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経営計画書とは:中小企業向け資金調達と金融格付け改善のための実践ガイド

「経営計画書」について

コンサルティングの仕事の中で、資金調達にもつながる重要な依頼として「経営計画書」の策定があります。
中小企業庁が考える「経営革新」による金融支援の獲得に関して、「経営計画書」を作成している場合は、事業の再建計画も立案しやすいと考えられます。

「経営計画書」というと大企業や上場企業が策定するものとのイメージもあり
中小企業の多くは「経営計画書」を策定していないのが実態だと思います。

しかし、金融支援を獲得する重要なツールとしての「経営計画書」は
策定しながら毎年修正を加えていく作業を行うのが、中小企業の経営でも好ましいと思います。

「経営計画書」は金融機関の審査に好影響をもたらす可能性のある重要な書類ですが
金融機関の立場からすると、取引先である中小企業の金融案件の可否を決定する際に活用する「格付け」作業の一環として捉えています。

金融機関の「格付け」評価

金融機関の「格付け」は、まずは決算書等による定量評価から始まります。

取引先の決算書の数字を点数化するもので、13項目の数値を点数化しています。

・自己資本比率=純資産÷総資本
・固定長期適合率=固定資産÷(固定負債+純資産)
・ギアリング比率=借入金÷純資産
・流動比率=流動資産÷流動負債
・売上高経常利益率=経常利益÷売上高
・総資本経常利益率=経常利益÷総資本
・経常利益増加率=(当期経常利益-前期経常利益)÷前期経常利益
・営業キャッシュフロー黒字期間
・自己資本金額
・売上高(数期分の推移も勘案)
・債務償還年数=借入金÷(営業利益+減価償却費)
・インタレストカバレッジレシオ=(営業利益+営業外収益)÷(支払利息+割引手数料)
・EBITDA(金利・税金・減価償却前利益)=営業利益+減価償却

これらからスコアリングして金融機関の審査担当者は取引先の業況を定量評価していますが、結局のところ「利益拡大=格付け改善」となる図式となっています。

この定量評価に関しては、資金繰りに苦慮している中小企業としては
なかなか高格付けを獲得することは厳しいです。

そこで、第2段階の定性評価を高める必要が出てくるのです。
この定性評価にも11項目があり、それを踏まえた「経営計画書」が重要な位置づけとなるのです。

定性評価の11項目

・市場動向(拡大市場か?均衡状態?飽和状態?縮小傾向?などのマーケット観測)
・景気感応度(景気の影響を受ける製品やサービスか?)
・市場規模(市場規模の大小)
・競合状況(競合他社が多いのか?少ないのか?=いわゆるブルーオーシャン・レッドオーシャン)
・業歴(経営陣の経験値の測定)
・経営者の資質及び経営方針(社長の経営資質と会社経営の方向性の可否)
・株主(安定的な株主構成か?)
・従業員の意識(会社経営へのモラルも良し悪し)
・営業基盤(参入障壁なども含めた営業基盤の強さの測定)
・競争力(会社全体としての営業力、開発力などの測定)
・シェア(業界内でのランキング)

この定性評価には、定量評価のような厳密性はなく
金融機関の審査担当者の主観に依拠せざるを得ない評価ですが
こうした項目を念頭に「経営計画書」の策定を進めていくことは、効率的で網羅的な優れた「経営計画書」につながると思います。

その意味でも、金融機関の審査担当者に「経営計画書」を提示することは、そのこと自体でも高い定性評価を獲得する助けになります。

最後に、「格付け」を決定するためには、金融機関の審査担当者は実態評価を行います。
定量評価の裏付けの確認と、事業実態の確認が重要な目的です。

決算書の修正もこの時点で実施されることになり、全体としての取引先である中小企業の「格付け」が決められます。
さらに、この時点で中小企業の場合は、ほとんどのケースで社長個人(場合によっては役員も含む)の個人保証を求める場合が多いので、社長の個人資産も評価対象になってきます。

「経営計画書」の作成方法

「経営計画書」を策定するためには、以上のような金融機関の「格付け」に関わる評価(定量評価、定性評価、実態評価+社長個人資産)に合わせた作成が重要になります。
基本的な項目としては次の通りです。
・企業理念・経営方針
・SWOT分析(強みと弱み、機会と脅威)
・事業領域の策定(経営戦略とビジネスモデル、事業俯瞰図)
・経営課題(営業及び収益面、BS改善、その他)
・行動計画(営業及び収益面、BS改善、その他)
・過去損益の実績と数値計画
・過去資金繰りの実績と今後の資金繰り計画

これらの項目を網羅した上で
全部で5~10ページで簡潔にまとめた「経営計画書」が理想的です。

分厚い冊子のような経営計画書は、そもそも中小企業ではなかなか困難ですし
そこまで多岐にわたる計画を策定することも不要だと思われますので、簡潔な「経営計画書」を作成し、定期的に刷新・修正していくことが望ましいと考えます。

実際の「経営計画書」の策定をする場合に、社長や経営陣と話していると
「売上向上」「営業強化」の話ばかりに終始してしまう例が多いのですが
このアプローチは実は間違っています。

売上数値は、経営計画の結果であって、それを全面に押し出した計画書は事業経営の客観的な評価ができていない場合が多く
計画売上が「絵に描いた餅」となってしまう危険性があります。

