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2025.06.16

DCF法はどのような評価方法?計算式の詳細やメリット・デメリットについても紹介

企業価値を正しく評価するためには、適切な算出方法を用いることが重要です。特に、M&Aの検討や投資判断の際には、客観的で信頼性の高い評価手法が求められます。その代表的な方法の一つが、DCF法です。

DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを、現在価値に割り引いて企業価値を算出する手法で、実務でも広く用いられています。ただし、計算の仕組みや適用にあたっては、一定の専門知識が必要となる場合があります。

この記事では、DCF法の基本から具体的な計算式、エクセルを使った実践的な計算方法まで詳しく解説します。さらに、メリットとデメリットを理解することで、より適切な企業価値評価が可能になります。企業経営者や財務担当者、投資家の方々にとって実務で活用できる内容をお届けします。

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DCF法とは

DCF法は、企業価値評価において非常に重要な手法です。基本的な概念から詳しく見ていきましょう。

DCF法の基本

DCF法(Discounted Cash Flow:割引キャッシュフロー法)とは、企業が将来生み出すと予測されるキャッシュフローを、現在の価値に割り引いて合計することで、企業価値を算定する評価方法です。この手法は、時間の経過とともにお金の価値が変化するという、「お金の時間的価値」の概念に基づいています。

たとえば、1年後に受け取る100万円と、今すぐ受け取る100万円では、価値が異なります。将来のお金は、不確実性やインフレなどの要素により、現在のお金より価値が低くなります。DCF法は、この考え方を基に、将来のキャッシュフローを現在価値に換算します。

企業の本質的価値は将来生み出すキャッシュフローにあるという考え方が、DCF法の核心です。過去の実績や現在の状況だけでなく、将来の成長性や収益力を評価に反映できる点が、大きな特徴となっています。

DCF法が重視される理由

DCF法が企業価値評価において重視される理由は、いくつかあります。まず、理論的な根拠が明確であることが挙げられます。経済学や財務理論に基づいた評価手法であり、学術的にも広く認められています。

また、将来の成長性を評価に反映できる点も重要です。PERやPBRなどの指標が、現時点の財務データに基づくのに対し、DCF法は、企業の将来性を含めた本質的な価値を評価できます。

さらに、DCF法は、個別企業の特性や状況に合わせた柔軟な評価が可能です。事業計画や成長戦略を反映させることができるため、M&Aの際の企業価値に関する交渉材料としても活用されています。

金融機関や投資家にとっても、DCF法による分析は、投資判断の重要な基準となります。特に、プライベートエクイティやベンチャーキャピタルなどの投資家は、DCF法を用いて投資対象企業の価値を評価することがあります。

DCF法を使用する場面

DCF法が適用される主な場面としては、まず、M&Aにおける企業価値評価が挙げられます。買収側は適正な買収価格を決定するために、売却側は適正な譲渡価格を提示するために、それぞれDCF法を活用します。

次に、株式投資における銘柄選定や投資判断にもDCF法は活用されます。投資家は、企業の本質的価値と市場価格を比較することで、割安株や成長株を発見することができます。

また、事業計画の策定や経営判断においても重要です。新規事業への投資判断や既存事業の継続可否の判断など、さまざまな経営判断の材料として活用されています。

上場企業においては、IR活動の一環として自社の企業価値を適切に示すために、DCF法による分析結果を投資家に開示することもあります。また、自社株買いの判断材料としても活用されるケースがあります。

DCF法の計算式

DCF法を実践するためには、具体的な計算式と各要素の理解が不可欠です。ここでは、基本的な計算式から詳細に解説します。

基本的なDCF法の計算式

DCF法による企業価値の基本的な計算式は、以下のように表されます。

企業価値=FCF1÷(1+r)^1+FCF2÷(1+r)^2+…+FCFn÷(1+r)^n+ターミナルバリュー÷(1+r)^n

この式の各要素について説明します。FCFは、フリーキャッシュフローを表し、各年度に企業が生み出す現金の流れを示します。rは割引率(通常はWACC:加重平均資本コスト)を表し、将来のキャッシュフローを現在価値に換算するための率です。

nは予測期間(通常は5年から10年)を表し、その期間内の各年度のキャッシュフローを予測します。予測期間を超えた後の価値は、ターミナルバリュー(残存価値)として計算します。

