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債権譲渡禁止特約とは?民法改正による変更点についても解説

企業間の取引契約書に、「債権譲渡禁止特約」という条項が含まれていることがあります。この特約は、資金調達方法に大きな影響を与えるものです。特に中小企業にとって、売掛金を活用したファクタリング等の資金調達は重要な手段ですが、この特約があると、思うように売掛金を資金化できない場合があります。

さらに、2020年の民法改正により、債権譲渡禁止特約に関するルールが大きく変わりました。これまでの理解のまま契約を結んでいると、予期しないトラブルが発生する可能性もあります。

この記事では、債権譲渡禁止特約の基本的な意味から、メリット・デメリット、民法改正による変更点、そして契約書作成時の注意点まで、経営者の視点で必要な知識を分かりやすく解説します。適切な契約管理と資金調達の選択肢を広げるための参考にしてください。

債権譲渡禁止特約の基本

まずは、債権譲渡禁止特約の基本から理解していきましょう。

債権譲渡禁止特約とは

債権譲渡禁止特約とは、契約当事者間で債権の譲渡を禁止または制限するための契約条項です。具体的には、売掛金などの債権を第三者に譲渡することを制限する取り決めとなります。

この特約は、契約書の中に「本契約から生じる債権を第三者に譲渡してはならない」といった形で記載されます。多くの企業間取引、特に大企業と取引する場合の契約書には、この債権譲渡禁止特約が標準的に含まれていることが一般的です。

債権とは、簡単にいえば「お金を受け取る権利」のことです。例えば、商品を納入した後に支払いを受ける権利(売掛金)は典型的な債権にあたります。通常、この権利は第三者に自由に譲渡できますが、債権譲渡禁止特約があると、その自由が制限されることになります。

債権譲渡禁止特約が設けられている理由

なぜ企業は債権譲渡禁止特約を契約に入れるのでしょうか。主な理由は、支払い業務の安定性と予測可能性を確保するためです。

債権が自由に譲渡されると、債務者(支払う側)は当初の取引先ではなく、見知らぬ第三者に支払いをしなければならなくなる可能性があります。これにより、誰に支払うべきかの確認作業が増え、支払い業務が複雑化するリスクがあります。

特に大企業など、多数の取引先を抱える企業にとっては、支払先が頻繁に変わることで生じる管理コストを抑制したいという意図があります。また、不正な債権譲渡による二重払いのリスクも防止できます。

例えば、取引先A社が自社への売掛金をB社に譲渡し、その後A社が倒産した場合、A社との取引に関する相殺権(A社への支払いとA社からの請求を相殺する権利)が行使できなくなるといった問題も生じえます。債権譲渡禁止特約は、こうしたリスクを防ぐ役割も果たしています。

支払い側から見る債権譲渡禁止特約のメリット

債権譲渡禁止特約は、特に、支払う側の企業にとってさまざまなメリットがあります。

支払業務の煩雑さを軽減できる

企業の財務担当者にとって、債権譲渡が頻繁に行われると、確認作業や管理業務が増大します。債権譲渡禁止特約によって、支払先が固定されることで業務効率が維持できるメリットがあります。

例えば、多数の取引先がある場合、それぞれの支払先が変わるたびに支払システムの登録変更や確認作業が必要になります。これは単純な手間の問題だけでなく、ミスのリスクも高まります。

また、支払先の変更があった場合、本当に正当な譲渡なのかを確認する必要があり、その都度法務部門などの確認が必要になるかもしれません。債権譲渡禁止特約があれば、そもそも譲渡自体を制限できるため、こうした煩雑な手続きを避けられます。

二重払いなどのリスク回避

債権譲渡が自由に行われる環境では、悪意ある第三者が、債権譲渡を受けたと不正に主張するケースも考えられます。債権譲渡禁止特約は、こうした不正な請求から企業を守る防波堤になる可能性があります。

特に、中小企業では法務部門が充実していない場合も多く、債権譲渡の真偽を適切に判断することが難しいケースもあります。債権譲渡禁止特約によって、そもそも譲渡自体を制限することで、こうしたリスクを軽減できます。

また、取引先が複数の金融機関や企業に同じ債権を二重譲渡するような不正行為があった場合、債権譲渡禁止特約があれば、「そもそも譲渡できない」という立場を主張しやすくなります。

