2025.05.22
株主総会とは?種類・決議内容・開催の流れをやさしく解説
株式会社にとって、株主総会は重要な意思決定の場です。
経営陣の選任や会社方針の決定など、株主の権利行使の場として法的にも位置づけられています。
本記事では、株主総会の概要から種類、決議内容、開催手順、最近注目されているバーチャル株主総会まで、初めての方でも理解できるよう丁寧に解説します。
株主総会の基本を押さえよう
株主総会とは何か?
株主総会とは、株式会社における最高の意思決定機関であり、会社の経営方針や重要な事項を決議するための場です。
株主総会には、会社の所有者である株主が参加し、経営陣が提示した議案について審議・決議を行います。
会社法第295条第1項では、「株主総会は株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる」と明記されています。
これは、法律上、株主総会に極めて強い権限が認められていることを示しています。
ただし、会社に取締役会が設置されている場合には、株主総会の決議事項は法律および定款に定められた範囲に限定されるため、すべての事項が自動的に株主総会の決定対象になるわけではありません。
また、株主総会で議決権を行使することは、株主が持つ「共益権」のひとつです。
これは、配当などの金銭的利益を得る「自益権」とは異なり、会社の意思決定に直接関与できる権利です。
つまり、株主総会は株主が経営に影響を与える重要な手段であると同時に、会社の透明性と健全性を確保するための制度でもあります。
株主が少数であっても、株主総会の開催や手続きを怠ると法律違反となり、会社の信用や法的リスクにも関わるため、十分な理解と準備が必要です。
株主総会と取締役会の違い
株主総会と取締役会は、会社運営における意思決定機関という共通点がある一方で、その役割や構成、決定する内容に明確な違いがあります。
まず、株主総会は株主全員が参加できる会議です。
ここでは会社の基本的な構造や方向性に関わる重大な事項、例えば役員の選任・解任、定款の変更、剰余金の配当などについて決議します。
一方、取締役会は、選任された取締役のみで構成される機関で、日常的な業務執行に関する意思決定を行います。
具体的には、事業戦略の立案、重要契約の承認、人事異動の決定など、会社の運営に関する実務的な判断がなされます。
以下の表に、両者の主な違いをまとめます。
項目 |
株主総会 |
取締役会 |
構成メンバー |
株主全員 |
取締役に選任された者 |
決定する内容 |
定款変更・役員の選任・配当の決定など |
経営方針・業務執行の詳細な内容 |
開催頻度 |
年1回以上(定時)、必要に応じて臨時 |
月1回程度が一般的(会社による) |
議長 |
代表取締役または選任された議長 |
代表取締役 |
議決権 |
株主の保有株数に比例 |
各取締役1票 |
このように、株主総会は「会社の大枠を決める場」であり、取締役会は「その大枠の中で日常の経営を動かす場」であると言えます。
どちらも会社運営には不可欠な存在であり、適切な役割分担と運用が企業の成長とガバナンス強化につながるのです。
株主総会の種類と決議事項を知ろう
定時株主総会と臨時株主総会の違い
株主総会は、その開催目的や時期によって「定時株主総会」と「臨時株主総会」に分類されます。
どちらも株主の意思を反映させる重要な場ですが、それぞれに特徴や開催要件、目的となる議題の違いがあります。
まず「定時株主総会」は、会社法により毎事業年度に1回以上の開催が義務付けられている会議です。
一般的には、決算期の終了後3か月以内に開催されるのが通例で、日本企業では3月決算・6月開催が多数派となっています。
この総会では、計算書類の承認、剰余金の配当、役員の選任・報酬決定など、定期的に必要な議題が扱われます。
一方で「臨時株主総会」は、特定の重要事項が発生した際に、定時株主総会とは別に開催される会議です。
臨時株主総会の開催は任意ですが、例えば、取締役の急な辞任による後任選任、大規模な組織再編や事業譲渡などが議題となるケースがあります。
このような重大な経営判断には、株主の意思確認が必要不可欠となるため、取締役会の決議または一定割合の株主からの請求により招集されます。
両者の違いを表にまとめると、以下のようになります。
項目 |
定時株主総会 |