そうなると「経営計画書」自体の信頼性が弱くなるばかりでなく、金融機関の審査担当者の心証も良くなくなってしまいます。結果的に高い格付けにはつながりません。

「経営計画書」における各項目の留意点

各項目を作成する際には、以下の留意点を考慮することが重要です。

企業理念・経営方針

中小企業の中で、企業理念や経営方針を明示している会社は少ないと思います。一般的に企業理念とは、社会における会社の存在意義や目的を表現したもので、経営方針とは会社のより具体的な目標(例えば、「日本における***業でのトップを目指す」などの表現)を示した言葉です。両者には厳密な区別があるわけではありませんが、要点は「社長が最も重要視する考え方や価値観、会社の方向性」を端的に表現することです。数値に現れてこない会社事業への「思い入れ」や「熱意」を表現することは、会社の一体性を向上させるだけでなく、金融機関の審査にも影響があります。

SWOT分析

SWOT分析は、会社の置かれている現状認識のためのツールとして一般的に活用されている手法です。会社の事業推進は、内部環境と外部環境に影響されます。内部環境(会社内における経営資源の状況)をプラスに動かす要因が「強み」、弱点として強化すべき要因が「弱み」になり、外部環境(市場動向や競合他社の状況)で会社に有利に働く可能性のある環境が「機会」であり、既存の事業形態を崩し事業基盤を揺るがしかねない環境が「脅威」となります。この4つの要因を冷静に分析したものがSWOT分析です。
この結果で「強み」「機会」を強化し、「弱み」「脅威」を克服する方向での経営戦略・事業戦略の立案が必要となるのです。

事業領域の策定(経営戦略とビジネスモデル、事業俯瞰図)

経営戦略を立案するうえで、事業領域を明確にすることは大変重要です。例えて言うと、野球をするのかサッカーをするのかを決める必要があるということです。競技(事業内容)によって、人・モノの準備は決定的に違いますし、それが事業領域に合致していないと、経営資源の無駄遣いになるばかりでなく、会社全体としての戦闘力が分散してしまい、競争環境での収益確保につながらなくなってしまいます。具体的には「顧客を誰にするのか?(Customer)」「会社のどの経営資源を活用するのか?(Company)」「どのような競合状況に対応するのか?(Competitor)」といういわゆる「3C分析フレーム」で戦略の項目整理をすることが効率的です。簡単にすると「誰に、何を、どのように売るのか?」(ビジネスモデル)を明確にし、そのための現状の関係図(事業俯瞰図)を整理改善する作業がこれに当たります。この事業領域の策定がブレていると、社長や社員の行動に一貫性がなくなり、会社としての一体性も欠落します。結果的に会社の商売(事業)が何であるのかが不明瞭になり、顧客も集まらず売上も向上しない結果になってしまいます。この3C分析はSWOT分析と組み合わせながら、定期的に見直し修正をしながら、会社の経営戦略を研ぎ澄ませていくことが可能です。

経営課題(営業及び収益面、BS改善、その他)

こうした分析から、具体的な会社事業の方向性(経営戦略)が把握できた段階で、経営課題が明確になってくると思います。経営課題とは「理想と現実のギャップ」そのもので、SWOT分析から十分に把握できるものです。要するに「経営戦略の実現・収益化のために、あと何が必要か?」という問題意識が経営課題だということです。さらにその経営課題を「営業収益面=PL」「BS改善」「その他=人事、管理、システムなど」に分解して考察することが必要です。ただし、予算や人材の限界もあり、時間の経過を待つ必要のある施策も考えられます。そうした意味で「経営計画書」はある程度の時間的スパンを念頭に策定する必要があります。

まとめ

本記事では、中小企業にとって資金調達と金融機関からの格付け向上に不可欠な「経営計画書」について詳しく解説しました。
「経営計画書」とは、中小企業が自社の経営戦略や事業計画を体系的にまとめたものであり、資金調達や金融支援を受ける際の重要なツールとなります。

まず、金融機関による「格付け」評価のプロセスについて説明しました。
定量評価として、自己資本比率や流動比率、EBITDAなど13項目の財務指標が用いられ、これらを基に企業の財務健全性が評価されます。

しかし、資金繰りに苦慮する中小企業にとって高い格付けを獲得することは難しく、そこで定性評価が重要となります。
定性評価では、市場動向や競合状況、経営者の資質など11項目が評価され、「経営計画書」にこれらの要素を盛り込むことが求められます。

次に、「経営計画書」の具体的な作成方法について解説しました。
企業理念や経営方針、SWOT分析、事業領域の策定、経営課題などの基本項目を網羅し、5~10ページ程度で簡潔にまとめることが理想的です。また、売上向上や営業強化に偏らず、客観的な事業評価を行うことの重要性も強調しました。

最後に、効果的な「経営計画書」を作成することで、金融機関からの信頼を獲得し、資金調達や事業再建の成功率を高めることができると結論付けました。
中小企業の経営者は、定量・定性評価を踏まえた「経営計画書」を継続的に見直し、修正していくことで、安定した経営基盤を築くことが求められます。

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監修者 三坂大作
筆者 三坂大作

略歴
1961年 横浜市生まれ
1985年 東京大学法学部卒業
1985年 三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行
1985年 同行 表参道支店:法人融資担当
1989年 同行 ニューヨーク支店:コーポレートファインス非日系 取引担当
1992年 三菱銀行退社 
同年 株式会社プラネス設立代表取締役就任
2021年 ヒューマントラスト株式会社 取締役就任
貸金業務取扱主任者を保有。
大手金融機関の法人担当を国内外で担当した後、お客様企業の経営戦略を中心としたコンサルティング事業を推進。
2021年にヒューマントラスト株式会社の統括責任者 取締役に就任。
上場企業・中小企業含めて300社以上、30年以上の支援実績がある法人企業向け融資のプロフェッショナル。
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