚的な判断から一歩進んで数値による分析が可能になります。将来的な収益だけをみて、「大きな利益が出そうだ」という期待を抱くよりも、現実的な現在値に落とし込むことができるのです。
これは、社内外のステークホルダーに対して説明する際の説得材料にもなります。融資を考える金融機関や投資家にとっても、具体的な金額や割引率が示されることで、安心感が増す傾向にあります。
加えて、過去のデータや市場分析に基づいて割引率やキャッシュフローを設定するため、一定の客観性を保ちやすいのもメリットです。
リスクとリターンを見極められる
現在価値の考え方を取り入れると、将来のキャッシュフローを割引率で調整するため、リスクの高低を数字で示すことが可能になります。リスクが高い案件ほど割引率を高めに設定するため、投資判断で慎重さを発揮できるわけです。
一方で、リスクが低く見込まれる案件では、割引率を低くして高めの現在価値を設定し、事業として魅力的な側面を捉えることができます。判断材料が明確になることで、経営戦略の道筋を立てやすくなります。
特に、複数の投資問題を同時に検討する場合には、リスク別に現在価値を比較することで、投資優先度を付ける助けにもなるでしょう。
複数案件の比較が容易
将来の収益が異なる案件同士を評価する際も、現在価値に変換することで同じ土俵で比較できるようになります。たとえば、A案件は3年で大きなリターンがあるが、B案件は5年かけて緩やかにリターンを得る場合など、単純な数値の大きさだけでは判断が難しい場合も多くあります。
そこで、それぞれのキャッシュフローを現在価値に変換し、NPVを計算すれば、どちらの案件を優先するのがより合理的かを整理できます。投資計画が複数あるときには、特にこの点が大きなメリットになります。
また、変換後の値がシンプルに比較可能な指標となるため、経営会議などでもスピーディーに合意形成が進むことが期待できます。
したがって、客観的に複数案件を評価するための手段として、現在価値計算は非常に有用なのです。
現在価値を用いる際の注意点
メリットが大きい一方で、現在価値の計算にはいくつかの注意点も存在します。
割引率の設定ミス
現在価値を計算するうえで、もっとも重要な要素であるのが割引率です。そのため、割引率を高く設定しすぎると、将来のキャッシュフローを過度に低く評価してしまい、有望な投資案件を逃す可能性があります。逆に、低く設定しすぎると、過大評価につながるリスクがあります。
例えば、過去の金利水準だけを参照して割引率を選ぶと、景気変動や業界特有のリスクなどを反映できないことがあります。リスクプレミアムを適切に上乗せするなど、経営環境や投資対象の性質を正確に考慮する姿勢が大切です。
実際に割引率を設定する場合には、WACCや株主資本コスト、さらには事業の将来性など多角的な観点から検討し算出する必要があります。
キャッシュフロー予測の不確実性
現在価値を算出する際には、将来のキャッシュフローがどの程度発生するかを見積もります。しかし、ビジネスの世界では予測通りに進まないことも多々あります。経済状況の変動や自然災害、技術革新など、予想外のイベントが発生するリスクは常に存在しています。
特に、成長を見込む案件では、売上高や市場シェアの拡大を楽観的に見積もってしまいがちです。そうした過度の期待が外れた場合、NPVは大幅に下振れする可能性があります。
どのプロジェクトや投資であっても、複数のシナリオを想定してキャッシュフローを試算し、リスク度合いに応じた見積もりの幅を考慮することが賢明です。
市場環境の変動
外部要因となる市場動向や金利、為替レート、競合状況なども現在価値に少なからず影響を与えます。これらは、企業内の努力だけではコントロールしにくい要素であり、リーマンショックのような世界的な経済危機が起これば、当初の計画が崩れることも考えられます。
そうした環境変化を見越して、保守的な割引率を採用するケースもありますが、それが過度であれば魅力的なチャンスを失うことにもなるでしょう。逆に楽観的になりすぎれば、過大な負荷を負うリスクがあります。
経営者としては、経済予測や業界動向を常に追い、計算モデルも適宜アップデートする柔軟さが求められます。
まとめ
本記事では、現在価値の基礎から正味現在価値、DCF法などを通じて、どのようにお金の価値を評価すべきかを説明しました。将来のお金の価値を、今の基準に変換するという考え方は、投資の判断をしたり、資金繰りの戦略を明確にしたりするために欠かせません。
現在価値を把握することで、事業や投資の妥当性をより客観的に判断しやすくなります。メリットと注意点を踏まえ、割引率やキャッシュフローの予測を慎重に行うことで、安定した経営を目指すことができます。投資案件や融資計画を検討する際は、まず現在価値を用いた検証を取り入れてみてください。
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