2025.04.28
セールアンドリースバックはどんな取引?会計処理、税務処理をわかりやすく解説
経営において、資金調達が必要になる場面は多々あります。資金調達の手段の一つとして、保有する不動産や設備を活用して資金を調達する、「セールアンドリースバック」というものがあります。資産を手放すことなく、利用を継続しながら資金調達ができる点が魅力となっています。
本記事では、セールアンドリースバックの仕組みから、具体的な会計処理・税務処理の方法、メリット・デメリット、さらに向いている企業の特徴まで幅広く解説します。2027年に予定されている、新リース会計基準への対応についても触れていますので、将来を見据えた資金調達方法を検討している経営者の方は、ぜひ参考にしてください。
セールアンドリースバックの基本
セールアンドリースバックは、企業が保有する資産を活用した資金調達手法の一つです。その仕組みを理解することで、自社にとって有効な選択肢かどうか判断する材料となります。
セールアンドリースバックとは
セールアンドリースバックとは、企業が保有する不動産や設備などの資産を投資家や専門業者に売却し、同時にその資産を賃借(リースバック)する取引形態です。売却によって、一時的にまとまった資金を調達しながらも、その資産を継続して事業に活用できる点が最大の特徴です。
具体的な流れとしては、まず企業が所有する資産(オフィスビル、工場、店舗、生産設備など)を第三者に売却します。次に、売却先と賃貸借契約を結び、その資産を引き続き使用する権利を確保します。これにより、資産の所有権と利用権を分離させるという特徴をもっています。
企業にとっては、資金調達と資産利用の両立が図れる一方、購入側にとっては安定した賃料収入が見込める投資となるため、双方にメリットがある取引といえます。
セールアンドリースバックの仕組み
セールアンドリースバックの基本的な流れは、以下のようになります。
- 企業が保有する不動産や設備を売却先(投資家・専門業者)に売却
- 同時に、売却した資産について賃貸借契約(リース契約)を締結
- 企業は売却代金を受け取り、以降は賃料を支払いながら資産を利用
この取引では、資産を売却することで貸借対照表上の固定資産が減少し、現金・預金が増加します。同時に、リース契約の形態によっては賃借料が発生するため、損益計算書上では費用構造が変化します。
また、買戻し特約を設定することも可能です。これにより、将来的に経営状況が改善した場合に、資産を再取得する選択肢を残すことができます。こうした柔軟性も、セールアンドリースバックの魅力の一つといえるでしょう。
セールアンドリースバックと他の資金調達方法の違い
資金調達にはさまざまな手段がありますが、セールアンドリースバックには独自の特徴があります。他の方法との違いを理解することで、より適切な選択ができるようになります。
リバースモーゲージとの違い
リバースモーゲージとは、所有している不動産を担保に融資を受ける方法です。セールアンドリースバックとは、以下の点で大きく異なります。
リバースモーゲージでは不動産の所有権は移転せず、あくまで担保として設定されるのみです。融資を受けた企業は、定期的に利息を支払い、返済期限が来れば元本を返済する義務があります。一方、セールアンドリースバックでは不動産の所有権は完全に移転し、返済義務のない資金調達が可能です。
また、リバースモーゲージは、主に高齢者向けの商品として提供されることが多く、企業の資金調達手段としては一般的ではありません。対してセールアンドリースバックは、企業の資金調達手段として広く活用されています。
通常の金融機関借入れとの違い
金融機関からの借入れは、最も一般的な資金調達方法ですが、セールアンドリースバックとは次のような違いがあります。
借入れの場合、審査を通過する必要があり、資金用途に制限が設けられることも少なくありません。また、元本と利息の返済義務があるため、将来のキャッシュフローに負担がかかります。セールアンドリースバックでは、資金使途の自由度が高く、元本返済の義務はありません。