各要素の設定が企業価値の算出結果に大きく影響するため、それぞれの要素を適切に設定することが重要です。特に、フリーキャッシュフロー予測と割引率の設定は、結果を左右する重要なポイントとなります。

フリーキャッシュフローの計算式

フリーキャッシュフロー(FCF)は、企業が事業活動から生み出す本業の現金の流れを表します。FCFの基本的な計算式は、次のとおりです。

FCF=営業利益×(1-法人税率)+減価償却費-設備投資±運転資本増減

営業利益は、企業の本業から生み出される利益であり、通常はEBIT(金利支払前税引前利益=Earnings Before Interest and Taxes)を用います。法人税率は実効税率を使用し、営業利益から税金負担を差し引きます。

減価償却費は、実際に現金が流出しない費用であるため、キャッシュフローを計算する際には加算します。一方、設備投資は現金の流出を伴うため、差し引きます。

運転資本の増減は、売上債権や在庫、仕入債務などの変動を反映します。運転資本が増加する場合は、キャッシュフローから差し引き、減少する場合は加算します。

FCFの予測は、過去の実績や業界動向、企業の成長戦略などを考慮して行います。一般的には、過去3〜5年間のトレンド分析をベースに、将来の事業計画や市場環境を加味して予測を立てます。

割引率(WACC)の計算式

割引率は通常、WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト)を用います。WACCの計算式は、以下のとおりです。

WACC=(負債コスト×負債比率×(1-法人税率))+(自己資本コスト×自己資本比率)

負債コストは、企業が借入や社債発行時に支払う利率(年利率)で、既存の借入金利や新規調達時の市場金利などを参考に設定します。自己資本コストは、CAPM(Capital Asset Pricing Model:資本資産価格モデル)を用いて計算することが一般的です。

自己資本コスト=リスクフリーレート+β×市場リスクプレミアム

リスクフリーレートは、通常、長期国債利回りを用います。βは、企業の株価変動が市場全体の変動に対してどの程度敏感であるかを示す指標で、1より大きければ市場平均よりリスクが高いと判断されます。

業種や企業の財務状況によってWACCは大きく異なるため、個別企業の特性を正確に反映させることが重要です。一般的には、成長産業や財務リスクの高い企業ほど、高いWACCが設定されます。

ターミナルバリュー(残存価値)の計算式

ターミナルバリュー(残存価値)は、予測期間を超えた後の企業価値を表します。企業価値全体に占める割合が非常に大きくなるため、適切な計算が重要です。ターミナルバリューの計算には、主に以下の2つの方法があります。

1.永続成長モデル(ゴードンモデル)

ターミナルバリュー=予測期間最終年度の翌年FCF÷(割引率-永久成長率)

永久成長率は、企業が永続的に成長し続けると仮定した際の成長率で、通常は0〜3%程度に設定されます。マクロ経済の長期成長率やインフレ率を参考に、業界や企業の特性を考慮して設定します。

2.売却価値法(Exit Multiple Method)

ターミナルバリュー=予測期間最終年度の財務指標×乗数

財務指標としては、EBITDA(利払前・税引前・償却前利益)やEBIT(利払前・税引前利益)などが用いられ、乗数は、業界平均のEV/EBITDA倍率などを参考に設定します。(EV=Enterprise Value (企業価値)=時価総額+有利子負債-現金および現金同等物)

永続成長モデルは、理論的根拠が明確である一方、売却価値法は実務での適用がしやすいという特徴があります。企業の特性や評価目的に応じて、適切な方法を選択することが重要です。

DCF法の計算手順

DCF法による企業価値評価を実践するための、具体的な手順を解説します。ステップごとに詳しく見ていきましょう。

将来キャッシュフローの予測期間の設定

DCF法の最初のステップは、将来キャッシュフローの予測期間を設定することです。一般的には、5年から10年の期間が用いられますが、業界や企業の特性によって適切な期間は異なります。

