2025.06.13
裁判所によって差し押さえられた物件とは?公売物件との違いや取得の仕方について解説
不動産投資や新たな事業拠点の取得を検討したいという時に、裁判所が差し押さえた競売物件は、通常よりも低い価格で購入できる可能性があり、魅力的に映るかもしれません。ところが、再建築ができない物件を選んでしまうと、将来的な資産価値や売却時に影響を及ぼすことも考えられます。また、競売物件の取得においては、一般的な住宅ローンを利用しにくいことも多いため、資金調達をする際も事前に慎重な検討が必要となります。
この記事では、裁判所による差し押さえ物件とは何か、競売と公売の違い、再建築不可物件のリスクと見分け方、そして経営者向けの資金調達方法まで、競売物件取得に必要な知識を詳しく解説します。
裁判所による差し押さえ物件とは
裁判所による差し押さえ物件とは、債務者が借金の返済などの債務を履行できなくなった際に、裁判所の命令によって強制的に差し押さえられた不動産のことを指します。
差し押さえ物件が発生する経緯
債務者が、住宅ローンやその他の借入金の返済を滞らせると、債権者は裁判所に債権回収の申立てを行います。裁判所はこの申立てを受けて、債務者の財産を差し押さえる決定を下します。
差し押さえの対象となるのは、債務者が所有する不動産、自動車、貴金属などさまざまな財産ですが、特に不動産は高額であることから、債権回収の重要な手段となっています。差し押さえられた不動産は、債権者への返済原資を得るために競売にかけられるのが一般的です。
近年では、経済状況の変化や事業の失敗、個人の生活環境の激変などが原因で、住宅ローンの返済が困難になるケースが増えています。特に中小企業の経営者は、会社の資金繰りのために個人資産を担保に融資を受けていることも多く、事業不振が直接的に自宅などの不動産差し押さえにつながることもあります。
競売と公売の違い
差し押さえられた物件の処分方法には、競売と公売という2つの手続きがあります。これらは混同されがちですが、実施主体や目的が異なります。
競売は、裁判所が主導する手続きで、民間の債権者(銀行や消費者金融など)の申立てにより行われます。主に民事執行法に基づいて実施され、債務者の財産を換金して債権者への返済に充てることが目的です。
一方、公売は、税務署や地方自治体などの公的機関が主催する手続きで、滞納した税金を回収するために行われます。国税徴収法などの税法に基づいて実施され、税金滞納者の財産を換金して滞納税の回収を行うことが目的です。
両者の主な違いは、以下の点にあります。
実施主体 | 裁判所 | 税務署・自治体 |
目的 | 債権回収 | 滞納税の回収 |
根拠法 | 民事執行法 | 国税徴収法など |
参加方法 | 入札 | 入札または競り売り |
情報公開 | 裁判所ウェブサイト | 国税庁・自治体ウェブサイト |
裁判所による競売の流れ
裁判所による競売は、複数の段階を経て進行します。その基本的な流れは、以下のとおりです。
まず、債権者が裁判所に競売の申立てを行います。裁判所は申立てを受理すると、債務者の不動産に対して差し押さえの決定を行い、登記所にその旨を通知します。これにより、不動産登記簿に差し押さえの記録が残ります。
次に、裁判所は不動産の評価を行うために不動産鑑定士を選任し、物件の現況調査と評価を実施します。この評価に基づいて、最低売却価格(買受可能価額)が決定されます。
その後、物件情報が公開され、一定期間の入札期間が設けられます。入札者は指定された期間内に入札書と保証金(通常は買受可能価額の2割程度)を裁判所に提出します。入札期間終了後、開札が行われ、最高価格で入札した人が落札者となります。
落札者は残金を納付期限内に支払い、所有権移転の手続きを行います。もし入札者がいない場合は、通常、特別売却という手続きに移行し、先着順で申し込みを受け付けることもあります。
裁判所で差し押さえられた物件の特徴
裁判所によって差し押さえられた物件には、通常の不動産取引とは異なる特徴があります。これらの特性を理解することは、競売物件の購入を検討する際に非常に重要です。
一般的な市場価格より安価
競売物件の最大の特徴は、一般的な市場価格より安価で取得できる可能性が高いことです。これには、複数の理由があります。
まず、裁判所は債権回収を主な目的としているため、物件の美観や付加価値よりも確実に売却することを優先します。そのため、市場価格の7割から8割程度の価格設定になることが一般的です。
また、競売物件は内覧ができないため、購入希望者は外観のみで判断するか、物件明細書などの書類情報に基づいて入札する必要があります。この不確実性が価格に反映され、割安になる傾向があります。
さらに、競売物件は現状有姿での引き渡しが原則であり、隠れた瑕疵(かし)についても売主は責任を負いません。修繕やリフォームが必要になるリスクを考慮して、購入希望者は安全マージンを見込んだ価格で入札することが多くあります。
物件の状態が確認できない
競売物件を購入する際の大きな課題は、物件の実際の状態を事前に十分確認できないことです。これには、以下のようなリスクが伴います。