借入れでは、返済が滞れば担保物件の差し押さえリスクがありますが、セールアンドリースバックではそのリスクはなく、代わりに賃料の支払い義務が生じます。財務状況の厳しい企業にとっては、返済義務のない資金調達という点で、セールアンドリースバックが優位性をもつケースもあります。
不動産担保ローンとの違い
不動産担保ローンは、所有する不動産を担保に入れて融資を受ける方法です。セールアンドリースバックとの主な違いは、以下の通りです。
不動産担保ローンでは、不動産の所有権は移転せず、担保設定のみが行われます。融資金には返済義務があり、返済が滞れば担保不動産が競売にかけられるリスクがあります。一方、セールアンドリースバックでは、所有権が移転するため担保権実行のリスクがない反面、不動産を完全に手放すことになります。
また、不動産担保ローンでは、融資額が担保評価額の一定割合(通常は7〜8割程度)に抑えられるのに対し、セールアンドリースバックでは、適正な市場価格に近い資金調達が可能です。ただし、急ぎの場合などは市場価格より低い評価になることもあります。
セールアンドリースバックのメリット
セールアンドリースバックには、資金調達以外にも企業経営においてさまざまなメリットがあります。
迅速な資金調達が可能
セールアンドリースバックの最大のメリットの一つは、短期間で大きな資金を調達できる点です。通常の金融機関からの借入では、審査に時間がかかり、また担保評価額の一定割合までしか融資を受けられないことが多くあります。
一方、セールアンドリースバックでは、不動産や設備の価値に基づいて資金調達が可能です。特に、資金需要が急な場合にも対応しやすいという利点があります。金融機関の融資審査が厳しい状況でも、資産の価値さえあれば実行できる点も魅力です。
また、借入とは異なり資金使途に制限がないため、運転資金、設備投資、事業拡大、債務整理など、さまざまな目的に自由に活用できます。これにより、経営判断の自由度が高まります。
固定資産税や管理コストの削減につながる
不動産を所有していると、固定資産税や都市計画税などの税金負担が発生します。また、建物の維持管理費用、修繕費用、保険料なども継続的にコストがかかります。セールアンドリースバックを活用すると、これらの所有に関連するコストを大幅に削減できます。
所有権が移転することで、固定資産税等の納税義務は新しい所有者に移ります。また契約内容によっては、大規模修繕や設備更新などの負担も軽減される場合があります。こうしたコスト削減効果は、特に古い建物を所有している企業にとって大きなメリットとなります。
さらに、不動産管理業務から解放されることで、本業に集中できるというメリットも生まれます。特に、不動産管理が本業でない企業にとっては、業務効率化にもつながります。
財務内容が改善される
セールアンドリースバックを実施すると、貸借対照表上で固定資産が減少し、現金・預金が増加します。これにより、流動比率や自己資本比率などの財務指標が改善されることが期待できます。
特に、オペレーティングリースとして会計処理した場合(現行の会計基準では可能)、賃借資産は貸借対照表に計上されません。このオフバランス化により、総資産が減少し、ROA(総資産利益率)などの収益性指標が向上する効果があります。
また、含み益のある不動産を売却することで、特別利益を計上できるケースもあり、当期の損益を改善させることも可能です。これらの財務改善効果は、金融機関や取引先からの企業評価にプラスの影響を与えることがあります。
将来の資産買戻しができる場合がある
セールアンドリースバック契約には、将来的に売却した資産を買い戻す特約(買戻しオプション)を付けることができる場合があります。これにより、一時的な資金調達と将来の資産再取得を両立させることが可能になります。
経営状況が改善した将来のタイミングで資産を買い戻すことで、賃料負担から解放されると同時に、再び資産を自社の保有資産とすることができます。不動産価格が上昇傾向にある場合は、買戻し価格を事前に固定しておくことで、将来的なメリットを得られる可能性もあります。
このように、資金調達としての側面だけでなく、資産戦略としての選択肢を広げられる点も、セールアンドリースバックの重要なメリットといえるでしょう。
セールアンドリースバックのデメリット