相殺権の保全が可能

企業間の取引では、相互に債権・債務が発生することがあります。例えば、A社からB社への売掛金と、B社からA社への売掛金が同時に存在するケースです。

このような場合、お互いの債権・債務を相殺(差し引き計算)することで、実際の資金移動を最小限に抑えることができます。しかし、A社がB社への債権を第三者に譲渡してしまうと、B社は相殺の機会を失います。

債権譲渡禁止特約があれば、相殺による効率的な決済方法を確保できるメリットがあります。これは、特に取引量が多い企業間では、資金効率の面で大きなメリットとなります。

債権者側から見る債権譲渡禁止特約

債権譲渡禁止特約には、支払側にとってのメリットがある一方で、債権者(売掛金などを持つ側)にとっては大きなデメリットとなる場合があります。

資金調達手段が制限される

中小企業にとって、売掛金(債権)を担保にしたファクタリング等の資金調達や、債権を譲渡(売却)することでの資金化は、重要な資金調達手段の一つです。しかし、債権譲渡禁止特約があると、こうした資金調達の選択肢が大きく制限されることになります。

例えば、取引先からの入金が3ヶ月後になっているが、今すぐ運転資金が必要というケースは、中小企業ではよくあることです。債権譲渡が可能であれば、この売掛金を金融機関に譲渡することで、即時の資金調達が可能になります。

しかし、債権譲渡禁止特約があると、こうしたファクタリングや売掛債権担保融資などの手法が使えなくなり、資金繰りの選択肢が狭まることになります。このため、特に資金繰りに余裕がない中小企業にとっては、深刻な問題となる可能性があります。

事業成長の機会損失につながる可能性

資金調達手段の制限は、単に日々の資金繰りの問題だけでなく、事業成長の機会を逃すことにつながる可能性もあります。大口の新規受注や事業拡大のチャンスがあっても、必要な資金を調達できないリスクがあるのです。

例えば、大口顧客からの注文を受けたものの、材料費や人件費などの先行投資が必要な場合、売掛金を活用した迅速な資金調達ができないと、せっかくの機会を活かせない可能性があります。

また、季節変動の大きい事業や、成長フェーズにある企業では、柔軟な資金調達手段が重要です。債権譲渡禁止特約によって資金調達の選択肢が制限されると、事業の成長速度も制約されかねません。

取引先との交渉における不利な立場

多くの場合、債権譲渡禁止特約は、取引上優位な立場にある大企業からの要求で契約に盛り込まれます。中小企業は、取引を維持するために、この条件を受け入れざるを得ないケースが多いのが現実です。

特約の撤廃や変更を交渉しようとしても、取引上の力関係から難しいことが多いものです。このため、債権譲渡禁止特約は、中小企業にとって、取引上の立場の弱さを象徴するような存在となっています。

また、こうした特約の存在によって、金融機関からの借入れにおいても不利な条件を受け入れざるを得ないケースもあります。売掛金という有力な担保が使えないため、より高い金利や厳しい条件での融資しか受けられないことがあります。

2020年民法改正による債権譲渡禁止特約の変更点

2020年4月に施行された民法改正により、債権譲渡禁止特約の法的効力に大きな変更がありました。この変更点を理解することは、経営者にとって非常に重要です。

『経済産業省の改正のポイント』

債権譲渡禁止特約の効力

民法改正前は、債権譲渡禁止特約があると、原則として債権譲渡自体が無効とされていました。つまり、特約に違反して債権を譲渡しても、法的には譲渡そのものが成立しないという扱いでした。

しかし改正後は、債権譲渡禁止特約があっても、債権譲渡自体は原則として有効となりました。これは、債権の流動性を高め、中小企業の資金調達を容易にする狙いがあります。

具体的には、改正民法第466条第2項において、「当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない」と規定されました。

この改正により、債権譲渡禁止特約があっても債権譲渡自体は有効となり、譲受人(債権を買い取った人)は債権を取得できるようになりました。これは、中小企業の資金調達の幅を広げる意味では、歓迎すべき改正といえるでしょう。

債務者保護の仕組み

一方で、改正法は債務者(支払う側)の保護も考慮しています。債権譲渡禁止特約の存在を知りながら(悪意)または重大な過失によって知らなかった(重過失)譲受人に対しては、債務者は支払いを拒むことができます。

