「事業再構築補助金」第12回公募の全貌!変更点と成功のポイントを徹底解説
「事業再構築補助金」第12回公募の概要
行政事業レビューによる提言とその影響
前回のコラムでは、「事業再構築補助金」の概要について解説しました。
この補助金は、新型コロナウイルスの影響で事業継続が厳しくなった中小企業を支援するために創設されました。しかし、令和6年5月に発表された「第12回公募の概要」では、「ポストコロナ」の視点を強く押し出した形で大幅な変更が加えられています。
この変更に至るまでの間、過去11回の補助金事業について行政事業レビューが行われました。その結果、「事業再構築補助金の制度を抜本的に構築し直すべき」との提言がなされています。主な内容は以下の通りです。
- 新型コロナ対策としての役割を終えつつあるため、基金の関連部分を廃止、または抜本的に事業を再構築する。
- 申請書や財務諸表の精査、四半期ごとのモニタリング体制を確立しない限り、新規採択は一時停止するべき。その対応が困難な場合、基金としての継続は不要とし、国庫へ返納し通常の予算措置とする。
- 審査およびデータ収集の厳格化について、引き続き慎重に検討する。
過去11回の公募では、コロナ禍を理由にした安直な申請が見受けられたこともあり、審査の厳格化が求められていました。この行政事業レビューを受け、第12回公募では新たな方針が示されました。
第12回公募における主要な変更点
行政事業レビューを踏まえ、「第12回公募の要領」では以下のような大きな変更が実施されています。
- 申請類型の変更
従来の申請類型(成長枠、産業構造転換枠、グリーン成長枠、物価高騰対策・回復再生応援枠、最低賃金枠、サプライチェーン強靭化枠)が整理・統合されました。
新たな申請類型は以下の3つに分類されます。
- 成長分野進出枠:ポストコロナに対応した事業再構築をこれから行う事業者向け。
- コロナ回復加速枠:現在もコロナの影響を受けている事業者向け。
- サプライチェーン強靭化枠:ポストコロナを見据えたサプライチェーン強化を目的とする事業者向け。
これらの変更が行われたものの、従来の公募要領にあった共通要件については変更がありません。
- 事業再構築指針に示す「事業再構築」の定義に該当する事業であること。
- 事業計画を金融機関や認定経営革新等支援機関と策定し、確認を受けていること。
- 補助事業終了後3~5年間で、付加価値額または従業員1人当たり付加価値額の年平均成長率が3.0~5.0%(事業類型により異なる)以上増加すること。
- 事前着手制度の原則廃止
これまでの公募では、補助金採択前に事業を開始する「事前着手」が認められていました。ただし、事前着手届の提出が必要であり、正式な審査が行われる前に事業をスタートさせるケースも散見されていました。
しかし、第12回公募では、「事前着手が補助金採択に有利に働くのではないか」という懸念が指摘されたため、原則としてこの制度は廃止されることになりました。今後は、補助金の交付決定を受けた後に事業を開始することが求められます。
- 審査体制の強化
審査の透明性と公平性を確保するため、審査の厳格化が実施されます。
- 申請の独自性や新規性に関する判断基準が強化される。
- AIを活用し、申請書の重複率を確認することで類似案件の排除を強化(閾値の見直しや適用範囲の拡大)。
- 短期間に特定の事業分野への申請が集中した場合、一時的な流行による過剰投資を防ぐため、AI検索を活用した審査の厳格化を実施。
- 新分野進出については、公募ごとに事業の新規性を再検証する。
- 採択後の交付審査・実績審査のシステムを刷新し、AIを導入することで審査の標準化と高度化を推進する。
以上のように、「ポストコロナ」時代に即した新たな補助金制度へと移行するための変更が加えられています。
申請類型の変更
従来の類型の統合と新類型の概要
第12回公募では、申請類型の大幅な整理・統合が行われました。
これまでの「成長枠」「産業構造転換枠」「グリーン成長枠」「物価高騰対策・回復再生応援枠」「最低賃金枠」「サプライチェーン強靭化枠」といった類型が見直され、新たな3つの枠へ統合されました。
新たな申請類型は以下の通りです。
- 成長分野進出枠