成熟産業や安定した事業モデルを持つ企業では、5年程度の予測期間が適切とされています。一方、成長産業や新規事業に取り組んでいる企業では、初期の急成長期を反映するために、7年から10年の予測期間が設定されることがあります。

予測期間を設定する際には、以下の点を考慮することが重要です。まず、事業計画の信頼性と詳細さを検討します。具体的で、信頼性の高い事業計画が存在する期間を基準にするとよいでしょう。

予測可能性が高い期間を予測期間として設定することが重要です。あまりに長期の予測は、不確実性が高まるため、予測の信頼性を保てる期間を選ぶべきです。また、業界のライフサイクルや技術革新のペース、競争環境の変化なども考慮する必要があります。

各年度のフリーキャッシュフロー予測

予測期間が決まったら、各年度のフリーキャッシュフロー(FCF)を予測します。FCFの予測には、以下のステップが含まれます。

まず、売上高の予測を行います。過去のトレンド、市場成長率、シェア拡大計画、新製品の導入計画などを考慮して、各年度の売上高を予測します。業界レポートや市場調査データも参考になります。

次に、営業利益率の予測を行います。過去の実績、コスト削減計画、規模の経済効果、競争環境の変化などを考慮します。成長期には、規模拡大に伴うコスト増加が利益率を押し下げることもあるため、成長段階に応じた予測が必要です。

法人税率は、直近の実効税率をベースに、将来の税制改正の見通しを考慮して設定します。減価償却費は、設備投資計画と償却スケジュールに基づいて予測します。

設備投資(CAPEX=Capital Expenditure)は、事業拡大計画、設備更新計画、業界標準(売上高に対するCAPEX比率など)を参考に予測します。運転資本の増減は、売上高の成長率と過去の運転資本回転率を参考に予測します。

これらの要素を組み合わせて、各年度のFCFを計算します。予測の根拠と前提条件を明確にすることで、より信頼性の高い評価が可能になります。

割引率の決定

将来キャッシュフローを現在価値に換算するために、適切な割引率を決定する必要があります。通常はWACC(加重平均資本コスト)を用いますが、具体的な算出方法は、以下のとおりです。

まず、負債コストを算出します。既存の借入金利や社債利回りを参考に、信用リスクに応じた金利を設定します。格付けデータや業界平均値も参考になります。

次に、自己資本コストを※CAPMモデルで算出します。リスクフリーレートには、長期国債利回り(10年物国債など)を使用し、β値は対象企業の株価データから計算するか、類似企業や業界平均のβ値を参考にします。市場リスクプレミアムは、通常4〜7%程度が用いられます。 ※CAPMモデルの計算式:待収益率=Rf+β×(Rm-Rf) • Rf:リスクフリーレート(無リスク資産の収益率 例:国債利回りなど) • Rm:市場全体の期待収益率(株式市場の平均的なリターン) • β(ベータ)値:個別資産の市場感応度 • Rm-Rf:市場リスクプレミアム

資本構成(負債比率と自己資本比率)は、対象企業の目標資本構成や業界の標準的な資本構成を参考に設定します。これらの要素を基に、WACCを計算します。

対象企業のリスク特性を適切に反映した割引率の設定が重要です。高リスクの事業や新興市場での事業には、リスクプレミアムを上乗せした割引率を適用することもあります。

ターミナルバリューの計算

予測期間を超えた後の企業価値であるターミナルバリュー(残存価値)の計算方法を、詳しく見ていきましょう。主に、永続成長モデルと売却価値法の2つの方法があります。

永続成長モデル(ゴードンモデル)では、予測期間最終年度の翌年FCFと永久成長率が重要なパラメータとなります。最終年度のFCFをベースに、永久成長率分だけ成長すると仮定した翌年のFCFを計算します。

永久成長率の設定は、慎重に行う必要があります。長期的な実質GDP成長率やインフレ率を参考に、通常は0〜3%程度の範囲で設定します。成熟産業では、低めの成長率(0〜1%)を、成長産業では、比較的高めの成長率(2〜3%)を設定することがあります。

売却価値法を用いる場合は、予測期間最終年度の財務指標(EBITDA、EBIT、純利益など)に、適切な乗数を掛けて計算します。乗数は、類似企業のバリュエーション倍率や業界標準を参考に設定します。