通常の不動産取引では当然の内覧ができないため、室内の状態や設備の劣化状況を直接確認することができません。物件によっては、前所有者が立ち退きを拒否している場合もあり、占有者の状況確認が重要になります。
また、競売物件の多くは管理状態が良くないことが多く、水漏れやカビ、設備の故障などさまざまな問題を抱えていることがあります。これらの修繕費用は全て買主負担となるため、予想外の出費が発生するリスクがあります。
さらに、競売物件には、法的な問題が付随していることもあります。例えば、未払いの管理費や修繕積立金、固定資産税などの滞納分は、基本的に新しい所有者が負担することになります。これらの費用も、事前に確認しておく必要があります。
権利関係の複雑さ
競売物件は、単純な所有権の移転だけでなく、複雑な権利関係が絡むことが少なくありません。これらの権利関係を理解することは、安全な取引のために不可欠です。
多くの競売物件には、抵当権や根抵当権が設定されています。競売によって所有権が移転する際には、これらの担保権は基本的に消滅しますが、一部の権利は引き継がれることもあります。物件に付随する法的権利を事前に確認することが重要です。
また、競売物件には、賃借権が付いていることがあります。賃借権によっては、競売後も保護されるものがあり、買主はその賃借人との賃貸借契約を引き継ぐことになります。これは、投資用物件としては安定した収入源になる可能性がある一方、自己使用を目的とする場合には大きな障害となります。
さらに、物件によっては、共有持分権や地上権、借地権など、所有権以外の権利が複雑に絡み合っていることもあります。これらの権利関係を正確に把握するためには、専門家(司法書士や弁護士)のアドバイスを受けることが望ましいでしょう。
再建築不可物件となっている競売物件のリスク
競売物件の中でも特に注意が必要なのが、再建築不可物件です。これらの物件は、低価格で取得できる可能性がある一方で、大きなリスクを伴います。
再建築不可物件とは
再建築不可物件とは、現在建っている建物が老朽化や災害で滅失した場合に、建築基準法などの法規制により、同じ場所に新たな建物を建てることができない不動産を指します。
主な再建築不可の原因は、建築基準法で定められた接道義務を満たしていないことです。建築基準法第43条では、建築物の敷地は、原則として幅員4m以上の道路に2m以上接していることが求められています。この条件を満たしていない敷地は、新たに建物を建てることができないことがほとんどです。
また、都市計画法の区域区分(市街化区域と市街化調整区域)の変更により、以前は建築可能だった土地が再建築不可となることもあります。特に市街化調整区域では、原則として新たな建築行為が制限されています。
さらに、敷地の形状や面積が、現行の法規制に適合していない場合も再建築不可となる可能性があります。例えば、最低敷地面積の規制や建ぺい率・容積率の制限により、現在の建物と同等の規模の建物が建てられないケースも存在します。
再建築不可物件のリスク
再建築不可物件は、一般的な不動産市場では著しく価値が下がるため、競売市場でも格安で取得できることがあります。しかし、その安さに惑わされてはいけません。
再建築不可物件の最大のリスクは、現在の建物が使用できなくなった場合、資産価値がほぼ土地の更地価値まで下落することです。建物の老朽化が進めば進むほど、資産価値は低下していく傾向にあります。
また、再建築不可物件は、一般的な金融機関からのローン審査が通りにくく、融資を受けることが困難です。これは、将来的な担保価値の低下を金融機関が懸念するためです。
さらに、再建築不可物件は、将来的な売却も困難になる可能性が高く、流動性が著しく低いといえます。一般の買主にとって魅力が少なく、再建築不可であることを理由に購入を敬遠されることがほとんどです。
ただし、再建築不可物件でも賃貸運用や現状のまま使用することは可能であり、場合によっては、周辺の土地と合わせて開発することで、価値を高められる可能性もあります。経営戦略として、長期的な視点で検討する価値はあるでしょう。
再建築不可物件の見分け方
再建築不可物件を回避するためには、物件を見分ける知識が必要です。競売物件情報だけでは明示されていないこともあるため、注意深い調査が重要です。
まず最も基本的なチェックポイントは接道状況です。物件が、建築基準法上の道路に適切に接しているかを確認します。特に私道や路地状敷地、旗竿地などの場合は要注意です。物件の接道状況を現地で確認することが重要です。
また、競売物件の物件明細書や現況調査報告書に、「再建築不可」「再建築不能」などの記載がないか確認することも大切です。ただし、これらの書類に明示されていない場合でも、実際には再建築不可である可能性もあります。
より確実に判断するためには、該当地域の建築指導課などの行政機関に直接問い合わせるか、建築士や不動産の専門家に相談することが望ましいでしょう。特に、法人として投資目的で購入を検討する場合は、専門家によるデューデリジェンス(綿密な調査)を実施することをお勧めします。
差し押さえ物件の取得手続き
裁判所の競売物件を実際に取得するには、特定の手続きを踏む必要があります。一般的な不動産取引とは異なるプロセスを理解しておきましょう。