ポストコロナに対応した事業再構築をこれから行う事業者を支援する枠組み。 - コロナ回復加速枠
依然としてコロナの影響を受けている事業者を支援する枠組み。 - サプライチェーン強靭化枠
ポストコロナを見据えたサプライチェーンの強化を目的とする事業者を支援する枠組み。
これらの変更が行われたものの、従来の公募要領に記載されていた共通要件には変更がありません。
共通要件の主なポイント
- 事業再構築指針 に示される「事業再構築」に該当する内容であること。
- 事業計画を 金融機関や認定経営革新等支援機関と策定し、確認を受けていること。
- 補助事業終了後 3~5年以内に、付加価値額または従業員1人当たりの付加価値額の年平均成長率が3.0~5.0%(事業類型によって異なる)以上増加すること。
今回の公募では、これらの共通要件を満たした上で、どの枠に申請するのか慎重に選定することが求められます。
新たな事業再構築の方向性
- 申請主体の責任がより厳格化
補助金や助成金の申請においては、外部の専門家やコンサルタントのサポートを受けるケースが多くあります。特に、申請資料の作成は複雑なため、専門的な知識を活用することは合理的な選択といえます。
しかしながら、申請主体である中小企業の社長や経営陣が 資料の作成を完全に外部に依存してしまうケース が散見されます。事業運営の多忙さを考慮すると、サポートを受けること自体は問題ではありませんが、補助金の申請主体はあくまでも 企業自身 であり、専門家の代理申請やデータの代理入力は禁止されています。
実際、IPアドレスの確認 などによって代理申請が判明した場合、不採択となる可能性が高いため注意が必要です。申請資料や事業計画について、最終的な責任を負うのは 社長や経営陣 であることを認識し、内容を十分に理解した上で申請を進める必要があります。
- 売上基準の変更
第11回までの補助金では、コロナの影響による 売上減少要件 が重要な審査基準となっていました。しかし、第12回公募では、この基準が廃止され、「ポストコロナ」を前提とした新たな事業支援へと移行しています。
したがって、今回の公募では 「売上減少要件」は適用されません。代わりに、以下のような事業に該当するかどうかが審査のポイントとなります。
- 新市場進出
- 事業転換
- 業種転換
- 事業再編
- 国内回帰
- 地域サプライチェーンの維持・強靭化
このように、第12回公募では「コロナ影響からの回復」ではなく、「新たな市場や事業への転換」を支援する方針にシフトしています。企業は 自社の成長戦略に適した枠組みを選定すること が求められます。
申請時の注意点
事前着手制度の廃止とその影響
第11回までの公募と第12回の募集要領との大きな相違点の一つが、「事前着手制度」の廃止です。
これまでは、「事前着手届出」を提出すれば、補助金の申請と同時、もしくはそれ以前に事業を開始することが可能でした。表向きには「事前着手」と「補助金採択」の可否は関係ないとされていましたが、事業がすでに進んでいる場合、その成功可能性が高いと評価されやすく、より具体的な申請書の作成が可能でした。
しかし、こうした状況では「事前着手をした事業者が有利になるのではないか?」という問題が指摘され、補助金採択が事前着手の有無によって左右される危険性 が懸念されるようになりました。その結果、第12回からは 事前着手制度が原則廃止 され、補助金採択後の交付決定を待って事業を開始するという統一ルールが適用されることになりました。
申請を検討している企業は、補助金の交付決定前に事業を始めてしまわないよう、十分に注意してください。
審査体制の強化とAI活用による厳格化
- 金融機関確認書の提出義務化
第11回公募までは、事業資金の調達計画において金融機関からの借入を予定している場合、3,000万円以上の借入を計画している事業者のみ「金融機関確認書」の提出が必要でした。しかし、第12回では、借入金額の大小に関わらず、金融機関からの借入を計画している事業者は、すべて金融機関確認書の提出が必須 となります。
これは、たとえ3,000万円未満の借入であっても、資金調達の可否が事業の成否に大きく影響するため、審査の透明性を確保する目的で設けられたものです。