つまり、特約の存在を知りながら債権を譲り受けた第三者には、債務者は支払う義務がないということです。これにより、債務者側の利益も一定程度保護されています。

例えば、A社がB社に対する売掛債権をC社に譲渡した場合、C社が債権譲渡禁止特約の存在を知っていた(または重大な過失で知らなかった)場合、B社はC社からの支払請求を拒否できます。B社はA社に支払うか、または供託(後述)することになります。

この仕組みにより、債権の流動性を高めつつも、悪意のある第三者から債務者を保護するバランスが取られているのです。

供託制度

民法改正では、債権譲渡禁止特約がある債権が譲渡された場合の新たな選択肢として、「供託」の制度が明確化されました。供託とは、債務者が法務局などの供託所にお金を預けることで、債務を消滅させる制度です。

債権の帰属が不明確な場合、供託によって二重払いのリスクを回避できるのがメリットです。例えば、債権譲渡の効力について争いがある場合や、複数の請求者がいる場合などに有効です。

具体的には、A社がB社への債権をC社に譲渡し、C社からB社に支払請求があった場合、B社はA社にも確認したいと考えるかもしれません。しかし、A社からの回答が得られない場合など、B社は供託をすることで債務を消滅させることができます。

供託制度を活用することで、債務者は「誰に支払うべきか」という判断の困難さから解放され、安全に債務を解消できるメリットがあります。ただし、供託には手数料がかかることや、手続きの手間がデメリットとなります。

債権譲渡禁止特約に関して注意すべき点

民法改正によって債権譲渡禁止特約の効力が変わったことで、実務上押さえておくべき注意点も変わりました。

契約書への記載の仕方

債権譲渡禁止特約を契約書に記載する際は、明確な表現を用いることが重要です。民法改正後は、特約の存在を明確にしておくことで、第三者の悪意や重過失を立証しやすくなります。

特約の効力を最大限に発揮させるためには、契約書上で明示的かつ具体的な記載が不可欠です。一般的な契約書における債権譲渡禁止特約の記載例としては、以下のようなものがあります。

  • 例1:「甲および乙は、事前に相手方の書面による承諾がない限り、本契約に基づく債権・債務を第三者に譲渡または担保提供してはならない。」
  • 例2:「本契約から発生する債権については、債権譲渡禁止の特約を付すものとし、債権者は債務者の事前の書面による同意なく、第三者に対して債権を譲渡してはならない。」

より厳格にする場合は、「本特約に違反した債権譲渡は、債務者に対して一切の効力を有しない」という文言を加えることもあります。ただし、民法改正により特約に違反した譲渡も原則有効となったことを念頭に置く必要があります。

自社が債権者となる場合の対応

自社が債権者(売掛金などを持つ側)となる場合、債権譲渡禁止特約は資金調達の制約となり得ます。そのため、取引先との契約交渉時には特約の緩和や条件変更を検討する価値があるでしょう。

例えば、完全な譲渡禁止ではなく、「事前の通知により譲渡可能」とする緩和条項や、「金融機関への譲渡・担保提供は可能」とする例外規定を盛り込むことを交渉するのも一つの方法です。

また、取引先との関係が良好な場合は、資金調達の必要性を説明し、個別の承諾を得るアプローチも考えられます。多くの大企業は、中小企業の資金繰りの重要性を理解していますので、丁寧に説明すれば柔軟な対応を得られるケースもあります。

さらに、民法改正を踏まえて「譲渡禁止特約があっても譲渡は有効」という点を取引先に説明し、実質的な意味が薄れていることを伝えることも交渉の糸口になるかもしれません。

自社が債務者となる場合の対応

自社が債務者(支払う側)となる場合は、債権譲渡禁止特約の存在を明確にして、不測の事態に備えることが重要です。取引先が特約に違反して債権譲渡した場合の対応手順をあらかじめ社内で確立しておくことをおすすめします。

具体的には、債権譲渡の通知を受けた場合のチェックリストを作成しておくとよいでしょう。例えば、契約書に債権譲渡禁止特約があるか確認し、あれば譲受人にその旨を通知するプロセスを明確にします。

また、債権譲渡の通知を受けた場合は、原債権者(取引先)にも確認することが安全です。場合によっては、債権の帰属が不明確な場合に備えて、供託の手続きも検討しておくとよいでしょう。