計算したターミナルバリューは、予測期間最終年度の割引率で現在価値に割り引きます。DCF法による企業価値全体に占めるターミナルバリューの割合は、一般的に50〜70%程度と大きいため、感度分析を行い、さまざまなシナリオを検討することも重要です。

企業価値と株主価値の算出

最後に、これまでの計算結果を統合して、企業価値と株主価値を算出します。具体的な手順は、以下のとおりです。

まず、各年度のFCFの現在価値を合計します。予測期間中の各年度のFCFを、それぞれの年数に応じた割引率で現在価値に換算し、合計します。次に、ターミナルバリューの現在価値を計算します。予測期間最終年度の割引率で現在価値に換算します。

これらを合計して、企業価値(エンタープライズバリュー:EV)を算出します。

企業価値=予測期間中のFCF現在価値合計+ターミナルバリューの現在価値

企業価値から株主価値(エクイティバリュー)を求めるためには、純有利子負債(有利子負債-現金同等物)を差し引きます。

株主価値=企業価値-純有利子負債

株主価値を発行済株式数で割ることで、一株当たり価値を算出できるため、上場企業であれば、現在の株価と比較して割安か割高かを判断する材料となります。

企業価値評価の最終段階では、感度分析やシナリオ分析を行うことも重要です。重要なパラメータ(成長率、利益率、割引率、永久成長率など)を変動させた場合の評価結果への影響を分析することで、評価の頑健性を確認します。

DCF法のメリット

DCF法には多くのメリットがあります。

将来の成長性を評価に反映できる

DCF法の最大のメリットは、企業の将来的な成長性を評価に反映できる点です。株価収益率(PER=Price Earnings Ratio:時価総額/純利益)や、純資産倍率(PBR=Price Book-value Ratio:時価総額/純資産)などの伝統的な評価指標が、過去や現在の財務データに基づくのに対し、DCF法は将来の事業の生み出すキャッシュフローを予測して評価を行います。

特に、成長途上の企業や新規事業に取り組んでいる企業の評価において、DCF法は大きな強みを発揮します。現時点では利益が少なくても、将来的に大きなキャッシュフローが見込める企業の価値を適切に評価することができます。

また、事業転換や構造改革に取り組んでいる企業の評価にも適しています。過去の業績だけでは、将来の成長性を正確に反映できませんが、DCF法では、経営戦略の転換による将来的な収益性の向上を、評価に組み込むことができます。

企業の長期的な価値創造能力を評価できることは、投資家や経営者にとって非常に重要です。短期的な収益よりも、持続的な価値創造を重視する長期投資の判断材料として、DCF法は高い有用性を持っています。

理論的根拠が明確である

DCF法は、経済学や財務理論に基づいた評価手法であり、理論的な根拠が明確であることも大きなメリットです。お金の時間的価値という経済学の基本原則に基づいており、理論的に正しい評価方法として広く認められています。

投資の基本原則である、「投資価値は将来のキャッシュフローの現在価値の総和に等しい」という考え方を、直接的に反映した手法であるため、理論的一貫性があります。この理論的背景により、DCF法は、アカデミックな場でも実務の場でも広く受け入れられています。

また、評価プロセスが体系的であり、各ステップの意味と役割が明確です。予測期間の設定、キャッシュフローの予測、割引率の決定、ターミナルバリューの計算など、各ステップが理論的に整合性のある形で組み合わされています。

理論的根拠が明確であることは、評価結果の説得力と信頼性を高めます。M&Aや投資の意思決定において、関係者への説明や合意形成を行う際に、DCF法による評価結果は、強力な根拠となります。

独自の事業計画を評価に活用できる

DCF法では、企業独自の事業計画を評価に直接反映させることができます。これは、他の評価手法にはない大きなメリットです。企業や事業部門の特性、戦略、成長計画などを細かく分析し、キャッシュフロー予測に反映させることができます。

新製品の導入計画、新市場への進出戦略、コスト削減施策、設備投資計画など、具体的な経営戦略の影響を評価に組み込むことが可能です。このため、企業価値に対する経営戦略の貢献度を測定するツールとしても活用できます。