したがって、補助金申請を行う企業は、事前に金融機関と十分な交渉を行い、借入計画について正式な確認を得ておく必要があります。また、金融機関の借入を組み込まない計画であっても、補助金だけで事業を継続することは難しいため、自己資金の確保状況についても慎重に検討する必要があります。
- 口頭審査の導入
第12回公募から、新たに 口頭審査 が導入されました。
口頭審査は 申請事業の全般 にわたって実施されるため、社長や経営陣が事業内容を深く理解していること が求められます。
公募要領には「一定の基準を満たした事業者の中から選定される」と記載されており、特に申請金額が大きな事業 が口頭審査の対象となる可能性が高いと考えられます。ただし、選定基準は明示されていないため、対象となるか否かを予測するのではなく、十分な準備をしておくことが重要です。
また、申請をサポートした専門家やコンサルタントは、口頭審査に同席できません。 そのため、社長や経営陣は、自社の事業計画について詳細に説明できるよう準備しておく必要があります。
- 申請資料の精緻化と金額の明確化
従来の公募では、申請時に提出する資料(設備図面、機械設計図、システム設計書、必要資金額、ランニングコスト見積もりなど)は概算での提出が許可されていました。しかし、近年の審査では 「申請時の計画と実際の実施状況に大きな乖離がある」 という問題が指摘されるようになっています。
その結果、補助金の交付に際して減額や取り消しが発生するケースが増えているため、第12回公募では、申請時点でより精緻な資料を用意することが求められます。
特に、システム開発関連の補助金申請では、100万円を超える費用計上を行う場合、システム開発作業工程表などの詳細な資料提出が求められる可能性があります。
事業計画の実現可能性を高めるためにも、概算レベルの計画で済ませるのではなく、申請時点で 8割程度の精度 で詳細な資料を準備することが推奨されます。
- 事業の新規性をより厳格に審査
「事業再構築補助金」における審査では、申請事業の新規性 が最も重視される要素の一つです。
ここでいう新規性とは、以下のような観点から判断されます。
- 製品・商品・サービスの新規性
- 事業内容(ビジネスモデル)の新規性
- 業種・市場参入における新規性
申請の際に誤解されやすい点として、「一般的に見て新規事業かどうか」が問題となるのではなく、「申請する企業にとって新規の事業であるかどうか」が重要 という点が挙げられます。
例えば、これまで 食肉卸売業を営んでいた企業が、新たに飲食店のフランチャイズ展開を開始する 場合、その企業にとっては全くの新規事業となるため、「事業再構築」に該当する可能性があります。
一方で、まったく市場に存在しない新規事業を創出することは、中小企業にとって リスクが大きすぎる ため、既存の経営資源や市場動向を活用しながら、収益性の高い新事業を計画することが現実的な選択肢となります。
- 事業所の明確な区分
「事業再構築補助金」は、新たな製品・サービスの開発、新市場への参入、新しい事業部門の設立などを支援する制度です。
第12回公募では、「ポストコロナ」時代の新しい事業を支援することが明確に打ち出されており、これまで以上に 「新規事業としての明確な独立性」 が求められるようになりました。
特に、事業所の所在地に関しては、既存事業との混同を避けるために、明確な区分を設けることが推奨されます。 事業所の物理的な分離や、事務所の明確な区分を検討することで、補助金の審査において有利に働く可能性があります。
まとめ
本記事では、「事業再構築補助金」第12回公募における重要な変更点について解説しました。
これまでの申請類型の統合、新たな事業再構築の方向性、そして事前着手制度の廃止や審査体制の厳格化など、多くのポイントが見直されています。特に、金融機関確認書の提出義務化や口頭審査の導入 など、申請時のハードルがこれまで以上に高くなっているため、慎重な準備が求められます。
一方で、補助金を活用できれば、新たな事業展開を加速させる大きなチャンスになります。しかし、制度の複雑さや審査基準の厳格化により、どのように準備すればよいのか悩む企業も少なくない のではないでしょうか。
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