臨時株主総会 |
開催義務 |
会社法で開催が義務付けられている |
法律上の義務はないが必要に応じて開催 |
開催時期 |
毎事業年度終了後、通常3か月以内 |
必要が生じたとき随時 |
主な議題 |
計算書類の承認、役員選任・配当など |
組織再編、定款変更、役員交代など |
招集の根拠 |
法定による強制 |
取締役会決議、または株主の請求に基づく |
重要性 |
定期的なガバナンスの実施 |
緊急性・重要性の高い事項への対応 |
企業が適切なガバナンスを維持し、株主の信頼を得るためには、両者の違いを正しく理解し、必要な手続きを迅速に進めることが重要です。
特にIPO準備中の企業や、外部株主との関係が強い企業では、定時・臨時の区別を意識した運営が求められます。
株主総会で決議される主要な内容
株主総会では、会社経営に関するさまざまな事項が決議されます。
その中でも、法律や実務上、特に重要とされる内容は以下の3つに分類できます。
① 経営の根本に関わる重要事項
会社の将来を左右するような経営判断は、株主全体の意思確認が必要な「重要事項」として扱われます。
例えば以下のような議題が該当します。
・定款の変更(会社法第466条)
・事業譲渡や会社分割などの組織再編行為(会社法第783条)
・合併契約や株式交換の承認
これらの議案は通常、「特別決議」または「特殊決議」の形式で採択され、成立には出席株主の3分の2以上の賛成など、厳格な要件が課されます。
② 役員に関する決定事項
株主総会では、会社の経営を担う取締役や監査役などの役員を選任・解任する権限があります。
これにより、株主は経営陣の責任を直接問うことができ、企業の方向性にも影響を与えます。
また、役員報酬の金額を決定する場合も、定款に記載がない限り、株主総会での決議が必要です(会社法第361条)。
このように、役員に関する決定事項は、ガバナンス強化の観点からも極めて重要です。
③ 株主の経済的利益に関わる事項
株主にとって、出資に対するリターンは最大の関心事といえます。
そのため、以下のような株主の利益に直接影響を及ぼす事項も、株主総会の決議対象とされています。
・剰余金の配当(会社法第454条)
・資本金の減少(会社法第447条)
・譲渡制限株式の譲渡承認(会社法第139条)
特に配当政策は、株主の満足度や株価にも大きく影響するため、企業の説明責任が問われる分野でもあります。
以上のように、株主総会では、経営の根幹、役員の人事、株主の利益に関わる重要なテーマが扱われます。
企業は事前に十分な準備と説明を行い、株主の理解と支持を得る努力が求められます。
また、議案によって必要とされる決議要件が異なるため、各項目の性質に応じた正確な手続きが欠かせません。
株主総会の手続きと最新トレンド
株主総会の開催手順と必要な準備
株主総会の開催には、法的要件を満たすための厳格な手続きと十分な準備が求められます。
事前の対応を怠ると、議決が無効になったり、株主とのトラブルに発展する可能性があります。
そのため、会社法の規定に従いながら、計画的に対応を進めることが極めて重要です。
以下に、定時株主総会の開催に必要な基本的な流れを整理します。
株主総会の開催手順
1.事前準備(計算書類・参考書類の作成)
株主総会に提出する計算書類(貸借対照表・損益計算書など)や、事業報告、監査報告書を作成します。
また、株主に配布する「株主総会参考書類」も、正確かつ分かりやすく用意する必要があります。
2.取締役会での招集決議
原則として、取締役が株主総会の開催を決定し、議題や日時、場所などを決定します。
これは「招集通知」に記載される重要な内容です。
3.株主への招集通知の発送
開催日の一定期間前までに、株主に対して招集通知を発送します。
具体的には、公開会社では2週間前、非公開会社では1週間前までに通知が必要です。
通知には、日時・場所・議題・議決権の行使方法などを明記しなければなりません。
4.株主総会の開催・議事進行
当日は、議長を選出し、事業報告や計算書類の説明、議案の審議・採決を行います。
質疑応答や異議の対応にも備えて、想定問答集や進行シナリオの準備が有効です。
5.議事録の作成と保管
会議終了後には、議事内容を正確に記録した議事録を作成し、法定期間(10年間)保管する必要があります。
【株主総会開催の主な準備事項と期限】
項目 |
内容 |
備考 |