セールアンドリースバックには多くのメリットがある一方で、考慮すべきデメリットも存在します。導入を検討する際には、これらのリスクや制約についても十分に理解しておく必要があります。
売却価格が市場価格より低くなりやすい
セールアンドリースバックでは、通常の不動産売却と比較して売却価格が市場価格を下回ることが少なくありません。これは、買い手にとっては賃料収入による投資リターンを確保する必要があるためです。
特に、急いで資金調達する必要がある場合や、物件の立地・状態が良くない場合は、市場価格よりも大幅に低い評価となる可能性があります。業者側も賃貸借契約に伴うリスクを価格に反映するため、純粋な売却と比べて不利な条件になりがちです。
そのため、複数の業者から見積もりを取り、条件を比較検討することが重要です。また、不動産鑑定士などの専門家に相談し、適正な価格範囲を把握しておくことも有効です。
長期的な賃料負担が発生する
資産を売却した後は、継続して使用するために賃料を支払い続ける必要があります。短期的には資金調達というメリットがありますが、長期的には賃料負担が経営を圧迫する可能性があることを認識しておく必要があります。
特に、契約期間が長期にわたる場合、将来の事業環境の変化によっては賃料負担が重くなるリスクがあります。また、賃料改定条項によっては、将来的に賃料が上昇する可能性もあります。
さらに、一般的なリース契約では中途解約が制限されていることが多く、事業縮小や移転を検討する場合でも、契約期間中は賃料支払い義務が継続するケースがほとんどです。このような柔軟性の欠如も、デメリットの一つといえるでしょう。
建物の改修や建て替えの制限がかかる
資産の所有権が移転することで、建物の大規模改修や建て替えなどの判断権も移転します。事業拡大や業態変更に伴って、建物の大幅な変更が必要になった場合でも、所有者の承諾なしに実行できないという制約が生じます。
例えば、店舗の内装変更、設備の更新、増築など、事業戦略上必要な変更であっても、所有者との交渉が必要になります。これにより、事業展開のスピードや自由度が制限される可能性があります。
また、契約内容によっては原状回復義務が課される場合もあり、契約終了時に多額の費用が発生することも考慮しておく必要があります。長期的な事業計画と照らし合わせて、こうした制約が事業に与える影響を事前に検討することが重要です。
セールアンドリースバックの会計処理
セールアンドリースバックを活用する際には、適切な会計処理を行うことが重要です。現行の会計基準と2027年に適用される新リース会計基準では、処理方法が異なるため、両方を理解しておく必要があります。
現行の会計処理方法
現行の会計基準では、リース取引はファイナンスリースとオペレーティングリースの2種類に分類されます。セールアンドリースバック取引の会計処理も、この分類に基づいて行われます。
ファイナンスリースとは、実質的に資産の所有権が移転していると判断される取引です。具体的には、リース期間が資産の経済的耐用年数の大部分を占める場合や、リース料総額の現在価値が資産の公正価値の大部分を占める場合などが該当します。この場合、資産と負債の両方を貸借対照表に計上します(オンバランス処理)。
一方、オペレーティングリースは、ファイナンスリース以外のリース取引を指します。この場合、リース料は単純に費用として処理され、資産・負債は貸借対照表に計上されません(オフバランス処理)。現行制度では、セールアンドリースバック取引を意図的にオペレーティングリースとして構成することで、オフバランス化を図る企業も少なくありません。
売却時の会計処理については、通常の固定資産売却と同様に、売却代金と帳簿価額の差額を売却損益として計上します。ただし、リースバック取引が同時に行われる点が特徴的です。
新リース会計基準(2027年度適用)の下での会計処理方法
2027年度から適用される新リース会計基準では、すべてのリース取引(短期・少額リースを除く)において、原則としてオンバランス処理が求められるようになります。これは、IFRS(国際財務報告基準)第16号「リース」との整合性を図るための改正です。