また、複数の事業を持つ企業の場合、事業ごとのDCF分析を行うことで、各事業の価値貢献度を明らかにすることができます。これは、事業ポートフォリオの最適化や経営資源の配分判断に役立ちます。

事業計画の妥当性を財務的視点から検証できる点も重要です。DCF法を用いて、事業計画の価値創造効果を測定することで、計画の実現可能性や経済合理性を客観的に評価することができます。

シナリオ分析との親和性が高い

DCF法は、複数のシナリオを想定した分析との親和性が高いことも大きなメリットです。基本シナリオ、楽観的シナリオ、悲観的シナリオなど、異なる前提条件に基づく複数のシナリオを検討することで、より包括的な評価が可能になります。

例えば、新規事業の評価においては、市場の成長速度や自社のシェア獲得ペース、競合の動向などに関して、複数のシナリオを想定することが一般的です。DCF法を用いることで、各シナリオにおける企業価値を、定量的に比較検討することができます。

リスク要因や不確実性の高い要素については、シナリオ分析を通じて評価結果への影響を分析することができます。これにより、どのような条件下でも企業価値を維持できる、堅牢な戦略の策定が可能になります。

さらに、シナリオごとの発生確率を考慮した期待値分析も行うことができます。各シナリオの企業価値に発生確率を掛けて加重平均することで、不確実性を考慮した期待企業価値を算出することができます。

シナリオ分析との組み合わせにより、DCF法は単なる評価ツールではなく、戦略的意思決定を支援する強力なフレームワークとなります。経営環境の変化に対する感応度を把握し、リスクに強い経営戦略を立案するための基盤となります。

DCF法のデメリット

DCF法にはメリットだけでなく、いくつかの重要なデメリットや課題も存在します。

将来予測が難しい

DCF法最大のデメリットは、将来のキャッシュフローを正確に予測することが非常に難しい点です。特に予測期間が長くなるほど、予測の不確実性は高まります。市場環境の変化、技術革新、消費者嗜好の変化、競合状況の変化など、さまざまな不安定要因が、将来のキャッシュフローに影響を与えます。

成長率や収益性の予測が実際と乖離することで、企業価値評価が大きく変動する可能性があります。特に、新興企業や成長産業の評価では、成長率の予測が困難なケースが多く、評価結果の信頼性に課題が生じることがあります。

不測の事態や、市場の急激な変化にも弱いという側面があります。例えば、パンデミックや大規模な自然災害、地政学的リスクなど、予見が難しい事象が発生した場合、従来の予測が意味をなさなくなる可能性があります。

将来予測の精度が評価結果の信頼性を大きく左右するため、DCF法を用いる際には、予測の前提条件を明確にし、感度分析やシナリオ分析を併用することが重要です。

割引率や成長率の設定が主観的である

DCF法では、割引率(WACC)や永久成長率などの重要なパラメータを設定する必要がありますが、これらの設定には、主観的な判断が伴います。わずかなパラメータの変更でも、DCF法による企業の評価結果が大きな影響を受けるため、注意が必要です。

割引率の算出には、リスクフリーレート、市場リスクプレミアム、β値など複数の要素が必要ですが、これらの設定方法にはさまざまなアプローチが存在し、専門家によっても見解が分かれることがあります。

永久成長率の設定は、さらに難しい課題です。長期的な経済成長率やインフレ率、業界の長期トレンドなどを考慮する必要がありますが、長期予測には本質的な不確実性が伴います。永久成長率を0.5%上下させるだけでも、企業価値は10%以上変動することも珍しくありません。

さらに、評価者のバイアスや関心が、設定に影響を与える可能性があります。買い手側は、保守的なパラメータを設定する傾向がある一方、売り手側は、楽観的なパラメータを設定する傾向があります。

主観的要素の影響を最小化するための客観的根拠の提示が重要です。業界データや市場データ、過去の事例などを参考に、パラメータ設定の根拠を明確にすることで、評価の信頼性を高めることができます。

計算プロセスが複雑である

DCF法は、他の評価手法と比較して計算プロセスが複雑であり、専門知識と時間を要します。特に、初めてDCF法を使用する場合や、複雑な事業構造を持つ企業の評価では、適切な計算モデルの構築に時間と労力がかかります。