競売物件の情報入手
競売物件の情報を入手するには、いくつかの方法があります。正確な情報収集は、成功の第一歩です。
最も基本的な情報源は、各地方裁判所のウェブサイトや掲示板です。裁判所は、競売にかけられる物件の情報を公開しており、物件明細書や現況調査報告書、評価書などの資料を閲覧することができます。裁判所サイトで定期的に新着情報を確認することが重要です。
また、民間の競売物件情報サイトも充実しています。これらのサイトでは、全国の競売物件情報がまとめられており、条件による検索や地図表示など、使いやすい機能が提供されていることが多いです。有料のサービスもありますが、競売物件の購入を本格的に検討している場合は、情報収集コストとして検討する価値があります。
さらに、競売物件を専門に扱う不動産業者やコンサルタントを活用する方法もあります。これらの専門家は、物件の評価や権利関係の調査、入札戦略のアドバイスなど、競売物件特有のサポートを提供してくれます。特に、初めて競売物件の購入を検討する場合は、専門家のサポートを受けることで、リスクを軽減できる可能性があります。
入札から所有権移転までの流れ
競売物件の取得プロセスは、入札から始まり所有権移転で完了します。各段階での正確な手続きが重要です。
まず、入札に参加するには、入札保証金(通常は売却基準価額の2割程度)を用意し、指定された入札期間内に裁判所に入札書と共に提出します。入札書には、入札金額を明記し、封をした状態で提出します。入札金額は慎重に検討して決定する必要があります。
入札期間終了後、開札日に裁判所で入札書が開封され、最高価格で入札した人が落札者となります。ただし、入札価格が売却基準価額に達していない場合は、入札は不調となることがあります。落札できなかった場合は、入札保証金は返還されます。
落札した場合、通常は1カ月以内に残金を納付する必要があります。残金納付期限までに残金を支払うと、裁判所から所有権移転の許可決定が出ます。この決定が確定すると、買受人は所有権移転登記の申請をすることができます。
所有権移転登記は、通常、司法書士に依頼して行います。登記完了後、正式に物件の所有者となり、鍵の引き渡しや実際の占有(物件の使用)が可能になります。ただし、物件に占有者がいる場合は、明渡しの手続きが別途必要になることがあります。
占有者がいる場合の明け渡し手続き
競売物件には、前所有者や賃借人などの占有者が残っているケースがあります。この場合、物件を実際に使用するためには、明け渡し手続きが必要です。
占有者がいる場合の最初のステップは、任意の明け渡し交渉です。直接または弁護士を通じて占有者と交渉し、任意に退去してもらうよう促します。この段階で退去に応じてもらえれば、法的手続きを経ずに物件を使用できるようになります。
しかし、占有者が任意に退去しない場合は、法的手続きを取る必要があります。競売手続きで物件を取得した場合、引渡命令の申立てが可能です。引渡命令は、競売物件の買受人が裁判所に申し立てることができる特別な手続きで、通常の明渡訴訟より短期間で進められる利点があります。
引渡命令が発令されても占有者が従わない場合は、強制執行の手続きを取ることになります。強制執行は執行官が主導して行われ、占有者の所持品を搬出して物件を明け渡すことができます。この手続きには、費用と時間がかかるため、入札前に占有状況をよく調査し、明け渡しにかかる時間とコストを考慮に入れておくことが重要です。
占有者が賃借人であり、その賃借権が競売によっても消滅しない法的に保護された権利である場合は、賃貸借契約を引き継ぐことになります。このような場合は、明け渡しを求めることは難しく、賃貸借契約が終了するまで待つか、賃借人と交渉して合意解約する方法を検討することになります。
まとめ
裁判所による差し押さえ物件は、通常の不動産市場より安価に取得できる可能性がある一方で、物件状態の不確実性や権利関係の複雑さ、再建築不可などの特有のリスクが存在します。経営者や不動産投資家にとって、これらのリスクを理解し適切に対処することが重要です。
競売物件、特に再建築不可物件を検討する際は、物件の徹底的な調査と専門家の意見を参考にしながら慎重に判断しましょう。また、資金調達については、通常の住宅ローンが使いにくいため、事業融資やノンバンク融資、自己資金の活用など、複数の選択肢を検討することが大切です。物件の特性を理解し、自身の事業目的や投資戦略に合った活用方法を見出すことで、競売物件は、経営資源として大きな価値を発揮する可能性を秘めています。
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裁判所が差し押さえた物件を購入する際には、一般的な住宅ローンを利用することが難しい場合があります。特に、再建築ができない物件の場合は、資金調達がより一層困難になる傾向があります。そのような場合、担保や保証人を必要としないHTファイナンスのビジネスローンが、資金調達の一つの選択肢となります。
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