新基準では、リース期間が12か月を超えるリース取引について、「使用権資産」と「リース負債」を貸借対照表に計上します。使用権資産は減価償却の対象となり、リース負債は返済に応じて減少していきます。これにより、従来オフバランス処理されていたオペレーティングリースも含めて、すべてのリース取引が貸借対照表上に反映されることになります。
この変更により、これまでセールアンドリースバックをオペレーティングリースとして構成して、オフバランス化を図っていた企業にとっては、財務指標への影響が大きくなる可能性があります。特に、総資産の増加によるROA(総資産利益率)の低下や、負債の増加による自己資本比率の低下などが予想されます。
また、損益計算書上では、従来の賃借料が「減価償却費」と「利息費用」に分かれて計上されるようになります。キャッシュフロー計算書においても、「営業活動」と「財務活動」の区分に影響が生じます。
セールアンドリースバックの税務処理
セールアンドリースバック取引では、会計処理だけでなく税務面での適切な処理も重要です。不動産の売却や賃借に関する税金を正しく理解し、税務リスクを回避する必要があります。
法人税における処理
法人税上、セールアンドリースバックによる不動産売却は、通常の固定資産売却と同様に扱われます。売却価格が帳簿価額を上回る場合は譲渡益、下回る場合は譲渡損として計上し、課税対象となります。
特に、含み益のある資産を売却する場合は、多額の譲渡益に対して課税される可能性があるため注意が必要です。法人税実効税率(約30%)を考慮すると、売却益の3割程度が税金として納付されることになります。
リースバックについては、ファイナンスリース取引(所有権移転外リース取引)として税務上も資産計上する場合と、賃借料として処理する場合があります。会計上の処理と税務上の処理が異なる場合は、申告調整が必要になります。
また、セールアンドリースバック取引が「リースバック付売買」として認められず、金融取引(担保付借入)と見なされるリスクもあります。税務調査において取引の実態が問われる可能性があるため、取引の経済的合理性を説明できるようにしておくことが重要です。
消費税と印紙税の処理
不動産売却は、基本的に消費税の課税対象となります。ただし、土地の譲渡は非課税取引となるため、建物部分のみに消費税が課されます。一方、リースバックの賃料も消費税の課税対象です。
セールアンドリースバック取引では、売却時に多額の消費税を一時的に支払う必要が生じます。特に、消費税の納税資金の準備や、売却代金に含まれる消費税相当額の計算に注意が必要です。
また、売買契約書や賃貸借契約書には、印紙税が課されます。特に、不動産売買契約書の印紙税額は、取引金額に応じて高額になる可能性があります。契約書作成時には、この点も含めてコスト計算を行うことが重要です。
なお、特例として、自己の使用目的で取得した資産をセールアンドリースバックした場合、その賃借部分について、一定条件下で「資産の譲渡等の時期」の特例が適用されることがあります。これにより、消費税の課税時期を調整できる可能性もあります。
まとめ
セールアンドリースバックは、企業が保有する不動産や設備を売却し、同時に賃借することで資金調達と資産活用を両立させる手法です。迅速な資金調達、所有コストの削減、財務指標の改善など多くのメリットがある一方で、市場価格より低い売却価格になりがちな点や、長期的な賃料負担が生じる点などのデメリットも存在します。
特に、企業の状況や目的によって向き不向きがあるため、自社の経営状況や将来計画を踏まえた慎重な判断が必要です。セールアンドリースバックの活用を検討される際は、税理士や会計士などの専門家に相談し、最適なスキームを構築することを心がけましょう。
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セールアンドリースバックは資金調達の有効な手段ですが、不動産を所有していない場合や、より迅速な資金調達が必要な場合は、ビジネスローンを活用するのも一つの手です。
HTファイナンスは、東大法学部出身で三菱銀行での実務経験を持つ三坂大作が統括責任者として、企業の資金調達と経営戦略の支援に取り組んでいます。
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