フリーキャッシュフローの予測には、営業利益、税率、減価償却費、設備投資、運転資本増減など、複数の要素を予測する必要があります。これらの要素は、相互に関連しており、整合性のある予測を行うことは容易ではありません。

複数の事業部門を持つ企業の場合、部門ごとの予測と統合が必要となり、さらに複雑性が増します。また、海外事業を展開している企業では、為替リスクや国別のリスク要因も考慮する必要があります。

計算の複雑さゆえに、エラーや論理的な不整合が生じるリスクも高くなります。計算のブラックボックス化を避け、透明性を確保するための工夫が必要です。

計算モデルの標準化や簡略化が実務上の課題となっています。効率的かつ正確なDCF分析を行うためには、適切なテンプレートやソフトウェアの活用が有効です。エクセルマクロや専用ソフトウェアの活用により、計算の効率化と正確性の向上を図ることができます。

評価結果の幅が広くなりやすい

DCF法による評価結果は、設定する前提条件によって大きく変動するため、評価結果に幅が生じやすいという特徴があります。これは、意思決定を難しくする要因となることがあります。

例えば、割引率を7%から9%に変更し、永久成長率を1%から0%に変更するだけで、企業価値が30%以上変動するケースも珍しくありません。このような感応度の高さは、DCF法の評価結果の解釈を難しくします。

評価結果の幅が広すぎると、M&Aの交渉や投資判断において、評価結果の説得力が低下する可能性があります。交渉の両当事者が、それぞれに有利な前提条件を用いてDCF評価を行うと、大きな評価差が生じることになります。

また、評価結果の幅の広さは、DCF法単独での意思決定の難しさを示唆しています。DCF法による評価結果を解釈する際には、感度分析の結果を踏まえた上で、現実的な価値の範囲を見極める必要があります。

評価結果は単一の数値ではなく範囲として捉えるべきであり、その範囲内での判断が重要です。他の評価手法(類似会社比較法、取引事例法、純資産法など)との併用により、多角的な視点からの評価を行うことで、より信頼性の高い判断が可能になります。

まとめ

DCF法は、企業が将来生み出すキャッシュフローを現在価値に換算することで、企業の本質的価値を評価する手法です。将来の成長性を評価に反映できる点や、理論的根拠が明確である点、独自の事業計画を活用できる点など、多くのメリットを持っています。

一方で、将来予測の難しさや主観的要素の影響、計算プロセスの複雑さなどのデメリットも存在します。これらのデメリットを克服するためには、他の評価手法との併用や感度分析・シナリオ分析の活用、段階的なアプローチの採用が効果的です。企業価値評価を行う際は、DCF法の特性を理解した上で、目的に応じた適切な活用を心がけましょう。

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監修者 三坂大作
筆者・監修者 ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役三坂 大作(ミサカ ダイサク)

略歴
・1985年:東京大学法学部卒業
・1985年:三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行 表参道支店:法人融資担当
・1989年:同行 ニューヨーク支店勤務 非日系企業向けコーポレートファイナンスを担当
・1992年:三菱銀行を退社、資金調達の専門家として独立
資格・登録情報
・経営革新等支援機関(認定支援機関ID:1078130011)
・貸金業務取扱主任者(資格者:三坂大作)
・貸金業登録:東京都知事(1)第31997号
・日本貸金業協会 会員番号:第006355号
専門分野と活動実績
企業の成長を資金面から支えるファイナンスの専門家として、30年以上にわたり中小企業の財務戦略・資金調達を支援。
国内外の法人融資・国際金融業務の経験を基に、経営者に寄り添った戦略的支援を展開。

現在の取り組み
ヒューマントラスト株式会社 統括責任者・取締役として、以下の事業を統括:
・法人向けビジネスローン事業「HTファイナンス」
・個人事業主向けファクタリングサービス
・資金調達および財務戦略に関する経営コンサルティング

経営革新等支援機関として、企業の持続的成長を実現するための財務戦略策定や金融支援を行い、貸金業登録事業者として、適正かつ信頼性の高い金融サービスを提供しています。

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