計算書類の作成 |
貸借対照表、損益計算書など |
会計参与や監査役の確認が必要な場合あり |
招集決議 |
取締役会で日時・場所・議題を決定 |
招集権限者は原則として取締役 |
招集通知の発送 |
株主への書面または電子的通知 |
公開会社:2週間前/非公開会社:1週間前 |
株主総会当日の運営 |
議長選任、議案説明、質疑応答、採決など |
弁護士によるリハーサル参加も有効 |
議事録の作成と保存 |
会議の内容を記録し10年間保管 |
本店に原本、支店には写しを5年間保管 |
株主総会の円滑な開催には、法令順守だけでなく、参加株主の理解を得るための丁寧な説明と対応が不可欠です。
特に議案に対する反対意見や疑問点に備えて、事前に社内で想定問答集を用意しておくと安心です。
経営層や法務担当者は、事前の段取りを徹底し、株主との信頼関係を築く機会として総会を位置づけましょう。
バーチャル株主総会の導入と注意点
近年、IT技術の発展と新型コロナウイルス感染症の影響により、「バーチャル株主総会」の導入が注目を集めています。
これは、従来の対面型の総会に加え、オンラインでの参加を可能とする開催方式であり、企業のガバナンスや利便性向上に寄与する方法として普及しつつあります。
バーチャル株主総会とは?
バーチャル株主総会とは、リアル会場での開催を前提としつつ、オンラインで株主の参加・出席を認める「ハイブリッド型」の総会です。
会社法上、完全なオンライン開催(いわゆる「バーチャルオンリー型」)は原則として認められておらず、物理的な開催場所を設けたうえで、「出席型」または「参加型」の2方式が運用されています。
・出席型: オンライン上で議決権の行使・質問が可能
・参加型: オンラインでの傍聴のみ可能(発言や議決権の行使はできない)
企業は、自社の規模・株主構成・システム環境に応じて、どちらの方式を導入するか慎重に検討する必要があります。
バーチャル株主総会のメリット
バーチャル開催には、以下のような複数のメリットがあります。
・遠隔地の株主も気軽に参加できるため、出席率の向上が期待できる
・物理会場の規模を抑えることで、会場費や運営コストの削減に繋がる
・多忙な経営者や株主の時間的負担を軽減し、柔軟な運営が可能になる
これらの利点は、株主の満足度を高め、企業価値の向上にも寄与する効果が期待されます。
注意点と導入時の課題
一方で、バーチャル株主総会には以下のような注意点や技術的課題も存在します。
・通信トラブルやシステム不具合により、株主の参加機会を損なうリスク
・本人確認や議決権行使の管理など、セキュリティ面での配慮が必要
・株主側のITリテラシーによっては、参加方法の説明やサポート体制が不可欠
企業がバーチャル総会を導入する際には、通信環境の整備、トラブル対応のマニュアル整備、事前リハーサルの実施などが必須となります。
特に、システム導入にかかるコストや、社内外の関係者との調整を含めた実務設計は、事前にしっかりと検討しておく必要があります。
バーチャル株主総会は、これからの時代における新しい株主との対話手段として、非常に有効な手段となるでしょう。
しかしその導入には、法的理解と技術的整備の両面からのアプローチが欠かせません。
社内に専門部署がない場合は、弁護士やITベンダーなど外部の専門家と連携して進めることが成功の鍵となります。
まとめ
本記事では、株主総会の基本的な役割や種類、決議内容、開催手続き、そして近年注目されているバーチャル株主総会の動向について解説してきました。
株主総会は、会社のガバナンスを強化し、株主との信頼関係を築くための最も重要な会議体です。
定時株主総会と臨時株主総会の違いを理解し、適切な議案設定や手続きの準備を行うことが、企業経営の安定に直結します。
また、バーチャル開催のような新しい形式への対応も、時代に即した柔軟な経営の一環として求められています。
とはいえ、法的要件の把握や議事運営、ITシステムの導入など、企業単独でスムーズに進めるにはハードルが高い場面も多いのが現実です。
そんな企業様の力になれるのが、HTファイナンスです。
HTファイナンスでは、法務・ファイナンスの両面から企業経営を支援し、最適な運営体制や資金調達戦略の立案をサポートしています。
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