民法改正後は、譲受人が特約を知っていたか(悪意・重過失)という点が重要になります。そのため、契約書において特約の存在を明確にしておくことで、取引先が第三者に債権を譲渡する際に特約の存在を伝えやすくなり、結果として譲受人の悪意を立証しやすくなります。

債権譲渡禁止特約が適用されない例外

債権譲渡禁止特約が万能ではなく、適用されない例外的なケースも存在します。これらを理解することで、より適切な契約管理が可能になります。

法律で譲渡が禁止されている債権

一部の債権は、法律自体で譲渡が禁止されています。これらの債権には、債権譲渡禁止特約を付ける必要はなく、仮に付けたとしても意味を持ちません。法律による譲渡禁止は特約による禁止よりも強力で絶対的です。

具体的な例としては、以下のようなものがあります。

1.給料や賃金の債権(一部):労働基準法第17条では、労働者が将来受け取るべき賃金を譲渡することを禁止しています。

2.社会保険給付の請求権:健康保険法や国民年金法などにより、保険給付を受ける権利は原則として譲渡できないとされています。

3.生活保護の受給権:生活保護法により、保護を受ける権利の譲渡は禁止されています。

これらは、債権者保護や社会政策的な観点から、法律によって譲渡が禁止されているものです。企業間取引ではあまり関係しませんが、個人との取引や福利厚生に関連する場面では注意が必要です。

一身専属的な性質を持つ債権

債権の中には、その性質上、特定の個人だけが行使できるものがあります。これを「一身専属的な債権」と呼びます。債権の内容が権利者個人の特性と密接に結びついている場合、譲渡自体が不可能となります。

一身専属的な債権の代表例としては、以下のようなものがあります。

  1. 慰謝料請求権:交通事故や名誉毀損などによる精神的苦痛に対する賠償請求権は、苦痛を受けた本人にのみ認められるものです。
  2. 扶養請求権:扶養を受ける権利は、扶養を必要とする特定の個人に属するものです。
  3. 役務提供契約における権利:特定の個人のスキルや特性に着目した契約(例:著名なアーティストへの肖像画依頼など)から生じる権利は、原則として譲渡できません。

これらの債権は、その性質上譲渡が想定されていないため、債権譲渡禁止特約を設けるまでもなく譲渡できないものとされています。ビジネス取引では比較的まれなケースですが、個人事業主との契約などでは関連してくる可能性があります。

金融機関への譲渡を例外とする特約

実務上、債権譲渡禁止特約を設ける場合でも、金融機関への譲渡や担保提供については例外とする特約が設けられることがあります。これは、取引先の資金調達ニーズと支払側の管理負担のバランスを取る実務的な解決策となっています。

例えば、契約書に「本契約から生じる債権は、債務者の事前の承諾なく第三者に譲渡してはならない。ただし、金融機関への譲渡または担保提供についてはこの限りではない」といった条項を入れるケースがあります。

このような例外規定を設けることで、債権者は銀行などの金融機関から融資を受ける際に、債権を担保として活用できるようになります。同時に、債務者側としても、譲渡先が信頼できる金融機関に限定されるため、管理リスクを抑えられるというメリットがあります。

特に、大企業と中小企業の取引では、中小企業の資金繰り支援の観点から、このような例外規定を設けることが増えています。中小企業が取引先と契約を交わす際は、このような例外規定の有無を確認し、必要に応じて交渉することも重要です。

まとめ

債権譲渡禁止特約は、企業間取引において重要な役割を果たす契約条項です。特に2020年の民法改正により、その法的効力が大きく変わりました。従来は特約に違反した債権譲渡は無効でしたが、現在は原則として有効となっています。ただし、特約の存在を知りながら債権を譲り受けた第三者には、支払いを拒むことができます。

経営者としては、自社が債務者(支払う側)か債権者(受け取る側)かによって、この特約への対応が変わってきます。債務者側は特約を明確に契約書に記載し、債権者側は資金調達の自由度を確保するために特約の緩和を交渉するなど、戦略的な対応が求められます。契約管理や資金調達戦略において、債権譲渡禁止特約の意味と影響を十分に理解し、自社の事業環境に合わせた対応を検討していくことが重要です。

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